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AACA賞

第29回 AACA賞

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  • 芦原義信賞
    (新人賞)
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審査総評
 昨年の公開審査に引き続き、今回も二次審査を応募者のプレゼンテーションによる公開審査として行い、発表された方々を始め、選考に当たられた審査員各位、進行を支えてくれた事務局各位のおかげで、無事に終了することができました。まずは皆様に感謝いたします。
 今年また格段に応募作品の質が向上し、現地審査対象作品、並びに最終選考には大いに苦しみました。作品の内容も大規模な大学図書館や講堂や大小の商業施設から、オフィス、個性的な住宅、既存建物の大胆な改修など、実にバラエティに富んだものでした。またAACA賞ならではの美術工芸と建築の融合の視点からは、両者が独立してあるというよりは、その境界が曖昧になり、建築にアートが自然に溶け込んだもの、または建物の一部が、建築の要素でありながら高度にアート化されたものなど、多様なものが見受けられました。
 そんな中で今年圧倒的な説得力を持ってAACA賞を獲得したのが《福祉型障がい児入所施設 まごころ学園》。「施設」でありながら「家」を彷彿とさせるブレークダウンされたスケール感と、子どもの生活環境にふさわしい細やかな空間の変化を内包する機知に富んだデザインで最終審査において審査員全員の支持を得ました。
芦原義信賞には環境性能を重視する独創的なクライアントの要請に、綿密な思考とものづくりへの果敢な挑戦で応えた《淡路島の家》が選ばれました。 淡路瓦の技術を活かして、日射遮蔽や通風のための独特の外部シェルターを形づくる弓なりにカーブを描くユニークな「日除け瓦」を実現しています。
 これに続く優秀賞の3作品も、それぞれに特徴のあるもので、《早稲田大学37号館早稲田アリーナ》は同大学の旧記念会堂を建て替えたもので、大規模なアリーナを地下化して地上をランドスケープで覆うもの、《SYNEGIC Office》は本社屋をCLTによる大胆な木構造でつくるもの、《UTSUROI TSUCHIYA ANNEX》は古くからの情緒を保つ城崎温泉で、元の消防署をゲストハウスに改装する斬新な試みで、何れ劣らぬ力作ぞろいでした。
 奨励賞3作品は、《日本橋旧テーラー堀屋改修》が木造を補強する方杖状の部材を構造用の鋳鉄でつくって独特の雰囲気を出しており、《ACADEMIC-ARK@OTEMON GAKUIN UNIVERSITY》が新キャンパスでの学生の拠点となる図書館を大きな逆三角錐状の形でつくり、その外皮をステンレス・ダイキャストで製作した透ける金属スクリーンで覆ったもの、もう一つの《La・La・Grande GINZA》が小ぶりな店舗ながら、動線の集中するその外皮を緻密なサッシュワークで美しく構成しており、3作品のいずれもが建築の一部を美術工芸化したものと言えます。 最後に昨年度に創設した美術工芸賞には、《i liv(アイリブ)》が選ばれました。銀座の中央通りに面するその正面全体を、ウェーブするガラスルーバーで造形したもので、そのイルミネーションとあわせて、建築そのものが美術工芸としてのアート作品に結晶しているとして、審査員の多くから指示を得て選ばれました。
 毎年のことながら今回もこのように充実した作品を数多く選ぶことができ、大変うれしく思います。

