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協会賞

第30回 AACA賞

  • 審査
    総評
  • AACA賞
     
  • 芦原義信賞
    (新人賞)
  • 優秀賞
     
  • 優秀賞
     
  • 優秀賞
     
  • 奨励賞
     
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  • 奨励賞
     
  • 奨励賞
     
  • 特別賞
      
     
  • 美術
    工芸賞
     
  • 美術
    工芸賞
    奨励賞
  • 入選作品
     
     
審査総評
 本年は年度始めより新型コロナウィルスの感染拡大に見舞われる中、賞の運営や審査会の開催に大きな憂慮がありましたが、昨年や一昨年の公開査に引き続き、無観客ながら応募者のプレゼンテーションによる二次審査を行い、審査の模様をWEBで公開することができました。応募・発表された方々、二週間の隔離を経て遠路ロンドンから二次審査に駆けつけた川上委員ほか審査員各位、進行を支えてくれた事務局の尽力により、本年度の審査を無事に終了することができました。まずは感謝申し上げます。
 今年は困難な状況にもかかわらず応募数が増え、現地審査作品の選出、並びに最終選考には大いに苦労しました。特に現地審査については安全性の観点から審査員数を原則二人に絞るなど、その是非も含めて大いに議論したところです。
 作品の内容も高速道路のパーキングエリアから修復中のお城の見学通路、ホテル、保育園、集合・個人の住宅、既存建物の大胆な改修など、実にバラエティに富んだものでした。またAACA賞の美術工芸と建築の融合の視点からは、アーティストや美術工芸をエンカレッジしようとするもの、地場の様々な工芸作家を積極的に起用したものなどが多彩なものがありました。
 今年審査員全員が一致してAACA賞に推したのが《京都市美術館(京セラ美術館)》です。帝冠様式の旧美術館の外観をそのままに、大胆に地面を掘り込んで入り口をつくったデザインで、建築だけでなく周辺地域一帯の価値を高めたものとして高い評価を得ました。
 芦原義信賞には、ともすれば凡庸な賃貸住宅になりがちな土地活用の求めに対し、シンプルな建築言語を用いて、集合住宅に愛らしい戸建て集落のような形を与えた《CHRONOS
DWELL》が選ばれました。
 これに続く優秀賞の3作品も、それぞれに特徴のあるもので、《のだの保育園》は伸びやかなデッキで全体をつなぐ大らかなもの、《垂井町役場》はかつてのショッピングセンターを大胆にリニューアルして役場庁舎としたもの、《尼崎パーキングエリア》は機転の効いた細長い棟配置によって快適で美しいトイレ施設をつくるなど、力作ぞろいでした。
 奨励賞は例年より1つ増えて4作品となり、《松原市民松原図書館》が溜め池を保存したまま土木的な量塊の中に明るく流動的な内部空間を仕込んだもの、《木頭の家》がかつての茅葺屋根のイメージを木架構の合掌で再現したもの、《松山大学文京キャンパスmyu
terrace》が既存地下躯体を基礎とした開放的な半屋外テラス、《すばる保育園》は風景の中に溶け込んでたたずむ伸びやかな造形と、4作品のいずれもが大変個性的でした。
 今年は特別賞として《熊本城特別見学通路》を選びました。大きな地震被害を受けた熊本城は20年をかけて修復されますが、その様子を観覧できるようにするもので、遺構に負担をかけないよう空中に浮揚する形になっています。
 一昨年創設された美術工芸賞には、《HOTEL STRATA NAHA》が選ばれまし た。織物や染色、ガラス工芸など沖縄の作家を多数起用した、都心にあっ てリゾートのように寛ぐことのできるホテルです。建築と美術工芸が融合したものとして、審査員の多くから指示 を得ました。
 なお、今年は《東新工業㈱いわき工場アートプロジェクト》に、若手の作家を育 もうとするクライアントの姿勢に美術工芸賞奨励賞を贈ることとしました。
 入選となった6作品は、路地育ちの鶏卵製品を販売するシンプルな木架構 の《mother`s+(マザーズプラス)》、京町家を保存活用したホテル《THE 
HIRAMATSU 京都》、独創的なCLTトラス架構による《大成建設技術センタ ー 風のラボ》、軽やかな木造で開放的な空間を実現した《プラス薬局みさ
と店》、スチロールにコンクリートを吹き付けた量塊がつくる《Soilhouse》、吉田鉄郎の京都中央電話局を立体的なストリートのあるホテルに 改修した《新風館》と、入賞作品に劣らずそれぞれとても魅力的なもので
した。
 コロナ禍にありながら、例年以上に充実した作品を数多く選ぶことができ 、大変うれしく思います。

選考委員長 古  谷 誠 章

京都市立美術館(通称京都市京セラ美術館)

