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協会賞

第19回 AACA賞

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慈願山 成願寺
作 者:石橋利彦・徳川宜子
審査講評

 近年、日本の建築は和風様式から遠ざかって久しい。そんな中で出会った「成願寺」は名古屋にある天台宗の小さな寺であった。進化した新和風とでも言おうか、シャープなシンボルマークのように瞭然と私に迫ってきた。安易な和風復活ではない。現在の高度化した日本人の生活空間をも刺激するに充分な、ユニークで完成度の高い現代的建造物である。
 しかも、伝統的な和の精神性が格調高く包含されている。一にも、二にも、まず最初に眼を奪われたのは、やわらかく寺全体を包み込む、曲面の瓦屋根の佇まいであった。寺院の屋根は本来、威風堂々とした反りに特徴があるのだが、その逆をやって類例のない新鮮で美しい景観を獲得していることの驚きである。過去の伝統様式とか、俗っぽい新和風を引きずるようなところは微塵もない。私は建築の専門ではないけれど、これほどのオリジナリティをシンプリシティと繊細さの中で完成させるには、至難なプロセスがあろうことは想像に難くない。現場を引きあげる夕刻、ガラス張りの伽藍は水の中に行燈のように浮かびあがった。私はその美しさに息を呑んだ。

松永 真

風の地平線-蜃気楼
作 者:大成 浩
審査講評

 富山湾の蜃気楼で知られる魚津、この町で生まれ育った彫刻家が、年に数度姿を見せる仮想空間、蜃気楼をテーマとして長年抽象的な手法で実像化を追及してきた。「風の地平線-蜃気楼」と題し白御影石を素材として、1体 重量7トン・高さ2.7メートルの巨大彫刻を7体、蜃気楼が出現する海と対峠して並べた。その彫刻の個々は連作としてさりげなく類似に見られるが、各々の作品は御影石の持つ滑、破、の微妙な表情を巧みに表現し作家の力量のほどを伺わせる。
 蜃気楼という現象を実像化するのは難しいと思われるが、形あるものにしなければ町のシンボル、そして観光としての振興拠点とはならない。この実現への動きに国・県・市の賛同を得、その際特記すべきは、その設置に作家の高校時代の同級生らの隠れた協力が、大きな貢献を果たしたことである。この協力こそが市民参加によって本来あるべきパブリックアートの生まれる重要な条件であろう。
 この作品の受賞が、これまで本協会の主旨にある美術工芸での応募が少ないなか将来への期待をこめての一作として、また市民参加型の公共空間へのあり方も評価される要因となった。

村井 修

大船渡市民文化会館・市立図書館/リアスホール
審査講評

 道路から緩やかに傾斜し続く高台に、コンクリート打ち放しの特異な姿の建築がスクッと建っている。この地は歴史に残る大津波の経験によって公共施設はすべて高台に設けられ独特の街の景観が生まれているが、なかでもこの建物の存在感は圧巻である。
 建築家は市民ホールのプロポーザルで選定された後、市民とのワークショップをかさね要望の強かった市民図書館を附設・結合するというプログラムの変更を実現させて「市民と共につくりあげた」のだという。
 こうした対話の中から「地域の形」「大船渡の形」を「リアス式海岸、穴通し磯、海、空」をキーワードにDesignScript(デザイン・スクリプト)をつくりあげ、建築の空間構成や形状にダイレクトに反映し造形的表現とすることで、この土地固有のダイナミズムを見事に具現化し、またシークエンスを促すように随所に開口を設けて 訪れる人々誰にも新鮮で心揺るがす空間体験を提供している。
 活発な市民参画による運営がなされ4万人の街の文化拠点として、次世代への継続的な記憶に残る存在感を確立した”力みなぎる建築”である。

藤江和子

六花の森プロジェクト(六花亭中札内ファクトリーパーク)
作 者:(株)大林組 東京本社 一級建築士事務所
審査講評

 六花の森プロジェクトは、帯広空港から近く中札内村の大地に近接する二つの敷地に展開する。ひとつは、見事な柏林の中に密やかに配置された4つの美術館及び屋外展示場、付属施設からなる美術村計画であり、もうひとつは、これも広大な敷地の中に工場棟と川沿いに自然の生態をとりもどす目的でランドケープされた環境を創出する試みである。
 美術村はもともと工場敷地として購入したものであるが美しい柏林を切ってまで工場までは作らないとのクライアントの意向のもとに、この地に美術館構想が生まれ工場敷地は新たに現在の敷地を改めて購入したと聞く。新しく求めた工場敷地のランドスケーピングは、工場と一体になった修景計画であるが、入念な敷地の自然環境調査のもとにエコロジカルな環境とアートや文化との融合を図っている。社会還元に基づいたクライアントの発想がここまで成功した例は数少ない。

小倉善明