第23回 AACA賞
- 審査総評
- AACA賞
- 優秀賞
- 優秀賞
- 特別賞
- 特別賞
- 奨励賞
第23回日本建築美術工芸協会AACA賞、第12回日本建築美術工芸協会芦原義信賞の両賞は、景観・町並み・ランドスケープから建築空間やインテリアまで、スケールを問わず建築・美術・工芸の力で人々に感動を与える美意識に支えられた、環境や空間を創り出した作品に与えられるものである。今年の応募作品は相変わらず建築が大多数を占めていたが、その内容はバリエーション豊かな力作が見られた。
審査はAACA賞28点、芦原義信賞17点の応募作品を、AACA賞候補12点、芦原義信賞候補5点に絞り、現地審査対象とした。現地審査は2人以上の選考委員が現地に赴き、設計者や管理者から説明を受け、最終審査で現地審査の報告を担当委員が行い、全員で議論を闘わせて各受賞作品を決定した。
結果は
日本建築美術工芸協会・AACA賞1点 優秀賞2点 特別賞1点 奨励賞2点
日本建築美術工芸協会・芦原義信賞1点 優秀賞1点 奨励賞1点 となった。
今年のAACA賞受賞作品を見ると、ジェームス邸、伊勢神宮、東京駅などな既に文化的価値を有するものの保存・修復・継承にかかわっている。それぞれの時代背景のなかで真摯に作られ、永く生き続けてきたものには、人々の心を打つ力が宿っているわけで、こうしたものを大切に継承して新しい価値を創り出していくことは大切である。
AKASAKA-K-TOWER、翼竜のたまご、新潟市江南区文化会館は個々の状況は違うなかで、オーナー、建築家、あるいはアーティストの強い意志により新しい価値を創り出すことに成功している。芦原義信賞の日本圧着端子製造(株)、秘密のクリ園はまさに新人賞に相応しい斬新な発想で、従来の設計手法に捕らわれることなく、新しいユニークな建築を生み出している。中央区立中央小学校・中央幼稚園はオーソドックスな手堅い設計手法ではあるが、コンパクトに凝縮された斬新な学校となっている。
ここに見られるように建築、美術、工芸のコラボレーションにより、様々な場面で文化的価値を高めていくことは可能であるわけであるが、なかなか活躍の場が広がってこないことが問題である。 近年はとかく経済性が優先され、文化的価値を持つ建築づくりが難しくなっている傾向にあり、バブル時代には行き過ぎもあったとは思うが、アートに対する予算もなかなか確保出来ない状況である。
次世代に向けて私たちの共有財産である公共空間の文化的価値を高めていくことは私達の義務であり、日本建築美術工芸協会はAACA賞を通してこうした運動の推進を目指している。
選考委員長 芦 原 太 郎

所在地:兵庫県神戸市垂水区塩屋町6-28-1
明石海峡を挟んで淡路島を塩谷の丘陵地は通称「ジェームス山」と呼ばれている。
神戸生まれの英国人貿易商A・W・ジェームス氏(1889-1952)によって、昭和恐慌後に開発された外国人専用の住宅地である。 1934年ジェームス山の南部に建てられたジェームス氏の自宅は竹中工務店の設計・施工である。設計を担当したのは昭和初期に活躍した技巧派モダニスト早良俊夫である。広大な敷地の北側に母屋を東西に長く配置し、クリーム色の土壁や丸みを帯びた玄関のポーチ、建物中央の円筒形の塔屋は典型的なスパニッシュ・スタイルである。ジェームス氏の死後、大企業の創業者が自邸として購入し、その後、迎賓館に転用されていたが、近年の経済状況によってその存在が難しくなっていた。
しかし行政、住民、所有者、事業者、設計・施工の一致した保存活用への熱意によって、新たなる存続方法が模索されることになる。 紆余曲折の末、飲食・ウエディングを主とした施設として活用することになるが、それは飽くまでもこの施設の持つ環境と建築の歴史的価値を将来に亘って活かすためであった。これを機に内部はオリジナルの姿を復元し、主屋を中心に隣接するバンケット棟は高さを主屋の3階の軒高に合わせ、海側のチャペルは廻りを水盤で囲み、主屋からの眺望を遮らないように繊細な構造とガラス張りにすることによって、海と一体的なランドスケープを活かした施設の配置を行っている。数々の法的制約を乗り越えて歴史的建築と景観を継続維持して行く仕組みを構築し、このプロジェクトを実現した関係者の努力に心から敬意を表すものである。
選考委員 岩井光男

