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協会賞

第30回 AACA賞

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    総評
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  • 芦原義信賞
    (新人賞)
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審査総評
 本年は年度始めより新型コロナウィルスの感染拡大に見舞われる中、賞の運営や審査会の開催に大きな憂慮がありましたが、昨年や一昨年の公開査に引き続き、無観客ながら応募者のプレゼンテーションによる二次審査を行い、審査の模様をWEBで公開することができました。応募・発表された方々、二週間の隔離を経て遠路ロンドンから二次審査に駆けつけた川上委員ほか審査員各位、進行を支えてくれた事務局の尽力により、本年度の審査を無事に終了することができました。まずは感謝申し上げます。
 今年は困難な状況にもかかわらず応募数が増え、現地審査作品の選出、並びに最終選考には大いに苦労しました。特に現地審査については安全性の観点から審査員数を原則二人に絞るなど、その是非も含めて大いに議論したところです。
 作品の内容も高速道路のパーキングエリアから修復中のお城の見学通路、ホテル、保育園、集合・個人の住宅、既存建物の大胆な改修など、実にバラエティに富んだものでした。またAACA賞の美術工芸と建築の融合の視点からは、アーティストや美術工芸をエンカレッジしようとするもの、地場の様々な工芸作家を積極的に起用したものなどが多彩なものがありました。
 今年審査員全員が一致してAACA賞に推したのが《京都市美術館(京セラ美術館)》です。帝冠様式の旧美術館の外観をそのままに、大胆に地面を掘り込んで入り口をつくったデザインで、建築だけでなく周辺地域一帯の価値を高めたものとして高い評価を得ました。
 芦原義信賞には、ともすれば凡庸な賃貸住宅になりがちな土地活用の求めに対し、シンプルな建築言語を用いて、集合住宅に愛らしい戸建て集落のような形を与えた《CHRONOS
DWELL》が選ばれました。
 これに続く優秀賞の3作品も、それぞれに特徴のあるもので、《のだの保育園》は伸びやかなデッキで全体をつなぐ大らかなもの、《垂井町役場》はかつてのショッピングセンターを大胆にリニューアルして役場庁舎としたもの、《尼崎パーキングエリア》は機転の効いた細長い棟配置によって快適で美しいトイレ施設をつくるなど、力作ぞろいでした。
 奨励賞は例年より1つ増えて4作品となり、《松原市民松原図書館》が溜め池を保存したまま土木的な量塊の中に明るく流動的な内部空間を仕込んだもの、《木頭の家》がかつての茅葺屋根のイメージを木架構の合掌で再現したもの、《松山大学文京キャンパスmyu
terrace》が既存地下躯体を基礎とした開放的な半屋外テラス、《すばる保育園》は風景の中に溶け込んでたたずむ伸びやかな造形と、4作品のいずれもが大変個性的でした。
 今年は特別賞として《熊本城特別見学通路》を選びました。大きな地震被害を受けた熊本城は20年をかけて修復されますが、その様子を観覧できるようにするもので、遺構に負担をかけないよう空中に浮揚する形になっています。
 一昨年創設された美術工芸賞には、《HOTEL STRATA NAHA》が選ばれまし た。織物や染色、ガラス工芸など沖縄の作家を多数起用した、都心にあっ てリゾートのように寛ぐことのできるホテルです。建築と美術工芸が融合したものとして、審査員の多くから指示 を得ました。
 なお、今年は《東新工業㈱いわき工場アートプロジェクト》に、若手の作家を育 もうとするクライアントの姿勢に美術工芸賞奨励賞を贈ることとしました。
 入選となった6作品は、路地育ちの鶏卵製品を販売するシンプルな木架構 の《mother`s+(マザーズプラス)》、京町家を保存活用したホテル《THE 
HIRAMATSU 京都》、独創的なCLTトラス架構による《大成建設技術センタ ー 風のラボ》、軽やかな木造で開放的な空間を実現した《プラス薬局みさ
と店》、スチロールにコンクリートを吹き付けた量塊がつくる《Soilhouse》、吉田鉄郎の京都中央電話局を立体的なストリートのあるホテルに 改修した《新風館》と、入賞作品に劣らずそれぞれとても魅力的なもので
した。
 コロナ禍にありながら、例年以上に充実した作品を数多く選ぶことができ 、大変うれしく思います。