作 者:青木淳 (青木淳建築計画事務所/基本設計・実施設計監修・工事監修)
    西澤徹夫 (西澤徹夫建築事務所/基本設計・実施設計監修・工事監修)
    森本貞― (株式会社松村組/実施設計)
    久保 岳 (株式会社昭和設計/実施設計)
    高橋匡太 (株式会社高橋匡太/ファサード照明)
所在地:京都市左京区岡崎円勝寺町 124
審査講評
 現存する最古の公立美術館(1933)の姿を後世に残しながらも現代のニーズに応える「保存と活用」をいかにすべきか、という課題に様々な角度から取り組み、新しい美術館のありようを示した作品である。
 まず眼を惹くのは、ガラス・リボンと呼ばれる新しいエントランスとスロープ状広場である。西側広場をスロープ状に掘り下げ、かつての地下室を新たなエントランスにすることで、帝冠様式のファサードを変えずに、発券・案内スペース、売店、ロッカーやトイレといった基本的なサービス機能を充実させる要望に応えた。入館者は1階の中央ホールを経て美術館内を巡る。中庭が解放されて屋外彫刻を楽しめるようになった。中央ホールの2階吹き抜け部には新たに東西エントランスを結ぶブリッジが設計されて美術館内部の回遊性を高めている。残念なのは東エントランスロビー側の2階窓ガラスが鉄板のような素材に置き換えられていたことだ。この窓から光が入る又は窓面が光っていたならば中央ホールがどんなに生き生きとなったか。メクラ窓にする他に解決方法がなかったか惜しむ。 特筆すべきは、この西エントランスから東側エントランスに抜けた先に見える「変わっているのに変わらない」新館が加えられた景観と、「変わらないのに変わって見える」日本庭園(1909)の眺めの見事さである。シャンパンゴールドのステンレスチップを象嵌したGRCパネルの外壁の新館は、最初からそこにあったかのように本館と一体の建物として溶け込んで見える。本館と新館に囲まれた小川治兵衛による日本庭園は、1世紀以上前に作庭されたとは思えない新鮮な輝きを放つ。池にはリニューアル時に造られた杉本博司による「硝子の茶室 聞鳥庵(モンドリアン)」が2021年1月末まで展示されている。 改修にあたり本館のファサードに京セラ製LEDの色変換可能型照明が新設された。年間を通して二十四節季を色で表現したり、市民参加によるワークショップで提案されたカラーライトアップが計画されているが、色光を使う際には慎重な判断が欲しい。まず、美術館のすぐ横にある平安神宮の真っ赤な大鳥居のある京都・岡崎の文化的背景、周囲の夜の景観の中で、歴史的建物への光色はどうあるべきかを考える必要があろう。市民がワークショップで提案した案だからと言って、美術館を見る多くの京都市民、観光客にカラーライトアップが受け入れられたと考えるのは早計である。

一般市民の歴史的景観に対する思い入れは深い。建物ライトアップの基本は素材を生かす光色とし、1階旧メインエントランスを舞台にした演奏会を催す時などに、新しい地下エントランスのガラス・リボンと呼ばれるスロープ部分をカラーで演出するなど。地階部分の軽やかさと本館の重厚さの対比を意識して建築の時間の積み重ねを想像させる光を目指し、引き続き検討を願う。

選考委員 近田玲子

CHRONOS DWELL

作 者:藤森雅彦
所在地:広島県広島市安佐南区大町東
審査講評
  広島市の北西部、住宅やマンションが密集する住宅街を貫くように、私鉄の巨大な高架橋が大通りの上を通っている地域にこの作品はある。近年、利便性からこの私鉄の駅を中心にして、高層マンションや低層の戸建て住宅が急激に増加し、従来多くあった農地が次第に姿を消して住宅地へと変貌をしている。広島の中心街で働く若い家族が移り住んできていて、この地域の人口の増加は今も続いている。この作品の敷地はJRと私鉄の駅から近く、大通りから一本入った道に面している。ここも以前は農地であったが、諸事情で住宅地として変貌することになった。
スタートは事業収支の計算で、賃貸アパート15戸を作ることだった。しかしここから、作者の発想がふつふつと湧き出てきたようだ。15戸を4つのコミュニティに分けそれぞれのコミュニティは広場と路地を持ち、4戸の住宅は必ず広場に面する。また4戸の住宅は建物としてつながっており、一つの建築になっている。さらに15戸の住宅には一つとして同じ平面を持つものはない。そんな発想だ。実施にあたっては一挙にすべてを作るのではなく、まず4戸の一つのコミュニティを先行して完成させ、様々な問題点を洗い出した。それらの解決策を盛り込んで残りのコミュニティも完成させたという。子育て家族を対象とした賃貸アパートである。
 前面の道路から近づいて行くと、馴染み易いスケールの住宅群が目に飛び込んでくる。それぞれの空間単位を周辺よりやや小さなボリュームにすることで圧迫感を軽減するという計画の結果である。 写真で見た銀色のガルバのギラギラ感はほとんど感じない。まさに環境に溶け込んでいて前からあったような親しみを感じる。コミュニティ内の路地に入り込むと、子供のころに経験した家と家の間の、探検したくなったあの細い道の空間の記憶が重なる。2階は1階とは平面をずらして配置、入り組むように交差していて、まさに積み木の世界だ。 その結果、別の家の寝室の下が我が家の玄関の前の路地になったり、別の家の屋根が我が家のバルコニーになったりする。個別の住居の領域はしっかり確保されているのに、一方で路地と広場による「弱い境界線」がコミュニティの結びつきを作った。子供たちはこの外部空間を完全に共有しているようだ。住宅の内部も同様に、育ち盛りの子供たちには遊ぶ場所には事欠かない。きわめて新鮮なデザインソリューションであり、芦原義信賞にふさわしい作品である。

