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協会賞

第1回 芦原義信賞

  • 芦原義信賞
アートガーデン
作 者:川北 英、門谷和雄((株)竹中工務店広島支店設計部)

協会賞

第2回 芦原義信賞

  • 芦原義信賞
名古屋クロイゾンスクエア(安藤七宝店本店計画)
作 者:永井久夫((株)竹中工務店設計部)

協会賞

第3回 芦原義信賞

  • 芦原義信賞
  • 奨励賞
安曇野高橋節郎記念美術館
作 者:宮崎 浩/(株)プランツアソシエイツ 代表取締役
聖ヨゼフ学園 京都暁星高等学校
作 者:宮城浄一・大平滋彦/(株)竹中工務店 大阪本店 設計部

協会賞

第4回 芦原義信賞

  • 芦原義信賞
  • 奨励賞
  • 奨励賞
リーテム東京工場
作 者:坂牛 卓/O,F,D,A
まつびしビル
作 者:長岡正芳
白鴎大学はくおう幼稚園おもちゃライブラリー
作 者:(有)連健夫建築研究室

協会賞

第5回 芦原義信賞

  • 芦原義信賞
  • 奨励賞
  • 奨励賞
星のや軽井沢
作 者:東利恵/東環境・建築研究所 長谷川浩己/オンサイト計画設計事務所
虎ノ門琴平タワー
作 者:(株)日建設計 亀井忠夫・中村晃子
GNOTI(ノティ)

作 者:竹原義二/無有建築工房

協会賞

第6回 芦原義信賞

  • 芦原義信賞
  • 奨励賞
  • 奨励賞
  • 奨励賞
横河電機(株) 金沢事業所
作 者:大成建設(株) 設計本部 関 政晴
審査講評

 横河電機株式会社 金沢事業所は、歴史的な町並みが残る金沢市郊外の金沢テクノパークの小高い丘に位置していて、遠く日本海を望む敷地に、水盤の上に浮かぶように建築がつくられている。最初に視界に入ってくるのは2階建ての産学協同研究棟で、これが全体の象徴的な役割を果たしている。この建築に平行して管理棟、研究開発棟、工場棟の3つの棟が機能的に、いずれも水に接して配置されている。手前に広がった水面は、奥にある3つの棟の間にプロムナード上につながり、建築群を視覚的にも適切に分節し、かつ相互の関係を保つ役割を果たしている。<BR>
水面に沿って垂直、水平が強調された構成の建築群は、水面と、カーテンウオール相互が生み出す関連性が緻密に検討さている。特に、太陽の動きや、天候の変化、夜間に対応して光を取り入れ、反射させる手法はたくみである。省エネにも配慮されている端正なデザインのカーテンウオールと水面と相互に反射する光景で企業の持つイメージを伝えようとする設計者の意図は新鮮で見るものに強く伝わる。芦原義信賞にふさわしい建築である。

小倉善明

AGCモノづくり研修センター
作 者:(株)竹中工務店 設計部 山口広嗣+宮下信顕
審査講評

 「AGCモノづくり研修センター」は、高度な技術を蓄積した熟練工の高齢化と団塊世代の大量退職による技術伝承の危機という、日本全国いたるところのモノづくりの現場で起きている社会的問題に直面したメーカー(旭硝子)によって自社工場の一角に計画された研修施設である。
 ガラスメーカーのアイデンティーの象徴を「光のスペクトラム」として捉え、外部から内部までの一貫したデザインで思い切りよく展開しきっている点が大変すがすがしく魅力的であった。設計者にとっては頭を抱える、短工期、ローコストという設計与条件が、この建築のデザインにとってはプラスに働いたと感じられた。
 また、工場からの廃材(円形のガラスカレット)を、サインや光庭の仕上げにさりげなく使用している点や、ガラス窯から取り出された耐火レンガを再生しオブジェとして蘇らせていることも、この施設の性格を的確に表現し、魅力を増す要因となっている。

