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AACA賞

第24回 AACA賞


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  • 芦原義信賞
    (新人賞)
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    (新人賞)
    特別賞
審査総評

 一般社団法人日本建築美術工芸協会の主催するAACA賞・芦原義信賞は、景観・町並み・ランドスケープから建築空間やインテリアまでスケールを問わず建築・美術・工芸の力で人々に感動
を与える環境や空間を創り出している作品を表彰するものである。

 本年度の審査は、応募作品42点の中から1次審査で現地審査対象を13点に絞り、2名以上の選考委員が現地に赴いて設計者や管理者から説明を受けて現地審査を行った。最終審査会に
おいて現地審査の報告を担当委員がおこない、全員で議論を行った上で受賞作品を決定した。

結果は、
AACA賞1点、優秀賞2点、特別賞1点、奨励賞3点
芦原義信賞1点、特別賞1点となった。

 本年度からAACA賞と芦原義信賞の応募を一括して受付け、新人である場合は自己申告する形をとった。 審査においては、新人を含む全応募作品を対象に従来通りAACA賞の選考をおこない
、その過程で新人賞に相応しい意欲的な取り組みがみられる、有望な新人に芦原義信賞を贈る事とした。

 AACA賞の「潜水士のためのグラス・ハウス」は、海岸に廃材のコンクリート塊を利用して、人々に感動を与える魅力的な空間を創り出している。 海岸、潜水士の仕事、材の再利用と言っ
たものを上手く関係付けて、法的には建築でなく、また彫刻でもない既成概念に捕われないユニークな発想を高く評価した。

 優秀賞の「狭山湖畔霊園の連作」は、精緻な建築の技により霊園に相応しい精神性を獲得しているし、また「資生堂銀座ビル」は、外装・インテリア・家具・備品にいたるまでトータルに
デザインされ、デザインの力で企業イメージに相応しい美が表現されている。    

 芦原義信賞の「ヤンマーマリーナホテル/セトレマリーナ琵琶湖」は、建築に真摯に向き合い可能性に挑戦している作者の姿勢をまさに新人賞に相応しいものとして芦原義信賞とした。 ま
た芦原義信賞特別賞の「MECENAT ART PROJECT」はユニークな美術館であり、アートとの連携で新鮮で魅力的空間を創り出している。 この作品についてはAACA賞にあるいは芦原義信賞に と
議論がなされたが、同じ作者の「潜水士のためのグラス・ハウス」を作品として高く評価しAACA賞としたので、作者の姿勢を評価し将来への期待を込めて芦原義信賞特別賞とした。

 本年度は意欲的な作品が見られたことが大きな収穫であり、未来に期待出来そうなことを嬉しく思った。 日本建築美術工芸協会はこのAACA賞を通して次世代に向けて、私達の共有財産で
ある様々な空間の文化的価値を高める運動の推進を期待したいと思う。 

選考委員長 芦 原 太 郎

潜水士のためのグラスハウス
作 者:中薗哲也・名和研二
所在地:広島県江田島市大柿町深江宇島戸2630-14
審査講評

 痛快な建築である。かつて海軍兵学校のあった広島県江田島の、夕陽の美しい浜辺にたっている。コンクリートの「積み木」が、まるで巨人が積んだかのように並べられ、ピースが大きいから普通の建築には見えない。そこに白い鉄格子の屋根が架かっている。壁は透明なガラス。不思議な光景だ。
 浜に面した半屋外のテラスは、「海の家」のようでもあり、そのままリビングルームのようでもある。 すぐその脇にはガラス張りの浴室。潜水士たちは、実に開けっぴろげだ。だから痛快である。楽しい宴会の様子が目に浮かぶ。
 ピースの正体は、波打ち際のテトラポッドの打ち残しコンクリートによる派生品で、いわば残り滓。 少しずつ貯まったそれらを集めて、彼ら自身が積み上げた代物だ。 
 しかしそれらが見事に「逸品」になっている。
 日本「建築」「美術」「工芸」協会賞だからその三つが見事に調和した作品に贈られるとも言えるが、この「潜水士のためのグラス・ハウス」は、いわばそれらを超越した世界で生み出された作品であり、大らかなその挑戦の成果を顕彰するのも、この賞本来の伸びやかな趣旨に合致している。 

