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AACA賞

第18回 AACA賞

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金刀比羅宮プロジェクト
作 者:(株)鈴木了二建築計画事務所<設計> + 清水建設(株)<施工>
概要説明

 象頭山の中腹。南東は絶壁に近い断崖で、反対に北西は急激に上昇する山肌が迫り、湧き出すような樹木が覆い被さる金刀比羅宮の敷地に、原風景を維持し、樹木を切らないこと、山を壊さないことを条件に、槌破風を持つ入母屋造、檜皮葺きの繊細かつ優雅な授与所と全長48mの長さを持つ切妻造、本瓦葺きの雄大かつ力強さを表現した斎館(緑黛殿)を建て替え、同時に社務所をはじめとする事務や執務の諸機能を新たに加え、さらに外部空間を再構成した。青木石の「絶対垂直」の擁壁、「船」に見立てた全溶接の厚み12~24mmの鋼板フラットスラブと壁柱による人口地盤を象徴的に表現した。大階段により現れた、地下のレベルとひと続きのガラスと鉄に囲まれた中庭と、光と闇、人口と自然、水平と垂直、山と谷、空と地面等々の異種両極をさらに際立たせる。

審査講評

 金刀比羅宮プロジェクトは、複雑で急峻な起伏のある象頭山の手つかずの広葉樹林に存在する既存の本宮をはじめとする歴史的建造物の中に新しく増築された2棟の建築、授与所棟及び参集所を含む斎館棟である。敷地は背面も前面も急峻な崖地であり、わずかな平地には、すでに本宮をはじめ数々の木造古建築群で占められている。新しい2つの建築は既存建築群に沿ってわずかに残された場所に中庭を挟んで造られているが、既存建築に劣らぬ迫力と優美さを兼ね備える。
 圧巻はこの2つの建築の接地性にある。本宮に向けて階段を上り詰めるにしたがって現れる無垢の御影石が隙間なく垂直に立つ擁壁と、厚みが12~24ミリの鋼板フラットスラブと壁柱がつくりなす人工大地の上に作られた檜皮葺きの入母屋造りの参集所はあくまで優雅である。一方、中庭を隔てて山腹に半ば埋まるように作られている斎館棟は本瓦葺きの切妻造りの屋根が力強いが、この建築も鋼板柱と鋼板フラットスラブに支えられている。随所に見られる鋼板は時と共に茶色の鐡錆を見せており、これが大地の一部になっているかのような表情である。大胆で端正なディテールが建築を支配している。部分が全体であると同時に全体が部分である新しい建築と、それが加わることによって造られた環境は、世紀を超えた建築の芸術性を見せてくれる。AACA賞にふさわしい建築である。  

小倉善明

丸の内仲通り

<平成10年頃>
銀行店舗が軒を連ねる機能優先の丸の内仲通り

<整備改修後>
店舗の賑わいが感じられる「人」が主役の丸の内仲通り

作 者:(株)三菱地所設計 取締役社長 小田川和男
概要説明

 大手町・丸の内・有楽町地区は公民の協力・協調で魅力ある街づくりがすすめられており、地区を南北に貫く「丸の内仲通り」は、都市の「アメニティ・賑わい軸」としての空間創出が求められている。今回の「丸の内仲通り」の整備では、道路機能の確保はもとより、ヒューマンスケールの憩い空間として魅力ある景観を有し、環境にも配慮した「都市の居間=アーバンリビングルーム」の実現を目指した。そして、街路と建物が一体となり創りだす景観を重視し、拡幅した歩道と両側の建物ファサードがひとつの空間として感じられるように、歩道と車道を同一の方形乱貼自然石(アルゼンチン班岩)舗装とし、質感と風合いを与えた。また、街路樹を従来の単一樹種からケヤキやシナノキなどの混植化し、低木類も充実させた。さらに、照明灯やボラードなどのファニチャー類を更新し、アートや緑に囲まれたベンチの設置により、緑陰や季節感を楽しめる洗練された空間とした。

審査講評

 丸の内仲通りは著しく変貌した。さらに、エリアは南に延びようとしている。道路両側に、超高層も含むビル群が立ち並ぶこの道路が、大都会東京ならではの都市空間として整備されているのである。そして、かつてなかった景観が生まれた。ここは、東京にはじめて生まれた、快適で秩序のある、大規模なパブリック・スペースといえるだろう。
 従来より歩道を広げ、その歩道と車道に同じ自然石を方形に敷きつめたことで、心地よい統一感が生じ、しかも暖か味が通う。また、それぞれに個性のある建物のファサードを違和感なく包み込んで一体化している。街路樹もケヤキやシナノキなどの混植とし、ベンチなどのストリート・ファニチャー類もデザインを揃えて、季節ごとに21メートル幅の”歩いて憩える”空間の創出に成功したように思える。 仲通りの建物側に一切看板類などないことも美観作りへの参加意識の高まりと、行政とビル側との協調が進められた成果であることを強く感じさせる。そうした、地域が参画するパブリック・スペースであるなら、もうひとつがんばって、設置するアートについて、地域の関心をそそる工夫もあっていいのではなかろうか。折角の見事な都市空間だし、そこから発信されるものの広がりは大きいのだ。