選考委員 可児才介

のだのこども園

作 者:水上哲也
所在地:千葉県野田市蕃昌338‐2
審査講評
 この計画は長く地域に根ざした幼稚園が「地域ぐるみの子育て」の必要性から保育機能に加え、卒園生、保護者たちが利用できる施設を併設した新しい「こども園」を構想したことに始まる。コンセプトに共鳴した設計者は敷地の丁寧な読み込みにより、既存の園舎と遊び場そして樹齢100年を超える木々が混在する多様な状態を貴重な環境と捉え、その景観を継承しつつも新しい風景となるコンセプトを基に設計を行っている。ともすると「自然はあるが個性の乏しい風景」になりがちな地域であるが、敷地に存在する大木群が創り出す力強い風景と、生き生きと楽しく走り回る子供たちの風景が織り成す魅力を中心に据え、建築はその背景となることでこの計画の方向性は決まったと言えるだろう。
 現地に立ち、配置計画を読み込むと、長い時間の中で増築を重ねた特徴的な形を持つ既存の3つの園舎に囲まれた園庭が今回の計画に沿って木々の間に伸びやかに広がっている事がわかる。子供たちの活動と心の中心は園舎の広場から木々の間の園庭である。新しい建築は、子供たちの生き生きとした活動の中心となるのびやかな園庭と呼応するような深い庇を持つおおらかな縁側空間が奥まで長く伸びた建築となっている。垂直に伸びる大木の林と対比するような水平な建築はダイナミックであるが、包み込むような優しい表情を持っている。
 その表情を作っている建築の骨格は木と鉄骨のハイブリッド構造であるが、園児や保護者に、建築の圧迫感を全く感じさせていない。材料の特性を活かした構成が優しい表情の建築を作り出している。「木造」にこだわりすぎることなく、子供たちの活動のために適材適所に鉄骨造を駆使し、半屋外の深い庇の廊下に面して全開放可能な引違いのサッシ、レール等のディテールまできめ細かく行き届いた設計は、建築の存在を強く主張することなく、むしろ背景として消える方向となることで、おおらかな居場所を作り出している。図面ではよく解らなかったことも実際の空間を経験することで多様な構成の意味が腑に落ちてくる。
 2階レベルは保育室と木々の間に木製ルーフデッキが広がり、大木を避けるように雁行し、奥の遊戯室へつながっている。この場所に古くから根付いている大きく枝を広げた大木の林と高い空、という、他では経験できない豊かな空間の素晴らしさを感じる体験は子供たちの記憶に深く刻まれるだろう。
設計者はこれらのさりげない佇まいを、優れたアイデアと技術を駆使し実現している。また、表現のためでなく長く使われたためのメンテナンスへの対応が、デッキの雨水処理など、各所の丁寧なディテールに感じられる。どうしたらこどもたちの日々の生活が楽しく安全で、豊かな時を過ごせるのかそして、毎朝ここに来るのを楽しみにしているこどもたちの笑顔が想像できる場所というような建築の本質的目的を理解し、それを優れたエンジニアリングで実現した設計者の力量は素晴らしく、AACA賞優秀賞に相応しい作品である。 

