サイトマップ
トップページ > AACA賞 > AACA賞2023(第33回)

AACA賞

AACA賞2023(第33回)

  • 審査
    総評
  • AACA賞
     
  • 芦原義信賞
    (新人賞)
  • 優秀賞
     
  • 優秀賞
     
  • 優秀賞
     
  • 奨励賞
     
  • 奨励賞
     
  • 奨励賞
     
  • 美術
    工芸賞
     
  • 特別賞
     
  • 入選
審査総評

近年のコロナ禍での制約の多い審査から立ち直り、今年はようやく審査員が集まってのパネル選考に始まり、人数を制限しない現地での審査、さらに応募者の皆さんにも直接来場していただいての完全対面での最終公開審査や意見交換会まで、ほぼ平年の水準に戻しての審査を行うことができました。応募者各位をはじめ、準備に当たられた関係者にこの場を借りて厚くお礼を申し上げます。
今年は応募総数も増え、建築の規模、地域、内容などいずれも多岐にわたる作品が集まりました。その中から現地審査に進んだ12作品は、それぞれに甲乙のつけ難い独創性に溢れたもので、審査は必ずしも容易ではありませんでしたが、結果としてはAACA賞にふさわしい優れた受賞作品を選出することができたと思います。

そうした中で、多くの審査員が最優秀に推して今年のAACA賞に選出されたのは、スケールの大きい階段状の円形閲覧室を持つ《石川県立図書館》で、館内の随所に本と共に過ごす空間がしつらえられ、いつ行っても大勢の市民に親しまれている素晴らしい施設となりました。
過去にAACA賞に関連する受賞経験のない新人に贈られる芦原義信賞には、五角形をなす街区の中を通り抜けの空間が貫通する《Node Kanazawa》が選出され、カフェやギャラリーと複合した社屋が集落的な雰囲気を醸し、建築自体の工芸的な造形も含めて高い評価を得ました。
この両者に続く優秀賞として、それぞれに独創的な魅力に溢れた3つの作品が選ばれました。圧倒的なジャイアントスペースが特徴的な《八戸市美術館》はこれからの美術館のあり方を根本的に問い直す次世代の美術館で、市民協働による多彩なアート活動を支える創造型の施設です。それに対して週日と週末に別の客層をターゲットとした《お宿Onn 中津川》は、近隣の木材関連事業のハブとして地域を盛り上げることを目指した宿泊施設で、木質化された内部のデザインがとても優れています。また高級車などの輸入販売を行う企業本社の《CORNES HOUSE》は、隣接する芝公園の緑景観を活かし、また周辺のさまざまな軸を引き込んだ独特の造形と本物志向の素材選択で、現代のオフィス空間としても非常にリッチで優れた空間を生み出しました。
美術工芸賞には京都の菓匠の営む極小のカフェである《末富 青久カフェスタンド》が選ばれ、既存建物の下屋部分に過ぎない小さな空間ながら、街に濃密な表情を与えていて秀逸でした。
特別賞《熱田神宮 剣の宝庫草薙館 くさなぎ広場》は、同じ作者が厚い信頼を得て長年に渡り神宮内の施設づくりに継続的に携わる施設であり、その万華鏡のような独特な空間の価値はもちろん、三方から鑑賞する刀身の展示ケースも秀逸なものでした。
また奨励賞に選ばれた《聖林寺観音堂》《清水建設北陸支店》はともに力作であり芸術的な評価も高く、おばあちゃんの生活を見守る《tobe》も独特の開放感を持つ建築でした。

