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協会賞

第25回 AACA賞

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    総評
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  • 特別
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  • 芦原義信賞
    (新人賞)
審査総評

 AACA賞は景観・町並み・ランドスケープから建築空間やインテリアまでスケールを問わず建築・美術・工芸の力で人々に感動を与える美意識に支えられた環境や 空間を創り出した作品に与えられるものです。
 本年は56点の応募作品が寄せられ、多くの力作を見られたことを選考委員としては大変嬉しく思いました。一次審査では書類 とパネルにより選考して現地審査対象作品を15点に絞りました。現地審査では選考委員が手分けして2人以上で現地に赴き、設計者や管理者から説明を受けて行いました。最終審査は各担当選考委員による現地審査報告を踏まえた上で、全体協議により各受賞作品を決定しました。AACA賞は新人を含む全ての応募作品の中から最優秀1点とし、さらに準ずる優秀賞3点と奨励賞2点を選定しました。
 AACA賞の「竹中大工道具館新館」は展示されている大工道具と匠の技が生かされた建築空間が相俟って、建築づくり、ものづくりの本質を語りかけてくれています。日本の伝統的美意識を継承した極めて完成度の高い作品であり、正にAACA賞に相応しいものと言う事が出来ます。
 優秀賞の「ROKI Global Innovation Center ROGIC」はダイナミックな空間を創り出した建築的観点、「清津倉庫美術館」はアートによるまちづ くりの観点、「三井ガーデンホテル京都新町別邸」は町並みから造園・建築・インテリア・ 家具・アートにいたるまでのコラボレーションの観点からそれぞれ優れたものでした。
 特別賞の「大手町タワー」は経済原理で生成される現代都市に都市計画的観点から一石を投じるものであり、又「ザ・リッツ・カールトン京都」は商業主義に流されることなく質の高いアートがインテリア空間へ徹底して導入されています。これらの作品 はそれぞれ社会的に大きな影響力を持つものであることを考えて特別賞に相応しいものとしました。
 また新人賞である芦原義信賞は新人応募の中の最優秀賞として1点を選びまし た。
 芦原義信賞の「Seto」は新しい感性で、斬新な空間をさりげなく創り出し 、瀬戸内海に繋がる景観に新たな魅力を付加することに成功しています。作者の将来に更なる展開を期待して芦原義信賞を送ります。
 今後はAACA賞のプレステージを、より高めて広く社会に発信して行くことと同時に、建築・美術・工芸に関わる大勢の方々に裾野を広げてこの賞を浸透させていくことの両面を戦略的に進める事が大切だと考えます。
 この賞の趣旨に賛同頂き、来年はさらに数多い応募作品が寄せられる事を期待 しています。 

選考委員長 芦 原 太 郎

竹中大工道具館
作 者:小幡剛也・須賀定邦・中西正佳(株式会社竹中工務店 大阪本店設計部)
所在地:兵庫県神戸市中央区熊内町7-5-1
審査講評

 新神戸駅を出ると左手にこんもりとした森が見える。新幹線以南の地域に唯 一残された緑の塊である。かつて竹中工務店の本店があった地で六甲山の麓に 位置する。ここに竹中大工道具館が昨年オープンした。もともと大工道具館は 大工道具を収集保存する目的の博物館で1984年に神戸市中央区に開館した。そ れから30年が経過し、建物の老朽化が進むと共に収蔵庫も手狭になり、ゆかり のこの地に新館を建設し移転したものである。
 竹中工務店は17世紀の創業で、大隅流と呼ばれる梁飾り等の彫り物工芸を 得意とする宮大工が出自だという。まさに日本の木造建築の歴史と共に発展し てきた職人集団である。技が精緻になるほど道具は複雑多岐に発展を遂げる。 棟梁を中心にしたこの集団は建築の種類や部位に応じて様々な道具を使い分け て駆使し、見事な普請を行ってきた。
 そのような道具を中心に、道具文化の基本を示す鍛冶の名工たち、匠が向き 合う木材、豊かな個性を持つ木の癖を読み適材を見付け出し建築に生かしてゆ く匠の知恵と技。精緻極まる組子細工、雲母が輝く唐紙襖、自然の素材の土壁 等々、実物大の模型を含めて、すべてが見る人の心をひきつけ、匠たちの技を 通してモノづくりの精神を十分に伝えてくれる。
 これらの展示を収める建築は、外から見ると既存棟と同様平屋である。屋根 は瓦葺で僅かにむくりを持つ。中に入って驚かされるのは本来の展示空間が地 下に広がっていることだ。しかし下りていっても地下を感じさせない。空間が 見事に連続して自然の光がそこここに入り込んできているからだ。建築の素材 やディテールにも現代の匠魂をしっかりと感じさせてくれる。
 大工道具館自体は30年以上前に構築されたものだが、今回その意味をさら に深遠なものに作り上げ新しい建築と一体化させたこの作品は、まさにAACA賞 に相応しい。