選考委員 堀越英嗣

垂井町役場

作 者:(株)梓設計
    永廣正邦、日比淳、森一広、簾藤麻木
所在地:岐阜県不破郡垂井町宮代 2957-11
審査講評
 コンバージョン建築の醍醐味とは、このような仕事に関わることをいうのだろうと、深く感じ入ることができた作品である。それほどまでに完成度は高い。この域に達するには、おそらく、次のような三つの条件がみたされていることが求められるのだと思う。一点目は、before
/ after で建物の機能が全く異なっていることである。この場合、before のスーパーマーケットに対して、after は町役場であるから、これはもう180度の転換だと言える。それでいて、いずれもこの町に暮らす人々の日常に欠くことのできない存在である(あった)ことは共通しているわけで、この場所と建物は引き続き垂井町民に意識され続けることになるのだ。二点目は、before
の建築的特徴がafter においても有効に生かされていることである。低層の大規模小売店舗に共通する平面形状の特徴、つまり柱間が広く見通しのよい物販スペースが確保されていた中央部が、そのまま執務効率と行政サービスの質を向上させる中央集約型の平面計画に継承されている。このことは同時に、町民に開かれた庁舎のあり方を実直に体現することにつながってもいるだろう。そして三点目は、コンバージョンにあたってbefore
の建築の課題もしくは欠陥であると考えられたことが、創造的に解決され、空間化されていることである。この点については、特に二つの側面から評価することができる。まずなんといっても、奥行きが深く、自然採光と通風が期待できない建物中央部の環境を劇的に改善する方法として採用された「環境井戸」の絶大な効果である。4ヶ所に配置された六角形の平面形状をもつヴォイドを通じて導かれる天空光と緩やかな空気の流れは、薄暗い森の中で出会う陽だまりのような暖かさと安心感をもたらす。また、環境井戸の直下が、パブリックスペースとなっていることも特筆されるであろう。そして、見通しのよい各階の空間の中で、この場所こそが庁舎のコアであることを主張している。続いて、この庁舎が防災拠点施設となるにあたって必要とされる構造補強が、この建築のファサードを極めて特徴あるものに進化させている点が注目に値する。一般に求められる基準の1.5倍の耐震性能を具備するべく付加されたRCのアウトフレームは、扁平であったかつての立面に、端正でありながら彫りの深い表情をもたらしている。リズミカルに連続するフレームがつくりだすフォーマルな陰影は、機能的合理性のみが追求されていた商業施設から、多くの市民が共感する象徴性を纏ったタウンホールへの変貌をいやおうなく実感させるものだ。庁舎の更新が必要となっている地方自治体の多くが財政難にあえぐ中、この町もその例外ではないだろう。その意味において、低コストの事業によって、隔世の感さえ覚えるに違いない庁舎を誕生させたとりくみには、敬服するばかりである。 

選考委員 宮城俊作

尼崎パーキングエリア

作 者:納谷建築設計事務所/納谷 学、 納谷 新
所在地:兵庫県尼崎市南城内地先
 この施設は大阪と神戸を結ぶ阪神高速3剛神戸線の上り、大阪に向かう高架上にある。平成28年に阪神高速道路株式会社が主催しJIA近畿支部が運営主体で実施された設計コンペティションで選定された作品である。敷地は高速道路に沿って約400m、幅20mの細長いエリアに建設された約160mの細長い建物である。阪神高速3号神戸線は道路の両側にグレー色の防音のための背の高いフェンスが設置され、高速道路を走る車の中からは外部の景色が見えず、無機質な空間が連続している。尼崎パーキングエリアの標識が見えるあたりから、前方に緑の塊と木造らしき建物が見え、パーキングエリアがあることが認識され、気持ちが安らぐ。
 車から降り、パーキングエリア施設を見ると、駐車スペースの前面中央に繊細に仕上げられた60㎜ほどの小幅板の下見板張りの細長い壁面と、それに沿って設けられた木の無垢材のベンチ、白く塗装された深い軒庇が連続している。非常に細長いシンプルな建物であるが、スケール感がとても良く心地よい空間となっている。その連続した壁面に設けられた開口を入ると、男女のトイレと自動販売機コーナーが連続して配置されている。駐車スペースからの動線が短く、利用者にとってはうれしい設えである。
 トイレ内部は男女ともに大きなガラススクリーン越しに、道路フェンスとの間に施された緑が見え、室内は柔らかい自然光で満ち溢れている。また、自動販売機のコーナーは外部から機械自体が見えないよう配置されており、一般的なサービスエリアなどに見受けられる煩雑さがなく、全体が簡潔にまとめられ清潔感がありとても心地良い。
 駐車スペースから道路の進行方向を見ると細長い建物がクランクしており、その先に緑に囲まれた広場とガラススクリーン越しに休憩スペースが見え、期待感を抱かせる。その手前にはこの建物のスケールに程よくあったイベント広場、奥には森のテラスなどが巧みに配置されている。また、この建物は高速道路上にあることで、構造的に高架のエキスパンションジョイントに合ったエキスパンションジョイントを設けることや、建物が高架上にあることから耐風圧強度や耐震強度など様々な制約がある中で計画されているにもかかわらず、それらを感じさせない。設計者の優れたきめ細やかな優れた力量を感じさせる。
 設計者が目指した、利用者が高速道路上にいることを忘れてしまうような軽快で心地よい空間が実現している。 

