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AACA賞

第6回 芦原義信賞

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横河電機(株) 金沢事業所
作 者:大成建設(株) 設計本部 関 政晴
審査講評

 横河電機株式会社 金沢事業所は、歴史的な町並みが残る金沢市郊外の金沢テクノパークの小高い丘に位置していて、遠く日本海を望む敷地に、水盤の上に浮かぶように建築がつくられている。最初に視界に入ってくるのは2階建ての産学協同研究棟で、これが全体の象徴的な役割を果たしている。この建築に平行して管理棟、研究開発棟、工場棟の3つの棟が機能的に、いずれも水に接して配置されている。手前に広がった水面は、奥にある3つの棟の間にプロムナード上につながり、建築群を視覚的にも適切に分節し、かつ相互の関係を保つ役割を果たしている。<BR>
水面に沿って垂直、水平が強調された構成の建築群は、水面と、カーテンウオール相互が生み出す関連性が緻密に検討さている。特に、太陽の動きや、天候の変化、夜間に対応して光を取り入れ、反射させる手法はたくみである。省エネにも配慮されている端正なデザインのカーテンウオールと水面と相互に反射する光景で企業の持つイメージを伝えようとする設計者の意図は新鮮で見るものに強く伝わる。芦原義信賞にふさわしい建築である。

小倉善明

AGCモノづくり研修センター
作 者:(株)竹中工務店 設計部 山口広嗣+宮下信顕
審査講評

 「AGCモノづくり研修センター」は、高度な技術を蓄積した熟練工の高齢化と団塊世代の大量退職による技術伝承の危機という、日本全国いたるところのモノづくりの現場で起きている社会的問題に直面したメーカー(旭硝子)によって自社工場の一角に計画された研修施設である。
 ガラスメーカーのアイデンティーの象徴を「光のスペクトラム」として捉え、外部から内部までの一貫したデザインで思い切りよく展開しきっている点が大変すがすがしく魅力的であった。設計者にとっては頭を抱える、短工期、ローコストという設計与条件が、この建築のデザインにとってはプラスに働いたと感じられた。
 また、工場からの廃材(円形のガラスカレット)を、サインや光庭の仕上げにさりげなく使用している点や、ガラス窯から取り出された耐火レンガを再生しオブジェとして蘇らせていることも、この施設の性格を的確に表現し、魅力を増す要因となっている。

宮崎 浩

アルテミス宇都宮クリニック
作 者:(株)竹中工務店 設計部 髙木利彰、和田安史
審査講評

 宇都宮市郊外で開発が進む商業集積エリアの中に建てられた産婦人科の診療所である。巨大なコンビ二エンスストアーなどが雑然と広がる街の中にあって、静かな胎内空間を思わせる楕円形の広場を内包した個室19床の小規模医院ではあるが、この建築は都市の中で壁のもつ意味を深く考えさせる。黒いコンクリート壁で外部との断絶を計りながらも、道路側の斜面に植栽を施し周辺環境への配慮も計られ、囲われた広場には六本のやまぼうしの木が象徴的に立つ、その庭に面して、病院の諸施設、そして一般に開放されるプール、フィットネス、喫茶室が円形状に配置され、外界から守られた安らぎの空間を創り出している。
 出産難民など社会問題視されている昨今、既に地域に根ざした産科医療施設を展開している理事長の高い見識と、設計者の熱意との協同で実現した建物であり、医療の在り方とともに都市のへの優れた提案として、街並みの研究家芦原義信先生の賞として相応しい業績と思われる。

村井 修

東京松屋UNITY
作 者:河野有悟
審査講評

 「江戸からかみ」の伝統を「伝える」と言う手段を「若手デザイナー」に託した、江戸時代から続く和紙・唐紙の老舗の英断にまず軍配があがった。低層階に「見る、知る」空間、上層部に、日常生活で和紙を「体験する」住居空間をつくり、和紙の持つ多様な可能性を身近に感じさせ、その技法の伝承の大切さをひろく一般に理解させるというこころみはユニークである。インターフェースとしての、空中庭園と光と風の道としてのつなぎ空間により、自然との一体化を計った作者の意図は、日本の伝統建築のあり方の神髄をとらえて日本の都市空間に建つ建築の方向性を追求している。和紙の持つ型の新しさ、色の鮮やかさ、紙とは思えぬ豪華さは日本の伝統色から選ばれた主張しない灰白の壁により引き立てられている。街並みとの関係性の重視も評価されたものの、建築的塾度がより希求される面もぬぐえず、将来に期待する思いをこめて奨励賞と決定された。

上山良子