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協会賞

第22回 AACA賞

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小布施町立図書館 まちとしょテラソ

撮影:全点 淺川 敏

作 者:古谷誠章+NASCA
審査講評

 多くの観光客が訪れる小布施の街並は駅から離れているため、駅前に位置する役場や小学校に挟まれたこの図書館は、遠来の人々との交流拠点としても期待されている。

 鈎型の敷地に三角形の開架エリアと矩形の閉架スペースを配し、山並みに呼応するように全体に緩やかなむくみの屋根が、穏やかな大らかな膨らみの佇まいをみせている。    

 それを支持する3本の柱、いや白い造形作品といった方が正しい。上部がしぼられた樹形に枝分かれし主軸の最頂部が注意深くえぐられたそれは、合理的で無駄のない燐とした「美しさ」をみせる。 更には杉の直線材の集合が、柔らかいカーブを描きながら天井面となり、ふくよかな膨らみの頭上空間を生み出している。 室内は桜の老木を抱き込むように、また一辺が緩やかに削がれた曲面をなしていることにより、三角形の平面を忘れさせる優雅な広がりを持っていて優しく小気味よい。 中央に書架を集中させ、外周部に人々のおもいおもいに居られる場所を設けて、本との関わりをきっかけに時を過ごし、お茶を飲み弁当を食べる、音楽を聴いたり美術創作活動や展覧会も体操教室さえも行われる。 

 およそ人間の活動行為に関わる身体的知的欲求の全てが、緩やかにうまくコントロールされて、従来の図書館の概念から脱皮した新しい交流拠点として見事に活動し、隅々にまで小布施を愛する思いに満ちあふれている。

 まろやかな栗落雁色の壁に空けられた幾つもの形は、長い歴史を大切に育み積み重ねてきた幾人もの小布施の翁達が、次世代の子ども達を優しく見守り微笑むその目が並んでいるように見えるのである。

選考委員 藤江和子

象の鼻パーク/テラス

撮影:全点 (c) DAICI ANO

作 者:(有)小泉アトリエ 小泉雅生、(有)ライトデザイン 東海林弘靖
審査講評

 「象の鼻パーク/テラス」は、横浜開港150周年を記念した「横浜の新たな顔づくり・まちづくり推進プロジェクト」の核となる事業として2009年に完成した。        
 敷地は日本大通りの突き当たりにある、横浜港発祥の地・象の鼻地区である。象の鼻防波堤の復元や海岸部の整備、多彩な催しに対応できる広場の整備、展示・上演機能を併せ持つカフェ・休憩所の建設を柱に設計が行われた。
 「開港の丘」と名付けられた丘には、昔の防波堤に使われていた石のベンチが並べられ、広場でアートイベントが行われていない時も、後ろに広がる赤れんが倉庫や横浜の発展を彩る数々の建物のパノラマを楽しむ事ができる。 この一角に建設された「象の鼻テラス」という施設では、開館以来さまざまなイベントが開催され、文化芸術創造都市ヨコハマの将来への環境づくりに大きな役割を果たしている。 
 大さん橋の根元から広がる広場を引き締めているのは、サークル状に並ぶ照明スクリーンである。 鋳鉄の縦格子と乳白FRPグレーチングを重ね合わせた構造で,左右と上面にLEDと同じくらい長寿命で消費電力が少ない3色のコールドカソードランプ(冷陰極管)を設置して、広場の明るさを確保すると共に、横浜の華やかな夜景に負けない祝祭的な光のシーンを作り出している。 港湾、造園、建築、アート、照明などの分野の異なる人たちの連携によって「横浜港発祥の地」を可視化すると同時に、土地の記憶を活かし、横浜の歴史と未来をつなぐシンボル的空間を作りたいと願った多くの人々の熱意を見事に実らせたデザインである。

選考委員 近田玲子

波動

撮影:全点 SHIHO KIMURA

作 者:深田充夫
審査講評

『波動』は、波形のくぼみを幾本も巻き込んだ黒御影石の立方体で、周囲の広がりと連動した、高さ4.5mのボリューム感充分のモニュメントである。設置場所は、現在は基本設計に従って整備が始まっていて、将来は大きな公園を目指している。 
 故に、完成時及びその後の変化は予想を含めてイメージした。通常、モニュメントは、広場や公園が出来上がると同時、またはその後に設置されることの方が多いが、今回はモニュメントが先行していた。
 全体設計とモニュメント計画は極めて密接な関係にある。 その微妙なバランスはモニュメント自体の最終的成果にも関わってくる重要なポイントである。 この相互空間作用は、精密に入り組んだ空間構成でハーモニーとも考えられ、この双方及び周囲との融合性や整合性の成立は、特に野外の場合、時間、光、そして季節等々も大いに影響する。
 この変動的組合せの焦点はコンセプトの半分を成す核心部でもある。 基本設計及び実施設計後の最終調整や、設置段階での詰めにこそ成否がかかっていると考えられる。
 これは数値や観念の上を行く、極めて体感的、感覚的領域でさえあり、モニュメントを含む全ての環境構築の「命」は、ここにかかっていると言える。
 さて今回の作者のアピールは、大枠、上述の方向を目指していることは明らかであり、作品の存在としての強さも相まって、全体完成後は、より爽やかな空間演出が期待される。

選考委員 大成 浩

WOOD(ずだじこども園)