選考委員 東條隆郎

松山大学 文京キャンパス myu terrace

作 者:(株)日建設計
    勝山太郎、多喜茂、甲斐圭介
所在地:愛媛県松山市文京町4番2、10、
審査講評
 間もなく創立100周年を迎える伝統ある大学キャンパスには、創立時からそのままの状態で保存されている原風景としての中庭が存在している。その中庭に隣接する校舎が耐震上の問題から解体される事になりその跡地に中庭を生かした学生の交流施設を計画する事となりこのプロジェクトが始まった。当初は室内スペースを計画する案もあった様だが、中庭と連続するオープンな施設が松山の温暖な気候ともマッチしてキャンパスの中心施設にふさわしい計画となった。コストセーブの観点から既存校舎の地下躯体を解体しないで残存する事となり、その地下壁面を基礎として利用して構造を構築するに当たって単柱状のものよりも長方形の構造体が有効であろうという発想からユニークな長方形口の字形の鉄骨フレームを耐震性を考慮して向きを変えて林立させる計画が生まれた。ランダムに配列されたリング状の鉄骨フレームの上部に軽やかな屋根を架け先端を極力薄くシャープに見せる事によって、風が吹き抜け背後の中庭とつらなって透明感のあるスペースを創り出している。2階のデッキからはるかに松山城を望見され日差しの降りそそぐ居心地の良い場が出来ている。この建築の最大の特徴は長方形型リング状のフレームの林立である。リング状の構造体は床スラブアンカーを簡素化して、屋根材との間にも間隙を見せる様にして全体が浮いた様に見せる工夫をした結果長方型リングがゆらゆらと揺れている様な情景となり、シュールな感覚を感じさせる新しい空間イメージを創造している。点在する椅子、テーブル、ベンチもスチールの折り曲げ加工と人工木を組み合わせた同じコンセプトで統一されていて好感が持てる。2階テラスの手摺形状が視点によって閉鎖的となる事にはもう一段の工夫が必要だったかも知れない。オープンテラスにした結果が現在の新型コロナウィルス対策にもはからずも有効となった事も設計者にとってはラッキーな事だろう。 

選考委員 岡本 賢

松原市民松原図書館

作 者:高野洋平・森田祥子
所在地:大阪府松原市田井城3-1-46
審査講評
 松原市民松原図書館は農業用水の確保を目的とした「ため池」の中に建てられている。「ため池」の一角を敷地として設定されたプロポーザルで選定された計画であり、「ため池」を埋め立てるのではなく、長い間存在してきた「ため池」の風景を守り、水のある環境と共生することで、図書館もまた当然のごとくこの地に存在していたかのような佇まいを見せている。傾斜のある外壁は、淡い落ち着きのある赤茶系のカラーコンクリート打ち放しであり、池に面して連なる住宅や隣接する親水公園の風景の中に自然に溶け込んでいる。開口部が少なく壁面量が大きいにもかかわらず、建物の大きさや圧迫感を感じさせない落ち着いた親しみの持てる存在感のある外観となっている。
 エントランスから内部に入ると、受付とエントランスホールがあり、そこから1mほど下がった一般開架のフロア全体が見渡せる。奥にある「ため池」に面した開口部からは柔らかな自然光が差し込んでいる。一般開架フロアから水面が見える位置に開口部があればより周囲との自然とのつながりが感じられ、さらに心地よさが増すのではと思われる。書架の配置は手前から奥に向かって徐々にカーブしており、書架の側面のコンクリート版を模した特徴的な側板のサインの向きもそれに倣っており、利用者に期待感を抱かせ人の動きを誘発させると思われる。
 この一般開架フロアから上層部に立体的に連続して大きな空間がつながり、図書館全体の構成が見て取れるようになっている。この空間のどこにいても、自分のいる場所が理解できることが、図書館を利用する人々にとって、安心感につながるのではないだろうか。また、連続した空間の視点の先々に開口部があり自然光が差し込んでいる。開口部が少ないのにもかかわらず閉塞感がない。開口部の位置、大きさや光の量が程よく、図書館空間全体に落ち着いた穏やかな雰囲気を創り出しているのが心地よい。長時間の滞在にも心地よさが持続しそうである。
 このような外観・気積の大きな内部空間を支えているのが土木的な考え方の構造や施工技術である。それは厚さ600mmの外壁と池の水を止水し池の底から構築する技術である。床は鉄骨の柱・梁で支えられ外壁とはピン接合となっており、外壁は鉛直荷重のみ負担する考え方で構成され、自由度の高い内部空間が実現しているのである。
 この敷地に隣接して、松原市民体育館、松原中央公園や松原市文化会館など市の公共施設がある。その中でこの特徴ある市民図書館はこの地区のランドマーク的な存在となり、多くの市民に親しみをもって利用されることが期待される。AACA奨励賞にふさわしい作品である。

