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AACA賞

第21回AACA賞

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宇土市立宇土小学校

作 者:(株)シーラカンスアンドアソシエイツ 代表取締役 小島一浩・赤松佳珠子
審査講評

 全く新しい建築タイプといえる公立小学校が生まれた。
 スラブがL形壁と僅かな丸柱で支持され、内外部は全て折戸で全面開閉可能。5つの中庭を孕み35の教室や諸室、体育館が巧みに構成されて限りなく透明で、子供達の活動を空間的に規定するものがない解放された自由な空間だ。厚みのあるL型壁はL.Kanhの「一本の木の下に教えることができる人と教わりたい人々が集うことが学校のFORMである」というフレーズの「一本の木」だという。壁はグリッドの秩序に乗りながらも慎重かつ丁寧にずらしをかけた配置で、教室としての閉じる事と開放との巧妙な調停がなされ、次々と誘導されるように連続して繋がる空間は、平面図から想像するより遥かに開放的で壁の存在を感じない。床に這いつくばって絵を描く子や雑巾がけの子、遠くで群れ遊ぶ子供達のアクティビティが重層して生き生きと展開する様が見透せる。
 学校建築設計の豊富な経験と挑戦の積み重ねに裏打ちされた細やかな工夫は、児童の新校舎に込めるメッセージをボイドスラブに埋めるワークショップや、ピンナップレールや手で研ぎ出されたテラゾの水場や家具オブジェなど随所に込められて、子供達の創造性や根源的な欲求への作者のまなざしは深く優しい。最も顕著なのは、L形壁がカーブしていることにあり、曲面によって優しく美しく光をひろい風を誘い人々を迎え包んでくれている。この壁の柔らかいしっかりとした存在は、テクスチャーやディテールと共に母に抱かれるような安らかな優しさを感じるのである。
『建築が人を育てる』
 精神的身体的感覚と呼応する空間こそ、人々の心を動かし作用するのであり、宇土小学校はまさにそういうに相応しい建築である。

選考委員 藤江和子

ホキ美術館

作 者:山梨知彦+中本太郎+鈴木 隆+矢野雅規/(株)日建設計
審査講評

 千葉市の東南九十九里に程近い所に広がる広大な昭和の森公園に隣接し、公園の豊かな緑を借景とした素晴らしい環境の中にこの美術館は立地している。クライアントである個人美術蒐集家の意向を受けて設計者は敷地の選定からかかわり、建築主との濃密なコミュニケーションの中から、上質な美術作品を観賞できる最大限な環境づくりを目指した美術館となった。 
 主として細密画の絵画作品を中心としたコレクションで、作品一つ一つに焦点を当てたLEDによる照明計画や、自然光を足元から採り入れる事による落ち着いた空間作り、全体をゆったりと回遊できる動線計画、エントランスの壁面につくられたアート作品を模した傘立て、壁面と一体となった手摺のディテール、絵画作品を常に変更できる様に考えられたマグネット式のピクチャーハンガー等々、様々に工夫されたデザインを楽しむ事ができる、緩やかに曲線を描いたギャラリー部分は、C型チャンネルの断面をした鋼板で構成され、コンクリート打放の基壇部から持ち上げられ、巨大なカンチレバーとなって特異な外観を構成している。コンクリート打放しの外壁と鋼板特殊ペイント仕上げのギャラリー部分との組合せは、彫刻的な形態となってこの建築自体がモニュメンタルではない落ち着いた美術作品に見える。 
 開館以来多くの来場者を迎えてこの地域のみならず広範の人々に、美術と建築を楽しむ時間を提供する事が期待される好ましい作品である。

選考委員 岡本 賢

山古志闘牛場リニューアル

作 者:山下秀之+江尻憲泰/長岡造形大学/大原技術(株)
審査講評

 これは中越地震(2004年)で被災した山古志の人々が復興を願って行った闘牛場のリニューアルである。江戸から続いた山古志の独自な闘牛(牛の角突き:重要無形民俗文化財)の「場もどし」でもある。 
 闘牛の場は、山中のすがすがしいブナ林の中で、透明な空気が満ちた空間にある。 
 神事(山古志の闘牛は神事とされてきた)にふさわしい空間のなかで、周囲との折り合いをつけて、幾分控え目な様相をして、闘牛場は坐り込んでいる。
 400年程続いてきた伝統行事の継続を願う地元民の熱い思いが、設計者の良心と意欲を駆り立て設計者の一所懸命さを感じさせるデザインとなって表われている。
 