選考委員長 古  谷 誠 章

福祉型障がい児入所施設まごころ園

作 者:山下秀之 木村博幸 江尻憲泰
所在地:新潟県見附市田井町4476
審査講評
 全国の知的障害者の数は100万人を超える。その1割強が施設に入所していて、その中の多くは家族に見捨てられたり、虐待を受けたりして、行く場所のない子供達(人達)だ。この学園はそのような障害児(障害者)を生涯にわたって受け入れる「終の棲家」である。新潟県にある9か所の公立施設の一つである。
 長岡駅から車で30分程、のどかな田園の中を走り抜けると小高い丘陵地の森の中に学園が見えてくる。敷地の南側には既存の施設があり、駐車場を挟んで北側に平屋の新しい施設がある。優しい色合いの檜の板に包まれた小さな部屋の単位が、雁行しながら施設全体を形ち作る。海沿いにある出雲埼町の「妻入り屋根の波状」と言える家形群が作る美しい街並みにインスパイアされたという。従来、障害者施設では難しいとされてきた木質を全面的に取り入れた画期的な取り組みである。
 平面の構成は、長崎の出島の一角にあった街並みにヒントを得た。管理施設部分を取り囲むようにL字型の居住室棟が、出島の海部分に当たる中庭を挟んで配置された。どちらに歩いて行っても元の場所に帰ってくる「円環」の構成になっていて、入所者にとっての「気配が見える空間」の効果をもたらしている。居室群の基本的な軸線は既存の建物に並行なのだが、全体の平面はその軸から18度、西側に傾けてある。その結果、内部には様々な空間が発生して楽しさや躍動感が生まれた。従来のこの種の施設ではできるだけ問題が起きないように四角い箱空間が管理者に好まれるのだが、ここでは学園長をはじめ運営する側と設計者が敢えて子供たちの心を動かす空間づくりに取り組んだ。「木質の空間は本来、触感、香り、調湿性、ぬくもり等、人がじかに触れることで情緒を育む大事な方法」という学園長の言葉に勇気づけられ、その工芸的な多くの工夫とも相まって、結果としては入所者だけではなく、スタッフや来訪者が居心地のよさを感じるものになった。限られた予算の中で地元の大工さんたちが扱いやすい、一般に流通している小径木を徹底的に使いながら厳しい構造条件をクリアした点も特筆に値する。
 学園やスタッフの皆さんとともに、常に真摯に障害者と向き合い寄り添いながら作り上げた、名前通りの「まごころ学園」はまさにAACA賞にふさわしい作品である。

選考委員 可児才介

淡路島の住宅

作 者:末光弘和 末光陽子 田中建藏/SUEP.
所在地:兵庫県淡路市
審査講評
 この住宅は、淡路島北端に位置し、左手に明石海峡大橋が架かり、瀬戸内海を挟んで神戸の街を望む眺望の良い斜面に建ち、海岸通りから見上げると、大きな開口が特徴のひときわ横に長いシンプルでモダンな佇まいである。
 急な斜路を上り視界が一度途切れた後、住宅の妻側入り口に差し掛かると、驚くことに、全く違う見たことのないユニークな姿があらわれた。不思議な大きな彫刻のように、独特の様相をした大きな土のオブジェのように存在する衝撃的といえる建ち姿である。角を丸く塗り込まれた土壁の二つのボリュームの間が切り通しになって瀬戸内海を見通せる。その上に瓦の鎧をまとったような、ひとまわり大きな編み籠状の切妻家形が載っているのである。地元の淡路瓦は多くは灰色だが、ここでは釉薬をかけて土壁と同じ表情を纏わせているから、大地から生えでたように見える。成形された瓦は、スチールフレームに簡単に取り付けられて、塗り込められた土壁の粗密感と呼応して人の手の優しさが感じられる。瓦は、この場所の太陽光の年間軌跡から導き出したという弓形状をしていて、冬は最大限の陽光を取り込み、夏の日射を80%も遮蔽するカーブなのだという。
 計算された曲率と歪んだ弓形状は、見る角度によって思いがけない透過と立体的な変化をもたらし、25ミリの厚みによって柔らかい表情の影を落とす。2階に上がると一挙に視野が解放されて視界の全てに瀬戸内海が開ける。居室部分は下見張壁と大きな木建具のガラスで構成され、土瓦の皮膜がテラスや通路幅を離して連続して繋がり豊かな半屋外空間が成立している。屋上には断熱の土を乗せトップライトやソーラーパネルを巧みに配し、地中熱の利用や斜面に設けられた小さなプールの循環水による徹底したゼロエネルギーをも追求している。更には雨水による家庭菜園や稲作という自然と密着した生活や随所にセンスの良いセルフビルドを楽しむ生活の様子が、住宅の内外に溢れ出て見え、人間の生きる力や生きる喜びという根源的な生活の姿が展開されている。豊かな建築空間とは、豊かな生活とはまさにこのことをいうのではないだろうか。この住宅にはそれが十二分に感じられるのである。
 この地を選び、根を下ろそうとする住み手の哲学が見事に具現化された。深い感動を覚える素晴らしい建築。芦原義信賞に相応しい淡路島の住宅である。