今年も示唆に富んだ多くの作品を選出することができ、審査委員長として大変喜ばしく思います。

選考委員長 古谷 誠章

石川県立図書館

写真撮影 ナカサアンドパートナーズ 中道

写真撮影 藤塚光政

作 者: 仙田満 環境デザイン研究所
川上元美 川上デザインルーム  
面出薫 ライティング プランナーズ アソシエイツ
水間政典・塩津淳司 トータルメディア開発研究所
柳原博史 マインドスケープ 
廣村正彰 廣村デザイン事務所 
所在地: 石川県金沢市小立野2丁目
作品説明ビデオはこちらから
審査講評
ベンガラ色を纏った四角いボリュームが一層分持ち上げられて、ずっと以前からそこにあったかのように金沢らしい趣を見せて建っている。
天井高を抑えたエントランス交流エリアを抜けて進むと 眼前にドラマチックな大空間が広がり 誰もが思わず見上げる。大きな円形空間を覆う屋根の鉄骨構造がトップサイドライトに透けて美しく、群青色の天井を軽やかに受けている。大空間を取り巻く階段状の連続層からなる円形の空間だが、応募パネル写真で受けた印象は覆されて、中心に向けての求心性は実際には緩く、穏やかな距離感が心地よい。そして、スロープで上階につながる書架と閲覧デスクが注意深く計画されていることと同時に、ラウンジスペースでもあるブリッジによる向かい合ったD型楕円プランが、求心する一点を無くしたことによるものであり巧みだ。円形に連続する書架と利用者相互の空間感覚を侵さない関係や書架や本の配架、表紙見せの展示などがテーマ分類されて配置され、またエリア表示など利用者をサポートするサインや、さまざまな家具類のカラースキームなどが全て連動して計画されていることが一目瞭然に統率されている。スロープに導かれて新しい本に出会うかもしれない空間体験が心地よく、知らぬ間に上階に導かれていくと、学生向けの学習スペースや研究者向けのエリアなど大小の居場所が用意されている。随所に設けられた読書の場は、窓辺の居場所に最も特徴が現れている。およそ50席ある窓辺のコーナーは、外光が柔らかく入り、なおかつ書架や美術展示ケースなどによって半個室状のコーナーを生み出し、それぞれに選定された椅子によって、全て違うしつらえの心地よさを提供している。こうした細やかな居場所作りが、建築と家具の密接な連携により実現できていることを窺わせ、大空間でありながら上階に行くに従って静寂の閲覧空間となっていることがはっきりと体感できるのである。また、建築、内装、家具、サイン、美術品展示などの全ての要素が重層して、加賀五彩による彩色計画によりコントロールされて、時節の変化も含めて生きた運用がなされ、明快で落ち着きのある開かれた図書館環境を実現している。
建築、家具、美術工芸が総合的に濃密に統合調和した 新しい時代を象徴する図書館であり、AACA賞にふさわしいと決定しました。

選考委員 藤江和子

Node Kanazawa

作 者: 奈良祐希 株式会社EARTHEN 代表取締役
所在地: 石川県金沢市問屋町
作品説明ビデオはこちらから
審査講評
この計画は、コロナのパンデミックを経験したベンチャー企業が本社のケーススタディーとして始まった、郊外型の新本社計画が実現したものである。
敷地は金沢市の中心から少し離れた、北陸の物流の中継基地である金沢問屋センターの入り口に面し、中心の並木道の始まりの部分に位置している。並木道を引き込むように、敷地中央にクロスするNode「緑のミチ」が設けられ、そこには気持ちの良い自然の風が通り抜け、柔らかな日陰を作り出している。
南北2つに分割されたボリュームは、南側が少し低くすることで、一日の太陽の動きに沿って刻々と変化する気持ちの良い木陰を提供している。そしてこの緑の路地空間に面する1階のシャアゾーンのギャラリー、カフェ、オフィスに心地よい居場所を提供している。このNodeの緑道はパブリックに開放された「抜け道」になっていて、時折屈折したガラス越しに通り過ぎる人々の動きが、カフェやギャラリーにいる人々に心地よいリズムをもたらしている。
外観の構成は、武家屋敷の土塀や現代の機能的な倉庫を意識し、スケールアウトした土壁、倉庫の大きな庇の様な4mのキャンティレバー、渡り廊下は歴史的な問屋町を構成する建築の要素からインスパイヤーされ、地域の風景に馴染み、歴史や記憶の現代への継承を促しているが、在来木造工法の必要要素としても機能している。
この計画は建築のあるべき創られ方への問いかけを持っていると言える。陶芸家でもある設計者は、陶芸の持つ「感情的」、「土着的」な無意識な土による歪な土の塊のような形態スタディでの検討と、最終的に「使われる建築」という現実化への設計意識を融合させたプロセスでこの計画を実現させている。建築本来が持つ芸術と工学の融合の原点にチャレンジした優れた試みであり、AACA賞芦原義信賞にまさに相応しい作品である。

