一般社団法人 日本建築美術工芸協会

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AACA賞
AACA賞2025 優秀賞小田垣商店
AACA賞2025 優秀賞
小田垣商店

篠山城を中心とした城下町である丹波篠山市東部に位置する河原町妻入商家群に近接して、創業1734年の黒豆卸店である小田垣商店の建築群が並んでいる。
江戸後期から大正初期にかけて建築された大小10棟の建築群によって形成されており、2007年には国の登録有形文化財に登録されている。
改修した建物は、そのうちの5棟でもっとも古い江戸後期の建屋を含んでいる。商家の建物としてその優美さを誇った建築群の完成期である大正期に思いを馳せて、商家特有の小屋組や旧来の工法に習い、同時に必要と思われる耐震性を確保した。
そして建物そのものを文化的資源と考え、近代化によって、あるいは道具としての活用によって取り付けられた雑物を取り除くことから始まり、空間構成や仕上げにおいても時間を巻き戻してゆくように、「時代を還る建築」として向き合い再構成を成し遂げたのである。

作 者:榊田 倫之 株式会社 新素材研究所 代表
内海 美里 株式会社 新素材研究所 所員
津村 晶  株式会社 新素材研究所 所員

所在地:兵庫県丹波篠山市立町

主要用途:物販店舗、飲食店舗、宿泊施設

敷地面積:2000㎡ 建築面積:685.49㎡ 延床面積:675.97㎡

カフェ内観。サッシを室内側に移動することで、内と外が連動する空間として再構築した
写真撮影 森山雅智
ショップ内観。耐震補強は、可能な限り在来工法に沿った方法を採用した
写真撮影 森山雅智
中庭からの外観。 小売店、カフェ、宿泊施設などの複合施設として、2025年春に改修が完了
写真撮影 森山雅智
選評
創業1734年の黒豆卸店である。国の登録有形文化財に登録されている江戸から大正にかけて建築された10棟の建築群のうちの5棟を、2018年から7年かけて小売店、カフェ、宿泊施設などの複合施設として改修し、活きた文化財に生まれ変わらせた。古民家再生というと味噌蔵や麹菌の匂いが漂っていそうだが、建物の梁や小屋組はそのまま生かし、時代を重ねたいくつもの建物をつないだり切り離したりしながら、土壁に漆喰を塗ったり和紙を貼ったりするなどにより清潔感のある建物に仕上げた。訪れた誰もが即座に300年近い時代の蓄積を感じ取れるのは、時代を経た多くの本物の石が空間に使われているからであろう。 中でも印象に残るのは、床一面に敷き詰められた厚さ10センチはあろうと思われる大ぶりの花崗岩の錆石である。
瀬戸内海周辺から取れる京都の町屋で使われていた町屋石で、建物に足を踏み入れる前の店先から始まり、小売用の土間、旧酒蔵を改造した豆料理のパフォーマンススペースへと、異なった目的で建てられた建物を一つに繋げる役割を果たしている。また二抱えはありそうな重量感ある棗型の石の手水鉢の存在も大きい。 数十個を小売スペースに使って圧倒的な時代感と存在感を作り出している。高く吹き抜けている小屋裏現しの天井に見える煤で黒ずんだ太い梁が、暗く闇に沈んでいる状態に保たれていることも、長い歳月を感じさせる一つであろう。来場者は一年間で2万人を超え、中庭に面したカフェを利用するため連日長蛇の列になったと聞く。 カフェ正面に広がる、中庭の斜めに切り取られた石庭、外廊下を橋がかりに見立てて新たに設けられた能舞台、大正期に建てられたレトロな建物が連なる景色は、現代生活者が時代とともに忘れてしまった豊かな昔風景に他ならない。
伝統的な町並みで知られる丹波篠山河原町妻入商家群の一角、篠山城を中心とした城下町の大きな目玉となったのは間違いない。
選考委員 近田玲子