選考委員 藤江和子

早稲田大学37号館 早稲田アリーナ

作 者:水越英一郎、篠崎亮平(㈱山下設計)・宮崎俊亮(清水建設㈱)・吉村純一(プレイスメディア)
所在地:東京都新宿区戸山町1-24-1
審査講評
 少子化がすすむ時代、大学のサバイバルをかけたキャンパスのリニューアルが国内の各地で相次いでいるが、ともすれば安全安心を第一義的に考えるあまり安易な管理主義に陥り、地域に対して閉鎖的な空間をつくってしまいがちである。しかし、この作品はそのようなトレンドに対して、穏やかに、しかしそれでいて確固たる信念のもとに提示された明快なカウンタープロポーザルであるように思う。もとより、早稲田の街と早稲田大学のキャンパスは、これまでも渾然一体となった状況を呈してきた。その歴史的な経緯と伝統をしっかりと継承しつつ、コミュニティ根ざした新しい時代のアカデミック・アルカディアを象徴的に表現している。
 神田川の支流に沿って展開する敷地のコンテクストを、丁寧に読み取ることによって提案された「戸山の丘」、その斜面の緑地と緩やかなつづら折れの通路は、頂において生まれるアクティビティを予感させるようにやさしく人を導いてくれる。丘を上り下りする人の動きは、そのままこの場所に固有の風景となるであろう。丘の頂部には、おおらかな球体の面がつくる芝生がひろがり、表面の柔らなテクスチャーは学生や教職員のみならず、近在の市民をも惹きつける魅力的な場所となる。また、丁寧につくりこまれた舗装面をはじめとするディテールデザインが、利用者にとっての使いやすさ、馴染みやすさをさらに高めているように感じられる。さらには、広場の周囲には、屋根から集水した雨水を活用した小さな湿地も形成され、多様な植物種を含む植栽計画とともに、生物多様性の保全と再生にも貢献することであろう。
 この空間は、建築とランドスケープがプロジェクトの最初期の段階から綿密なコラボレーションを重ね、明快なコンセプトとその価値を共有し続けたからこそ可能となったものである。建築家にはいささか失礼な物言いになってしまうかもしれないが、床のレベルをほり下げることによって確保されたアリーナの空間は、この緑の丘のためにこそある、そう申し上げても過言ではないであろう。

選考委員 宮城俊作

SYNEGIC office

作 者:堀越ふみ江 長谷川欣則
所在地:宮城県富谷市成田1-9-5
審査講評
 圧倒的な印象を与える木架構の内部空間である。クライアントは木造用ビスメーカーであり、その新社屋として計画された。クライアント側からの要望が木質構造の魅力と可能性を広げ、木造建築の普及に貢献するように求められたという。
 敷地は仙台郊外のベットタウンの中で周辺は住宅と商業施設が連なっている。クライアントの要望から導かれた建築は、基本的に4点支持からなる4枚のHP曲面で構成された木造大屋根形状がいわゆるオフィスビルのイメージと全く異なった建築を創造し、周辺の街の景観と調和している。無柱の三角形板とCLT部材によるトラス構造の美しさは抜群で、端部では直接トラスに触れる事のできる高さに設定され落ち着いた密度の高いオフィス空間を実現している。
 エントランスから続く吹き抜空間に展開する階段や手摺等にも全て木のぬくもりを感じさせ、オリジナルデザインのテーブル、ベンチに至るまで肌理細かいデザインが施されている。1階部分は応接室、実験室の他サービス諸室が配されているが、いずれも材質を抑えてシンプルなデザインで一貫している。外観は妻側に大きくせり出した木架構象徴的で地域のシンボルとなっている。ただその下の設備スペースの存在が気になる。道路沿いの外観から内部の木架構の姿がもっと大胆に望まれるようになれば一般市民に対してこの建築、更にこの企業のインパクトが強烈になったのではないかと感じた。
 近年木構造の使用が多用になり様々な美しい木架構が実現しているが、この建築は更に木造の魅力を広げたものとしてAACA賞優秀賞にふさわしい作品である。

