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AACA賞

第26回 AACA賞

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  • 芦原義信賞
    (新人賞)
審査総評
 本年より審査委員長をお引き受けして、初めての審査となりましたが、多くのベテランの審査員の方々に助けられて、無事に審査を終えることができました。ありがとうございます。
 AACA賞のユニークさについてはかねてより敬意を抱いておりましたが、本年の実に多様な幅広い応募作品を見るにつけ、通常の建築賞、芸術賞にはない、建築と美術と工芸の結びつきやその存在理由を問う、この賞の独特のアイデンティティを再認識しました。建築だけでもなく、アートだけでもなく、その双方の相乗性がまさに重要なテーマになっていると思います。
 そんな中で、今年のAACA賞に輝いたのが《G.Itoya(銀座・伊東屋)》で、なじみ深い銀座中央通りに建ち、他が商業的な装いで妍を競う中で、凜とした建築それ自体が洗練された「彫刻」とも言えるような佇まいは、建築とアートが単純に足し合わされたものには生み出すことのできない、統合された力強さと美しさを感じます。まさにこの賞にふさわしいものでした。
 芦原義信賞および優秀3作品も、いずれ劣らぬ個性派ですが、なかでも芦原義信賞を獲得した《富久千代酒造 酒蔵改修ギャラリー》は、築90年以上の酒造会社の旧精米所を現代的に再生するもので、大変意欲的な挑戦作であると同時に、無垢の黒皮鉄板を用いた質感が古い建物に蓄積する年月と響き合って、見事な新旧の和音を奏でています。新人とは思われぬ力量で文句なく優秀賞の水準に達しており、見事な作品でした。
 優秀賞の《織物の茶室〜下鴨神社・糺の森》は繰り出された絹の糸を張った庵が、移ろう陽の光の中で忽然と現れ、忽然と姿を消す儚さとあいまって、現代的な日本の美を体現しています。分けても実際にその中に人が入り一幅の茶をたしなむ光景は、建築とアート、さらに人の織りなす鮮やかな造形となっており、木漏れ日や吹き渡る風や鳥の音などを纏ってさらに一段と映えています。
 同じく優秀賞《ヤマノイエ》も含めてこれまでの3作はいずれも若い世代の作家によるものですが、とくにこの作品には新人離れした成熟した密度がありました。敷地環境に恵まれているとはいえ、これだけの変化に富んだ空間を斜面に破綻なく配置し、その各所に居心地の良さをもたらした手腕は稀有のものです。
 優秀賞残り1作は《MIZKAN MUSEUM》、下見板張りと三州瓦の屋根並みの中に、しっくりと溶け込んだ外観には、見る者を納得させる存在感と街並みに調和する優しさが感じられます。そこには単に既存に埋没させるのではなく、周囲と拮抗して新しい調和を生む力強いフィロソフィーが感じられます。
 特別賞2点《北菓楼札幌本館》と《東京ガーデンテラス紀尾井町パブリックアート計画》は、それぞれに異なる特異なアプローチがなされていますが、奇しくも既存建築をリスペクトして保存する計画を含んでいる点が共通しています。対照的なのは片や内部に新たな造形を挿入、片や外部に変化に富んだランドスケープをデザインしたところですが、いずれも新旧の要素が相乗的に働いてまったく新しい人々のアクティビティを生んでいます。
 結びに、これだけのバラエティに富んだ入賞作品を顕彰できたことを大変うれしく思います。来年も大いに期待しています。 

選考委員長 古  谷 誠 章

G.Itoya (銀座・伊東屋)
作 者:中藤泰昭・面髙宏樹(大成建設㈱一級建築士事務所)
所在地:東京都中央区銀座2-7-15
審査講評
 近年東京銀座の中央通りに様々なプロジェクトが展開され、銀座通りのイメージが変貌しつつある。その多くは銀座通りに面したファサードに様々なデザインを展開し、表層のイメージを競い合っている。その中で今回生まれ変わる事になった伊東屋の計画は、間口約9m、奥行約38mという特異な敷地形状をいかに解決するかが課題となった。そのコンセプトとしてGALLERIA(みち)をイメージし、中央通りと、背面のあづま通りを結びつける街路として、銀座通りの人の流れを店舗の中を通ってあづま通り側に導き、あづま通り側の活性化に役立たせている。