撮影:全点 (株)スパイラル 小林浩志

作 者:(株)ナウハウス 鈴木幸治
審査講評

 ずだじこども園は、既設の幼稚園に隣接する保育所で幼保連型の認定こども園である。
 水田と畑に囲まれた建物は、半透明な膜で被われたており、畑のビニールハウスと共に溶け合い印象的な姿を田園に表わしている。 遠目では、一見して保育園とは思えない。
 直線的構成の既設建築と曲線的でのびやかな新設建築とが、バランスを保って対比し、共通する半透明な外装被膜によって一体感を作り出している。
 木構造で居心地の良い空間づくり、保母さんの気配りと目配りが利く空間の工夫、風土の風を利用した自然換気によるローコスト対策など、設計者の苦心と努力がそこかしこにうかがえる。
 直線の廊下に曲線の廊下がつながって中庭を囲み回廊となる。その長さは100mに及ぶ。 天井の高い幅広の廊下は保育室の縁側であり、園児の屋内運動場でもある。
 中庭は回廊によって内部化され、園児の安全を守り、季節風を防ぐ遊び場となっている。カラフルな遊具が中庭に居場所を得た立体造形となって、こども園らしい環境づくりに参加している。 日中は半透明被膜によって壁面透過採光となり、日没後は内部照明が光壁となって中庭や周辺の田んぼを照らす。東西100mに及ぶ光壁が巨大な行灯となって、光のない田んぼに風景を触発し、存在感が浮かび上がる。
 ドラマチックな空間演出に地元民も好感を持っていることだろう。
 浜松の温暖な風土にあって、季節や時刻によって変化する太陽や風の自然環境を、園児たちが体感し、楽しめる仕組みづくりに努力した作者の熱意に拍手を送りたい。

選考委員 日高單也

発展の塔(理化学研究所 計算科学研究機構 シンボルモニュメント)

撮影:全点 名執一雄

作 者:米林雄一
審査講評

 理化学研究所計算科学機構で稼動するスーパー・コンピューター「京」を象徴するモニュメント。「京」は一秒間に兆の一万倍の京のスピードで演算する。
 そのイメージを0が16つながる17桁のそろばん玉で造形した。 高さ8.6メートルのブロンズの黒い作品で、玉の直径は76センチ、先端を金色で仕上げた。
 一つ一つのそろばん玉には、洋数字や漢字で数の単位をレリーフで記すなど、工芸的な手作り感も加味されている。
 神戸市のポートアイランドは、海に突き出した巨大な人工島だ。その突端に立つ理研の研究機構ビルのために発注され、一帯の広場の整備計画にも設計段階から参画し景観づくりに留意した。
 その結果当初予定された設置場所をかなり移動するなど、アプローチの間隔もよく訪れる人の目を引きつける。 それだけに、背後の鉄筋コンクリート6階建ての開口部の少ないビルの壁との位置関係も、ほどよく調和されているように思える。
 要するにスーパー・コンピューター「京」のシンボルとして、そのイメージを造形するという制約のなかで、目一杯わかりやすく親しめる要素を盛り込んで、発注側の理研の注文にも應えた作品なのである。

 その作者が平櫛田中賞など彫刻の大きな賞の受賞を重ね、東京芸術大学の教授をつとめた、実績のある米林雄一であるのにはいささか驚いた。 普段見慣れた完全に自由な抽象彫刻と異なる、テーマに即した、オーダーメイドのモニュメントで、AACA賞に敢えて挑戦したからである。その心意気を、私は多としたい。
 どうも、建築作品に偏りがちという声もあるなかで、こうした仕事が参入したことが、今後、アート側からの応募への呼び水になることを期待する。

選考委員 加藤貞雄

龍谷ミュージアム

撮影:東出清彦

撮影:近代建築社

撮影:東出清彦

作 者:(株)日建設計 大阪オフィス、赤木 隆・下坂浩和
審査講評

 龍谷大学は、江戸時代初期、西本願寺に誕生した長い歴史を持つ学校である。
 「龍谷ミュージアム」は大学の創立370周年を記念する事業の一環として建設された。
 宗派にこだわらず、広く仏教の誕生から現代の仏教までを総合的に紹介することをその開設の趣旨としている。 敷地は世界文化遺産の西本願寺と堀川通をはさんで向かい合う位置にある。敷地の反対側、東側には油小路通にそって門前町が広がる。京都の景観条例では伝統的な街並みを護るため、高さ(15m)や形態について厳しい規制が定められている。その範囲内で最大限のボリュームを実現するための様々な工夫が凝らされていて、豊かな街並みづくりに貢献することができた。大きな閉じた空間である展示室を2、3階に配置して浮かせたことで、
 1階には視線が通り抜ける透明な空間が出来あがった。そこには大通りと小路をつなぐ路地が作られていて、一般の市民が心地よい空間を歩いている。高さ制限で上限を抑えられているため、ロビーの空間は中庭とともに地面より下方に広がっているのだが、通り抜けの路地と一体になった、地下であることを忘れるような豊かさを感じさせてくれる。
 随所に見ることができる洗練されたディテールは、モダンなデザイン手法でありながら京都の伝統をそこはかとなく表現している。 展示空間にも同様にプロの精神が行き渡っていて、危なげのない安心感を持たせてもらえた。 セラミックルーバによる正面のすだれは国宝「西本願寺三十六人家集」にある文様から摂られた曲線を用いているのだが、全体に流れる「京都的モダン」のデザインの中ではやや浮いているようである。 しかし全体には建築の玄人を感じさせる秀逸な作品である。
 作者は、芦原義信賞を町並み貢献のものと理解して応募したということなので、あえてAACA賞の対象として審査を行った。

選考委員 可児才介