選考委員 古谷誠章

資生堂銀座ビル
作 者:株式会社 竹中工務店 濱野裕司・美島康人 
    株式会社 資生堂   信藤洋二
所在地:東京都中央区銀座7-5-5
審査講評

 資生堂本社ビルの建て替えに際し、未来に向けた新しい価値創造拠点として計画され社名の由来である「万物資生」の精神を「先進性、豊かさ、オリジン」をコンセプトに建築の外装から内部の細部に至るまで、濃密で高いクオリティーを保持して銀座に、開かれた新しい文化環境の提供に寄与している。
 銀座に創業して140年余りにわたり、常に歴史と新しい時代の感性の融合革新を繰り返して、女性のみならず日本人の美意識を育んできたといえる、日本を代表する企業である。
 資生堂のイメージである「花椿」や「唐草模様」は、美しさはもとよりどの時代においても未来につなぐ新しさを追求する象徴として位置つけられている。 時代と共に変遷を重ねてきたこのシンボルが、今日、新しい価値を創造する環境の創出に深く大きく生成した。豊かな表情をもたらす外装のアルミシェードや内装の随所の壁仕上げやカー
ペット、家具にも様々な試行を重ねて生み出された表現が、現代のデザインとして蘇がえりすばらしいハーモニーとなって共振している。新技術を駆使した三次元の有機的なデザインと自然素材の持つリアルさ、人の手によって構築され磨き上げられ生み出されたシームレスな空間は、光や視線に無限のグラディエーションをもたらし、人々に新たな感性を目覚めさせる大きなちからとなっている。
 コーポレートアイデンティティーの具現化を、建築、美術、工芸の融合による美しさに満ちて、新しい資生堂らしさと共に日本人の新しい美意識をも、美しく具現化されたことを高く評価したい。

選考委員 藤江和子

狭山湖畔霊園の連作 -狭山森の礼拝堂・狭山湖畔霊園管理休憩棟
作 者:中村拓志&NAP建築設計事務所
所在地:埼玉県所沢市大字上山口字前久保峰2002-4
審査講評

 この建築のユニーク性は、木造構成にある。 形状の基本である三角形の集約は、屋根と壁面の一体化に見られる。
 全体の空間は新鮮な精神性が表現され、また照明やデザインなど細部の仕上げは、「祈りとやすらぎの場」としてのコンセプトを見事に具現化し、両棟の組合せを上品に成功させている。

選考委員長 大成 浩

GINZA KABUKIZA (歌舞伎座・歌舞伎座タワー)
作 者:株式会社 三菱地所設計 取締役社長 大内政男
    東京大学大学院工学系研究科 隈 研吾       
    建築家 今里 隆               
    石井幹子・石井リーサ明理+株式会社石井幹子デザイン事務所
所在地:東京都中央区銀座4-12-15
審査講評

 歌舞伎座は明治22年に旧木挽町に誕生し、124年の歴史を刻みながら芝居町の賑わいに貢献してきた。 しかし震災、空襲と2度の火災によって劣化した構造躯体の耐震性、の建替えではなく、歌舞伎座を中心とした芝居町の活性化をめざして地下広場やギャラリー、屋上庭園等の整備を行い、街とつながった「立体的な芝居町」を創りあげている。
 本施設がすぐれている点は次の三点に集約されよう。
第一は歌舞伎座の再生である。「新しいけれども、懐しい」と役者が語るように、岡田信一郎、吉田五十八のそれぞれの設計思想を反映させて、先代歌舞伎座の空気感を残しながら、新たな生命を吹き込むことに成功している。 バリアフリーへの対応、音響反射板の導入等をはじめとして、内外装のデザインでは現代の素材・工法を用いながらも伝統的和風劇場としての設えを守っており、世界無形文化遺産である歌舞伎の殿堂に相応しい華やかさを纏わせた。
 第二は都市空間の再活性化である。「歌舞伎」の複合文化拠点であると同時に、地域の防災拠点としての役割を担わしている点は大いに注目されるべきであろう。 そして多くの都市環境・自然環境への取り組みは、劇場機能をこえて都市空間の再活性化に大きく貢献している。
 第三は現代の芝居町の形成である。 多用な目的で訪れる人々に対して、複合的機能が有機的に連携し、周辺の店舗を始めたとして地域全体の活気で満ち溢れている。 
 かつて江戸の町にあった芝居小屋が形成されているといえよう。
 以上の諸点からみても、建築・都市・美術・工芸が一体となったプロジェクトとして高く評価されるものであり、AACA賞の特別賞として顕彰に値する。