(株)丹青研究所 (展示)
(株)中田捷夫研究室 (構造)
(株)プレイスメディア (ランドスケープ)
ライティングプランナーズアソシエーツ(株) (照明)
(株)テクノ工営 (設備)
所在地:三重県伊勢市豊川町前野126-1
「せんぐう館」は、2013年の62回目の式年遷宮を記念して建てらえた博物館である。
圧倒的な存在を示す内宮と外宮。広大な神宮の杜の自然景観。 二千年にわたる日本の記憶を伝える伊勢神宮の時の重みのなかに、現代の建物をどう位置づけるのか。
そもそも現代建築は、素朴な力をみなきらせる125の神々のやしろに太刀打ちできるのか。作者は建築家冥利に尽きるこの博物館を「遠・中・近・触景からとらえる重畳(幾重にも重なること)の空間概念」によって、正面から、まことに素直に作り上げた。
空間計画が素晴らしい。外宮を訪れた参拝者は参道と並行して作られた休息舎の透明なガラスの奥に広がる勾玉池の静謐な自然景観を体感できる。建物の前面に広々と視野が開けた勾玉池の水の修景に加えて、緑にあふれた伊勢神宮の自然景観に溶け込ませることができた。一方、資料館本体を参拝軸線と直交させることにより、参道を行き交う参拝者に建物のボリュームを見えにくくしている。また、やしろと同様の勾配をつけた長さ11.5m、幅約60mにわたる鋳鉄製の屋根の素材感、重量感によって、現代建築を簡潔で重厚なやしろに溶け込ませる視覚的効果を作りだした。展示室では神宮直営で作られた実際の外宮正殿の妻面原寸大模型によって、神のやしろの迫力を間近に味わえるのに加え、式年遷宮と共に新しく作り直される神宝とその匠の技を見ることができる。
選考委員 近田玲子

所在地:東京都港区元赤坂1-2-7
赤坂国道246号線に面して解体された旧鹿島本社ビル跡地に建つAKASAKA K-TOWER
は下層部をオフィスと、高層部を住宅とする複合賃貸ビルである。しかし彫りの深いダイナミックな構造フレームを表に出したデザインにより、内部の機能の違いを道行く人々に感じさせることなく、シンプルで品のあるファーサードとなっている。この印象的なフレームは日中には太陽光の変化によりファーサードに表情を替え、夜間にはライトアップで様々なシーンを演出していく事で、赤坂の新しいランドマークとして定着していくと思われる。
賃貸部分となるオフィススペースや住宅部分は共に、最新のハイグレード仕様でしっかりとデザインされ、今後長期にわたってその価値を保持していくことが出来るものである。
さらに地域に開放されている外構やエントランスホールなどの共用部は、水の循環をテーマとして総合的な空間演出がなされ、五十嵐威暢氏やニコラス・ワインスタイン氏などのアートワークが巧みに配置されている。
AKASAKA K-TOWERはまさに堂々とした正統派モダニズムデザインであり、デザインの意思が隅々まで行き渡って極めて質の高いものとなっている事と、アーティストのコラボレーションにより質の高い空間づくりに成功していることから、AACA賞の趣旨に合致するものであり、優秀賞と評価した。
選考委員長 芦原太郎

(株)ジェイアール東日本建築設計事務所
所在地:東京都千代田区丸の内
国の重要文化財に指定されている東京駅丸の内駅舎は、辰野金吾の設計により1914年に竣工したが、第二次世界大戦により戦災を受け、現在まで当初の姿のままでなく永い間使い続けられて来た。この度この駅舎を当時の姿に復元し,且つ構造的にも全面改修する壮大なプロジェクトが完成した。煉瓦造の構造を鉄筋コンクリートと鉄骨で補強し,且つ全体を免震構造として高い耐震性を確保した上で、様々な創建当時の意匠を忠実に復原する作業が行われた。
南北ドームは外観、内装共原型そのままの形に復原され、そのために創建時のデザイン、工法を再現するための様々な努力が結集された。特にドームの内部に施されたデザインは戦災で焼失し、残された僅かな資料を基に往時の姿を呼び起こし、その素材と工法を再現するための研究が重ねられた。鷲型の彫刻や花飾り,鳳凰型等様々な形態のレリーフ、兜型のキーストーン等アートワークを駆使したオリジナルデザインは、まさに当時の建築様式として建築、美術、工芸が一体となった空間芸術の極地であり、それを再び駅舎という多くの人々が行き交う場所に再現し、人々が芸術文化の価値を再認識する大きな機会となったプロジェクトであり、AACA賞の特別賞として顕彰に値する。
選考委員 岡本 賢

