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AACA賞

第32回 AACA賞

  • 審査
    総評
  • AACA賞
     
  • 芦原義信賞
    (新人賞)
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審査総評

昨年に引き続きコロナ禍での審査となりましたが、それでもその小康の間を縫って、一次審査には海外から渡日した川上審査員をふくめて、全審査員が集まっての作品パネルによる選考、現地審査は複数名の審査員で実行し、公開による最終審査は応募者と審査員が一堂に会しての審査を終えることができました。応募者各位をはじめ、準備に当たられた関係者にこの場を借りて厚くお礼を申し上げます。
今年は58作品の応募がありました。建築の規模、地域、内容ともに多岐にわたる優れた作品が集まりました。中でも現地審査に進んだ13作品は、いずれ劣らぬ魅力に溢れたもので、審査は容易ではありませんでしたが、結果としてはAACA賞審査にふさわしい力のこもった入賞作品を選出することができたと思います。
そうした中で、多くの審査員の推薦により今年のAACA賞に選出されたのは、南軽井沢の林に囲まれた《写真家のスタジオ付き住宅》で、海外でも高く評価される写真家の想いに応えて、建築家が独創的な空間を提案し、さらに写真家がそれを相乗的に使いこなすという、いわば創造的な協働による素晴らしい作品となりました。
AACA賞に入賞経験のない新人に贈られる芦原義信賞には、小さな断面の一般的な木材によるトラス架構で造られた《山五十嵐子ども園》が選出され、その集落的な外観、小空間の連鎖がつくり出す温かい雰囲気が、子どもの保育空間としてこの上ないものと高い評価を得ました。
この両者に続く優秀賞として、それぞれに独創的な魅力に溢れた3つの作品が選ばれました。「遠島」の島である隠岐島の《Ento》は豊かな自然景観の中に対比的に置かれたCLTによる直線の造形が美しく、また景色を最大限に楽しむことのできる宿泊施設です。それに対して那覇市の中心部に建つ《那覇市文化芸術劇場なはーと》は、緩やかにカーブする首里織をモチーフとするHPCグリルが眼を惹きつける丸みを帯びた外観が特徴的です。また廃校を再生した森の駅《yodge》は、宿泊客であるビジターの施設であると同時に地元住民にとっても日常的な居場所となっており、両者の交流拠点としても有効に機能しています。
美術工芸賞は木曽の奈良井宿の重要伝統的建築物群保存地区にあるかつての造り酒屋を再生した宿泊施設の《歳吉屋 BYAKU Narai》が、各所に施された漆や和紙など伝統工芸の魅力を現代的な空間の中に感じさせるもので秀逸でした。また、同奨励賞に選ばれた《湯野浜 亀やあかがね》は温泉ホテルの一室を芸術的に再生しようとする試みで、施主の取り組みが大変意欲的なものとして評価されました。
特別賞《Port Plus 大林組横浜研修所》は、木造による高層建築への挑戦であり、その技術的価値はもちろん、極めて秀逸な建築意匠としての表現となっていました。また奨励賞に選ばれた《大阪中之島美術館》《ミュージアムタワー京橋》はともに力作であり芸術的な評価も高く、《台地のFORTE》も独特の存在感のある建築でした。
あいにく紙幅がつきましたが、今年も示唆に富んだ多くの入賞作品を選出することができ、審査委員長として光栄に思います。

選考委員長 古谷 誠章

写真家のスタジオ付き住宅

写真撮影 鳥村 鋼一

作 者: 仲 俊治・宇野悠里
所在地: 群馬県甘楽郡下仁田町西野牧
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審査講評
晩秋の軽井沢に「写真家のスタジオ付き住宅」を」訪ねた。
紅葉に染まる庭に、静かな佇まいで建っていた。設計家は「森の秩序に基づいてつくった動的な場」と、作品概要の冒頭に記している。敷地には存在感のある山桜が3本、ドッシリとあった。その樹木の隙間を縫い、Y字型のボリュームを持つ建物を配置し、三方からの壁面が支える構造となっていた。
シンプルで明解な建築だ。また3次曲面屋根も有機的で、森の中にうまく溶け込んでいる。内部に入り、まず気付くのは自然との一体感だ。中央部の三角天井からトップライトの光が注ぐ。
曲面ガラスの開口部は、内と外の視角的、さらには心理的交歓が育まれる様に、小気味好い空間構成だ。曲面ガラスに添って続く卓上には、整頓された本やオブジェが並び、写真家の知的でセンシティブな人柄を感じた。選びぬかれたオブジェ群もさりげなく位置が与えられ、写真家の脳内配置図とピッタリ一致しているのだ。
私は彫刻制作を続ける中で出合った好きな言葉がある。
「彫刻は精神が物質に宿ることを可能にし、物質と空間と時間との結び付きを、科学的に証明するものだ。さらにそれを補足することができ、それも直接的な方法でだ。」
私は現地に立ち会い、スタジオとしても住宅としても魅力的で、住む人が楽しみながら大切に作り上げてきた空間と時間を感じた。
小舎な個人住宅だが、設計家の実力が存分に感じられ、他の多くの審査員の賛同を得、AACA賞に決定しました。