選考委員 堀越英嗣

八戸市美術館

写真撮影 morinakayasuaki

写真撮影 新建築社

写真撮影 阿野太一

作 者: 株式会社西澤徹夫建築事務所 代表取締役 西澤徹夫
PRINT AND BUILD株式会社 代表取締役 浅子佳英
株式会社interrobang 代表 森純平
所在地: 青森県八戸市番町
審査講評
八戸市美術館に初めて訪ねた。2021年3月に開館し、すでに2年間の活 動もあわせてみる事になる。美術館の基本構想では、美術品の展示や調査研究及び、収集保存といった従来の役割に。さらに「アートの学び」「アートのまちづくり」といった2つのテーマをかかげているのが特長となろう。美術館を訪れた人々が互いに刺激し合いながら感性を高め、育まれていく”共育”を坦う「アートの学び」を目指す。そして、観光や福祉、地域コミュニティなど様々な分野を横断した総合的な文化政策を担う「アートのまちづく り」つまり美術館には3つの役割を融合する場と考えられてきた。
まず館内に入ると「ジャイアントルーム」に直結する。天井高17メートル 広さ800平方メートル。ここはいろんなプロジェクトの考えられる空間だ。イベントごとに動く棚とカーテンで空間をしきり、ミーティングや、ワークショップ等行われている。建物の奥にある「ホワイトキューブ」は企画展示会場と「コレクションラボ」が続く。さらに市民の発表活動を支える2つのギャラリーと大小のアトリエ、様々な小部屋が続き、部屋から部屋へ繋がっていて、いわば顔のない不思議な建物であった。これは落ち着かないが、面白い。
話は横道に逸れるが、ここ十数年日本の文化政策にいろいろな変化が起きている。美術館といえば、文部科学省、文化庁が管轄と思うが、たとえば国土交通省の「社会資本整備事業」が文化美術施設に交付金を出している。2007年(平成16年)国立国際美術館を皮切りに、札幌市、秋田県秋田市、徳島県と、全国に広がっているこの八戸市もその機会を生かして実現した。 市内にはユニークな取り組みとして、まちなか広場「マチニワ」や、「八戸 ブックセンター」がある。それらと共に市民の方々に親しまれ、愛され、今後の活動に期待したいと思う。今回は、審査会全員一致でAACA賞優秀賞を決定いたしました。