加藤貞雄

大阪弁護士会館
作 者:(株)日建設計 江副敏史
概要説明

 大阪弁護士会館は、基本的人権の擁護と社会正義の実現のためさまざまな弁護士会活動を行う場として、活動の透明性、市民へ開放性、組織の永続性、また環境配慮という弁護士会の理念を建物全体で表現した。
 外観の特徴はガラスボックスを覆う構造体である柱と梁の格子表現である。柱と梁は最新の制震技術と耐火安全検証の成果として450mmX450mmの細く繊細なもので、大型陶板で覆われている。低層部の煉瓦も微妙に異なるムクリを持つ煉瓦で構成し、さらにひとつひとつ出入りをつけ積み上げることで、通常のレンガでは得られない深い陰影を備えることができた。時を経るにつれて深みを増す焼き物の陶板と煉瓦をシンプルに使用することで、素材感をきわだたせている。エントランスロビーの透かし煉瓦スクリーンは、1階ロビーからは遮蔽効果、2階ホワイエからは採光効果を与え、それぞれ異なった表情を醸し出している。

審査講評

 大阪中ノ島公会堂を見渡す、水と緑に恵まれた立地を十二分に生かした建物である。大型陶板に覆われた細く繊細な柱と梁の格子で、透明性、開放性を端的に表したり、ムクリのある透かし煉瓦スクリーンで光を取り込むなど、弁護士活動に対する敷居の高さを取り払う役割を果たしている。不揃いな色や微妙に異なるムクリのある素材を使った繊細な格子の建築デザインは、建築の個性を形作るだけでなく、隣に建つ裁判所との連続性、向い側に建つ中ノ島公会堂地区の景観を結び付ける役割をも果たしている。格子の内側のガラスを通して中の光が透けて見える建物の夜景も素晴らしいことが容易に想像できる。
 惜しむらくは、高い天井の1階ロビーに設置されているアート作品のボリュームが小さく見える点である。空間とアートがマッチしていたらと、建築が素晴らしいだけに残念である。今回のように建築引き渡し後にアート作品を置く場合にも、施主、アーティスト、建築設計者双方に何らかの相談をするような取り決めが望まれる。

近田玲子

グランドプラザ
作 者:(株)日本設計 淺石 優
概要説明

 富山市の中心部からスクランブル交差点が消えて久しい。グランドプラザは、空洞化した都市に、人を集め、賑わいを取り戻し、都市を再生しようという意思のもとに市によって作られた屋根つきの公共空間である。 東西の商業施設と北側の既存アーケードに囲まれたガラスのガレリアであり、3階と6階のブリッジで駐車場ビルと商業施設が関係づけられている。グランドプラザの主役は何といっても人間であり、そこに集う人々やアクティビティそのものである。建築はそれらの背景であり、そこで活動する人たちが生きいきと見えるような建築が意図されている。そしてモバイルグリーンの爽やかな緑が街に潤いをあたえている。2007年9月17日のオープンから一年。とやま街なかルネッサンス・富山水辺の映像祭with HeArt Nagasaki・NHKまちなかテレビ生中継などを始めとする118回ものイベントが行われ、さまざまな活動の拠点となっている。

審査講評

 南北65m東西21mの『グランドプラザ』は、別々の二つの再開発ビル計画に伴い、市が主体となり数本の路地を統合して創出した画期的な広場である。
 高さ19mに透明ガラスの屋根と鎧葺き様の壁を架けることで、現代的な表情を持ちながら雨の降らない爽やかな風の流れを体感できる公共空間として、雪の多い富山の市民に明るい陽射しが差込む開放的な「まちなか新空間」を提供している。大屋根の下には「モバイルグリーン」と呼ばれる自然木の巨大な可動式樹木が数台。床下収納された昇降式ステージは設備備品倉庫を兼ねるなど、活動を妨げない様々な仕掛けが工夫されている。1400㎡の床全体を使った「お絵描きプロジェクト」や予想を超えた市民のアイデアで、あらゆるジャンルや年代の人々の活動が展開されたり「ガラス屋根清掃隊」なるボランティアが生まれたという。単に屋内化された大きな施設や大型設備や展示物に頼るのではない、市民自身の手による活動する公共空間として、また都市だからこそ求められる自然を感じる環境を心地よく自由に享受できる場として、たくさんの老若男女が集う活気に満ちた都市型広場の素晴らしい事例として評価した。

藤江和子