選考委員 米林雄一

山五十嵐こども園

写真撮影 藤井浩司

作 者: 東海林健、平野勇気
所在地: 新潟市西区五十嵐三の町西
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審査講評
敷地は、新潟県の日本海側に続く砂丘群がつくりだした緩やかな尾根に沿ってひろがる集落のはずれにある。この立地環境を最大限に活かすための建築家の創意が、優れた空間と環境に結実しているのであるが、このことは、三つの観点から評価できそうだ。
一つめは、敷地の微地形に対するセンシティブなサイトプランと建築の平面・断面計画である。尾根に相当する部分の南側エッジのラインに沿って建築平面の東西軸が設定されていて、これにより、きわめて効率的な諸室の配置と主動線を実現すると同時に、屋外への視線を含む室内環境の多様性をもたらした。年齢別の保育室をつなぐL字型の回廊は緩やかに蛇行しつつ外部に開かれ、園庭をへだてて園児の送り迎えの様子を集落の日常風景の中に折り込んでいる。
二つめが、寸法の大きな材を運び込むことができない狭隘な道路条件の立地を逆手にとった構法である。現場で小さな材を組み合わせた木製トラスをつくり、それらを組み合わせる手法が採用されている。頂点が上向きの山トラスと下向きの谷トラス、これら二種類のトラスの交点を間仕切り壁の上にずらして載せることで、各室ごとに表情の異なる空間をつくりだすとともに、壁の上部に抜けを確保し、全体が緩やかにつながる空間のおおらかさが感じさせる。
そして三つめが、敷地の面積的余裕と周辺の多様な環境を保育に活かすための「境界の弱さ」である。園児の安全・安心をことさら強調するあまり、外に対して閉鎖的であることがデフォルトになりつつある保育施設にあって、このコンセプトは新鮮であった。集落に開くことによって、集落全体で子ども達の居場所を見守る、かつてはあたりまえであったコミュニティのあり方を取り戻そうとする姿勢が、施主、保護者、建築家に共有されたことの顕れであろう。「園を村のように作り、村を園のように育てる」という幸せなストーリーが紡がれる場所である。

選考委員 宮城俊作

Entô

写真撮影 鈴木 研一

作 者: 建築・監理 : MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO / 原田真宏、原田麻魚、野村和良
構造:KMC/蒲池健
設備:テーテンス事務所/村瀬豊
設備アドバイザー:森田和義
サイン・展示デザイン・ネーミング:日本デザインセンター 三澤デザイン研究室
所在地: 島根県隠岐郡海土町福井
審査講評
日本海に浮かぶ隠岐島からフェリーで1時間、 Entoのある西島は、島前と呼ばれる人口1万人を割る離島で、海士町の地方活性政策は以前から知られている。
羽田空港を出てから6時間、 Entoはフェリーが港に入る直前に島陰から我々を迎えるように忽然と目の前に現れた。フェリーからの外観はグリッド状の木構造のみで驚くほど透明度が高く、「島全体をホテル」と見なすとする町の観光計画を明快に示しているようにシンボリックな建ち姿であった。
設計者が大変に得意とするCLT版の構造が、離島の建築に実にうまくいかされている。全ての仕口・継手をはじめサッシュや設備スリットまでも 精密に本土の工場でプレカット加工されて運ばれ、島ではプラモデルを組み立てるように現場施工、短時間で完成したという。CLT版加工工場・海士町・意匠構造設計事務所の間に、人と物の移動のない「リモート構法」で、コロナ禍においても「離島」という地理的制約を受けることなく施工された。この構法を最大限に活かした建築設計の見事な勝利と言える。
シンプルな構法で生まれた客室からの眺望、穏やかな海に向けて全面ガラスの開放感が抜群だ。2015年にユネスコ世界ジオパークに登録されたこの地域の自然に溶け入るように、建築の内外を忘れるような環境との一体感が、身体に五感に染み入ってくるように透明度が確保されているのが素晴らしく、清々しい宿泊の空間と時間が体感できる。
この Ento施設の一部に、ジオパークミュージアムが設けられているが、文化活動は、実にスマートな運営がなされていて知識欲を促してくれる。
建築と行政が島の人々とともに渾然一体となって「まるごと島ホテル」として島の活性をもたらす素晴らしい取り組みが随所に感じられました。
建築が単なる建築物ではなく、その土地とのさまざまなグローバルな繋がりや連携、展開を可能とし絡み合って実現していくのは、これからの公共建築の役割やあり方として重要なことと思います。
遠島での新しい建築の有り様を、合理的に美しく具現化したところを高く評価したいと思います。