選考委員 岡本 賢

UTSUROI TSUCHIYA ANNEX

作 者:垣田博之
所在地:兵庫県豊岡市城崎町湯島字湯之元584-1
 この建築は平安時代から続く城崎温泉の温泉街の奥、大谿川を越えたところに散策する人々の流れを気持ちよく受け止めるように佇んでいる。しかし以前は、古い消防署がこの温泉街の突き当りに唐突に存在していたことで、景観的には少し違和感のある印象であったと思われる。この計画は、近年使われなくなった旧消防署を有効利用するために市が主催した公募プロポーザルで選ばれている。
 この建築はその場所性からこれからの城崎温泉の発展にとって、重要な場所に位置していることがわかる。設計者は温泉街全体におけるこの場所のあり方を熟慮し、既存の消防署の建築をリノベーションすることで、風景を唐突に変えることなく緩やかに景観を変化させる手法で爽やかな解決策を見出している。
 その一つは、この地域に特徴的な霧の空気感を建築のテーマとした「川霧」という名前で呼ぶステンレスメッシュのスクリーンで、余分な要素を一旦削ぎ落とした既存の建築を包み込んでいる。このスクリーンは工業用ベルトコンベアのステンレスメッシュを利用した素材で、ローコストでありながら、日本建築の簾の持つ豊かな半透明性を耐久性に優れた現代の技術で表現している。
 実際に現地審査に訪れた日は、この地域特有の小雨まじりの天気であったが、「川霧」メッシュによって「うつろい」と空間の「奥行き」を実感する事ができた。また旧消防署の機能から生まれている天井高や床高の変化を利用し、城崎出身の日本画家山田毅氏の地域を描いた風景画の壁面とカフェや前面のデッキに佇む人の心地よい関係が巧みに計画されている。1階奥の壁やメッシュ越に見える2階客室の壁面絵画が通りから後退した建物の前面デッキ空間とともにこの場所に温泉街の突き当りの風景を和らげる爽やかな「奥性」をもたらしていることが実感できる。設計者の力量は建具やメッシュの精緻な収まりのディテールなどから伺えるが、「街の風景、地元の風景絵画の壁面と一体化した建築と美術の融合がもたらす豊かさ」を実現するためにあるという理念を持つこの建築はAACA賞優秀賞に相応しい作品である。