選考委員長 古  谷 誠 章

京都市立美術館(通称京都市京セラ美術館)

作 者:青木淳 (青木淳建築計画事務所/基本設計・実施設計監修・工事監 修)
    西澤徹夫 (西澤徹夫建築事務所/基本設計・実施設計監修・工事監修)
    森本貞― (株式会社松村組/実施設計)
    久保 岳 (株式会社昭和設計/実施設計)
    高橋匡大 (株式会社高橋匡太/ファサード照明
所在地:京都市左京区岡崎円勝寺町 124
審査講評
 現存する最古の公立美術館(1933)の姿を後世に残しながらも現代のニーズに応える「保存と活用」をいかにすべきか、という課題に様々な角度から取り組み、新しい美術館のありようを示した作品である。
 まず眼を惹くのは、ガラス・リボンと呼ばれる新しいエントランスとスロープ状広場である。西側広場をスロープ状に掘り下げ、かつての地下室を新たなエントランスにすることで、帝冠様式のファサードを変えずに、発券・案内スペース、売店、ロッカーやトイレといった基本的なサービス機能を充実させる要望に応えた。入館者は1階の中央ホールを経て美術館内を巡る。中庭が解放されて屋外彫刻を楽しめるようになった。中央ホールの2階吹き抜け部には新たに東西エントランスを結ぶブリッジが設計されて美術館内部の回遊性を高めている。残念なのは東エントランスロビー側の2階窓ガラスが鉄板のような素材に置き換えられていたことだ。この窓から光が入る又は窓面が光っていたならば中央ホールがどんなに生き生きとなったか。メクラ窓にする他に解決方法がなかったか惜しむ。 特筆すべきは、この西エントランスから東側エントランスに抜けた先に見える「変わっているのに変わらない」新館が加えられた景観と、「変わらないのに変わって見える」日本庭園(1909)の眺めの見事さである。シャンパンゴールドのステンレスチップを象嵌したGRCパネルの外壁の新館は、最初からそこにあったかのように本館と一体の建物として溶け込んで見える。本館と新館に囲まれた小川治兵衛による日本庭園は、1世紀以上前に作庭されたとは思えない新鮮な輝きを放つ。池にはリニューアル時に造られた杉本博司による「硝子の茶室 聞鳥庵(モンドリアン)」が2021年1月末まで展示されている。 改修にあたり本館のファサードに京セラ製LEDの色変換可能型照明が新設された。年間を通して二十四節季を色で表現したり、市民参加によるワークショップで提案されたカラーライトアップが計画されているが、色光を使う際には慎重な判断が欲しい。まず、美術館のすぐ横にある平安神宮の真っ赤な大鳥居のある京都・岡崎の文化的背景、周囲の夜の景観の中で、歴史的建物への光色はどうあるべきかを考える必要があろう。市民がワークショップで提案した案だからと言って、美術館を見る多くの京都市民、観光客にカラーライトアップが受け入れられたと考えるのは早計である。

一般市民の歴史的景観に対する思い入れは深い。建物ライトアップの基本は素材を生かす光色とし、1階旧メインエントランスを舞台にした演奏会を催す時などに、新しい地下エントランスのガラス・リボンと呼ばれるスロープ部分をカラーで演出するなど。地階部分の軽やかさと本館の重厚さの対比を意識して建築の時間の積み重ねを想像させる光を目指し、引き続き検討を願う。