所在地:愛知県名古屋市昭和区八事本町101-2
宙に浮いた巨大なたまごは飛行船を思わせる。翼竜のたまごと題したこの作品は中京大学名古屋キャンパス新1号館アトリウムに浮いている。 変形三角形を平面とするアトリウムは1階から上層階まで吹抜け視界が開けている。 外部に接する面は総ガラス張り、天井からは陽の光が差し込む。 天井には鉄骨の巨大な竜骨が差し渡り、天井空間を支配している。 そんなアトリウム空間の活性化を依頼された作家(デザイナー)は、天井に走る竜骨を翼竜の胸骨に見たて、「翼竜のたまご」と「翼竜の脚」を発想したという。「卵はやがて孵化し大空に羽ばたきながら飛び立っていく」という学生たちの姿と重ね合わせたコンセプトだ。 長手方向に5mにおよぶたまごは5mm厚のステンレス板と3mm厚のアルミのパンチングメタル板を、3次元加工した部材を組み合わせて成形している。 それはかなり高度な職人技がなせる仕事と思われる。竜骨から伸びたFRPによる翼竜の脚が、このたまごを吊り下げた形態をとってはいるが、総重量1.2トンのたまごをみごとに宙に浮かせて見せている。 アルミのパンチングメタル部分は透けて見え、差し込む陽の光により移動をともなってモアレ現象が生じ、生きた卵を感じさせる。
翼竜のたまごはアトリウム空間に居場所を得て、空間全体に緊張感をかもし出し、魅力的なアート空間を創出している。 施主と建築設計者の理解と協力のもとに作家の制作意欲とその意欲を可能にした職人集団と職人の技が光るアート作品である。作家(デザイナー)と同時にプロデューサーにも拍手を送りたい。
選考委員 日高單也

所在地:新潟県新潟市江南区茅野山3-1-14
なだらかに広がる先に大小の山並が続く自然の中に,江南区文化会館は立地している。
隣接する既在の亀田総合体育館(アスパーク)と現状敷地とのレベル差を、全体の切土・盛土を調整して外構工事のコスト削減に努めた。そして将来計画の屋内運動場にも対応した導線計画をとり、全体をユニバーサルに構成している。
内部においては平面的な部屋を開放し、可変することで空間を広げ、断面的には2階部分を削り、1階の部屋の一部を相互に入り込に、斜めな壁面を用いて有機的な内部空間を確保している。
音楽・演劇のホール、図書館、郷土資料館、公民館の4つのゾーンを「十字ストリート」と名付けた通路で繋ぎ、やや狭いのが難点だがそれぞれのゾーンへの移動もスムーズになり、事務管理上も有効だろう。劇場ゾーンにおいては固定席413席を確保し音楽、演劇多機能ホールを目指し、またさまざまな地元の要素を取り入れた、造形的な工夫をこらし豊かな空間にすべく努力をしている。
江南区文化会館は設計から施工、竣工まで4年の歳月をかけ完成した。その間カルチュラルサステナビリティ(文化的持続可能性)をとり、さまざまな年代の若者が参加するワークショップ活動を開いてきた。建築というハードワークと地元の人々の参加や繋がりがソフトウエアーとすれば、持続可能性がある文化の発信の場となるだろう。
限られた予算と限られた面積の中に、地元の熱い思いと過大な要求を見事に詰め込んだ江南区文化会館は、人口約7万人の街で開館後1年を待たず20万人の利用がなされた。
最後に私見だがホワイエ天井部の施工途中の写真資料は彫刻的構造の美しさが感じとれ、興味深く見た。ただ、壁面や床面はもっとプレーンなもの、あまり凝りすぎないものを見たかった。ともあれ、この文化会館は今後一つのモデルであり評価したい。
選考委員 米林雄一