選考委員 東條隆郎

木頭の家

作 者:坂東幸輔建築設計事務所 坂東幸輔・藤野真史
    なわけんジム 名和研二
所在地:徳島県那賀郡那珂町
審査講評
 徳島の山中、高知県堺に近い那賀町木頭にある築150年の古民家改修のプロジェクトである。既存の古民家はいわゆる古民家風の外観を保ってはいなく、何回もの改修過程を経て通常の民家の状態であった様だ。今回の改修計画の調査によって創建当初は寄棟造りの茅葺屋根だった事が判明している。改修計画に当たっては150年続いた木組の躯体を生かし創建時から変えられた瓦屋根等の様々な変更部分を撤去して、新しく大屋根を架け外周りも新しく増設する等、一見して新築家屋に見える様な計画となった。
 大屋根はかつて茅葺屋根の勾配をもつ寄棟とし、集落の中で象徴的だった家屋の風格を再現している。林業を営む建主の要望で林業の伝統工具や所作を展示するギャラリーを計画に取り組む為、大屋根で生まれる小屋裏の空間を無柱の大空間として計画した。地元産の杉材の登り梁を贅沢に使用し、寄棟の4面の版状を持ち合いに構成して束立てのない空間を実理している。連なる杉材の登り梁の美しさがこの建築の最大の魅力となっている。
 屋根面には、4週を巡るスリット状のスカイライトを設置しギャラリーの足元からライトアップの様に登り梁を照らし上げている。創建時の骨組みを生かした保存、再生ゾーンと新しい居住スペースの間に吹き抜けの土間空間を計画して小屋組の美しさを見渡し、通り抜けの集落の風景と一体となって、昔の田舎家の土間空間の懐かしさを感じさせる。保存再生ゾーンには、囲炉裏や仏間、玄関、接続する和室の構成等当初の面影を再現し、その周辺に新たな縁側を巡らせている。古民家の懐古部分を生かし、その周囲を新しい感覚で構成する。「入り子」構造の様な計画がこの建築の新しさであろう。
 白色鋼板の寄棟屋根は周辺の環境からは少し浮きあがって見えるが、時間と共にこの里山の地になじんで土地の象徴となっていく事を期待する。 

選考委員 岡本 賢

すばる保育園

作 者:藤村龍至/RFA十林田俊二/CFA
所在地:福岡県小郡市大保960
審査講評
 福岡市郊外の田んぼの中に建つ平屋の保育園である。クライアントからの要望の一つは、熊本地震のような震災に強く、福岡県周辺に多いPM2.5や黄砂から子供達を守る建物であること。もう一つは、身体の発達に大きく差がある3歳児未満児(0,1,2歳)と3歳以上児(3,4,5歳)の園舎を、大きく2つの部分に分けることであった。
 設計者はこれらの要望を同時に解決するユニークなプランを実現させた。子供たちの安全を守り、かつ子供たちの成長に寄り添い、豊かな自然環境と一体になる園舎を実現させるため、2つの大きなカーブを持った平屋をS字状に結んで配置する計画である。一つは西側の鎮守の森を中心にカーブを描く3歳児未満児(0,1,2歳)用、もう一つは南側の水田を中心にカーブを描く3歳以上児(3,4,5歳)用の平屋である。
 2つの建物のカーブの内側は壁のない開いた空間としつつ、カーブの外側に耐力壁を集約させ、2つのカーブした建物をS字に組み合わせることで構造的バランスを取り、震災にも耐える建物の強さを確保した。又、PM2.5や黄砂などから子供たちを守るため平常時は可能な限り窓を開けないで過ごすことから、窓を開けなくても新鮮な空気を安定した温度で取り入れる地中熱利用換気システム、省エネシステム、エネルギー利用管理システムなどを導入した。
 S字の結節点にエントランス、職員室、応接室、調理室などの本部機能が集められている。エントランスを抜けて、3歳児未満児(0,1,2歳)のエリアを右手に見て直進すると、緩やかにカーブした幅4mの日当たりの良い廊下、音楽演奏や屋内での運動に使う広々としたホールがあり、その先に3歳以上児(3,4,5歳)用のエリアが続く。園児を寝かした後の保育士さんたちの楽しそうに働く姿が印象的だった。
 ホールに柱と梁は一切なく、天井高さ4m、横15mスパンの舞台中央はドーム状に上がっている。舞台に立つと残響が気になるが、音楽会を聞きに来た保護者や演奏者からは音の響が良いと気に入られているそうである。お椀を伏せたようなホールの屋根形状は、どのくらい持ち上げると屋根スラブのひずみを最小に抑えることができるか計算したアルゴリズム・デザインによって、最終形状が決められた。
 敷地の外から保育園を眺めると、盛り上がったホールの屋根と遠くに見える花立山の形が重なって見える。コンピュータープログラムを使って導き出したお椀を伏せた形の屋根と、昔からこの地域の人に親しまれている自然の山・花立山。二つの山が双子のように並んで乳幼児が大好きな「おっぱい」が形づくられた。

