AACA賞2025 美術工芸賞|荏原 畠山美術館
AACA賞2025 美術工芸賞
荏原 畠山美術館
実業家畠山一清(即翁)が1964年に創設した美術館の再生計画である。
即翁が自ら設計したと語る既存本館は、茶室を備えた最高級の材料による書院風の意匠と柔らかな自然光、脚元が抜けた独立ケースによる空間の一体感が魅力の展示室の継承、更なる洗練を目指した。
外断熱化により断熱性向上と内部意匠の保存を両立し、独立ケースは脚を極限まで細く絞ったより透明性の高いデザインに刷新することで、これまでの空気感をそのままに茶道具がより引き立つ後景を整えた。さらに新館を増築し、展示空間を3倍に拡張した他、借用美術品のための搬入経路や収蔵庫、来館者が集うホールや茶話処、多目的室等、新たな分野の展示や交流を促進する機能を設えた。
即翁の愛蔵印「即翁與衆愛玩」(蒐集品を皆で共に楽しむ)の伝統を受け継ぎながら未来への革新を試み、敷地内の茶室と共に庭屋一如で多様な美の世界のニーズに応えていく美術館に生まれ変わった。

「やきもの」で覆い、茶道美術館を象徴する外観とした新館。瓦風の陶板による乾式なまこ壁を考案
写真撮影 株式会社エスエス 走出直道

“一望性”と“自然光”による展示環境を継承しながら、更なる洗練を目指し、機能性向上を図った
写真撮影 株式会社エスエス 走出直道

美術品を自然の移ろいとともに鑑賞できる、希少な展示空間。茶道具がより引き立つ後景を整えた
写真撮影 株式会社エスエス 走出直道
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美術館の要になるコレクション鑑賞のための展示空間計画には、熱海のMOA美術館の事例で評価の高い、新素材研究所があたり、大成建設が全体の実施設計を担当、創立者の展示に対する理念を基に、美術館側と入念な確認が行われ、三者のチームワークが丁寧に結実した。
畠山即翁が直接見立てたという茶室「月庵」を一部展示室内に持つ本館の調査で、貴重な材の使用や高度な加工技術が判明したことにより、文化財としての建築の価値を尊重し、既存の材を灰汁(あく)洗いなどで残しながらの長寿命化が図られた点にまず注目した。そして特に評価する点は、極力光源を押さえたつくりの本館展示室で、鑑賞のためにさまざまな工夫がなされたところ。開口部から外の光を大きく取り入れた、自然と一体になった光の演出である。創立者のこだわりを真摯に受け継ぎ、刻々とうつろう自然光で美術品を鑑賞することにあえて踏み切り、研ぎ澄まされた鑑賞空間を設えたことに共感を覚えた。昨今、博物館の照明に、演出過多を感じることが多いのだが、本物を魅せる私立美術館ならではの潔さともいえよう。さらに、最新の免震装置を採用した固定の島展示ケースでは、配線を隠した脚柱を極端に細く仕上げ、光りが通り室内全体が一望できる。展示空間における「静かなる挑戦」という言葉が頭に浮かんだ。