 店舗の内法は7.6mで、その中に3台のエレベーター、7基のエスカレーター、2か所の階段を極限までコンパクトに配置し、両側の壁面に構造体と耐力壁、設備系の空調器、配管、配線を全て内包させ、さらに心柱による耐震対応を計る等、綿密な設計手法を駆使して内部空間を確保し、南北に通り抜けるガレリアのイメージを1階だけでなく、各階でも明るく爽やかな空間と共に感じさせる。その中に店舗、ホール、ビジネスラウンジ、レストランや、さらに野菜工場までもレイアウトされている。ショーケースを兼ね備えた可動壁によるエントランス扉や、その上部のダブルスクリーンによる吹抜空間は自然排気と日射対策の機能を持たせつつ、外観を構成する大きな要素となっている。建築の構成そのものを表現する外観は各階をまたぐ大きな ブレースまでもがアーティスティックな表現につながっている。狭い敷地条件を克服した設計密度の高さと、それを実現した施工精度によって完成した建築は、銀座の新しい景観として人々に感銘をあたえへ、AACA賞にふさわしい作品である。 

選考委員 岡本 賢

MIZKAN MUSEUM
作 者:小川大志・髙橋 勉
    (株)NTTファシリティーズ
所在地:愛知県半田市中村町2-6
審査講評
 MIZKAN MUSEUMは半田で創業し、この地を拠点に200年以上酢づくり事業を続けているミツカングループの企業ミュージアムである。周囲は水運を利用して酢を運ぶ船が行き来していた運河沿いに黒い下見板張りの旧工場の建物が立ち並び、半田市の特徴的・代表的な景観となっている。この歴史的な景観を継承するという課題を、三州瓦の屋根、外装の3種類の縦型アルミスパンドレルやガラス窓、鉄骨とRCのハイブリット構造の採用など現代の素材、工法を用いながらも従前の趣のある街並み景観を丁寧に的確に再構築している。特に建物の表情は従前の黒塗りの下見板張りの趣を感じさせ、周囲の景観に良く調和している。また、自然換気システムであるトロンベウォールシステム、酢の生産で使用していた井戸水や太陽熱温水を利用した空調システム、工場の煙突を再現した自然換気装置など特徴的な環境への取り組みが行われ、この場所を訪れる人たちが実際にそれを体験することができ環境意識を醸成する場ともなっている点や、展示室内部に旧醸造所の小屋組みを再構築することでこの場の時間と空間を体験できる点も高く評価できる。平面計画は水景のある中庭を囲む形で連続して展示室が配置され、所々で運河や中庭の景観を見ることができ光を感じることが出来る構成になっており閉塞感もなく心地よく回遊できる展示空間である。展示ルート最後の中庭に面して広がりのある「光の庭」は開放的で明るい展示空間であり、中庭の空間と連続し一体感ある空間を創り上げている。 このミュージアムは半田市の景観形成重点地区のエリア内にあり、現在その中核施設として企業文化を伝える場のみならず半田市の歴史・文化を伝える場・半田市民の交流の場として活発に活用されており、さらに機能することを期待したい。

選考委員 東條隆郎

ヤマノイエ
作 者:建築:津野建築設計室 津野恵美子
    外構:田賀意匠事務所 田賀陽介
    照明:コモレビデザイン 内藤真理子
    テキスタイル:安東陽子デザイン 安東陽子
所在地:非公開
審査講評
 設計密度の高さがつくりだす濃密な質感と豊かな自然と連続する大胆な開口部、それを実現する繊細な構造等がもたらす不思議な空気感の建築である。堅固で硬いRCの斫り仕上げの外壁と擁壁の構築的構成と、変化する斜面地に調和し折れ曲がりながら展開するおおらかなバラックのような、しかし周到に計画された薄板構造の柱梁による木造建築が絡み合うという不思議な魅力を持つ建築である。
 しかし設計者の力量の高さはその外観以上に内部空間で発揮されている。美しい自然の外部空間を楽しむための人の居場所を、きめ細かいディテールを持つ完成度の極めて高い家具によって随所につくり出している。ソファーに座った時、窓辺のベンチに腰掛けた時等、手に触れる家具の素材の肌理とディテールが心地よい。設計者と家具職人との対話が感じられるようだ。建築も家具も建具や布も共に人々に奉仕する美術、工芸であるという原点の豊かさを思い起こさせてくれる。利便性を追求した工業製品に囲まれた即物的「建物」には無い、懐かしい豊かさに包まれている。特に寝室周りの空間はそのスケール感、プロポーションが心地よい。
 リビングスペースは欅の大木を囲むように高い天井と開口部を持つ段状の空間が折れ曲がり、変化に富む景色と居場所をつくり出している。それは研修のような時に幾人かがそれぞれの居場所に佇んでいる時にその真価が発揮されるであろう。
 工芸的家具職人、デザイナーなどの真摯な協力者との共同による設計密度の極めて高い優れた建築であり、優秀賞に相応しい作品である。 

