一般社団法人 日本建築美術工芸協会

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AACA賞
AACA賞2025 美術工芸賞会津柳津駅舎情報発信交流施設
AACA賞2025 美術工芸賞
会津柳津駅舎情報発信交流施設

奥会津の玄関口であるJR只見線会津柳津駅舎は、地元の強い願いで昭和2年に建築され賑わったが利用者減に伴い長く無人駅となっていた。本プロジェクトでは、記憶のつまった建物を保存し、若い世代を含む住民と協働して観光と地域交流の拠点を目指した。
外観は地域に残る記憶の姿に戻し、内部は既存の内装を生かしながら格子状のヤグラを新たに挿入し、駅舎内に赤べこ張り子工房・カフェ・観光案内所を加えた。
住民・町・観光協会・JR東日本・建築家が参加する会議体にて方針作りを行い、同会議メンバーが運営を担うことにもつながった。
多様な記憶を紡いできた駅舎は地域のアイデンティティとなり多世代が活動・交流する場となった。
地方鉄道では多くの駅舎が無人化し維持が困難になっている。また、若い世代の地方移住の意向が高まっており、自治体には活躍の場の提供が求められている。今回の改修プロジェクトは無人駅舎活用のモデルケースの一つである。

作 者:田中 大朗  株式会社TIT 代表取締役
池田 晃一  株式会社TIT 代表取締役
富沢 真二郎 株式会社TIT 代表取締役
安部 遥香  株式会社TIT 設計主任

所在地:福島県河沼郡柳津町大字柳津字下大平甲

主要用途:待合室、工房、カフェ、観光案内所

敷地面積:312.83㎡ 建築面積:199.11㎡ 延床面積:129.19㎡

改修が繰り返されていた外壁は、地域の記憶を元に、下見板や井桁状の窓などを復原している
写真撮影 小川重雄
木格子のヤグラによりカフェと赤べこ工房を空間的に仕切る。下段は赤べこの展示棚になる
写真撮影 小川重雄
既存の目板と同じ60mm角材のヤグラ。乾燥工程の赤べこが吊るされ、作業が風景の一部となる
写真撮影 小川重雄
選評
審査のために現地を訪れた際、いささか驚かされる光景に出会った。一日に上下あわせて12本の列車(2025年11月現在)が運行されているにすぎない地方のローカル線無人駅舎の前に数台の大型観光バスが停車し、多数のツーリストがぞろぞろと乗り降りしている。
しかもわずか1時間ほどのあいだに、その光景が繰り返されていたのであるが、実際に駅舎の中に足を踏み入れてみると、その理由が即座に理解できた。標題にある「情報発信」と「交流」が、文字通りそこで実践されているからである。
小規模であるとはいえ鉄道駅舎であるから、定型化した空間構成が踏襲されていたのだが、その記憶が消え去ることのないようにギリギリのラインを維持しつつ、大胆に再構成された内部空間のスケール感が、そこでのアクティビティとの間に絶妙なバランスをもたらしている。
一方、この場所の記憶は、端正でありながらどこか懐かしさを感じさせる駅舎のシルエットや壁面を覆う下見板貼りの外装、鉄製の窓枠、待合室の天井、つくりつけのベンチなど、オリジナルの意匠に関する丁寧な検証を経たうえで再生されたディテールの中に息づいている。
さらに特筆すべきは、この中に地元・会津地方の伝統的な郷土玩具である赤べこの工房が併設されていること。その発祥の地であるとされる柳津町にその工房が復活したことの意味は大きく、地元在住の若手職人の手業を身近に見ることができるだけでなく、絵付けの体験ができる機会と空間も確保されている。
これもまた、時間と手間をかけて、地元の人々とのコミュニケーションを重ねてきたからこそ可能になったことであろう。工芸と建築の融合が醸し出す空気感にこそ、この作品の神髄があるのかもしれない。過疎化がすすむ地方において、街の玄関口であり続けた在来線の鉄道駅舎をどのように再生し活用するか、まさに日本全国津々浦々でおこりつつある課題に真正面からとりくんだ成果が見事に結実したモデルである。
選考委員 宮城俊作