選考委員 近田玲子

熊本城特別 見学通路

作 者:(株)日本設計 塚川 譲・堀 駿
所在地:熊本県熊本市中央区本丸地内
審査講評
 クマモンでお馴染みの熊本城内を見てきた。20年間限定の特別見学通路だ。2016年4月、熊本地震により熊本城は甚大な被害を受け、熊本城の復旧工事完了までは約20年の時間が必要となった。
 本計画は、まちのシンボルである熊本城の復旧工事、その場で文化財の復旧過程をリアルに見る事が出来る建築(開かれた復旧工事)を実現させる計画だ。
 時流に合った画期的な計画と思った。2019年3月から設計をスタートした。4つのコンセプトの基軸を立てた。 1.遺構に配慮する。 2.安全を確保する。 3.既存樹木を残す。4.復旧風景を見せる。
 特別史跡内は地面を一切掘削等できないため、既存地盤形状に合わせた置き基礎とする。
 また、20年後の解体時に現状復旧できるよう既存地盤と本工事の建材が混じり込まないように縁を切る必要がある為、ワイヤーメッシュを敷設した。その後、均しコンクリートにて基礎下端レベル出しを行い基礎を施工している。遺構、石垣を守る施工として、適材適所の構造架構考え、全長350m、高低差21mのルート等に合わせ、アーチ構造、リングガーダ構造、方杖トラス構造など、敷地特性に合わせた選択をした。手摺はトラス状とし制振性能を持たせた。
 通路の床板および根太は熊本県産のヒノキ材を使用し、この場所に馴染む素材であると同時に構造の軽量化にも役立っている。足元へはLED照明を仕込み床面のヒノキから欄干メッシュへ光をあて、通路全体を柔らかな光で包まれるよう配慮した。この計画の取り組みは新たな観光資源の開拓やこれからの文化財と建築の新たな関係性を築く一手となる事を願っている。
 「歩いて、見て、楽しむ道」つながりで一つ話題にしたい。私用で昨年5月にニューヨークのマンハッタン地区の再開発、ハドソンヤードに立ち「ベッセル」を見てきた。巨大な鳥籠のようで、歩いて廻る展望台だ。地上46mの16階建てに相等し、階段154段、踊り場80、トーマス・ヘザーウイツクというイギリスの建築家の設計との事でした。人は自然の中でおもしろそうな物を見て回り、健康で楽しみながら生きてゆきたいと願っている。今回の見学通路は訪れる多くの人々に夢を届ける素敵で、特別な道です。だから選考委員の総意で、特別賞に決定された。 

選考委員 米林雄一

HOTEL STRATA NAHA

作 者:富山晃―(全体統括)
    中原典人・湯川ちひろ・友口理央・佐々木絢子・小泉智史・藤田はるひ[UDS]
    渡瀬育馬・内海大空 [Dugout]
    長堂嘉範・伊波和哉 [デザインスタジオ琉球楽団]
所在地:沖縄県那覇市牧志1-19-8
審査講評
 沖縄那覇市中心部の再開発に伴い建設されたシティーホテルである。
 設計者は、この地が14~15世紀の琉球王国時代には、アジアから首里城への交流文化の道・長虹堤の要所だったことに着目し、その地層をデザインダイヤグラムに、Ryukyu Nature Modern をデザインコンセプトに掲げ、地質データによる土色を低層から高層部へのデザインの底流に一貫している。 
 建築計画では客室タイプにおいても様々な工夫がされて、なかでも2層分の天井高と天井一杯の開口をとおして、ベッドにいながらも沖縄の空を大きく体感できる客室は圧感で、頭上の高さと共に外部への広がりが空間体験に特別な変化を与えてユニーク。また広いバルコニー付き3面開口のある部屋からは市街風景をパノラマ展望できる開放感など特徴的な客室空間が多く設けられている。
 内部仕上げは、全館隅々まで沖縄の自然に誘うように床、壁、家具に自然素材が選択され、職人の手で丁寧に組み込まれていてシンプルだが心地よい。
 美術工芸についても、多彩な沖縄の伝統工芸技術が網羅されて、随所に小気味よく配されて、デザインコンセプトに則り統一感をもたらしている。沖縄クチャ(泥)や赤土などによる左官仕事が、壁面レリーフアートに丁寧に塗り込まれ、琉球ガラス工芸はランプシェードやタンブラーに内装と呼応したオリジナルデザインで、またホテルでは重要な要素であるファブリックには、首里織(首里道頓織 、花倉織)がカラープログラムに則って、クッション・スローに用いられ、薄手の優しい織がテーブルランプの光を穏やかに透過して上品に活かされている。最も特徴的な琉球紅型の伝統技術は、客室やレストラン、ロビーに、新しい歴史的テーマやモチーフ、色合いによる現代の紅型壁画として飾られて新鮮である。琉球伝統技術を受け継ぐ若手作家との熱い会話の積み重ねを通して、沖縄の工芸美術が現代の空間に融和して清々しい雰囲気を提供している。
 琉球石灰岩が多用されたレセプションロビーやカフェから連続して広がる緑豊かな庭園に、屋外プールを挟んで別棟レストランが望め、身の丈ほどの軒の低い赤瓦の沖縄民家のそのたたずまいは趣があり、隣接するこの地独特のお墓を抱く豊穣な森が借景として生かされている。最上階の水盤のある屋上展望テラスは、バーと一体となって市街地風景が一望できる。
 このように、全館を通してあらゆる要素において、豪華さや装飾性とは逆にシンプルであり、内外を連続する開放的で自然素肌感覚が入念に織り込まれて、この地の自然環境と一体化する工夫が凝らされている。海辺のリゾートホテルとは違い那覇市街中心部にありながら、訪れる人々に多様な空間体験を通して沖縄を発信する姿勢を実現し、ホテル運営を設計グループ自身が行うことでシティーリゾートホテルとしてのホスピタリティーが一貫している。
 建築美術工芸の新しい融合の姿を具現した作品としてこの賞に相応しい。