選考委員長 堀越英嗣

織物の茶室 ~下鴨神社・糺の森~
作 者:橋口新一郎 
所在地:京都府京都市左京区下鴨泉川町59
審査講評
 ユネスコの世界遺産に登録されている京都・糺(ただす)の森にある直線的な馬場は、毎年、葵祭の祓い清めの神事として流鏑馬(やぶさめ)が執り行われる。
 両側に落葉樹の大木が連なるこの空間にインスピレーションを得たと作者は言う。しかし、この作品の真骨頂はそうした固定的な属地性よりも、作品自体がおかれた場所の環境との間で発生する視覚的なアンサンブルにあるように思われた。そのビジュアルな重奏の媒体は、いうまでもなく幾重にもていねいに織り込まれた白く繊細な糸がつくるおぼろげなスクリーンとそこに映る自然の光そのものである。 内部の寸法は、大人二人が座るといささか窮屈なのだが、外部との間に存在するこの半透明の被膜を通して見える外部の情景が、内側のスケール感覚を外へと解き放ってくれるから、不思議な居心地のよさを醸し出すようだ。
 いる。内側に居て、うつろう光に柔らからく包み込まれているような感覚は、その時々の太陽光の状態によっても変化するはずだ。だから、季節によっても、時刻によっても、天候によっても、上空を覆う木々の緑の状態によっても、ことなる感覚を楽しむことができるだろう。そのことに気がつくと、誰もがこの茶室を「あの場所」に置いてみたらどうだろうか・・・・などと想いを致す様々な場所が脳裏にうかぶ。それほどに、見る人、使う人の想像力をかきたててくれる作品である。

選考委員 宮城俊作

実相寺 毘沙門堂
作 者:山田誠一 (山田誠一建築設計事務所)
所在地:静岡県静岡市清水区清水町12-19
審査講評
 独居老人の孤独な死が報道されるたびに、かつてあった地域社会の密度が極端に希薄になっていることを感じる。そんな時代の流れに危惧の念を抱いたこの寺の住職は地域のコミュニティの新たな芽吹きとなることにも期待を寄せながら、通夜を執り行い故人と向き合うことのできる小堂を造ることに行着いた。敷地は清水港に近い静かな住宅街にある。作者はこの地域で仕事を始めて以来ずっと地域の中で設計の仕事をしており、住職と地域の将来についての意識を共有している。
 駐車場を通って近づくと門を兼ねた一対の厚いコンクリート壁とその外に広がるリン酸処理されたT形鋼の連続する軽快な塀。それと微妙に重なる位置にこの小堂がある。これらが境内の奥にある本堂への心地よい距離感を感じさせる。方形の屋根に近づくと格子の壁の中に手を広げるような形で白い厚い壁が迎えてくれる。四角形のボリュームの中に内包された八角形の骨格が創る、静謐な空間がこの毘沙門堂の主役である。極めて小さな空間なのに、故人を囲む椅子に腰を下ろすと身の引き締まる厳粛で不思議な感覚を持つ。この小ささがいい。基本的に構造は八角形である。それを包む屋根と格子の壁とは四角だ。四角と八角の間の部分がサーバントスペースである。トイレやシャワー室、休息室、倉庫などコンパクトに嵌っている。この四角いボリュームが八角形の小堂に奥深さを与え、仏教の宇宙観を体現する、厳かな「生と死の祈りの場」となった。極めてさわやかで作者の将来性を感じさせる好作品である。

選考委員 可児才介

トイレの家
作 者:石井大五+フューチャースケープ建築設計事務所
所在地:香川県観音寺市伊吹町309
審査講評
 この建物は、瀬戸内海・伊吹島の海を見渡す高台に建つ。 伊吹島は香川県観音寺港から1日4往復出る船で約25分、かつては良質なイリコ(煮干しいわし)が穫れる島として賑わった。平安末期の京都のアクセントを残す土地なまりや、江戸時代以前からの四季折々の民族・宗教行事が残されていることから、源平の戦に敗れた平家の落ち武者が住み着いたのではないかと言われている。
 廃校になった小学校の校庭に建てられたこの建物を特徴づけているのは、10m×7mの長方形の平面の中に作られた島状の6つのトイレブースと倉庫をつなぐ、不定形に切り出された露地と休憩スペースである。露地の壁はポリカーボネート波板、外壁と屋根は特殊なFRP防水仕上げになっている。その不定形な建物の屋根に、更に作者は、伊吹島の伝統行事が行われる太陽方位を示す「時間軸」と、伊吹島から6大陸の主要都市への方向を示す「空間軸」を重ねた光のスリットを設け、季節、時間により、光の角度や強さが変化し、移ろう露地の風景をつくった。
 書類審査の段階で、筆者は、島の集落景観や風景をデザインの源泉とした発想をもとにした光のスリット手法に生硬さを感じていたが、現地を訪れ、市役所の方からの説明を聞き、実際の建物を見て、「トイレ」であるにも関わらず、「トイレの家」の名称をこの島から与えられていることに、納得がいった。世界とのつながりや、自分が世界の中心であることを意識する島、誇り高い海の民の「トイレの家」である。