選考委員 米林雄一

CORNES HOUSE

写真撮影 井上登

写真撮影 Nacasa&Partners

写真撮影 井上登

作 者: 花岡 郁哉/株式会社 竹中工務店
所在地: 東京都港区芝3丁目
審査講評
この敷地の北側に首都高速がある。その先に芝公園が一望でき、公園の大きな緑の塊の先には麻布・虎ノ門・日比谷のビル群が連立している。敷地の形状はほぼ長方形で低層部に輸入高級車のショールームを配置し、高架の高速道路より高い位置にオフィスフロアを設置している。設計者が「階ごとに変化する周辺環境との関りをデザインする」と表現している通り、各オフィスフロアから最適な周囲の環境を読み解き開口面の位置を設定、その外観は大きなブロックを積層したような変化のある彫刻的なものとなっている。また、ブロック同士がずれることにより、効果的に緑化が施された小ぶりな屋上が形成され、前面道路に沿って建つ周囲のビルの単調な連なりの中で、街並みに変化と潤いを与えている。さらに外装のPC版は、ランダムな太さの縦糸が強調された織物のような表情となっており、縦線の凹凸が作り出す繊細な影が外観の表情を豊かなものにしている。
室内を観てみると、常に順光で見る外部の緑を感じることができるとても気持ちの良いオフィス空間である。床から天井までのガラスカーテンウォール面に木製のカウンター席を設置し外部を感じながら、様々なワークスタイルにも対応できるようになっている。また、その木製カウンターがさりげなくカーテンウォールの荷重を支えている。この場所で働くワーカーやゲストにストレスを感じさせない伸びやかな空間である。この空間を創り出しているさりげないディテールも緻密によく考えられている。階段室の黒色に塗装された厚手の鋼板で作られたとてもシンプルな手すり壁が、一枚の繋がった板のように見え上下階をつないでいる。この階段室にもカーテンウォールから燦燦と光が入り込み、この手すり壁をあたかも彫刻のようにも見せている。内外共にとても気持ちの良い空間が創られている。優秀賞に相応しい作品である。

選考委員 東條隆郎

お宿 Onn中津川

作 者: 意匠設計 株式会社 成瀬・猪熊建築設計事務所 猪熊純 成瀬友梨
     長谷川駿 日和拓郎 ペ・ジンヒ
構造設計 株式会社 木講堂 渡邉須美樹 伊藤次郎
設備設計 株式会社 環境エンジニアリング 成田賛久 増川智聡
所在地: 岐阜県中津川市新町
作品説明ビデオはこちらから
デザイナーが手掛ける宿泊施設では、そこで提供される顧客体験やサービスのグレードと価格帯との関係を、コストを勘案しつつ最適化することが最も難しい。さらに、地理的立地や宿泊の目的、ターゲットとするゲストの属性が異なればなおさらである。その点において、この作品では絶妙のバランスが高い次元で達成されているように思える。岐阜県中津川市という立地、主要鉄道駅からやや離れたロケーション、ビジネス利用とツーリズム利用の混在、狭隘な前面道路などの条件下にあっても、驚くほど豊かな空間が用意されていた。
全ての共用部が集約された1階では、旧中山道の街路からセットバックした広場を経て、玄関からレセプション、ラウンジ、ダイニング、大浴場に至るまでの空間が、微妙な床レベルの切り替えによって分節されている。ひと続きの空間の中に、多様な場の様相が紡ぎ出され、木曽ヒノキの内装と格天井、足裏の感覚に訴求するなぐり加工のフローリングがそれらをつなぎ合わせていた。広場に面するダイニングは、大きな開口とその先の縁側を介して街並みへと展開する。
一方、2階以上の客室階では、効率的な部屋割りを踏襲しつつも、ビジネスホテルではまずお目にかかれない設えが目をひいた。エレベーターホールの天井を折り上げ、その高さの中で垂直、水平の構造材をそれぞれ耐火木と耐火塗料を組み合わせて被覆することで、意外性のある造形がうまれる。雁行する中廊下のアプローチと共に客室に至る空間体験に記憶に残るインパクトをもたらしていた。
この地域で長く材木業を中心に様々な事業を営んできた施主が、地域再生の旗印に掲げたプロジェクトの一つだということである。であるからこそ、競合する事業と差別化をはかるための方途を、デザインのクオリティに見いだそうとした決断は賞賛に値する。このクラスの宿泊施設に、建築家が関わることの意味と価値が、濃密に凝縮された作品である。

選考委員 宮城俊作

聖林寺観音堂

写真撮影 松村芳治

作 者: 北川・上田総合計画株式会社 代表取締役 北川典義 
北川・上田総合計画株式会社 取締役 上田一樹
所在地: 奈良県桜井市下
作品説明ビデオはこちらから
審査講評