選考委員 堀越英嗣

日本橋旧テーラー堀屋改修

作 者:三井嶺
所在地:東京都中央区日本橋本町3-6-5
審査講評
 本建物は、近年発展が著しい日本橋の、高層ビルに両側をはさまれている小さな事例である。
 築88年にもなるという木造2階建(実際は2階+ロフト)の、いわゆるこの時代の看板建築の耐震補強+改修であり、2階以上を住宅とする計画と共に、1階のテナントスペース(江戸切子の店)を如何に開放的な空間とするかを第一の建築的課題としている。現地を訪れると、その設定の正しさが実感された。
 一般に言えば、耐震補強に限らず、ブレースや壁体抵抗が容易な木造において、開口部を大きくとることは容易ではない。ここでは既存部分の本来の構造性能や材料の劣化を考えて、木材の再利用は行わず、新しいラーメン的な門型補強とする。これを「解」とし、追加する耐震要素により、すべての地震力を負担できるよう構造計画が進められた。まず、1階の層せん断力を6つの補強フレーム(12ピース)で負担できるよう、必要な耐力と剛性が決定された。この補強フレームには鉛直力を伝えず、水平力のみを期待することとし、既存の柱は従来通り鉛直力を支えている。つぎなる問題はこの補強フレームをどうデザインするかであり、実現に至る「物語」がこのプロジェクトの最大の魅力となっていよう。
 設計者は木の軽さと鉄の強度に注目した。木造を細い網目のようなフレームにしてみたらどうか、と。必要最低限の断面をもつ繊細な形状をシームレスにつくるには「鋳鉄」が最適だという判断が以降の計画・設計・生産・施工を導いている。その中でもダクタイル鋳鉄(形状黒鉛鋳鉄)は通常の鋳鉄よりも変形性能と強度が高い上、凝固収縮量が小さく融点が低いため流動性にすぐれている。今回のフレームが求める繊細かつ高精度を満足させる素材としてこれが選ばれた。
 補強フレームの全体形状を決めるに当たって、制約条件のひとつに人力で持ち上がる重量(60kgf以下)があげられている。直交する外周をつなぐ6本の斜め材が形成する内側尾アーチ形状はいわゆる双曲線であり、平面曲線でありながら奥行きを感じさせ、流動的な空間を演出している。直交2本(楕円断面)と斜め6本(円形断面)の好転は意匠的な表現だけではなく、発生応力に対応して巾・奥行両方向に滑らかな曲面状の「節」となり、有機的な美しさを漂わせている。一連の複雑な形態創成を迅速かつ適格にコントロールできたのは全て3Dモデリング、つまりパラメトリックモデリングツール(Grasshopper)の活用によるものという。最先端を行くIT技術の巧みな応用例である。
 再利用を考慮したというボルト接合のディテールやRCの柱脚のシンプルなデザインにも好感がもたれた。鋳物設計・製作・建方を通じて設計者・製造者・施工者の3者が初期段階から十分な意思疎通を計ったことが成功の鍵となっている。
 小さな改修事例ではあるが、建築家と構造家が情熱と創意をもって取り組み、新しい可能性を拓いた魅力的なプロジェクトとして高く評価したい。

選考委員 斎藤公男

ACADEMIC-ARK@OTEMON GAKUIN UNIVERSITY

作 者:須部恭浩永山憲二/(株)三菱地所設計
所在地:大阪府茨木市太田東芝町1-1
審査講評
 追手門学院大学の新しいキャンパスは、創立130年記念事業として茨木市の工場跡地の一部6.4haに約3,600人が学ぶ施設として生まれた。初見は「茅葺き」の印象。懐かしさと共にその巨大な姿「方舟」、大胆な断面構成が私を現地に引き寄せた。
 ネット時代における大学施設の「賑わい」が課題であった。人を誘う引力を敷地近くの古墳に思い、古来の「神域」の神秘性に作者が注目したのは特異である。18ヶ月という短い工事期間、潤沢でない予算枠は、積層複合による1棟案に絞り込んだ。近隣周辺への対応策、高さ制限、本体の構造環境性能シミュレーションを経て、ジオメトリックな逆さ三角錐が生まれる。遺跡埋蔵調査期間を抑え施設の接地面積を最小にする為、三箇所の鋭角コーナーを頂部から奥深く斜めに切り取ればエントランスにオーバーハングの半屋外空間を生むことになる。
 象徴的な燻銀色の3層のボリューム「書殿」を大胆にも「方舟」の中心に浮かす。「書殿」を取り巻く5層のスリット状の吹き抜けを介して外縁三辺に講義室、教員室などの主要な大学施設を、内縁回廊にはオープン書架及びテーブルを配置して個人、グループのスタディーエリアに。この三層回廊は吹き抜けを介して「見る/見られる」相互の「賑わい」を演出すると同時に「身体的建築の胎内巡り」の体験を与えてくれる。エントランスレベルの無柱空間は入学式の式場にもなった。普段は学生、地域の住民に開放された正三角形の「賑わい広場」、「表舞台」である。
 垂直動線は重層建築の動脈であり空間の質を極める重要な設計要素であるが、ここではなぜか裏舞台に。ランドスケープはミニマム、垣間見る顕な構造体、三層回廊手摺のリニアーな照明光源は目に障り評価は分かれるだろう。最後に環境負荷を低減する工芸作品「桜型ステンレスキャストのスキン」は機能的なファサードであると同時に刻々と光に感応する美的ファサードでもある。さらなる進化を期待しています。