選考委員 近田玲子

TSURUMIこどもホスピス
作 者:片瀬順一・出口 亮 (大成建設㈱一級建築士事務所)
所在地:大阪府大阪市鶴見区浜1-1-77
審査講評
 広大な緑地と市民のスポーツや憩いの場であふれる大阪・鶴見緑地公園の一角。かつて花博会場入口となった鶴見緑地駅から歩いていくと晴天の下、サッカー試合の子供たちの元気な声とドッグランの犬の鳴き声に包まれて、そこに家々が集まることで生まれるひとつのまちのような風景が現れた。公園に開かれた敷地の道に導かれるように、家々をつなぐ道の空間にたどり着く。子どものスケールに合わせるように、木の梁が低くのびやかに弧を描きながら連続するこの空間は、構造体そのものが空間となっている美しさと共に、親密さやぬくもりが感じられた。
 そもそもこの建築は日本初の「コミュニティ型こどもホスピス」という、難病の子どもと家族に当たり前の日常を提供する民間による慈善活動の場で、寄付金によって建設・運営され無料で利用できるという新しい取組みである。「家であるだけでなく、村のような場所」という全体コンセプトの元、6つの家と道の空間という地域に開くことのできる建物構成や木架構の構造計画、家型を象徴的に見せる屋根や外壁のディテール、遊び心あふれるインテリアや多様な素材選定、柔らかいサインや子どもたちのピクトグラム、更にはデザイナーとの協働による家具やカーテン、照明デザインに至るまで、丁寧に全体として統合されている。穏やかで居心地の良い空間でありながら、特別な空間であることが感じられるのは、設計者の子どもと家族に対する思いやりや愛情から来ているのかもしれない。
 この建築が第2・第3のコミュニティ型こどもホスピスの道標になり、日本全国に拡がっていくことを願うばかりである。

選考委員 斎藤公男

北菓楼札幌本館
作 者:(株)竹中工務店(建築設計)
    安藤忠雄建築研究所(基本デザイン)
所在地:北海道札幌市中央区北1条西5丁目
審査講評
 この建築は大正15年に札幌初の本格的図書館として、またレストラン併設という高い志を持った建築として開館した。セセッション様式の建築はこれまで老朽化のため金属屋根が覆いかぶさっていてその存在すら気づかずに通り過ぎてしまう様な状態が長く続いていた。
 今回の丁寧な復元により優れた意匠性が蘇り、近接する道庁と共に街並みを豊に彩る貴重なランドマークとなっている。近代日本が吸収しようとしたヨーロッパの近代建築の一つであるセセッション建築の持つ合理性と芸術性の調和を目指した先人の優れた感性をそのまま復元した真摯な努力と技術を評価したい。その上で、当初の志である「コミュニティに寄与する公共建築」の役割を菓子会社のショップとカフェとして再生したプログラムは民活としての意義を感じる。
 保存復元した表通りの石の外装に対して、はっきりと対比する新しい内装としてのクロスヴォールト天井と細い鉄骨柱の意匠は軽快に浮遊する気持ちのよいスペースをつくり出している。その対比的な意匠については意見が分かれるかも知れないが、敢えて現代の使われる空間として人々に親しまれることこそが、内部も含め、生きたランドマークであるという視点は評価できる。白く軽やかな細い柱とクロスヴォールト天井のコンポジションは近代黎明期のパリのアンリ・ラブルーストの2つの美しい図書館を思い起こされる。
 建築が人々に奉仕する藝術であることの素晴らしさを再認識させる優れた復元+新築という建築的回答であり特別賞として相応しい建築である。      

