第9回 芦原義信賞
- 芦原義信賞
- 優秀賞

撮影:浅川 敏
廣瀬俊介 風土形成事務所・東北芸術工科大学/
田賀陽介 田賀意匠事務所
この建物は緑の深い箱根の傾斜地に立つ建物である。主要な部分である研修棟は、延べ4000㎡に近い大きな施設であるが、国立公園法による制約を逆手にとって傾斜地になじませた建築にすることに成功し、そのスケールを感じさせない。2つの研修施設と56の宿泊室、食堂、駐車施設等の配置を傾斜面に沿いそれを生かして配置しつつ、各施設からは箱根の緑あふれる環境を楽しめる眺望を確保している。
複雑な内容の機能を傾斜地に埋め込む作業は、非常に大変だったと思われるが、最上階の食堂の前庭となっている芝生に覆われた柔らかな傾斜屋根に見られるように、パズル解きのような計画のもとに完成度の高い建築としている。研修施設は多くのスタディの結果であるが、クライアントと建築家との見事なコラボレーションにより優れた空間環境と機能を併せ持つものである。
管理棟は機能重視の建築で、表現は控えめである。 このデザインは全体の建築群のバランスを意識してのようだ。
これらの建築群と環境を結ぶ付けるものは、綿密に考えられたランドスケープデザインである。 建築とランドスケープデザインの連携がこの施設の優れた点の基本にあることは間違いない。
選考委員 小倉善明

撮影:宮本真治
この作品が処女作である設計者には、まさに新人賞としての芦原義信賞が相応しい。
使われなくなった廣盛酒造所を中之条町が買い上げ、まちを上げて二年に一度開催される中之条ビエンナーレの拠点として位置づけられ、祭りのための収蔵庫の新築や既存の酒蔵を改修して展示空間を創り出されている。
建築の完成度という富士山麓の朝霧高原にほど近い場所に開発された工業団地に併設されたコミュニティ施設で、工業団地開発の条件として計画され市に移管された施設である。市民との様々な対話の中から市民活動の拠点となる様な機能が求められ、アートギャラリー、工房、会議室、情報コーナーなどが計画された。
恵まれた自然環境を最大限に生かす為にどこでも富士山の存在が感じられる様な配置とし、L字型に囲まれた中庭を中心に全ての施設が展開される構成となった。
アートギャラリーや工房は中庭と一体となった展示空間となり正に建築と美術が一体となって響きあっている。蓄熱壁やクールチューブ等様々な省エネに対する配慮や、高原を飛ぶハングライダーの翼を想わせる屋根の形態デザインから若々しい設計者の感性が感じられ、最後まで芦原義信賞を争った。
選考副委員長 岡本 賢