選考委員 藤江和子

那覇市文化芸術劇場なはーと

写真撮影 ©Shigeo Ogawa

作 者: 香山・久米・根路銘設計共同体
長谷川祥久、兒玉謙一郎、根路銘剛次、望月麻衣、角沢聡子、岡本賢吾、香山壽夫
所在地: 那覇市久茂地三丁目
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審査講評
那覇市内中心部に近い久茂地小学校跡地に計画された大小二つのホールと練習室などからなる複合文化施設。表通りから一歩引き込まれた立地ですが、遠くから垣間見えるだけで、その外観の存在感に圧倒されます。何よりも執念にも似た情熱を感じさせるのが、その外観を覆う最も高貴とされる首里花倉織をモチーフとしたスクリーンで、HPC(超薄肉コンクリート板)を二度に分けて打設して製造されています。とかく閉鎖的な量塊になりがちなホール建築にあって、透過性を持ち、また沖縄の光の中で細かい陰影を生み出す独特な外皮となっています。内外に用いられたすべて既成のパターンのものだそうですが、沖縄独特の花ブロックの壁面とあわせて、立地する沖縄の風土を感じさせる造形となっていました。
プロポーザルの段階から提案の中心となっていた「ウナー」と呼ばれるアトリウム的な中庭空間は、首里城の「御庭」に倣ったもので、人々が集まり、行き交う場としてとても活気があり親しみの持てるものとなっています。このウナーに面して置かれたリハーサル室でもある多目的なホールスペースは、表通り側にも開放することができ、この中庭に開放性を与えています。また、ここから見上げる上階の練習室は、二重ガラスを巧みにデザインして、吹き抜け側を切り下げて練習室内部のアクティビティを伺わせるものとなっており、練習室内部からもウナーを開放的に見下ろせるものとなっていてとても好感が持てました。
大ホール内部は明るい沖縄の海中を思わせる色彩と、バルコニー部の手すりの割肌タイルが醸し出す珊瑚礁のような質感が効果的で、南国を感じさせます。これに対して小ホールは高貴な色のイメージが首里城を連想させ、それぞれに固有の雰囲気を楽しませてくれます。
内外に造られたさまざまな広場的空間も、様々な出し物やイベントに活用されているようで、ホールの賑わいが周辺の街角にも溢れ出す様子が想像できます。全館があたかも大きな沖縄の「アシャギ」を思わせる、人々を迎え入れる懐の豊かな空間と見受けられます。

選考委員長 古谷 誠章

yodge

写真撮影 若林 勇人

作 者: 照内創(㈱SO&CO.)、土橋悟(㈱都市環境研究所)
所在地: 福島県玉川村四辻新田字村中
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郡山から車で南に50分、福島県中部の玉川村からさらに6km 離れた山間に自然豊かな四辻地区がある。2006年廃校になった分校校舎を用途変更して、修/改築による観光/宿泊/レストラン/屋外体験施設がこのプロジェクトである。作者は東京に事務所を構えながら4年間、役場/村人たちとの交流を重ね、親しみやすい日常施設、時に特別な舞台を用意した。普通教室/職員室/資料室などを宿泊5室に、音楽/体育室をカフェレストランに、2011年震災で解体した普通教室を取り除いて屋根付き屋外テラスに。このテラスは大型引き戸で屋内施設としても利用、大型キッチンが併設されて食のイベントが開かれる。
「yodge 」という聞き慣れないタイトルの由来は?「your lodging」/「あなたの泊まる宿」が短くなって「yodge」になったというのが私の解釈。「四辻地区」の村人たちはこのレストラン/共同施設は「四辻の離れ」で、「yotsuji 」を短く「yodge」と呼んでいると聞いた。施設の案内は日本語と英語のバイリンガルが徹底している。村役場はすでに欧米、東アジアからの旅行者の案内を前提にしているからだ。
懐かしい思い出豊かな木造平屋/切り妻校舎の妻側がアプローチに選ばれ、壁を取り外した大ガラス面からは教室の天井材を取り外した屋根組みが露われ、この施設の爽やかさ、透明感を演出。教室の間仕切を移動して片廊下を2倍半に広げ「四辻ギャラリー」と命名。一方 長手の正面校庭を優しい堤/土手が弧を描いて囲み、堤の上にはテーブル/ベンチとして可能な平板の木が巡らされ、多様な活用が期待できるランドスケープである。

