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AACA賞

第10回 芦原義信賞

  • 優秀賞
  • 奨励賞
  • 奨励賞
長楽寺禅堂

作 者:(株)竹中工務店 東京本店設計部 桑原裕彰・東北支店設計部 葛 和久、佐藤忠明
審査講評

 阿武隈川のほとりに建つ四百年の歴史を持つ曹洞宗寺院の坐禅堂である。
 高床式架構、大屋根自然通風などの伝統建築の要素を現代に置き換えて表現する手法が取られた。近づくと、キャンティレバーの跳ね出しで作られた高床式架構の上に、ボリュ?ム溢れる白漆喰の細長い坐禅堂が浮かび、視線の抜けた先には陽光が当たった生け垣の緑が見える。瑞々しい緑と無垢の白、開け放たれた空間と閉じられた空間の対比が見事である。
 新しい坐禅堂に求められた、本堂を囲む歴史的な景観との調和、宗教建築としての高い精神性を持つ空間の創造は、3.11の大震災でもひび割れ一つしなかった白漆喰壁の選択によって果たされたと言っても過言ではなかろう。その清浄感は、坐禅堂西側の住宅や北側の駐車場が立ち並ぶ雑然とした景観をも浄化する役割を果たしている。大屋根はハイサイドライトを介して白漆喰壁の上にふわりと浮かび、深い軒の先は白漆喰壁への雨垂れを防ぐシャープなエッジで整えられている。 集会にも使われる二階の坐禅堂は、床面から外気を取り込みハイサイドライトを開けて逃がす自然通風に加えて、大きなガラスの片引き窓を開けて風を取り込むことも出来る。表現手法、素材の扱い、細部のディテールのどれもが設計者の豊かな経験、職人の確かな腕を物語っている中で、残念なのがキャンティレバーの力強さを削ぐ太いガラスサッシュである。もっと細く開閉部を少なくすることで、太い柱から解放された空間の美しさと緊張感を、より強く表現出来たのではないかと惜しまれる。

選考委員 近田玲子

豊洲キュービックガーデン

作 者:清水建設+梅垣春記(第一生命) 清水建設(株)一級建築士事務所大西正修、鼻戸隆志、
    インテリアデザイン:(株)フィールドフォー・デザインオフィス志村美治、
    ライティングデザイン:ICE都市環境照明研究所武石正宣、
    サインデザイン:エモーショナル・スペース・デザイン 渡辺太郎、
    ランドスケープデザイン:(株)プレイスメディア 宮城俊作、吉田 新
審査講評

 大正時代後期以来永く造船所として使われてきたこの地域が、都市計画の変更によって現在の街並みに姿を変え始めてからまだ10年にならない。新しい職住近接型の街の中心にこの敷地はある。生命保険会社が事業主のテナントビルである。外構のデザインはスーパーブロック内3事業主の申し合わせによって統一されているため、快適な歩行者空間と豊富な緑が街区に豊かなゆとりをもたらした。
 このビルの最大の特徴は、最新大型オフィスビルとして持つことが望ましいと思われる性能をほとんど備えていることだと言える。免震装置の完備はもとより、オフィス空間では3mの天井高、15㎝のOAフロア、自動制御のブラインドや人感センサー照度センサーによる照明の制御、72時間対応の非常用発電や3日分の飲料水の備蓄等の十分なBCP(事業継続)対応、中央部の吹き抜けを使った外気冷房やナイトパージ、等々、新環境技術を駆使した環境配慮型新オフィスである。中でも1フロア4500㎡を超える大きなオフィススペースは圧巻である。外周部にはガラス窓に面したアメニティースペースが連なっていて、中央部の吹き抜けと相まって広大なオフィスに回遊性を与えている。
 中央の吹き抜けと外部の間の共用部は実用的な大型のアートを設置した、3~5層の吹き抜けとなっていて、ビルに働く人々にとって勤務の合間に訪れる憩いのスペースとなった。  
 現代の理想的オフィスのサンプルと言えるだろう。

選考委員 可児才介

尾﨑呉服店・尾﨑邸

作 者:(株)竹中工務店 広島支店設計部 門谷和彦、秦 敏彦
審査講評

 計画地は鳥取市の中心に程近い旧市街地に位置している。
 付近一帯は昭和27年の鳥取大火で罹災し、その後、区画整理されて2~3階建ての低層の店舗、住宅によって街並みが形成されてきた。 
 計画地には既存建物として数寄屋、古民家、土蔵、店舗などがあったが、今回、新たに住宅や店舗の建て替えにあたって敷地内の再整備を行ったものである。
 計画の主な目的は「既存土蔵の曳家改修による修景」「所有者である尾崎邸3世代のための住環境づくり」老舗店舗の建て替えによる環境整備」に集約される。
 中庭を囲んで既存建物と新築建物(住宅、店舗)を回廊状に繋げた配置は、伝統と現代が程よく融合した庭園によって時の積層を感じさせる空間となっている。各世代が互いのプライバシーを守りながらも家族として一体感を共有できる空間を実現している。 
 表通りに面した新店舗と住宅書斎のシンプルモダンなファサードは、伝統的な和風建築を挟んで地域の新しい景観シンボルになっている。 新旧の要素を対比させながら互いの魅力を引き立たせている。 和文化と現代アートが綾なす新店舗を核に、地域活性の新しいシンボルとなっている。また店舗の3階部分には鳥取大火ですべてを失いながらも再起した画家・尾崎悌之助(昭和61年逝去)の家系に繋がる家柄らしく地域開放型のギャラリーが併設され、地域文化の向上に貢献している。

選考委員 岩井光男