選考委員 可児才介

清津倉庫美術館
作 者:建築:山本想太郎(山本想太郎建築アトリエ)
    展示:原口典之・遠藤利克・青木野枝・戸谷成雄
所在地:新潟県十日町市角間未1528番地2
審査講評

 飯山線越後田沢と上越線越後湯沢を結ぶ353号線のほぼ中間地点に位置する計 画地は日本三大渓谷の一つに数えられる景勝地・清津峡に程近い山間の小さな 集落である。かっては元気な子供たちの声がこだました清津峡小学校も6年前に 廃校となり、人口減少と高齢化が進んでいる地域である。近年、越後妻有地域 を「大地芸術祭の里」としてアートを媒介にして地域再生を目指した「大地の 芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」を3年ごとに開催し、注目されている 地域でもある。清津倉庫美術館は越後妻有里山現代美術館(キナーレ)」の分 館としてこの小学校の体育館をリノベーションした美術館である。既存の体育 館は下部コンクリート、上部鉄骨造のごく普通の学校体育館であったが、設計 者はその構造空間を極自然に巨大アートの展示空間に創り上げている。展示ス ペースを取り巻く壁の打ち放しコンクリートと空中に浮かせたグリッド状の構 造物および既存の上部鉄骨構造空間を融合させ、展示アートを引き立たせる装 置空間として体育館を現代アートの展示空間に生まれ変わらせている。最近の 美術館建築は展示アートよりも建築の主張が強すぎる傾向にあるがこのリノベ ーションは美術館の原点とも言える展示アートを生かす空間を見事に創り上げ ている。これからのことであるが隣接する校舎、プールなど旧小学校の残され た施設がこの美術館とどのような関連施設として生かされていくのか楽しみで ある。

選考委員 岩井光男

ROKI Global Innovation Center -ROGIC-
作 者:株式会社小堀哲夫建築設計事務所 代表取締役社長 小堀哲夫
所在地:静岡県浜松市天竜区二俣町二俣2396
審査講評

 浜松から車で北へ約40分。天竜川の大橋を渡る手前から、小高い丘の上に建つ 本社ビルとは対照的な、緑の森に囲まれたROGICの大屋根が望まれた。低く伸び たエントランスを抜け、人気のない広いロビー空間に入る。正面の大きなフィ ルター障子が左右に開かれた時、眼下に展開したかつて見たことのない光景。
 その感動は忘れ難い。一言でいえば、人間と自然を融合・統合した建築空間の圧倒的な迫力であろうか。戸や障子により外部の自然とゆるやかに折り合いを付けながら、美しく豊かな生活環境をつくろうとする感性によりそうのが伝統的な日本建築の特徴といわれる。半外部空間の大胆な提案はその文化性を新しい技術と形によって再構築しようとするものである。すなわち積層しながら俯瞰される立体ワンルームを覆う木格子天井とROKIフィルターによるフィルトレーションルーフはリアルに自然の変化を感じさせ、南側全面引戸による開放性は外部環境との一体化を生んでいる。「ひとつ屋根の下で、各自が感性に響くスペース(居場所)を見出し、自発的な運用提案要望が次々と出てきた」ことに設計者自身も驚いたという。諧調差と変化によって新しい人間の労働環境の創出に成出したというべ きであろう。
 際立った建築デザインは3つと考える。第一は木と鉄のハイブリッドトラス。下弦材の座屈防止の木材による曲面格子は工芸品ともいえる精緻さである。第二は地形を活かした環境計画。天竜川と森林を抜ける風の流れを調査・利用した省エネ建築が実現されている。第三は設備と構造の融合したひな壇上のスラブ。設計者が意図したという曖昧性、不均質、流動的な空間が強く感じられ働く 人々の活気あるのびやかな風景が印象的であった。

選考委員長 斎藤公男

三井ガーデンホテル 京都新町 別邸
作 者:基本構想者:アーキテクツオフィス 石川雅英
     監修者:S&T FIVE STAGE 津田榮一
     設計者:竹中工務店 大阪本店設計部 木戸貴博・小林浩明
         三井デザインテック 森 正史・山口昭彦・神田 恵
         永山祐子建築設計 永山祐子
     景観設計:荻野寿也景観設計 荻野寿也 
     アーティスト:小清水漸
     アートプロデュース:TAKプロパティ 村井久美
所在地:京都府京都市中央区新町通下ル六角町361番
審査講評