選考委員 藤江和子

東新工業(株)いわき工場アートプロジェクト

作 者:『チーム :アート★よつくら』
    川辺 晃、中村茂幸、大隅秀雄、吉田重信、平山健雄、
    根岸 創、藤城 光、久野彩子、青山ひろゆき、久木哲夫
所在地:福島県いわき市四倉町字栗木192-5
審査講評
 秋の日差しの穏やかな日、私は建築家S氏と共に福島県いわき市四倉町、「東新工業㈱いわき工場アートプロジェクト」をたずねた。周囲は里山がゆるやかに続き、背後に太平洋の海が望める環境に恵まれた敷地である。 今回計画された「チーム:アート・よつくら」プロジェクトは美術大学で学び、独立し作家活動をしているアーティストと地元福島のアーティストが「つなぐ」をテーマに制作し、地元石材、建設関連の有志の方々も加わり、様々な視点が生かされた取り組みとなっていた。
 東新工業㈱いわき工場は、携帯電話・自動車等の電子部品のメッキ加工の工場で、今まさに伸び盛りの会社です。 各地に工場が新しく展開し、海外労働者の受け入れや、海外技術支援も行なって、昨今のコロナ禍の中で、世界中が戦々恐々としている時も今の時流に乗った新しい企業イメージの会社でした。
 10人の参加アーティスト達は豊かな感性で、「繋ぐ、絆なぐ」に合ったそれぞれの言葉で語りかけます。手と手を取り合い繋ぐ様を表したイメージをさらに発展させ、四倉の地、海そして工場がしっかりと握手を交わし正面ゲート前にドッシリと立つオブジェ。工場前の広場には近くの地中から出現した「巨大な卵石」と名付けられた石
(約25t)。東日本大震災から復興のシンボルともなった「水葵」や「オーガニックコットン」をモチーフとした造形作品。津波によって更地となった土壌に水葵が小さく芽吹き、自然の再生と循環に勇気づけられこの地に咲く草花、訪れる鳥や風。その喜びの様を込めた絵画。海風を受け、たえずゆらりゆらりと動く金属製の動く彫刻は、いわき四倉工場の製品が広く世界へ送りだされ、新しい発展に繋ぐ象徴的な位置に設置されています。工場前庭や外に4作品。内部では会議室、社員食堂、玄関、工場内などで6作品設置。 紙面の都合で全部にはふれられませんが、ここで代表取締役社長 山﨑慎介氏の言葉を紹介します。「芸術は心の栄養のようなものだと思います。長い間を過ごす会社にいる間に、芸術作品に触れることが、仕事に対するモチベーションになればと考えています。そして、家族に自慢できる会社にしたい。」 まさに私たちアーティストが思っている事を明快に話していただきました。美術工芸賞は今年で3回目です。作家側が主体となって応募されたものです。素朴な面や、未熟面が多々あると思われる中で、今後さらに研鑽を積まれる事を願いながら、「美術工芸賞奨励賞」に決まりました。他の選考委員の方々からはクライアントの方こそ何かを受けるべきでなかろうかと囁きがありました。社長と作家両者に心からの拍手を送りたいと思います。    

選考委員 米林雄一

入選作品[6作品]