選考委員 斎藤公男

L’angolino
作 者:design 山中コ~ジ、山中裕嗣、山下麻子、吉松静香
    construct 須永一久、白 栄一郎、辻井啓嗣
    structure design 高見澤孝志
所在地:群馬県館林市花山町27-3
審査講評

 敷地は東武伊勢崎線館林駅から東へ2kmに位置し、近くにはつつじの名園として名高い「つつじが岡公園」がある。L’angolinoは低層の木造住宅の家並みと畑、ビニールハウスが混在する長閑な景観が続く中にある。 
 ピラミッドの頂部を思わせる角錐の屋根まですべての外皮をFRPの同一素材で覆った造形的なフォルムを形成し、この地域ではランドマークとなるような印象的な景観を作り出している。 もともと家具製作にも関わっている設計者はその家具製作技術を駆使して、構造と空間構成を合板のみで構築し,建築の創作に挑戦している。 その結果独自性の高い空間が出来上がったと思われる。さらに壁や天井にランダムに配された小さな三角形の小窓から漏れる自然光によって、空間は非日常的な魅力あるものとなっている。 
 この建築は若いオーナーと建築設計者の共同作業である。 オーナーはこの建築が昼はカフェ、夜はイタリアンレストランとして、地域住民との触れ合いと交流の場となることを願い、設計を依頼している。 施工にはオーナーも自ら参加し、職人とともに作り上げたと言うことである。 椅子、テーブル、など家具類も合板を使い製作している。
 全体に手作り感のある作品であり、作者とオーナーの拘りに「ものづくりの原点」を見たような気がする。

選考委員 岩井光男

八海山雪室
作 者:KAJIMA DESIGN 星野時彦
所在地:新潟県南魚沼市長森459
審査講評

 審査に訪れた日、霊峰八海山を望む南魚沼市長森の里山に位置する八海山雪室を囲む山々は見事な紅葉で彩られていた。 なだらかな山の斜面に沿うような雪室の大屋根と雪国の伝統的な「雁木」を思わせる軒先空間が周囲の自然に溶け込み、静かな佇まいを見せていた。 雪室はこの地方の冬場の厄介者である雪の自然エネルギーを巧みに利用した施設、雪中貯蔵庫内に長期保存された酒、肉、野菜が低温高湿な環境下で低温熟成が進み、その甘味、旨み、味わいが増してくることで知られている。
 来訪者は雪室内部の見学をした後、自然に囲まれたパブリック空間で雪国の伝統的な食を紹介するデモキッチンや、地域の作家のアートワークに触れながら地域の食と文化を知ることができる。 豊かな自然環境を生かした利雪エネルギーシステムおよび主要施設の配置の自然さがこの建築の良さとなっている。 地方創生が叫ばれている昨今であるが、「地方の豊かな自然と伝統的な文化の魅力を、私たちはどれ程知っているのであろうか。」と考えさせられる審査であった。 この地域の歴史、文化、環境など深い考察の上に造られた上質な建築であると感じた。  

選考委員 岩井光男

Silver mountain & Red cliff
作 者:k/o design studio+KAJIMA DESIGN
所在地:神奈川県川崎市高津区久本2-3-1
審査講評

 洗足学園音楽大学のゲートの正面にシルバーマウンテン&レッドクリフがある。
 1946年に開かれた洗足学園溝の口キャンパスは、高度で多様な音楽教育の場を目指して整備が重ねられてきた。学園が目指す社会との今日的な接点を、音楽文化を通じ発信する教育の場と模索してきた。
 今回の教室棟「シルバーマウンテン」は地下1階・地上2階の3層のリハーサルホールが積層し、半球体の内部空間はホワイエやロビー、さらに階段などが有機的に繋がりしっかり、とコンパクトな3つのリハーサルホールが確保されている。
 また音響性能をあげるためのホール側面は、大きな波形壁をとり入れ随処に工夫がほどこされている。 2階ホールの反射用波形壁と天井部の構成空間は、造形的にも興味深く眺めた。
 赤い事務棟「レッドクリフ」には、大学事務室・学生ホール・教員ラウンジなどが合理的で開かれた空間となっている。
 洗足学園キャンパスの将来を見すえた再編の起点の役割も受け、美しいキャンパス・美しい景観を目指した、始めの一歩として今後期待できよう。
 更に銀色に輝くシルバーマウンテンのステンレス葺きは、日本の伝統技法とコンピューター解析との協働の労作で独創性があり、今後の可能性を感じて「奨励賞」とした。