選考委員 近田玲子

CHRONOS DWELL

作 者:藤森雅彦
所在地:広島県広島市安佐南区大町東
審査講評
  広島市の北西部、住宅やマンションが密集する住宅街を貫くように、私鉄の巨大な高架橋が大通りの上を通っている地域にこの作品はある。近年、利便性からこの私鉄の駅を中心にして、高層マンションや低層の戸建て住宅が急激に増加し、従来多くあった農地が次第に姿を消して住宅地へと変貌をしている。広島の中心街で働く若い家族が移り住んできていて、この地域の人口の増加は今も続いている。この作品の敷地はJRと私鉄の駅から近く、大通りから一本入った道に面している。ここも以前は農地であったが、諸事情で住宅地として変貌することになった。
スタートは事業収支の計算で、賃貸アパート15戸を作ることだった。しかしここから、作者の発想がふつふつと湧き出てきたようだ。15戸を4つのコミュニティに分けそれぞれのコミュニティは広場と路地を持ち、4戸の住宅は必ず広場に面する。また4戸の住宅は建物としてつながっており、一つの建築になっている。さらに15戸の住宅には一つとして同じ平面を持つものはない。そんな発想だ。実施にあたっては一挙にすべてを作るのではなく、まず4戸の一つのコミュニティを先行して完成させ、様々な問題点を洗い出した。それらの解決策を盛り込んで残りのコミュニティも完成させたという。子育て家族を対象とした賃貸アパートである。
 前面の道路から近づいて行くと、馴染み易いスケールの住宅群が目に飛び込んでくる。それぞれの空間単位を周辺よりやや小さなボリュームにすることで圧迫感を軽減するという計画の結果である。 写真で見た銀色のガルバのギラギラ感はほとんど感じない。まさに環境に溶け込んでいて前からあったような親しみを感じる。コミュニティ内の路地に入り込むと、子供のころに経験した家と家の間の、探検したくなったあの細い道の空間の記憶が重なる。2階は1階とは平面をずらして配置、入り組むように交差していて、まさに積み木の世界だ。 その結果、別の家の寝室の下が我が家の玄関の前の路地になったり、別の家の屋根が我が家のバルコニーになったりする。個別の住居の領域はしっかり確保されているのに、一方で路地と広場による「弱い境界線」がコミュニティの結びつきを作った。子供たちはこの外部空間を完全に共有しているようだ。住宅の内部も同様に、育ち盛りの子供たちには遊ぶ場所には事欠かない。きわめて新鮮なデザインソリューションであり、芦原義信賞にふさわしい作品である。

選考委員 可児才介

のだのこども園

作 者:水上哲也
所在地:千葉県野田市蕃昌338‐2
審査講評
 この計画は長く地域に根ざした幼稚園が「地域ぐるみの子育て」の必要性から保育機能に加え、卒園生、保護者たちが利用できる施設を併設した新しい「こども園」を構想したことに始まる。コンセプトに共鳴した設計者は敷地の丁寧な読み込みにより、既存の園舎と遊び場そして樹齢100年を超える木々が混在する多様な状態を貴重な環境と捉え、その景観を継承しつつも新しい風景となるコンセプトを基に設計を行っている。ともすると「自然はあるが個性の乏しい風景」になりがちな地域であるが、敷地に存在する大木群が創り出す力強い風景と、生き生きと楽しく走り回る子供たちの風景が織り成す魅力を中心に据え、建築はその背景となることでこの計画の方向性は決まったと言えるだろう。
 現地に立ち、配置計画を読み込むと、長い時間の中で増築を重ねた特徴的な形を持つ既存の3つの園舎に囲まれた園庭が今回の計画に沿って木々の間に伸びやかに広がっている事がわかる。子供たちの活動と心の中心は園舎の広場から木々の間の園庭である。新しい建築は、子供たちの生き生きとした活動の中心となるのびやかな園庭と呼応するような深い庇を持つおおらかな縁側空間が奥まで長く伸びた建築となっている。垂直に伸びる大木の林と対比するような水平な建築はダイナミックであるが、包み込むような優しい表情を持っている。
 その表情を作っている建築の骨格は木と鉄骨のハイブリッド構造であるが、園児や保護者に、建築の圧迫感を全く感じさせていない。材料の特性を活かした構成が優しい表情の建築を作り出している。「木造」にこだわりすぎることなく、子供たちの活動のために適材適所に鉄骨造を駆使し、半屋外の深い庇の廊下に面して全開放可能な引違いのサッシ、レール等のディテールまできめ細かく行き届いた設計は、建築の存在を強く主張することなく、むしろ背景として消える方向となることで、おおらかな居場所を作り出している。図面ではよく解らなかったことも実際の空間を経験することで多様な構成の意味が腑に落ちてくる。
 2階レベルは保育室と木々の間に木製ルーフデッキが広がり、大木を避けるように雁行し、奥の遊戯室へつながっている。この場所に古くから根付いている大きく枝を広げた大木の林と高い空、という、他では経験できない豊かな空間の素晴らしさを感じる体験は子供たちの記憶に深く刻まれるだろう。
設計者はこれらのさりげない佇まいを、優れたアイデアと技術を駆使し実現している。また、表現のためでなく長く使われたためのメンテナンスへの対応が、デッキの雨水処理など、各所の丁寧なディテールに感じられる。どうしたらこどもたちの日々の生活が楽しく安全で、豊かな時を過ごせるのかそして、毎朝ここに来るのを楽しみにしているこどもたちの笑顔が想像できる場所というような建築の本質的目的を理解し、それを優れたエンジニアリングで実現した設計者の力量は素晴らしく、AACA賞優秀賞に相応しい作品である。 