計画当初、地元企画者の間にはドーム屋根建設案が浮上していたようであるが、設計者の良心はドームを拒否し、すり鉢状の傾斜地にオープンな階段式の観覧席を設けることを選んだ。すり鉢状の階段式観覧席(1階)の上には、RC造の空中観覧席と称する2階席が32度の傾斜角で、二手にわかれ隔てて設けられている。この2階席は多数の観覧者の収容と同時に雨やどりの空間を産み出し、かつ観覧席の上げ裏ボードウォーク・ギャラリーによって被災者を励ます全国からのメッセージを伝える役割を果たしている。
 上げ裏に張られたボードは, リニューアル以前まで闘牛場に敷かれていたボードウォークで、来場者達の励ましの文や絵が書かれていたものである。これらの設計企画に対して素直に拍手をおくる。 
 闘牛場に向かうアプローチの坂道にそって、RC造の壁面によるメモリアル・ギャラリーが続く。それは山古志の「牛の角突き」の記憶、山古志の人々が培ってきた土地の記憶、そして中越地震の災害の記憶を発信している。
 震災からの復興を願って行われた山古志闘牛場のリニューアルプロジェクトの実現は、地元民の綿綿と続いた熱い思いのエネルギーと、地域にとけ込み生活を共にした設計者の良心とデザインセンスとが、うまくかみ合った結果であると感じさせられた作品である。
 
aaca賞特別賞を贈るに値する作品であると現地審査を行った選考委員の共通した評価である。地元民にも賞を贈りたい思いである。

選考委員 日高單也

児童養護施設 三ヶ山学園

作 者:野村充建築設計事務所 野村 充/
    構造:建築構企画 向井久夫、立石構造設計 立石 一/設備:森田オフィス 森田康暉/
    照明デザイン:AZU設計工房 田村利夫/アート:石井 春・小坂のり子
審査講評

 最近社会問題化している家庭内虐待児童を中心に預かる養護施設である。
作者はこの施設を温かい家庭の延長と捉えて「大きな家」を構想し、与えられた厳しい予算でローコスト、小規模の施設を実現した。
 外壁にインテリアから7ヶ所のブースがランダムに飛び出し、表情に変化を与えているがさほど主張の強い外観ではない。しかし一歩内部に入ると諸所にローコストならではの苦労が見られ、それが逆に人間味豊かな空間を醸しだし、照明デザイナー、アーティストの協力も得て、温かいインテリアを創り出した。
 中央吹き抜けを包むように、2・3階に居室を配し、囲まれた1階のスペースは確かに住宅のリビングダイニングを想定した多目的ホールとして家族の温かい交流の空間を養護の場の中心に据えた思想は明快である。
 フローリングには廉価な大きな節が目立つ松材を使用し、粗野なその節目が素朴な表情を見せ、周りの窓に施したカラーシールによって淡い光線が室内に漂う。そしてその広いホールには外デッキから貫入したスペースに一本の常緑樹を植えてガラスブースで囲み、ホール内にアクセントとして外界の息づかいを与える。
 子供達が日々受ける自然への感受はこのホールのシンボルとして好ましく思われた。
 屋上の広場には、寝そべって天を仰ぎ対話させる何気ない仕掛けを作り、アーティストの腰掛けを置き休息の広場とするなど、ローコストで試行錯誤しながら、子供達の健全な成長への願いを、温かい空間に纏め上げた作者の努力を評価したい。

選考委員 村井 修

追手門学院大学一号館

作 者:(株)三菱地所設計 須部恭浩/鋳物制作会社:傳來工房
審査講評

 三階建ての建物の2階以上のファサードが、こげ茶色のアルミキャストで、周囲をすっぽり囲まれている。 高さ12m、長さは210mにもなる全体が、三つのパターンを組み合わせたデザインの鋳物で覆われているのだ。
 学長室、会議室、学生課などの本部機構が納まり、位置的にもキャンパスの中心であるこの建物は、周辺の建物のやや高めにあり、いやおうなくシンボルとして強い印象を与える。
 鋳物の外装で、ガラスの箱のような本体を巻いてしまうという、これまで例のない構想だが、これはいうまでもなく、日本の伝統工芸である鋳物の技術に負う。
 追手門学院の花である桜の満開をイメージし、花びらのデザインを百通り以上の案から三つ選んで、風洞実験を重ねるなどして、建築法規をクリアーしたという。
 同一パターンの反復・連続で1m×3mのパネルを作り、さらにそれを現場で組み上げてボルトで止めているが、補強の為の金具は使っていない。それは小さなパターンを重ね合わせて強度を保持させる、積み上げた鋳物のわざの賜物であろう。
 この外装は一見閉鎖的に見える。しかし本体のガラス面との60cmの幅によってパネルが網目状に透け採光は十分で内部は明るい。しかも簾の効果が大きく日射負荷の低減効果がある。実にユニークな建物が生まれた。
 同一パターンの量産だから、かなり経済的というのも、伝統工芸活用の思わぬ利点だろう。

選考委員 加藤貞雄