宮崎 浩

アルテミス宇都宮クリニック
作 者:(株)竹中工務店 設計部 髙木利彰、和田安史
審査講評

 宇都宮市郊外で開発が進む商業集積エリアの中に建てられた産婦人科の診療所である。巨大なコンビ二エンスストアーなどが雑然と広がる街の中にあって、静かな胎内空間を思わせる楕円形の広場を内包した個室19床の小規模医院ではあるが、この建築は都市の中で壁のもつ意味を深く考えさせる。黒いコンクリート壁で外部との断絶を計りながらも、道路側の斜面に植栽を施し周辺環境への配慮も計られ、囲われた広場には六本のやまぼうしの木が象徴的に立つ、その庭に面して、病院の諸施設、そして一般に開放されるプール、フィットネス、喫茶室が円形状に配置され、外界から守られた安らぎの空間を創り出している。
 出産難民など社会問題視されている昨今、既に地域に根ざした産科医療施設を展開している理事長の高い見識と、設計者の熱意との協同で実現した建物であり、医療の在り方とともに都市のへの優れた提案として、街並みの研究家芦原義信先生の賞として相応しい業績と思われる。

村井 修

東京松屋UNITY
作 者:河野有悟
審査講評

 「江戸からかみ」の伝統を「伝える」と言う手段を「若手デザイナー」に託した、江戸時代から続く和紙・唐紙の老舗の英断にまず軍配があがった。低層階に「見る、知る」空間、上層部に、日常生活で和紙を「体験する」住居空間をつくり、和紙の持つ多様な可能性を身近に感じさせ、その技法の伝承の大切さをひろく一般に理解させるというこころみはユニークである。インターフェースとしての、空中庭園と光と風の道としてのつなぎ空間により、自然との一体化を計った作者の意図は、日本の伝統建築のあり方の神髄をとらえて日本の都市空間に建つ建築の方向性を追求している。和紙の持つ型の新しさ、色の鮮やかさ、紙とは思えぬ豪華さは日本の伝統色から選ばれた主張しない灰白の壁により引き立てられている。街並みとの関係性の重視も評価されたものの、建築的塾度がより希求される面もぬぐえず、将来に期待する思いをこめて奨励賞と決定された。

上山良子

協会賞

第7回 芦原義信賞

  • 芦原義信賞
  • 奨励賞
  • 奨励賞
隙屋
作 者:鈴木幸治
概要説明

 温暖な浜名湖の環境なら「隙間だらけの納屋」でも住めるのではないかというのがこの家の出発点である。湖岸の景観をつくり、簡素だが豊かさをしみじみと感じられる住まいである。時代に逆行するが、設備よりも建築、建築よりも人間の感性に重きをおいた。高気密断熱の家ではなく、最小限のしつらえの究極のエコの家としたが、十分暖かい。冬季には隙間からの日照を内部に蓄熱し、夏季には上部の連窓を開放して湖面を渡る涼風を引き入れる。屋根は離瓦を使い、瓦下の通気を図り温度を下げ、現代に生きる新機能とデザイン性を得た。崖地の構造物の滑り止めの地階は外断熱のRC造で、湖へ開くトンネルから通風と採光と眺望を得る。視覚ばかりか潮風や潮の香りが聴覚や臭覚を刺激する。日が暮れると光が初源的な建築を浮かび上がらせ、今まで経験したことのない建築空間へと飛躍させる。会話が弾み、コミュニケーションをショートさせる触媒としての空間である。

審査講評

「隙間だらけの納屋」
 すぐれた建築に出会うと余韻嫋々として情感が充たされる。棲み方にこだわりのあるクライアントと、クライアントのイメージを技術的、資金的な回答を誠実に模索、具体化する建築家とのコラボレーションが実って、自然により近い生活、作業、開いた接客の場が生まれた。永年積み重ねられた知恵によって引き継がれるシンプルな形態とスケールの<納屋>をテーマに、エコを意識した離瓦の屋根、唐突とも見えるRCの風と潮騒の通り道は、その地形に馴染んでいる。ポリカーボネートの外皮は光に反射して金属の様相をも見せるし、近くでは内皮が木のスリット横張りだと解る。9尺グリッド、5寸角柱2層軸組みの伽藍空間には、光と影によって醸成される旨い空気が広がる。遠景、近景は印象を変え、太陽、月に刻々と感応するこの納屋の姿、隙間空間は、自然の恵みのカタリスト、触媒である。前庭のアウトスケール、ガラスの細長いテーブルは浜名湖を正面に見渡す。実は土台が斜面の土留めの役割をしていると伺った。料理達者なクライアントがこのテーブルでゲストをもてなすらしい。私事ですが、京都迎賓館(設計:日建設計)の、あかり行灯計画に携わり<光を梱み 影を織る>という私のテーマに響く作品を拝見し、今回夜景を鑑賞する機会は無かったが、その美しい姿を想像するのはそう難しい事ではない。