この十一面観音像は西暦760年頃造られたもので、奈良県の南西部、桜井市にある大神神社の神宮寺であった大御輪寺に安置されていたものである。秘仏として一般の目には触れることは少なかったという。明治維新の後「神仏分離令」が出され、廃仏毀釈の対象となる危機にあったが、その前にこの聖林寺に預けられ、事なきをえた。また明治中期には東京芸術学校の設立に貢献した米人のアーネスト・フェノロサが岡倉天心と共にこの観音像を見出しその価値を世に知らしめ、初めての国宝となったのである。
昭和34年にこの観音像を収蔵するため建てられたコンクリート造の収蔵庫に、地震災害から国宝を守るため、大幅な改修が必要となったのがこのプロジェクトの始まりだった。これを機に、像を守るためだけの収蔵庫を、祈りの空間として生まれ変わらせたいという要望に対して作者は、創建当時の空間構成に倣って、収蔵庫の外に外陣となる前室を新たに増築、収蔵庫の部分を内陣としての空間に設えた。外陣と内陣は階段によって仕切られ外陣から観音像を仰ぎ見るレベル差を作り、使われている吉野杉も色を分けるなどしたことで、内陣の空間がより荘厳に感じられる。
内陣の中で最も心を打つのが、観音の頭上にある明るい宇宙を思わせる真っ白な天蓋である。材質感をなくした白い背景は奥行きが無限に感じられ、観音が無上の存在であることを示しているようである。また国宝として課せられた厳しい条件から一定の空気の条件を満たすべく独立した免震ガラスケースには多くの照明の光が反射しないよう様々な工夫が凝らされていた。またこのケースのおかげで通常の仏像ではありえないような四方からの、また直近からの拝観を可能した。普通はあまりない、色々な照明が用いられているがこの空間にいてもほとんどその存在を感じることはない。しかしそのおかげで明るい中で拝観する観音の美しさは一際のものである。この作品のあちらこちらに作者のこだわりの表現があふれていて、来てよかったと思わせてくれた。

選考委員 可児才介

tobe

写真撮影 藤井浩司

作 者: kufu 成田和弘 kufu 成田麻依
所在地: 広島県広島市
作品説明ビデオはこちらから
審査講評
広島市内の住宅街にある既存の3階建のアパートを、L型に囲んで増築された細長い住宅である。周囲には、狭いわりには地域の人の生活動線として常に人通りのある小道が走る。既存と増築の間の境界は薄いカーテン一枚。既存アパート側の全ての出入口を掃き出し窓にすることで、別棟でありながら、既存アパートに住む高齢になった祖母を見守ることができる。
施主は、祖母と距離感のある空間であること、個人収集したartと暮らす生活空間であること、将来artを外部の人にも開放することを想定した空間であることを希望した。細長い敷地であることから、周囲の小道に圧迫感を与えないよう、形や天井高の違う部屋を横に繋ぎ、建物の外殻を各部屋ごとのスケールに落とし込んだ建物とした。靴の部屋、エントランス、天井の高い居間、小さい書斎、台所、クローゼット、子供部屋、収納部屋、トイレ・洗面・風呂の部屋と、生活に必要な各部屋を自然光の入り方や明るさの異なる部屋にデザインした。各部屋の外壁は、内外ともにギャラリーのアイコンとして、カジュアルでクラシカルな赤茶色のブリックタイルを使い、アパートが立ち並ぶ住宅街の中で落ち着いたたたずまいを醸し出している。
各部屋のユニットスケールが小さいので周囲の小道にも馴染む。夜は部屋から漏れた明かりが暗い小道を照らす。更に部屋の間に隙間を設けることで、部屋の中からは自然の変化を感じ取ることができ、外部の小道を散歩する近所の人は、部屋の中のartや隙間に整えられた坪庭を楽しむことができる。
特筆すべき点は、既存アパートと増築住宅のすき間にぐるりと設けられた、高さ30cmのデッキが果たした役割である。このデッキが、おばあちゃんとひ孫のふれあいの場に留まらず、日常的なおしゃべりの場となり、近所の人たちの生活を豊かにした点を高く評価したい。