選考委員 川上喜三郎

大阪中之島美術館

写真撮影 上田 宏

作 者: 遠藤克彦(㈱遠藤克彦建築研究所)
所在地: 大阪市北区中之島
審査講評

この建物を最も印象付ける特徴は63m角(正方形平面)×26mの黒いボリュームである。敷地は大坂中之島、堂島川と土佐堀川に挟まれた一角にあり、周りには国立国際美術館、大阪市立科学館など公共の施設が隣接している。北側の堂島川から見ると、周囲の様々な複雑な表情を持つ高層ビル群の中に、黒いボリュームが静かにかつ「凛」として、ひときわその存在を際立たせている。大変印象的な光景である。設計者はこの黒い外観の「黒」を感じさせるため、PC版に玄昌石の砕石と砕砂、黒色顔料を混ぜたコンクリートをウォータージェットで洗い出すことにより、表面の微細な陰を創り出し、さらに表面をコーティングすることにより、深い味わいの「黒」を実現している。
敷地の高低差を利用して2階にエントランスを設けている。それに至るランドスケープは開放的であり、適量の緑とパブリックなアートが配され、美術館に入るエントランスまでの道程が楽しい。入り口を通過して、パッサージュに入ると大きな吹き抜けの空間があり、その一部は最上階の5階まで連続しそれぞれの展示階のパッサージュと繋がっている。この吹き抜け空間には上下階をつなぐ、「上り」「下り」の長いエスカレータが設置され、来場者の「動き」が見えるとともに、この吹き抜けを介して上下階の人々の「動き」や空間の繋がりを感じることができ、楽しい空間でもあり安心感も持てる。内部の仕上げはプラチナシルバー塗装のスチールルーバーで精密に仕上げられ、展示室に至るまでの心の準備空間とでもいえるシャープで禁欲的な設えである。4階、5階のパッサージュはそれぞれ東西方向、南北方向に開かれ、突き当り全面からの自然光と室内の照明により落ち着いた心地よい空間となっている。このように美術館に至るまでの道程や展示室に至るまでの道程、滞在空間など、ここを訪れる人々にとり十分に心地よさを感じさせる設えがこの建物の価値を高めている。また、この「黒い」美術館全体が中之島の都市景観の中にアートを感じさせ「潤い」をもたらしているものになっていると評価するとともに、時間の経過とともに変わりゆく都市景観の中でさらに輝きを増すことを楽しみにしている。

選考委員 東條隆郎

ミュージアムタワー京橋

写真撮影 雁光舎 野田東徳

作 者: 中本太郎、矢野雅規、小林哲也、李 宇宙
所在地: 東京都中央区京橋
審査講評
建て替え前の建築は1951年に創業者石橋正二郎が当時最先端のニューヨークのアールデコ建築を彷彿とさせる本社ビルで、ブリヂストン美術館を併設させることで長年愛されてきている芸術文化の拠点を東京の玄関口である八重洲に作り出していた。新しい計画は旧建築からの理念である文化都市の建築の視点を大切にすることを基本としている。隣に新築される新TODAビルと一体となる開かれた美術館によるアートスクエアという空間によって都市の文化的使い手の視点を大切に芸術文化街区「京橋彩区」を作り出す試みはこれからの都市空間を豊かな場所にする貴重な試みで、特区に指定されたことは特筆に値する。
建築は都市型高層ビルの三層構成即ち、中景となる胴体部分を働く場所である賃貸オフィスに、アイレベルからの近景で基壇となる部分の低層部に街に開かれた美術館を配置し、遠景となる頭部は中央通りと八重洲道路との交差点を示す特徴的なスカイラインを持つ魅力的な“建築”となっている。その意味では、低層部の美術館のアクティビティが東京の玄関口である交差点にもう少し現れてほしかった。
オフィス部分においては環境配慮のためのコンピューテーショナルデザインで、「離散型ルーバー」と水平バルコニーで、刻々と変化する太陽光調整、各階個別の自然換気、配管、清掃等のメンテナンスを可能にしている。「離散型ルーバー」は特別に計算された美しいアルミの押し出し金物で、楕円の外形線の中で場所ごとに有効な形態をその多様な組み合わせによって生み出している。設計者の優れた力量と追求によって生まれた美しく有用性を持った外皮であり、時時刻刻変化する太陽の光を繊細に映し出し、都市景観に生き生きとした変化をもたらしている。縦ルーバーが室内からの景色に影響があることへの意見もあったが、実際の空間ではレースのカーテンのように乱雑な周囲の都市景観を和らげ、集中できる空間となっていると感じた。
クライアントの芸術文化に対する理解と設計者の先端的課題への挑戦の姿勢が融合した美しく優れた建築としてAACA賞奨励賞にふさわしい作品である。