川上 喜三郎

学校法人摺河学園ハーベスト医療福祉専門学校
作 者:岩田章吾
概要説明

 医療福祉系専門学校である本建築は、姫路駅南に位置し、学生の教育の場であるだけでなく、地域社会への医療、福祉、保育の情報発信基地として位置づけられている。本建築は多様な色の利用をそのテーマとしており、外観、内観ともに多くの色が使用されている。これは、多様な色の構成によって「多様性を許容する」という精神を表現するためである。これからの医療、福祉に携わる学生たちには、他者を思いやること、自らと異なる価値観を理解し、認め合う敬愛の精神を期待したい。多様な色を等価に扱い、多様性をはらんだ様相を構成することで、他を認め、共存する精神を建築デザイきンに託した。色の背景を形成する部分は、鉄筋コンクリートと有孔折板というモノトーンの素材にて構成し、着色されたパネルの手前に市松状に配置された有孔折板は、歩行者、電車、自動車などアプローチする視点の移動によって、建物外観の印象を刻々と変化させている。

審査講評

 限られた予算のなかで都市景観を意識して試みた若い建築家の作品。坪単価45万であれば少々荒削りは否めないが、景観形成に寄与した新人という芦原義信賞の主旨に沿った建築としてこの賞が励みとなることを期待したいと思う。
 新幹線姫路駅に隣接して立つ5階建ての医療福祉関係の専門学校で、医療にあたって多様性を許容するという理念を色彩計画にその表現を求め、一見スーパーグラフィックを思わせる色の過剰をみせるが、正面ファサードは、各階に配された六色の壁面の手前に有孔折板を市松状のスクリーンとして立て、視覚の移動で透しみる仕掛けは、昼夜とも街に温い表情を投げかける。内部は各階ごとに色分けされ、什器類もすべてカラーコーディネートされており、壁面塗料も規格色を用いることで補修への配慮もされる。また、地域に開放し医療相談に応ずる一階ラウンヂには、青系の抽象画(石井春作)が並び、狭いスペースながら明るく外に向き合っている。玄関ホールの江上計太作の壁面オブジェとともにこの建築の色彩計画の要となっているようである。

村井 修

神保町シアタービル
作 者:(株)日建設計 山梨知彦 + 羽鳥達也
概要説明

 「古本の街」神保町は、戦前まで映画館や寄席が多数存在する芝居小屋の街でした。この計画は、当時の活気を町に取り戻すために、小学館と吉本興業が協同で企画したものです。300㎡ほどの敷地に100席の映画館、126席の寄席、そして300㎡の芸能学校の稽古場が同居する劇場建築です。
 新たに整備された天空率制度を利用し、この建物に最適な形態を導き出し最大限の座席数と、稽古場面積を確保しました。この多面体を鋼板耐震壁で覆うことで、高い耐震性と汚れの防止、外気循環型外断熱を同時に実現しています。この形態と荒々しい鉄板のマチエールが仮設的な雰囲気を醸し出し、かつての芝居小屋の街がもっていた活気が神保町に甦ることを期待しています。

審査講評

 神田神保町の表通りから一歩奥に入ると、突然に金属の多面体の中に小さな映画館とお笑いライブ劇場を合わせ持つこのビルが出現する。
 神田神保町は古本の街、学生の街と言われてきたが、街並みは雑然し最近はあまり元気さを感じられなくなってきている。
 かつてこの地には芝居小屋が点在し神田花月亭の興業も賑わいを呈していたそうで、このビルを契機に興業を復興することによる街おこしが開始された。
 街おこしの起爆剤としての現代の芝居小屋、あるいは街並みを新たに創り出す意志の表出と考えれば、突飛にも思えるこのビルの外観も肯けるものとなる。
 またこの建築は必要機能、予算、建築法規などの複雑に絡み合う問題を鮮やか解決したソリューションとしても高く評価できる。
 この神保町シアタービルは芦原義信賞・奨励賞に値するものとして、街や社会に位置づけられる建築の姿や創造的な新しい建築の可能性を示してくれた。