選考委員 堀越英嗣

東京ガーデンテラス紀尾井町 パブリックアート計画
作 者:事業主・アート企画:㈱西武プロパティーズ
    設計・監理:(株)日建設計
    外装デザイン:Kohn Pedersen Fox Associates P.C
    ランドスケープデザイン:PLACEMEDEA Co.Ltd
    アートディレクション:(株)織絵
    アートコンサルティング:森美術館
所在地:千代田区紀尾井町1-2
審査講評
 株式会社西武プロパティーズがグランドプリンスホテル赤坂跡地開発計画を推進し、街のランドスケーププランに基づいて、パブリックアートが設置された。
この地は江戸期には、紀州徳川家、尾張徳川家、彦根井伊家の屋敷があり、各家名から「紀」「尾」「井」の一字をあて町名にされた。 近くには皇居や迎賓館もあり、都心にあっても奥深い緑がのこっている。 まことに由諸正しき歴史を感じられるところだ。
 パブリックアートのコンセプトは、歴史ある「時」行き交う「人」「緑」ある空間とある。 
 「水の広場」は3つのビルに囲まれた中心の広場に白く輝いた大鹿が立っている。 素材はアルミで鋳造し、メタリックホワイトで塗装したものだ。 古来より鹿は「神使」・「神獣」と称され親しまれてきた。 神秘的な雰囲気があり良例といえよう。
咲き誇る花からのイメージを構成的にまとめた「花の広場」(桜、桔梗、朝顔)と蝶々の形を立体化した大型のオブジェだ。 素材はステンレススチールで構成し、カラフルな色調で塗装し目を引く存在となっている。 年に一度の祭礼時にはお御輿も登場し、地元と一体になって賑やかな広場となろう。
 「空の広場」大小のリングがリズミカルに連なり、軽やかなかたちをめざしたと、作者の意図にあるが、オブジェは対照的に粗粗しい。 鋼鉄を溶断してリングを切りだし立体化したものだ。 作者の一貫した創形性がひきだされている。 願わくはもっとスケールが欲しかった。
 「紀尾井タワー」オフィスエントランスの吹抜けの天井から、「空の記憶」が吊り下げられ、空気の流れに反応しゆるやかに揺れていた。 チタン合金の溶接で線状がリズミカルな構造的美しさを引き出している。 敷地内には9ヶ所にオブジェがあり、それぞれの作者の意欲は感じ取れた。
 さて、パブリックな場に作品を設置する場合、その先に解決しなければならい事もある。 作品設置が終了でなく、オーナーやコレクター側と制作者が話し合い、その後のメンテナンス計画など検討され、末長く人々に愛される広場となるよう希望したい。 そして今回の特別賞がその良き好例となるよう願っている。 

選考委員 米林雄一

富久千代酒造 酒蔵改修ギャラリー
作 者:平瀬有人(佐賀大学大学院工学系研究科准教授・yHa architects)
    平瀬祐子(yHa architects)
所在地:佐賀県鹿島市浜町1244-1
審査講評
 佐賀県の富久千代酒造は大正期創業で、敷地には母屋、精米所、貯蔵蔵、麹室、米倉庫、設備棟等が隣接してあり登録有形文化財に指定されている。近年銘柄「鍋島」が世界一の評価を得て多くの来訪者を迎えるようになった。この酒造ギャラリーは1921年建築の旧精米所であり、隣の設備棟に構造的にもたれかかり大きく傾いた状態だった。 設計者は、有形文化財ゆえの制約が多い中、屋根の軽量化と曵き起こしにより傾きを修正した上で、外壁を焼き杉板で張り直し新たな耐震補強設計をした。 それは来訪者の為の新しい避難シェルターともいえる強固な箱を入れ子状に挿入し、梁に接合補強するという大胆な手法である。年暦を重ねた木造の柱や梁、土壁をも可能な限り残し立ち上がった空間に、新たに挿入された箱は12mmの黒皮鉄板に様々な大きさの開口が4mmのリブで補強され、出入り口や展示の棚となるオフセットした空間である。大小の開口は、蓄積され実在する過ぎたエイジングの様を観る窓であり、これからのエイジングを重ねて観る建築的仕掛けである。丹念につくられたお酒の試飲という一時の行為と、建築がもつ時間と空間の積層を肌で味わい感じる行為が、随所に工夫された建築的介入によって誘導され、新たな感覚を覚醒させるような明快で巧みなギャラリー空間となっている。
 2012年の母屋の改修を皮切りに、断続的に8回に及ぶ改修が進められて現在も続いている。こうした魅力的なリノベーションが、備前浜の町並み保存再生の一環として大きな役割を果たしている事を加えて高く評価したい。

選考委員 藤江和子