選考委員 堀越英嗣

垂井町役場

作 者:(株)梓設計
    永廣正邦、日比淳、森一広、簾藤麻木
所在地:岐阜県不破郡垂井町宮代 2957-11
審査講評
 コンバージョン建築の醍醐味とは、このような仕事に関わることをいうのだろうと、深く感じ入ることができた作品である。それほどまでに完成度は高い。この域に達するには、おそらく、次のような三つの条件がみたされていることが求められるのだと思う。一点目は、before
/ after で建物の機能が全く異なっていることである。この場合、before のスーパーマーケットに対して、after は町役場であるから、これはもう180度の転換だと言える。それでいて、いずれもこの町に暮らす人々の日常に欠くことのできない存在である(あった)ことは共通しているわけで、この場所と建物は引き続き垂井町民に意識され続けることになるのだ。二点目は、before
の建築的特徴がafter においても有効に生かされていることである。低層の大規模小売店舗に共通する平面形状の特徴、つまり柱間が広く見通しのよい物販スペースが確保されていた中央部が、そのまま執務効率と行政サービスの質を向上させる中央集約型の平面計画に継承されている。このことは同時に、町民に開かれた庁舎のあり方を実直に体現することにつながってもいるだろう。そして三点目は、コンバージョンにあたってbefore
の建築の課題もしくは欠陥であると考えられたことが、創造的に解決され、空間化されていることである。この点については、特に二つの側面から評価することができる。まずなんといっても、奥行きが深く、自然採光と通風が期待できない建物中央部の環境を劇的に改善する方法として採用された「環境井戸」の絶大な効果である。4ヶ所に配置された六角形の平面形状をもつヴォイドを通じて導かれる天空光と緩やかな空気の流れは、薄暗い森の中で出会う陽だまりのような暖かさと安心感をもたらす。また、環境井戸の直下が、パブリックスペースとなっていることも特筆されるであろう。そして、見通しのよい各階の空間の中で、この場所こそが庁舎のコアであることを主張している。続いて、この庁舎が防災拠点施設となるにあたって必要とされる構造補強が、この建築のファサードを極めて特徴あるものに進化させている点が注目に値する。一般に求められる基準の1.5倍の耐震性能を具備するべく付加されたRCのアウトフレームは、扁平であったかつての立面に、端正でありながら彫りの深い表情をもたらしている。リズミカルに連続するフレームがつくりだすフォーマルな陰影は、機能的合理性のみが追求されていた商業施設から、多くの市民が共感する象徴性を纏ったタウンホールへの変貌をいやおうなく実感させるものだ。庁舎の更新が必要となっている地方自治体の多くが財政難にあえぐ中、この町もその例外ではないだろう。その意味において、低コストの事業によって、隔世の感さえ覚えるに違いない庁舎を誕生させたとりくみには、敬服するばかりである。 