選考委員 米林雄一

ヤンマーマリーナホテル/セトレマリーナ琵琶湖
作 者:芦澤竜一
所在地:滋賀県守山市水保町1,380-1 ヤンマーマリーナ内
審査講評

 人工物である建築をどうしたら自然の一部とすることができるかを課題に、湖から陸への自然生態の移行帯「エコトーン」の再生を目指したプロジェクトである。
 琵琶湖のほとりに建つ地上3階建てのホテルを核に果敢な取組みがなされ、開業から1年経った今、琵琶湖の風景を楽しみに訪れる旅行客だけでなく、結婚式場やレストランを利用する地域の人たちのコミュニティの核となる存在となっている。
 建物では、左官によって仕上げられた手の感触、自然素材を使った日本の伝統的技術が随所に取り入れられ、琵琶湖から吹く風が通り抜けていく冊状室内空間と、ドイツ壁・大津壁・版築・三和土間などの土の利用による相乗効果によって冷房負荷軽減を達成した。
ランドスケープでは、建物屋上と客室ベランダの緑化、琵琶湖水辺に葦やマコモを植え、琵琶湖の原風景の再生を目指している。
 「エコトーン」再生の中で特筆すべきは「楽器としての建築」の計画である。ホテルに付随するドーム状のチャペル内部に張られた128本の弦(ワイヤー)に、ある一定量の湖から吹く風が流れると、弦が共振して壁体内で共鳴し、ハープ音が生まれる。  
 風が建物内に流れ出すと、弦が揺れ、音が聞こえ始め、風の向きや強さによってその音色は変化していく。『訪れる人がいつも風の音を聞けるわけではない。しかし「耳を開く」ことで自然界とのつながりを感じてもらえるのではないか』と言う言葉に、地球に生きる生物としての設計者の覚悟が感じられた。

選考委員 近田玲子

MECENAT ART PROJECT
作 者:中薗哲也・名和研二
所在地:広島県東広島市黒瀬町楢原276-7
審査講評

 広島県を代表する日本画家である其阿弥赫土氏はその自然に魅せられてアトリエを黒瀬町に移したという。 彼の作品だけを展示するための、この美術館はその黒瀬町にある。現地に着いた私たちが入口を探しているところに、 隣家と思しき歯科医院から院長先生が建築家より先に現れ、この建築のありようを熱っぽく語ってくださった。 彼は其阿弥氏やその作品に惹かれてこの美術館を建てたのだ。 
 歯科医院の入口が美術館の入り口である。多くの絵が展示されている医院の中を通り抜けて美術館に入る。 
 その瞬間、空間に広がる柔らかい光を感じる。其阿弥氏の絵に共通する光である。 ここを包む壁は一折れの紙を、敷地の形状に沿って幾枚も並べた様に構成されている。  
 壁と壁の間の細いスリットからも光がしみ込む。 屋根に大きく開けられた開口からは強い光が入ってくるのだが、箱状のシリンダーが光を制御していて、2階床のガラス面を通して 1階にも明るい光が導かれている。 壁面に星の光の形のように埋め込まれた板ガラスからも淡い光が漏れ、作品を引き立てる。 この建築には冷暖房はない。 通り抜ける風が心地よい気候を創りだす。 この空間に大きな性格を与えたのが構造だ。自重を軽くするため2階の床は中央部を切り取り、軽快な放射状の鉄骨の張弦梁に木とガラスの板を載せてある。 同様に屋根の中央部も躯体を切り取り、鉄骨でトップライトのガラスを支えている。 自然の光と風を自由に取り入れたいという目的を、その構造がさりげなく支えたという秀逸な作品である。
 この作者は、AACA賞を受賞した作品の作者でもある。 同一の応募者に複数の賞を授与した例は今までないが、新人としても芦原義信賞にふさわしいと判断され、特別賞が贈られることになった。

選考委員 可児才介