 京都・新町通りの商家「旧松坂屋京都仕入れ店」があった場所に建てられた5階建てのホテルである。まず驚いたのは、深い軒と相まって京都らしい陰翳と奥行きのある佇まいを作っているファサードである。通りに面した一、二階 は明治期の写真をもとに「糸屋格子」が復元され、二階客室は祇園祭りには山鉾の組み上げや巡行を最も近くで眺められるよう、虫籠窓が開く設えになって いる。
 景観上で大きく評価したいのは、屋根瓦の奥に建つ3階から5階のコンクリート化粧打ち放し壁面の寡黙で端正な表現である。瓦などとの関係を確認しながら墨色の色目を決め、コンクリート打ち放しの素っ気なさをぬぐい去った。サインがなければどこにホテルがあるかわからないほど、周辺に残る京町家の景観に溶け込んでいる。加えて3階から上がセットバックしているため、通り空間が広く感じられる。
 内部には最新のホテルとしてのモダンさ機能性を 備えながら、随所に伝統的なディテールを味わえる空間が設えられている。エントランスホールには、かつての大黒柱を入れて移築した旧商家の「火袋」の 梁や柱が交差する吹抜けと坪庭が設けられ、訪れる客が京町家の記憶を体感出来る。エレベータホールには、古材に彩色画を施したアートを際だたせる漆喰壁が念入りに設計された。街の歴史・記憶を次世代に伝えるに留まらず、歴史 的景観の中に新たに加えられる建築物の方向性を示す好例となった。

選考委員 近田玲子

FARMUS 木島平
作 者:三浦丈典/一級建築士事務所スターパイロッツ
所在地:長野県下高井郡木島平平村大字上木島38-1
審査講評

 秋も深まる10月末、飯山線飯山駅の東側を流れる千曲川に接するように位置する木島平村は雄大な山並みに囲まれ、豊かな田園風景とともに紅葉に彩られた自然の美しさのなかにあった。
 「FARMUS 木島平」は村の農業の6次産業化の拠点施設として計画された。食品加工工場、マーケット、キッチンスタジオ、レストラン、カフェ、インキュベーターオフィスなど農産物とその加工、料理、販売などのプロセスをビジュアルに情報発信する場と村人の日常生活における交流の場および観光施設「道の駅」など多様な役割を担う場を旧トマト加 工工場の建物を保存活用することで実現した。近年の人口減少と高齢化は日本の農業の大きな問題であるがそのような状況を打破しようとする活動拠点である。
 建物は旧工場の中心部であった大きな空間の周りに上記の施設を機能的に配置している。それらは半透明の白いビニールハウスのような小屋であるが、内部の採光、通風、構造的な補強にも寄与している。外装は農業用資材のあぜボードの下見張り、内部壁、床材は麦わらボードを使いローコスト建築を逆手に取って、全体としてユニークさを感じる建築となっている。また旧工場の歴史的メルクマールとして旧工場の設備の一部をモニュメントとして残したことに、古いものに新しい価値を見出す設計者の考え方が良く表れていた。 

選考委員 岩井光男

アシックス・スポーツ工学研究所
作 者:建築設計:株式会社竹中工務店 酒井利行・日野宏二・松浦真樹
    アートプロデュース:TAKプロパティ 村井久美
    中庭アート監修:行武治美
    屋上アート監修・移設監修:金沢健一・福島敬恭
所在地:兵庫県神戸市西区高塚台6-2-1
審査講評

 アシックスは日本を代表するスポーツ用品メーカーだ。そのスポーツ工学研究所が神戸市西区高塚台の丘陵地にある。建築主の創業哲学に「健全な身体に健全な精神があれかし」とある。このコンセプトにそった既存のアート「SPIRIT」が25年前にコレクションされ、補修して新たな増築棟との中庭に移設した。水盤と一体となり、自然の変化を五感全体で体験し感覚を楽しむ体験型アートである中庭の中央は池に水が満たされて、その中を架橋に誘導され、アートのトンネルを通り抜ける趣向である。
 ステンレスの鏡面の特徴が生き効果的であったが、安全性や全体の完成度をさらに高めてほしいと感じた。「建築とアートの融合」をさらに継承し発展させる意味では、屋上から地上に移設した機会に建物とアートを考えた新しいイメージカラーも取り入れる方法もあったろう。実験的な取り組みは今後に期待でき、奨励賞とする。

選考委員 米林雄一

大手町タワー
作 者:大成建設株式会社一級建築士事務所
    田口 晃・横手真一郎・国保 潤・蕪木伸一・山下剛史
所在地:東京都千代田区大手町1-5-5
審査講評

