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AACA賞

第17回 AACA賞

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佐川美術館 楽吉左衛門館
作 者:(株)竹中工務店 設計部 内海慎介
審査講評

 樂吉左衞門という、強烈な個性の芸術家が描くイメージを、竹中工務店の永年蓄積した技術のすべてを、同社大阪本店設計部の内海慎介さんらが傾けて現実のものとした、世にも稀な芸術的環境・建造物という感が深い。経費、研究、施工期間を十分にとり、既存の本館と連続しつつ、実は密度も雰囲気も全く異なる、非日常の異空間が作り出された。琵琶湖の岸辺を彷彿させる葦を適度に配した水庭の水面下に設けた二畳半台目の茶室に天井はなく、はるか上方の闇を通して差し込むかすかな光が、吟味した和紙で包んだ壁をたゆとう。そこに至る水露地の滝の水音にも計算が行き届いている。また地上部分の和室広間の前面に敷きつめた黒い割肌石の、表面が波うつ広がりも現実ばなれの演出だ。展示各室も樂吉佐衞門氏自身の創作に合わせたプランで、見るものを強引に誘い込む。ベースを伝統の佗茶に置くも、そこをはるかに突き抜けた前衛的な精神が横溢している。これだけの冒険をいまのこの時代に、平然と受容れた施主にも脱帽だ。。

加藤貞雄

日本盲導犬総合センター
作 者:千葉 学
審査講評

 富士山の緩やかに広がる裾野に、この盲導犬センターが建っている。犬の生活する犬舎、トレーニングルーム、研究所、犬と人間が一緒に寛げるラウンジ他多くの機能諸室が小さな街を形成するように点在している。木床の中央プロムナードが富士山の方向へと延び、点在する諸室を紡ぐように蛇行する回廊で結ばれて、常に富士山を背景に屋内外の様々な活動が繰り広げられて緩やかなランドスケープを体感できる。犬に配慮し選択された素材は人間の身体感覚にも優しく呼応し、床材の使い分けが盲目の人の歩行感に作用し場所エリアを示すサインとなっている。ローコストだが気遣いの行届いた納まり、林立する極細の柱モジュールと屋根勾配の統一、諸設備の環境的将来的な対応とともに合理的で美しい。そして何より素晴しいのは、犬にも人にも等しく優しく心地良さに満ちている。ここには美術工芸の従来の範疇での表現はない。しかし、注意深く設けられた開口に本当の富士山が納まり望め、犬や人のいきいきとした活動の様があちらこちらにドキュメンタリー映画を見るようで楽しい。ここにAACA賞の新しい姿を見い出すことができる。

藤江和子

三井本館の保存・活用と日本橋三井タワーの開発
作 者:三井不動産(株) 代表取締役社長 岩沙弘道
    (株)日本設計  代表取締役社長 六鹿正治
審査講評

 1929年に建設された三井本館の建築は、周辺の三越百貨店や日銀本館の建築と共に永い間日本橋地区の象徴であり、端整な街並み造りのシンボル的存在であり、重要文化財に指定されていた。超高層タワーの建設構想に当り、如何に保存・活用し、新しい現代建築と調和させるかが大きなテーマとなった。昨今様々な保存・活用手法が研究され、街並みのイメージの継承が図られているが、本計画では建築を完全に保存し、再活用しながら新たな超高層ビルの基壇部分と一体として構成するというデザイン手法を採用することによって、彫刻的な存在感を感じさせる歴史的建築と現代建築の見事な一体感を実現させた。最先端の現代技術を駆使して、建築の文化価値を永続させる見事な開発手法は、重要文化財特別型特定街区(現在は、重要文化財保存型特別街区と名称変更)という新しい都市計画の枠組を創り出した結果の作品として、特別賞に価するものである。

岡本 賢

TORANOMON TOWERS
作 者:鹿島建設(株) 北 典夫
審査講評

 TORANOMON TOWERSは、首都機能の拠点である永田町や霞ヶ関に隣接した六本木虎ノ門大街区整備地区のほぼ中央の丘に建つ、オフィスと住宅の複合高層建築開発プロジェクトである。

今回のAACA賞の審査では、この簡潔で端正なフォルムを持つ建築に備わった質の高い技術とデザインが評価されたのはもちろんであるが、それ以上にこの高層ビルの足元に拡がるオープンスペースの環境づくりに審査の話題が集中した。特に、緩やかに地上と結ばれた一層低いレベルに計画された彫刻広場は秀逸であり、KAJIMA彫刻コンクールで大賞を受賞した小笠原伸行氏の作品と相まってミニマムで美しい環境を形成している。そして、この彫刻広場と共に、古くから大切にされてきた既存林を残した「四季の森」を含めたグランドデザインは、今までの高層ビルの足元に、我々がかつて体験したことのない清閑な空間を見事に実現させた。

このような都市空間を生み出す源となった「KAJIMA彫刻コンクール」の取り組みにもあらためて敬意を表したいと思う。

宮崎 浩

セルリアンタワー東急ホテル庭園「閑坐庭」
作 者:枡野俊明
審査講評

 室内空間と庭園の融合を求めて庭につながるホテルのロビーインテリアまでを手がけた結果、日本の空間の特質である、外と内と一体になったロビー空間をつくりあげた。石が岸にうち寄せる波のようにラウンジ内まで入り込む。庭園デザイナーとして石と樹木を自在に扱うたぐいまれな空間感覚、石を知り尽くした職人ワザの見事さが光る。この庭園には、都心における限定された空間であることを感じさせない空間のひろがりがある。商業空間としてのホテル庭園の後ろには、公開空地と通りヌケの歩道がつくられているのだが、ホテル側から見ている人には、人の往来を全く感じさせない。通り抜け通路に対しても、林を歩いているかのような質の高いしつらえを保ったのは特筆すべき点である。

近田玲子