サイトマップ
トップページ > AACA賞 > 第7回 芦原義信賞

AACA賞

第7回 芦原義信賞

  • 芦原義信賞
  • 奨励賞
  • 奨励賞
隙屋
作 者:鈴木幸治
概要説明

 温暖な浜名湖の環境なら「隙間だらけの納屋」でも住めるのではないかというのがこの家の出発点である。湖岸の景観をつくり、簡素だが豊かさをしみじみと感じられる住まいである。時代に逆行するが、設備よりも建築、建築よりも人間の感性に重きをおいた。高気密断熱の家ではなく、最小限のしつらえの究極のエコの家としたが、十分暖かい。冬季には隙間からの日照を内部に蓄熱し、夏季には上部の連窓を開放して湖面を渡る涼風を引き入れる。屋根は離瓦を使い、瓦下の通気を図り温度を下げ、現代に生きる新機能とデザイン性を得た。崖地の構造物の滑り止めの地階は外断熱のRC造で、湖へ開くトンネルから通風と採光と眺望を得る。視覚ばかりか潮風や潮の香りが聴覚や臭覚を刺激する。日が暮れると光が初源的な建築を浮かび上がらせ、今まで経験したことのない建築空間へと飛躍させる。会話が弾み、コミュニケーションをショートさせる触媒としての空間である。

審査講評

「隙間だらけの納屋」
 すぐれた建築に出会うと余韻嫋々として情感が充たされる。棲み方にこだわりのあるクライアントと、クライアントのイメージを技術的、資金的な回答を誠実に模索、具体化する建築家とのコラボレーションが実って、自然により近い生活、作業、開いた接客の場が生まれた。永年積み重ねられた知恵によって引き継がれるシンプルな形態とスケールの<納屋>をテーマに、エコを意識した離瓦の屋根、唐突とも見えるRCの風と潮騒の通り道は、その地形に馴染んでいる。ポリカーボネートの外皮は光に反射して金属の様相をも見せるし、近くでは内皮が木のスリット横張りだと解る。9尺グリッド、5寸角柱2層軸組みの伽藍空間には、光と影によって醸成される旨い空気が広がる。遠景、近景は印象を変え、太陽、月に刻々と感応するこの納屋の姿、隙間空間は、自然の恵みのカタリスト、触媒である。前庭のアウトスケール、ガラスの細長いテーブルは浜名湖を正面に見渡す。実は土台が斜面の土留めの役割をしていると伺った。料理達者なクライアントがこのテーブルでゲストをもてなすらしい。私事ですが、京都迎賓館(設計:日建設計)の、あかり行灯計画に携わり<光を梱み 影を織る>という私のテーマに響く作品を拝見し、今回夜景を鑑賞する機会は無かったが、その美しい姿を想像するのはそう難しい事ではない。

川上 喜三郎

学校法人摺河学園ハーベスト医療福祉専門学校
作 者:岩田章吾
概要説明

 医療福祉系専門学校である本建築は、姫路駅南に位置し、学生の教育の場であるだけでなく、地域社会への医療、福祉、保育の情報発信基地として位置づけられている。本建築は多様な色の利用をそのテーマとしており、外観、内観ともに多くの色が使用されている。これは、多様な色の構成によって「多様性を許容する」という精神を表現するためである。これからの医療、福祉に携わる学生たちには、他者を思いやること、自らと異なる価値観を理解し、認め合う敬愛の精神を期待したい。多様な色を等価に扱い、多様性をはらんだ様相を構成することで、他を認め、共存する精神を建築デザイきンに託した。色の背景を形成する部分は、鉄筋コンクリートと有孔折板というモノトーンの素材にて構成し、着色されたパネルの手前に市松状に配置された有孔折板は、歩行者、電車、自動車などアプローチする視点の移動によって、建物外観の印象を刻々と変化させている。

審査講評

 限られた予算のなかで都市景観を意識して試みた若い建築家の作品。坪単価45万であれば少々荒削りは否めないが、景観形成に寄与した新人という芦原義信賞の主旨に沿った建築としてこの賞が励みとなることを期待したいと思う。
 新幹線姫路駅に隣接して立つ5階建ての医療福祉関係の専門学校で、医療にあたって多様性を許容するという理念を色彩計画にその表現を求め、一見スーパーグラフィックを思わせる色の過剰をみせるが、正面ファサードは、各階に配された六色の壁面の手前に有孔折板を市松状のスクリーンとして立て、視覚の移動で透しみる仕掛けは、昼夜とも街に温い表情を投げかける。内部は各階ごとに色分けされ、什器類もすべてカラーコーディネートされており、壁面塗料も規格色を用いることで補修への配慮もされる。また、地域に開放し医療相談に応ずる一階ラウンヂには、青系の抽象画(石井春作)が並び、狭いスペースながら明るく外に向き合っている。玄関ホールの江上計太作の壁面オブジェとともにこの建築の色彩計画の要となっているようである。

村井 修

神保町シアタービル
作 者:(株)日建設計 山梨知彦 + 羽鳥達也
概要説明

 「古本の街」神保町は、戦前まで映画館や寄席が多数存在する芝居小屋の街でした。この計画は、当時の活気を町に取り戻すために、小学館と吉本興業が協同で企画したものです。300㎡ほどの敷地に100席の映画館、126席の寄席、そして300㎡の芸能学校の稽古場が同居する劇場建築です。
 新たに整備された天空率制度を利用し、この建物に最適な形態を導き出し最大限の座席数と、稽古場面積を確保しました。この多面体を鋼板耐震壁で覆うことで、高い耐震性と汚れの防止、外気循環型外断熱を同時に実現しています。この形態と荒々しい鉄板のマチエールが仮設的な雰囲気を醸し出し、かつての芝居小屋の街がもっていた活気が神保町に甦ることを期待しています。

審査講評

 神田神保町の表通りから一歩奥に入ると、突然に金属の多面体の中に小さな映画館とお笑いライブ劇場を合わせ持つこのビルが出現する。
 神田神保町は古本の街、学生の街と言われてきたが、街並みは雑然し最近はあまり元気さを感じられなくなってきている。
 かつてこの地には芝居小屋が点在し神田花月亭の興業も賑わいを呈していたそうで、このビルを契機に興業を復興することによる街おこしが開始された。
 街おこしの起爆剤としての現代の芝居小屋、あるいは街並みを新たに創り出す意志の表出と考えれば、突飛にも思えるこのビルの外観も肯けるものとなる。
 またこの建築は必要機能、予算、建築法規などの複雑に絡み合う問題を鮮やか解決したソリューションとしても高く評価できる。
 この神保町シアタービルは芦原義信賞・奨励賞に値するものとして、街や社会に位置づけられる建築の姿や創造的な新しい建築の可能性を示してくれた。

芦原太郎