選考委員 宮城俊作

尼崎パーキングエリア

作 者:納谷建築設計事務所/納谷 学、 納谷 新
所在地:兵庫県尼崎市南城内地先
 この施設は大阪と神戸を結ぶ阪神高速3剛神戸線の上り、大阪に向かう高架上にある。平成28年に阪神高速道路株式会社が主催しJIA近畿支部が運営主体で実施された設計コンペティションで選定された作品である。敷地は高速道路に沿って約400m、幅20mの細長いエリアに建設された約160mの細長い建物である。阪神高速3号神戸線は道路の両側にグレー色の防音のための背の高いフェンスが設置され、高速道路を走る車の中からは外部の景色が見えず、無機質な空間が連続している。尼崎パーキングエリアの標識が見えるあたりから、前方に緑の塊と木造らしき建物が見え、パーキングエリアがあることが認識され、気持ちが安らぐ。
 車から降り、パーキングエリア施設を見ると、駐車スペースの前面中央に繊細に仕上げられた60㎜ほどの小幅板の下見板張りの細長い壁面と、それに沿って設けられた木の無垢材のベンチ、白く塗装された深い軒庇が連続している。非常に細長いシンプルな建物であるが、スケール感がとても良く心地よい空間となっている。その連続した壁面に設けられた開口を入ると、男女のトイレと自動販売機コーナーが連続して配置されている。駐車スペースからの動線が短く、利用者にとってはうれしい設えである。
 トイレ内部は男女ともに大きなガラススクリーン越しに、道路フェンスとの間に施された緑が見え、室内は柔らかい自然光で満ち溢れている。また、自動販売機のコーナーは外部から機械自体が見えないよう配置されており、一般的なサービスエリアなどに見受けられる煩雑さがなく、全体が簡潔にまとめられ清潔感がありとても心地良い。
 駐車スペースから道路の進行方向を見ると細長い建物がクランクしており、その先に緑に囲まれた広場とガラススクリーン越しに休憩スペースが見え、期待感を抱かせる。その手前にはこの建物のスケールに程よくあったイベント広場、奥には森のテラスなどが巧みに配置されている。また、この建物は高速道路上にあることで、構造的に高架のエキスパンションジョイントに合ったエキスパンションジョイントを設けることや、建物が高架上にあることから耐風圧強度や耐震強度など様々な制約がある中で計画されているにもかかわらず、それらを感じさせない。設計者の優れたきめ細やかな優れた力量を感じさせる。
 設計者が目指した、利用者が高速道路上にいることを忘れてしまうような軽快で心地よい空間が実現している。 

選考委員 東條隆郎

松山大学 文京キャンパス myu terrace

作 者:(株)日建設計
    勝山太郎、多喜茂、甲斐圭介
所在地:愛媛県松山市文京町4番2、10、
審査講評
 間もなく創立100周年を迎える伝統ある大学キャンパスには、創立時からそのままの状態で保存されている原風景としての中庭が存在している。その中庭に隣接する校舎が耐震上の問題から解体される事になりその跡地に中庭を生かした学生の交流施設を計画する事となりこのプロジェクトが始まった。当初は室内スペースを計画する案もあった様だが、中庭と連続するオープンな施設が松山の温暖な気候ともマッチしてキャンパスの中心施設にふさわしい計画となった。コストセーブの観点から既存校舎の地下躯体を解体しないで残存する事となり、その地下壁面を基礎として利用して構造を構築するに当たって単柱状のものよりも長方形の構造体が有効であろうという発想からユニークな長方形口の字形の鉄骨フレームを耐震性を考慮して向きを変えて林立させる計画が生まれた。ランダムに配列されたリング状の鉄骨フレームの上部に軽やかな屋根を架け先端を極力薄くシャープに見せる事によって、風が吹き抜け背後の中庭とつらなって透明感のあるスペースを創り出している。2階のデッキからはるかに松山城を望見され日差しの降りそそぐ居心地の良い場が出来ている。この建築の最大の特徴は長方形型リング状のフレームの林立である。リング状の構造体は床スラブアンカーを簡素化して、屋根材との間にも間隙を見せる様にして全体が浮いた様に見せる工夫をした結果長方型リングがゆらゆらと揺れている様な情景となり、シュールな感覚を感じさせる新しい空間イメージを創造している。点在する椅子、テーブル、ベンチもスチールの折り曲げ加工と人工木を組み合わせた同じコンセプトで統一されていて好感が持てる。2階テラスの手摺形状が視点によって閉鎖的となる事にはもう一段の工夫が必要だったかも知れない。オープンテラスにした結果が現在の新型コロナウィルス対策にもはからずも有効となった事も設計者にとってはラッキーな事だろう。 