 地球環境への配慮、街並み形成、歴史的建造物の活用など街全体に対する貢献が結果的に街の価値を高め、個々のビルのステータスを高めることは大手町、丸の内、有楽町地区(大丸有地区)で生活を営む人々、訪れる人々の共通の認識である。
 大手町タワーの社会的貢献は第一に森の形成、第二に地下鉄5線(半蔵門線、東西線、千代田線、三田線、丸ノ内線)が交差する大手町のターミナル機能としての役割を果たしたことである。森の形成は皇居の緑に繋がる大丸有全体の緑のネットワークの核となる。特に有楽町、丸の内を貫く南北軸である丸の内仲通りから続く緑の軸と交差する場所に単なる緑地でなく森を造ることは環境的にもたいへん地域的貢献度の高いものである。また地下レベルから地上まで吹き抜けた大空間「プラザ」はターミナル機能の役割を十分に果たすスペースを提供するとともに地上部の森の木々が望まれ、明るく気持ちの良い空間を演出している。地上、地下の歩行者ネットワーク空間が森と繋がる視覚一体化された空間構成のデザインは巧みであり、魅力ある空間を創り上げている。
 大手町と丸の内の結節点に位置する大手町タワーがこの場所における十分な役割を果たしていることを高く評価する。

選考委員 岩井光男

ザ・リッツ・カールトン京都
作 者:株式会社日建設計 大谷弘明
所在地:京都府中央区鴨川二条大橋畔
審査講評

 ザ・リッツ・カールトン京都ホテルは、鴨川西岸の二条大橋畔にある。桃山時代には藤田男爵の邸宅となり、2011年まではホテルフジタが建っていた。
 京都の厳しい景観条例では伝統的な街並みを護るため、高さ(15メートル)や形態に規制が定められている。それにあわせ鴨川に面した130メートルの建物の地上部は全て客室とし、宴会場やレストラン・プールなどのパブリックスペースは全て地階に配している。空間の要となる場所には光庭や滝を効果的に配し、地下空間にも自然光が降り注ぐよう計画されている。景観規制上、設備機器や冷却塔は地下へ続く「滝」の石積みの裏側に設置するなど随所に設計上の工夫がみられた。優れた建物はハードとソフトの融合ではじめて生かされるのだろう。
 京都に象徴される<日本文化>の伝統と革新を兼ね備えたアート作品群はそれぞれに力強く、クリエーティブな発芽を感じた。京都の景観と伝統と現代が見事にコラボレーションしていた。訪れる人々は「心のこもったおもてなしと洗練された雰囲気」を楽しまれ、美の神髄を感じ取られるだろう。
 私は、特別賞に評価します。

選考委員 米林雄一

Seto
作 者:原田真宏+原田麻魚/MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO
所在地:広島県東広島市黒瀬町楢原276-7
審査講評

 大型クレーンが建ち並ぶ瀬戸内の海際の急斜面に民家が点在している。
 かつて造船で栄えた町の過疎化が深刻となったことから、地元の造船会社が、子供のいる家族限定の社宅を建て町の存続、活性をはかった。依頼された設計者は、町に住民が集まる平地がないことに着目し、地域の人々の交流の広場を建築的につくる事を最優先に構想した。道路から数段あがった広場は瀬戸内の海に広がり解放的である。屹立する矩形のかたちと屋上広場を構成するコンクリートの大きな矩形には、合計36住戸が入っているが,この広場からは解らない。大きなL型の矩形は,東西に開口部を持ち瀬戸内海への南急斜面に腰を下ろしたコンクリートのオブジェのようでもある。そう見えるのは、デザインされた60mmもの大きな目地がコンクリートのエッジを切って破綻なく収まっていることや、錆を生かした肉厚の鉄が,階段や手すりやサッシュや扉などに精緻なディテールで納まり、素材の特徴や性質を生かした巧みな緻密さによって、緊張感をもたらしているからだろう。
 屋上広場のふたつの開口から階段をおりると、住戸が並ぶ内廊下に至り、親密なスケール感と細やかなデザインが散りばめられて、優しさに満ちた工芸品のようである。住戸内の打ち放し壁も、型枠材の木目を生かして表し、コンクリートの流し台や木紛ボードの造作家具など、フレッシュで無駄のないヒューマンな感性が伝わってくる。
 急斜面を海辺の道路へと簡素な鉄階段の近道を設けるなど、地域住民の生活に寄り添い、敷地の制約を超えて発揮された「文化的空間」をという建築的構想とデザインは、大胆かつ清々しい作品であリ、芦原義信賞にふさわしい。

選考委員 藤江和子