一般社団法人 日本建築美術工芸協会

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AACA賞
AACA賞2025 奨励賞対馬博物館
AACA賞2025 奨励賞
対馬博物館

対馬藩宗家に伝えられた重要文化財宗家文書約5万冊を後世まで守り続けることを主要な使命とする博物館である。大屋根で全体を覆い、収蔵庫部分は入れ子のRC造として二重の屋根を掛けた構造である。軒の高さを2.5m~3.0mまで絞ることで、城跡入口アプローチからのボリューム感を抑え遠景としても金石城跡の石垣、櫓門、背景となる有明山などと一体となった歴史的な景観を形成している。
神話時代より、大陸と日本の交流の文化遺産が連綿と重層する対馬の歴史の特異性を大屋根下の機能毎のボリュームとそれを覆うマテリアルによって表現した。来館者はマテリアルで性格つけられたボリュームの間を通過し多様な歴史の重層を体感する。収蔵庫を博物館中央に配置し分厚い陶板で覆い切妻型とした入れ子状の構成は、宗家文書を明治以来守ってきた宗家菩提寺万松院境内の御文庫を象ったものである。外界から収蔵庫への影響を最小限とする構成でもある。
対馬独自の歴史性を空間・マテリアル・ディテールによって新しい地域性として発信する建築です。今までにない「対馬らしさ」を創り出す試みです。

作 者:能勢 修治 石本建築事務所
大橋 航  石本建築事務所

所在地:長崎県対馬市厳原町今屋敷

主要用途:博物館

敷地面積:6279.76㎡ 建築面積:3253.63㎡ 延床面積:5028.72㎡

群配置された切妻ヴォリュームの素材が積層。OSB型枠CON・CON洗出し・せっき質タイル
写真撮影 阿野太一
屋根と石垣のみの静かな外観。Stpl t6リン酸処理・SUSリン酸処理・ガラスFLt19
写真撮影 阿野太一
原型的なディテールと 素材の積層。せっき質タイル・黒皮パネル・スチールアングルリン酸処理
写真撮影 阿野太一
選評
この作品のある対馬という島は、地勢学的に特殊なところにある。対馬の歴史と気候風土、そこから生まれた文化をまずは知ろうとしなければならなかった。
町と山の境目に建つ博物館だが、その町の端に降り立ち山を見上げた時に手前に昔のお屋敷跡の石垣と山を背にした大きな緩やかな曲線の稜線を持つ灰色の屋根に目を見張る。ここで作者が我々に説明したのは、背景の山頂付近にある清水城の石垣との景観的呼応の意識であった。清水城とは、秀吉が朝鮮征伐の折に出兵した城であるとのこと。このようにこの島が日本と大陸が争い、交流した接点であるが故に古い山城、要塞の石垣や岩肌の景観が多く見られる。その積層した石垣のテクスチャに負けない重厚感がありながら緩やかな稜線の屋根がこの博物館の一番のインパクトである。この秀美な屋根を浮かせて見せるために壁面はフルハイトのガラス面で覆い、美しい平たい石の石垣の上に鎮座している景観は前述の山と山城の石垣と呼応して見事であった。アプローチは建物のすぐ奥にある城址の保存された櫓門を潜って回り込んで、緩やかな円弧の歩廊でアプローチする。建物の妻面の見せ方、数奇屋の渡り廊下を思わせる瀟洒なデザインによって高揚感が演出されている。
博物館内部のコンセプトは大屋根の下に所謂入れ子にして切妻の蔵が連なった町のイメージを構成している。展示室がそれぞれ蔵の屋根を持つ、「大切な島の宝物」を守るという考え方がよく表現されている。展示室の中は一様に暗い色合いの仕上げであるが落ち着く。 また、あえて島には地産の建材が石以外は少ないので、焼き物や金属など様々な素材を歴史の積み重ねに見立てて重層させて、質感そのものを生かしたことで、対馬の「有り様」を表現している。それゆえに少し全体的に重く、暗い感じも否めないが、公共施設としての楽しさや親しみやすさを運営面で図れる中間領域的な空間も設けている。 AACA賞として考えた時に、美術・工芸との融合は希薄だが、この島の歴史と風土との融合・共創を深く思索し建築に表現した、優美で完成度の高い作品として評価したい。
選考委員 和出知明