芦原太郎

協会賞

第8回 芦原義信賞

  • 芦原義信賞
  • 優秀賞
  • 奨励賞
  • 奨励賞
豊崎長屋
作 者:大阪市立大学院 生活科学研究科 竹原義二・小池志保子
審査講評

 この豊崎長屋は築80年の木造長屋を保存再生して、既存の街並みや大阪の住文化を継承することを目指した極めてユニークな試みである。
 外観にはあまり手を加えず以前のイメージを踏襲させているが、内部は耐震補強のうえに設備や水回りを一新させ、更にはヒューマンな魅力的空間を巧みに再生させている。昔ながらの長屋を残したいと考えた大家さんの思いを、耐震改修の補助金や登録有形文化財指定による税優遇などを駆使して、賃貸事業として何とか成立させた見識と努力には敬意を表したい。
 近所の人が自然に通りぬけ、日常の生活が繰り広げられる懐かしい風景が残され、さらにはこの街の魅力で新しく入居した人々の間にも様々なコミュニケーションが発生している。
 このプロジェクトに大学が直接関わることにより、学生たちも現実のなかで多くを学ぶに違いない。街並みに貢献した未来ある新人に贈る芦原義信賞に相応した作品である。

芦原太郎

長岡子育ての駅千秋「てくてく」+千秋が原南公園+信濃川桜づつみ
作 者:山下秀之/長岡造形大学+木村博幸/長建設計事務所+グリーンシグマ+長岡市公園緑地課
審査講評

 信濃川の堤防沿い1.2kmの遊歩道、子育て支援施設、2h aの都市公園が、一体的にデザインされている。
 雪の降り積もる冬にも、大きな遊具で思いっきり遊べる屋内運動広場を備えた[まる・さんかく・しかく]の連なりが特徴的な子育て支援施設。その大きく開放的な窓からは、堤防の勾配に沿って造成した緑のマウンドが視界いっぱいに広がる。円形の造園ユニットによる、せせらぎや水たまり、砂場、野菜畑、ステージ、交差した太いチューブのトンネルなどがつくられた公園では、子供たちが伸び伸びと遊んでいる。長岡市、長岡造形大学を中心に骨格が作られ、サイン、施設の活動を紹介するホームページの編集、イベントの企画など、多くの市民の参加を得て子育ての中核となる場所づくりに成功したばかりでなく、将来にわたり足し・引きできる柔軟さを備えたグランド・デザインによって,まちづくりにも新しい風を吹き込んだ。

近田玲子

開成学園那古宿舎
作 者:大成建設(株) 一級建築士事務所 横地哲哉
審査講評

 房総半島の突端、海をへだてた西の彼方に富士を望む館山湾の鏡浦に建つ夏季のみの臨海学舎である。
 中・高校生の男子の練成の為の施設で一時に大勢を収容するから、キャパシティー一杯に50畳4室と浴室・洗面所・トイレ、さらに食堂・厨房などを、81×10mの長方形の箱におさめた。高床式で1階は鉄筋コンクリートの打放し、2階は木造の黒塗りの杉板張りの外壁とし、背後の防風林の松を越えない高さに抑えた。しかも1階部分の敷地境界沿いにめぐらしたよしず塀がコンクリート部分の目隠しとなり、木造を強調する効果となって自然との融合感がある。さらに10m幅の部屋と廊下を風が吹き抜けるから冷房は不要、夏季限定という条件と予算の制約から、工夫を凝らしたプランとなっている。アートワークは無いが鏡浦の景観に溶け込んだ杉板の外壁の美しさ、それを支えるよしず塀、屋根越しの松などを一体化したデザイン感覚を買う。こうした仕事をこなす経験を重ねた若い人が育つという意味での奨励賞である。

加藤貞雄

東京理科大学長万部キャンパス女子寮
作 者:(株)竹中工務店 設計部 坂口 昭+垣田 淳
審査講評

 長万部の市街地を見晴らす高台に全寮制のキャンパスが設置され、その一画に今回女子寮が計画された。北西に背を向け東南の太平洋を見渡す立地を最大限に生かす為に、全室オーシャンビューの寮室となり、夏の海風が吹き抜け冬の山風を遮断する様な計画を実現する為に特徴的な壁面が計画された。全面打放しによる長い壁は、緩やかに湾曲して部分部分にスリット状の開口部を設けこの建築の造型的な全てを表現している。
 緻密に施工された打放しコンクリートでなければ成立しなかったであろうデザインの質の高さを各所に感じられる。ただ湾曲した壁面が冬の吹雪の時にどんな結果をもたらすのかが気になった。曲面によって構成される内部のフリースペースはコミュニティー空間に利用され、寮生間の濃密な交流が期待される。全体に抑制された材料と色彩計画によって、さわやかな若い女性の感性にふさわしい作品となっている。