選考委員 堀越英嗣

台地のFORTE

写真撮影 平井 広行

作 者: 佐藤達保
所在地: 大阪市阿倍野区橋本町
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審査講評

この作品は建築家の自邸である。先ず、注目したのは、高低差10mほどの崖地の上に擁壁をさらに高くしたような外装を施した1階部分の上に、木造の透明感のある平屋に見える建物があることである。敷地は大阪市の天王寺から南へ2㎞ほどのところに位置する。上町台地と言われる大阪の歴史的な骨格をなす台地の西端にあり、台地の北の先端部には大阪城がある。設計者は自邸を計画するにあたり、丹念に土地を探し、この敷地を探しあてたとの事である。
1階のガレージ側から内部に入ると、三和土仕上げの通路状の「通り土間」があり、突き当りの開口部からと二階に通じる軽やかな階段から自然光が差し込み、柔らかな明るさの心地良い空間である。土間に沿って、右側は構造材LVL(38×280)をそのまま表しで利用した収納棚、左側にプライベートな生活空間が納められている。主寝室と奥にある浴室には小ぶりなライトコート「箱庭」からのみ柔らかな光が注いでいる。1階は開口部も少なく抑制された空間の中ありながら「自然の光」や「木」、「通り土間」など巧みな自然の素材の活用が温かみのある空間を創り出している。
「通り土間」から階段を上がると、三方が大きく開かれた、とても明るい開放的な居間空間が突然現れる。正面は、大阪の西一帯を見渡せ、まさに天守閣にいるようである。天井まである大きな引き戸を全開放すると、テラスと一体となった大きな半屋外空間となり、外の広がりを内部まで取り込んだこの空間は、建物の規模を感じさせない豊かな気持ちにさせる。
特異な敷地の持つ可能性を最大限引き出し、さらに、木質や自然の材料の吟味や、その材料の使い方、緻密で繊細なデティールがこの空間を心地よいものとしている。ダイナミックでありながらとても心地よい空間の「住まい」が実現している。

選考委員 東條隆郎

Port Plus 大林組横浜研修所

写真撮影 (株)エスエス 走出直道

作 者: ㈱大林組 設計本部 伊藤泰、堀地隆弥、伊藤翔、高山峻、太田真理、辻靖彦、岩井洋、西﨑真由美
所在地: 横浜市中区弁天通り
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審査講評
日本国内初の純木構造の高層建築である。それを実現する為に様々な初めてのディテール開発や工法開発が必要となり、その為の多大なエネルギーが消費された事を感じさせる。耐火木構造体は芯材となる柱・梁材を耐火被覆で包み、更に表面材として燃え代材で覆う仕様としている。柱梁材を一体とした十字型のユニットをドリフトピンという棒鋼で接合して組み上げていく方式で、ジョイント金物等の使用を極力避ける工法が開発された。この剛接仕口の十字架型ユニットは工場製作により、生産性の向上に寄与している。柱・梁・床の全てを木造耐火被覆として様々な検証及び実証試験により高層純木造耐火建築物を実現した。
建築用途は自社の研修施設である事から自由な発想の内部空間を構想し、各階が異なったプランで様々な研修スペース、コミュニケーションスペース、リラクゼーションスペースを構成している。
吹き抜け空間や植栽と一体となった外部空間の取り組みや外気導入のダブルスキンの採用、自然素材の仕上げ材等環境配慮を細やかに計画し、あらゆるところに木の暖かみを充分感じる事が出来る。
外装の木架構は全面ダブルスキンのガラスカーテンウォールで覆われて、架構表面の木の風化を防いでいると共に現代的な表現に成功している。
様々な環境問題から木造が見直され、本格的な大架構建築や高層建築の時代が始まって、この建築はその嚆矢となる作品として特別賞に値する。