選考委員 川上喜三郎

La・La・Grande GINZA

作 者:大成建設(株)一級建築士事務所 中藤泰昭 今村水紀 高岩 遊
所在地:東京都中央区銀座6-3-18
審査講評
 この建物は中央区立泰明小学校の全前にある「みゆき通り」に接続する4mほどの道幅の通りに面して建っている。この通りには小さなBarなどが入っている飲食店ビルや事務所などが混在しているビルが立ち並んでいる。銀座の装飾性のある賑わいの感じられる表通りとは異なり、様々な高さや小さなスケールの多様な表情を持つ通りであり、午前中の視察のためか賑わいは感じられない。
 このような通りの中で、「La・La・Grande GINZA」はひときわシャープな整然とした外観の商業テナントビルである。1階は通りに面して開放される開口を持つテナントスペースである。通りに面して上層部の奥行2m部分が、避難階段・エレベータホール・エントランス・避難バルコニーの連続した空間構成となっており、1階から最上階の6階まで均質な表情を創り出している。構造体でありながらもシャープでスリムな水平のスラブラインと、これまたシャープな垂直の吊材と全面ガラスにより構成された全体のファザードが開放的でとても軽やかであり、力を感じさせない。高さの制約の中で階高を可能な限り低くしているが、圧迫感を感じさせなくプロポーションも秀逸である。まさに工芸品の趣があり、この構造・空間を実現するために考えられた緻密で繊細なデティールや難易度の高い施工方法など微塵も感じさせないところが大変爽やかである。作者の高い技量と創造力に基づくものでなければ成しえない作品である。装飾性の高い建物が多い銀座地区の中で装飾性を排除し、建築のみの空間性やプロポーションなどで高い品質を生み出している。
 また、一般的な商業テナントビルの路面店と同様、この6層の連続した空間を持つ奥行感のあるファサードが外部の通りとの「見る・見られる」という関係を創り出し、この通りに今までにない立体的なアクティビティの感じられる新たな景観を創り出しており今後の通りの変化も期待される。AACA奨励賞にふさわしい優れた作品である。

選考委員 東條隆郎

i liv (アイリブ)

作 者:大谷弘明・上原徹・大藤淳哉・府中拓也((株)日建設計)
所在地:東京都中央区銀座5-7-6
審査講評
 銀座四丁目交差点、中央通りに面して建つ一際高いビルを訪ねた。
 銀座通りを散策する人込みをさけながら、はじめにビルの正面を見上げ、さらに横断歩道を渡り右からしばらく見上げた。正午近くの強い陽射しを受け、そのビルは線状の光の反射が天空へ伸びるような美しい線となって見え、強い印象を受けた。
 作品の基本コンセプトは「環境、街並みの価値を高める、安心安全(人にやさしい)」とある。
 外観を435段のガラスルーバーで覆い、1段ずつ異なる局面とすることで、水紋のような表情を醸し出します。圧倒的なガラスの質感や、見る位置、時間、季節によって見せる違った表情が、人々の目を楽しませる新しい景観となり、街並みの価値を高められる事を目指している。
 建物は、間口約9m、奥行き約34mでクランク状の不整形な敷地に建ち、地下1階、地上14階、延床面積約3600㎡。構造間口7.5m、高さ66m、約1:9の搭状建物を成立させるための工夫(TMD)や粘性ダンパー等々や避難上有効なバルコニーをあえて目立つ中央通り側に置くなど、お客様への安心安全(人々にやさしい)を実現しました。
 銀座は都市景観の中でも特に変化が著しい、建築も空間と時間の結びつきの中で、構想のコンセプトの真価が問われるものだ。現地審査は6名の選考委員と共に参加した。
 ガラスルーバーを間近に見ると板ガラス4層もので、最大30㎝巾のルーバーを微妙に調整し曲面を作り出している。さらに光の入光角度と反射なども計測し進め、建物の最も重要なところに最上の力を集約して完成させたものだ。
 私は次下の3つの点で優れていると思う。
 独創性、技術的クォリティ、未来的美しさ、最終的には総合的に高く評価され、AACA美術工芸賞にふさわしい作品として決まった。

選考委員 米林雄一