選考委員 岡本 賢

松原市民松原図書館

作 者:高野洋平・森田祥子
所在地:大阪府松原市田井城3-1-46
審査講評
 松原市民松原図書館は農業用水の確保を目的とした「ため池」の中に建てられている。「ため池」の一角を敷地として設定されたプロポーザルで選定された計画であり、「ため池」を埋め立てるのではなく、長い間存在してきた「ため池」の風景を守り、水のある環境と共生することで、図書館もまた当然のごとくこの地に存在していたかのような佇まいを見せている。傾斜のある外壁は、淡い落ち着きのある赤茶系のカラーコンクリート打ち放しであり、池に面して連なる住宅や隣接する親水公園の風景の中に自然に溶け込んでいる。開口部が少なく壁面量が大きいにもかかわらず、建物の大きさや圧迫感を感じさせない落ち着いた親しみの持てる存在感のある外観となっている。
 エントランスから内部に入ると、受付とエントランスホールがあり、そこから1mほど下がった一般開架のフロア全体が見渡せる。奥にある「ため池」に面した開口部からは柔らかな自然光が差し込んでいる。一般開架フロアから水面が見える位置に開口部があればより周囲との自然とのつながりが感じられ、さらに心地よさが増すのではと思われる。書架の配置は手前から奥に向かって徐々にカーブしており、書架の側面のコンクリート版を模した特徴的な側板のサインの向きもそれに倣っており、利用者に期待感を抱かせ人の動きを誘発させると思われる。
 この一般開架フロアから上層部に立体的に連続して大きな空間がつながり、図書館全体の構成が見て取れるようになっている。この空間のどこにいても、自分のいる場所が理解できることが、図書館を利用する人々にとって、安心感につながるのではないだろうか。また、連続した空間の視点の先々に開口部があり自然光が差し込んでいる。開口部が少ないのにもかかわらず閉塞感がない。開口部の位置、大きさや光の量が程よく、図書館空間全体に落ち着いた穏やかな雰囲気を創り出しているのが心地よい。長時間の滞在にも心地よさが持続しそうである。
 このような外観・気積の大きな内部空間を支えているのが土木的な考え方の構造や施工技術である。それは厚さ600mmの外壁と池の水を止水し池の底から構築する技術である。床は鉄骨の柱・梁で支えられ外壁とはピン接合となっており、外壁は鉛直荷重のみ負担する考え方で構成され、自由度の高い内部空間が実現しているのである。
 この敷地に隣接して、松原市民体育館、松原中央公園や松原市文化会館など市の公共施設がある。その中でこの特徴ある市民図書館はこの地区のランドマーク的な存在となり、多くの市民に親しみをもって利用されることが期待される。AACA奨励賞にふさわしい作品である。