岡本 賢

協会賞

第9回 芦原義信賞

  • 芦原義信賞
  • 優秀賞
DNP創発の杜」箱根研修センター第2及び管理棟

撮影:浅川 敏

作 者:石原健也 デネフェス計画研究所・千葉工業大学/
    廣瀬俊介 風土形成事務所・東北芸術工科大学/
    田賀陽介 田賀意匠事務所
審査講評

 この建物は緑の深い箱根の傾斜地に立つ建物である。主要な部分である研修棟は、延べ4000㎡に近い大きな施設であるが、国立公園法による制約を逆手にとって傾斜地になじませた建築にすることに成功し、そのスケールを感じさせない。2つの研修施設と56の宿泊室、食堂、駐車施設等の配置を傾斜面に沿いそれを生かして配置しつつ、各施設からは箱根の緑あふれる環境を楽しめる眺望を確保している。
 複雑な内容の機能を傾斜地に埋め込む作業は、非常に大変だったと思われるが、最上階の食堂の前庭となっている芝生に覆われた柔らかな傾斜屋根に見られるように、パズル解きのような計画のもとに完成度の高い建築としている。研修施設は多くのスタディの結果であるが、クライアントと建築家との見事なコラボレーションにより優れた空間環境と機能を併せ持つものである。
 管理棟は機能重視の建築で、表現は控えめである。 このデザインは全体の建築群のバランスを意識してのようだ。
 これらの建築群と環境を結ぶ付けるものは、綿密に考えられたランドスケープデザインである。 建築とランドスケープデザインの連携がこの施設の優れた点の基本にあることは間違いない。

選考委員 小倉善明

富士山環境交流プラザ

撮影:宮本真治

作 者:大成建設(株)一級建築士事務所 川野久雄
審査講評

 この作品が処女作である設計者には、まさに新人賞としての芦原義信賞が相応しい。
 使われなくなった廣盛酒造所を中之条町が買い上げ、まちを上げて二年に一度開催される中之条ビエンナーレの拠点として位置づけられ、祭りのための収蔵庫の新築や既存の酒蔵を改修して展示空間を創り出されている。
 建築の完成度という富士山麓の朝霧高原にほど近い場所に開発された工業団地に併設されたコミュニティ施設で、工業団地開発の条件として計画され市に移管された施設である。市民との様々な対話の中から市民活動の拠点となる様な機能が求められ、アートギャラリー、工房、会議室、情報コーナーなどが計画された。
 恵まれた自然環境を最大限に生かす為にどこでも富士山の存在が感じられる様な配置とし、L字型に囲まれた中庭を中心に全ての施設が展開される構成となった。
 アートギャラリーや工房は中庭と一体となった展示空間となり正に建築と美術が一体となって響きあっている。蓄熱壁やクールチューブ等様々な省エネに対する配慮や、高原を飛ぶハングライダーの翼を想わせる屋根の形態デザインから若々しい設計者の感性が感じられ、最後まで芦原義信賞を争った。

選考副委員長 岡本 賢

協会賞

第10回 芦原義信賞

  • 優秀賞
  • 奨励賞
  • 奨励賞
長楽寺禅堂

作 者:(株)竹中工務店 東京本店設計部 桑原裕彰・東北支店設計部 葛 和久、佐藤忠明
審査講評

 阿武隈川のほとりに建つ四百年の歴史を持つ曹洞宗寺院の坐禅堂である。
 高床式架構、大屋根自然通風などの伝統建築の要素を現代に置き換えて表現する手法が取られた。近づくと、キャンティレバーの跳ね出しで作られた高床式架構の上に、ボリュ?ム溢れる白漆喰の細長い坐禅堂が浮かび、視線の抜けた先には陽光が当たった生け垣の緑が見える。瑞々しい緑と無垢の白、開け放たれた空間と閉じられた空間の対比が見事である。
 新しい坐禅堂に求められた、本堂を囲む歴史的な景観との調和、宗教建築としての高い精神性を持つ空間の創造は、3.11の大震災でもひび割れ一つしなかった白漆喰壁の選択によって果たされたと言っても過言ではなかろう。その清浄感は、坐禅堂西側の住宅や北側の駐車場が立ち並ぶ雑然とした景観をも浄化する役割を果たしている。大屋根はハイサイドライトを介して白漆喰壁の上にふわりと浮かび、深い軒の先は白漆喰壁への雨垂れを防ぐシャープなエッジで整えられている。 集会にも使われる二階の坐禅堂は、床面から外気を取り込みハイサイドライトを開けて逃がす自然通風に加えて、大きなガラスの片引き窓を開けて風を取り込むことも出来る。表現手法、素材の扱い、細部のディテールのどれもが設計者の豊かな経験、職人の確かな腕を物語っている中で、残念なのがキャンティレバーの力強さを削ぐ太いガラスサッシュである。もっと細く開閉部を少なくすることで、太い柱から解放された空間の美しさと緊張感を、より強く表現出来たのではないかと惜しまれる。