選考委員 岡本 賢

歳吉屋―BYAKU Narai―

写真撮影 ONESTORY

写真撮影 ロココプロデュース 林広明

写真撮影 TOREAL 藤井浩司

作 者: ㈱竹中工務店 美島康人・長谷川裕馬
所在地: 長野県塩尻市奈良井
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審査講評

木曽街道沿いの奈良井宿は、江戸期の宿場町の建物が約1kmにわたって連なる重要伝統的建造物群保存地区に登録された美しい街並みが残る。築200年のかつての造り酒屋の、ミセ、オク、酒蔵、味噌蔵、物置、全ての建物の調査をもとに、耐震性能・遮音性能、温熱環境、防災機能を向上させて、8つの客室、レストラン、浴場、酒造りエリアを併設した施設に再生させた。
特筆すべきは、残すべきものと新しく挿入するものの選択眼である。白い土蔵の塗壁と礎石をそのまま庭の路地の一部として取り込む、時代の痕跡を残す古い壁をそのままインテリアに使ったり、時には居間の床レベルを下げることによって外に広がる山の景色が見えるように設えた。一方で、ベッドやソファなどの新しい家具の形状や色、質感に細心の注意を払って古民家再生のプロジェクトが陥りがちな「ジャポニカ・テイスト」から免れることが出来た。加えて、オーナーの家に伝わる掛け軸や屏風などを骨董品として飾るのではなくインテリアの一部として使ったり、昔ながらの小さな神棚を現代に生かしたり、地場の木材を使った風呂場の小さな椅子、有明行燈の修復など、この土地ならではの歴史的背景のある工芸を各所に使って新鮮な和の空間を創り上げたことが、美術工芸賞として評価された。
今後は、手すりのない急な階段や小さな飛び石が連なる庭の改修など、高齢者が過ごしやすい環境を整える工夫も必要となろう。また、敷地の奥に作られた木曽漆の立派なカウンター・テーブルを備えたバーに街道から気兼ねなく入れるようにすれば、地域の方々や他の旅館の宿泊客の唯一無二の高歓の場となるのは間違いない。

選考委員 近田玲子

湯野浜・亀や あかがね

作 者: 加藤詞史(加藤建築設計事務所) 岩田英里(岩田組) 阿部公和(亀や)
所在地: 山形県鶴岡市湯野浜
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審査講評

日本海に直接面して建つ創業200年の老舗旅館「亀や」の客室である。鶴岡市の郊外、湯野浜温泉郷にある。わずか40㎡のインテリアデザインという今までにないタイプの応募作品である。
地元固有の銅板技術と「浜の湯壺」の伝統を念頭において、日本海の厳しさと対峙してきた豊かな風土と歴史を、体現できる空間を創ろうとしたものだ。作者は銅板の赤銅から緑青への変化を、体験と時間がデザインされるものだと表現しているが、気候の厳しい外部と違って室内ではどうなるのかは実はよくわからない。ただ素材にこだわって銅板の「屋根」を想起しながら天井に貼り、温泉の浴槽を前面においたという独創には注目したい。
今回最も評価されるのは、旅館亀やの、アートや建築に対する深い造詣と作者や作品に対する大きな思いである。客室を改修するにあたって、亀やは「客室をアート」に見立てたギャラリーズ・プロジェクトを立ち上げた。この「あかがね」をふくめて数人の建築家を招いて一部屋ずつ独自の改修を行うことにしたのだ。またこれらの客室の前にはそれぞれのテーマを展示するギャラリーが設けられていて、部屋に入る前にテーマを予感させてくれる。
この取り組みは長年にわたって続いている。亀や社長のデザインやアートへの深い理解、客室運営の新たな経営方式の工夫、地域への思いなどその姿勢に触れるにつけ、このアートプロジェクトの今後の大きな可能性を強く感じる。銅板のインテリアには若干の物足りなさはあるものの、期待を込めて美術工芸賞奨励賞を送ることとなった。

選考委員 可児才介

入選作品[2作品]
豊田の立体最小限住宅

写真撮影 Jumpei Suzuki

作 者: 川島範久、國友拓郎
所在地: 愛知県豊田市
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神戸ポートミュージアム

写真撮影 田中克昌

作 者: 大成建設㈱一級建築士事務所 高島謙一 土井健史 原田健介
所在地: 神戸市中央区新港町