選考委員 近田玲子

清水建設北陸支店新社屋

写真撮影 北嶋俊治

写真撮影 新建築社写真部

写真撮影 髙橋菜生

作 者: 清水建設株式会社 プロジェクト設計部2部 岡崎真也
清水建設株式会社 関西支店 副支店長 堀部孝一
所在地: 石川県金沢市玉川町
審査講評

この計画は北陸に100年の歴史を持つ支社の新社屋である。シンメトリーで幾何学的外観の建築は、正面に広場を設け、既存の神社や緑を残し、藩政時代の面影が残る風格ある街並みの雰囲気を継承している。
この建築は「超環境型オフィス」として最先端の技術力で、働く人のための気持ちの良い空間の実現を目指している。構造は外観を構成するRCの壁柱とフラットスラブ、そして内部は、キャンティレバーとランダムな鋼製柱で変化のある吹き抜けの大空間に心地良い居場所を作り出している。
大空間は「木鋼ハイブリッド」という梁成1000mmのビルトHの鋼製梁を1時間の耐火被覆の能登ヒバで覆った格天井で覆われる。これは空間全体を全館避難安全検証により大臣認定を受けたことで内装制限がなく、薬剤の不燃処理も不要になったことで、人間の五感を開放する「能登ヒバの風合いや香りのする大空間」が実現していることは素晴らしい。格子天井の上部トップライトから降り注ぐ光と、南面のクライマー式ブラインドと庇の組み合わせ、そして西面の「木虫籠」から引用した縦ルーバーにより多様にコントロールさられた床から天井までのLow-E複層ガラスの大開口により、太陽光の変化が室内に豊かに取り込まれている。トップライトの斜め屋根を利用した太陽光発電は冬期の不安定な天候を考慮した「Hydro Q-BIC」の水素によるエネルギーロスのないシステムとなっている。大型ガラス下部の換気、「躯体蓄熱型放射空調」、働く人のための照度と色温度を考えた照明システム。「ゼロシュリンク(無収縮)」コンクリートの床など、緻密な美術工芸品のような技術の集大成であるが、なにより働く人にとって心地よい場所を作ることを最終目的としている建築でありAACA賞奨励賞に相応しい優れた作品である。

選考委員 堀越英嗣

末富 青久 カフェスタンド

写真撮影 志摩大輔

作 者: 田中亮平 G ARCHITECTS STUDIO
北川一成 GRAPH株式会社
所在地: 京都府京都市下京区
松原通室町東入玉津島町
審査講評
「AoQカフェ」は、2023年5月にオープンした京都四条と五条の間、烏丸通り沿いの交差点に建つ、テイクアウト専門の奥行1mの小さなカフェスタンドである。裏千家から絶大な信頼をよせられ、主要なお茶席のお菓子を一手に手がけている京都の老舗和菓子屋「末富」が、「洋菓子×和菓子」の新しいお菓子を販売する新規事業のアイコンとして建築化した。
カフェスタンドの先には末富本店があり、このささやかな店が本店へのゲートウェイの役割も担っている。そこで、大通りに面した幅1mの壁面を茶色から水色に徐々に変化させて存在感を強く印象づけ、人々の視線をカフェスタンドの奥にある末富本店に誘導するようにしている。前面道路に並行して細長く配置された厨房と休憩スペースの外観は、古都京都の老舗和菓子屋にふさわしい茶色とし、休憩スペースは「末富」のコーポレートカラーである水色で表現した。自然素材と見なされた幅3センチ足らずの銅箔テープを、隙間なくパネルに貼り付けた後、銅箔の上に醤油を塗って茶色に、塩化アンモニウム水溶液を塗って緑青色に変化させ、京都の景観条例を満たして茶色と鮮やかな水色を得た。全て手作業で貼り合わされたテープのライン、パネルごとにできたわずかな色むらが、工業製品にはない豊かな表情を作り出している。
休憩スペースのベンチの下にひっそりと造られたミニュチュア枯山水庭園は、狭い休憩スペースを広く感じさせる役目を果たすと同時に、老舗の矜持を示している。閉店時間になるとここには網状の幕が下され、天井から床に移されたランプが水色の休憩スペースを終夜照らす。
あん(甘い)×生ハム(しょっぱい)を組み合わせた「生ハムとチーズのあんカスクート」「あん入りカフェオレ」を食べて、伝統を守りながら今の時代に沿ったものを作って若い人に和菓子の奥深さを知ってもらいたいと願う施主の思いをかみしめた。