選考委員 近田玲子

豊洲キュービックガーデン

作 者:清水建設+梅垣春記(第一生命) 清水建設(株)一級建築士事務所大西正修、鼻戸隆志、
    インテリアデザイン:(株)フィールドフォー・デザインオフィス志村美治、
    ライティングデザイン:ICE都市環境照明研究所武石正宣、
    サインデザイン:エモーショナル・スペース・デザイン 渡辺太郎、
    ランドスケープデザイン:(株)プレイスメディア 宮城俊作、吉田 新
審査講評

 大正時代後期以来永く造船所として使われてきたこの地域が、都市計画の変更によって現在の街並みに姿を変え始めてからまだ10年にならない。新しい職住近接型の街の中心にこの敷地はある。生命保険会社が事業主のテナントビルである。外構のデザインはスーパーブロック内3事業主の申し合わせによって統一されているため、快適な歩行者空間と豊富な緑が街区に豊かなゆとりをもたらした。
 このビルの最大の特徴は、最新大型オフィスビルとして持つことが望ましいと思われる性能をほとんど備えていることだと言える。免震装置の完備はもとより、オフィス空間では3mの天井高、15㎝のOAフロア、自動制御のブラインドや人感センサー照度センサーによる照明の制御、72時間対応の非常用発電や3日分の飲料水の備蓄等の十分なBCP(事業継続)対応、中央部の吹き抜けを使った外気冷房やナイトパージ、等々、新環境技術を駆使した環境配慮型新オフィスである。中でも1フロア4500㎡を超える大きなオフィススペースは圧巻である。外周部にはガラス窓に面したアメニティースペースが連なっていて、中央部の吹き抜けと相まって広大なオフィスに回遊性を与えている。
 中央の吹き抜けと外部の間の共用部は実用的な大型のアートを設置した、3~5層の吹き抜けとなっていて、ビルに働く人々にとって勤務の合間に訪れる憩いのスペースとなった。  
 現代の理想的オフィスのサンプルと言えるだろう。

選考委員 可児才介

尾﨑呉服店・尾﨑邸

作 者:(株)竹中工務店 広島支店設計部 門谷和彦、秦 敏彦
審査講評

 計画地は鳥取市の中心に程近い旧市街地に位置している。
 付近一帯は昭和27年の鳥取大火で罹災し、その後、区画整理されて2~3階建ての低層の店舗、住宅によって街並みが形成されてきた。 
 計画地には既存建物として数寄屋、古民家、土蔵、店舗などがあったが、今回、新たに住宅や店舗の建て替えにあたって敷地内の再整備を行ったものである。
 計画の主な目的は「既存土蔵の曳家改修による修景」「所有者である尾崎邸3世代のための住環境づくり」老舗店舗の建て替えによる環境整備」に集約される。
 中庭を囲んで既存建物と新築建物(住宅、店舗)を回廊状に繋げた配置は、伝統と現代が程よく融合した庭園によって時の積層を感じさせる空間となっている。各世代が互いのプライバシーを守りながらも家族として一体感を共有できる空間を実現している。 
 表通りに面した新店舗と住宅書斎のシンプルモダンなファサードは、伝統的な和風建築を挟んで地域の新しい景観シンボルになっている。 新旧の要素を対比させながら互いの魅力を引き立たせている。 和文化と現代アートが綾なす新店舗を核に、地域活性の新しいシンボルとなっている。また店舗の3階部分には鳥取大火ですべてを失いながらも再起した画家・尾崎悌之助(昭和61年逝去)の家系に繋がる家柄らしく地域開放型のギャラリーが併設され、地域文化の向上に貢献している。

選考委員 岩井光男