選考委員 近田玲子

熱田神宮 剣の宝庫草薙館 くさなぎ広場

作 者: 上田徹 / 玄綜合設計
所在地: 愛知県名古屋市熱田区神宮
作品説明ビデオはこちらから
審査講評

厳かで美しい刀や太刀を学ぶための、新しい可能性を体感した空間であった。
愛知県名古屋市の熱田神宮は、熱田大明神を祀神とし1900年の歴史を背景に人々の熱い信仰を古くから集めてきた。今回の対象は、西門近くに配置された「剣の宝庫 草薙館」(以下「草薙館」という。)と前庭「くさなぎ広場」。江戸期には伊勢湾に接し湊として栄えていたことにちなみ、船の抽象オブジェを中核にした池と休憩所が計画された。その賑わいから「草薙館」に一歩足を踏み入れると、天井へと延びる“ぐねり”とした印象の構造体がつくる、深い森林のような静寂な空間が広がり、弧を描く壁際から突き出した展示ケースに、刀剣が凛として並んでいた。この熱田神宮には、三種の神器の一つでもある「草薙の剣」が祀られ、奉納された450口の刀剣が宝物館に収蔵されている。「草薙館」はその刀剣を展示し、さらに日本古来のたたら製鉄から製造についても取り上げ、刀に関する貴重な体験と学習のできる機能をも備えた施設として計画された。大きく見上げる先には天窓が4つ。外光とともに神宮の杜が、鏡面仕上げの天井に映し出され、饒舌な仕様とは真逆に、緑に包まれたような不思議な安堵感を覚えた。
特筆されるべきは、刀剣の展示である。通常、刀は、ケース内正面から対峙しての鑑賞となるのだが、「草薙館」では刀の3方向からの鑑賞を可能とすべく、特別のケースが設計された。刀の切先(きっさき)を視ることが許されるそのケースは、壁から斜めにせり出し、一口ごとに集中して観賞することができる。展示替えも、学芸員が安全を確保しながらスムーズに行えるような開閉の工夫が凝らされている。そして、刀を照らす照明が、しめ縄型のカバーに収められ器具が目に入らないようになっており、細かい調整により一口ごとを最適に照らせる照明計画も評価したい。
こうした独特の展示空間は、設計にあたった上田徹氏が、これまで長年にわたり熱田神宮の配置改造を伴う設計に関わり、深い信頼関係を結んでいる中で成就できた建築空間といえよう。刀剣を展示する施設とその環境において、見るだけではなく体験を重視したあらたな刀剣の学び舎としての機能にも期待をしたい。

選考委員 降旗千賀子

入選作品[2作品]
Slit Park YURAKUCHO

作 者: 株式会社三菱地所設計 佐藤琢也/荒井拓州/植田恭子
株式会社オープン・エー 馬場正尊/大橋一隆
TAAO 會田倫久
東邦レオ株式会社 小林まき子/原田宏美
所在地: 東京都千代田区丸の内3丁目

VOXEL APARTMENT

作 者: 藤村龍至 RFA主宰
所在地: 広島県広島市