選考委員 東條隆郎

木頭の家

作 者:坂東幸輔建築設計事務所 坂東幸輔・藤野真史
    なわけんジム 名和研二
所在地:徳島県那賀郡那珂町
審査講評
 徳島の山中、高知県堺に近い那賀町木頭にある築150年の古民家改修のプロジェクトである。既存の古民家はいわゆる古民家風の外観を保ってはいなく、何回もの改修過程を経て通常の民家の状態であった様だ。今回の改修計画の調査によって創建当初は寄棟造りの茅葺屋根だった事が判明している。改修計画に当たっては150年続いた木組の躯体を生かし創建時から変えられた瓦屋根等の様々な変更部分を撤去して、新しく大屋根を架け外周りも新しく増設する等、一見して新築家屋に見える様な計画となった。
 大屋根はかつて茅葺屋根の勾配をもつ寄棟とし、集落の中で象徴的だった家屋の風格を再現している。林業を営む建主の要望で林業の伝統工具や所作を展示するギャラリーを計画に取り組む為、大屋根で生まれる小屋裏の空間を無柱の大空間として計画した。地元産の杉材の登り梁を贅沢に使用し、寄棟の4面の版状を持ち合いに構成して束立てのない空間を実理している。連なる杉材の登り梁の美しさがこの建築の最大の魅力となっている。
 屋根面には、4週を巡るスリット状のスカイライトを設置しギャラリーの足元からライトアップの様に登り梁を照らし上げている。創建時の骨組みを生かした保存、再生ゾーンと新しい居住スペースの間に吹き抜けの土間空間を計画して小屋組の美しさを見渡し、通り抜けの集落の風景と一体となって、昔の田舎家の土間空間の懐かしさを感じさせる。保存再生ゾーンには、囲炉裏や仏間、玄関、接続する和室の構成等当初の面影を再現し、その周辺に新たな縁側を巡らせている。古民家の懐古部分を生かし、その周囲を新しい感覚で構成する。「入り子」構造の様な計画がこの建築の新しさであろう。
 白色鋼板の寄棟屋根は周辺の環境からは少し浮きあがって見えるが、時間と共にこの里山の地になじんで土地の象徴となっていく事を期待する。 

選考委員 岡本 賢

すばる保育園

作 者:藤村龍至/RFA十林田俊二/CFA
所在地:福岡県小郡市大保960
審査講評
 福岡市郊外の田んぼの中に建つ平屋の保育園である。クライアントからの要望の一つは、熊本地震のような震災に強く、福岡県周辺に多いPM2.5や黄砂から子供達を守る建物であること。もう一つは、身体の発達に大きく差がある3歳児未満児(0,1,2歳)と3歳以上児(3,4,5歳)の園舎を、大きく2つの部分に分けることであった。
 設計者はこれらの要望を同時に解決するユニークなプランを実現させた。子供たちの安全を守り、かつ子供たちの成長に寄り添い、豊かな自然環境と一体になる園舎を実現させるため、2つの大きなカーブを持った平屋をS字状に結んで配置する計画である。一つは西側の鎮守の森を中心にカーブを描く3歳児未満児(0,1,2歳)用、もう一つは南側の水田を中心にカーブを描く3歳以上児(3,4,5歳)用の平屋である。
 2つの建物のカーブの内側は壁のない開いた空間としつつ、カーブの外側に耐力壁を集約させ、2つのカーブした建物をS字に組み合わせることで構造的バランスを取り、震災にも耐える建物の強さを確保した。又、PM2.5や黄砂などから子供たちを守るため平常時は可能な限り窓を開けないで過ごすことから、窓を開けなくても新鮮な空気を安定した温度で取り入れる地中熱利用換気システム、省エネシステム、エネルギー利用管理システムなどを導入した。
 S字の結節点にエントランス、職員室、応接室、調理室などの本部機能が集められている。エントランスを抜けて、3歳児未満児(0,1,2歳)のエリアを右手に見て直進すると、緩やかにカーブした幅4mの日当たりの良い廊下、音楽演奏や屋内での運動に使う広々としたホールがあり、その先に3歳以上児(3,4,5歳)用のエリアが続く。園児を寝かした後の保育士さんたちの楽しそうに働く姿が印象的だった。
 ホールに柱と梁は一切なく、天井高さ4m、横15mスパンの舞台中央はドーム状に上がっている。舞台に立つと残響が気になるが、音楽会を聞きに来た保護者や演奏者からは音の響が良いと気に入られているそうである。お椀を伏せたようなホールの屋根形状は、どのくらい持ち上げると屋根スラブのひずみを最小に抑えることができるか計算したアルゴリズム・デザインによって、最終形状が決められた。
 敷地の外から保育園を眺めると、盛り上がったホールの屋根と遠くに見える花立山の形が重なって見える。コンピュータープログラムを使って導き出したお椀を伏せた形の屋根と、昔からこの地域の人に親しまれている自然の山・花立山。二つの山が双子のように並んで乳幼児が大好きな「おっぱい」が形づくられた。

選考委員 近田玲子

熊本城特別 見学通路

作 者:(株)日本設計 塚川 譲・堀 駿
所在地:熊本県熊本市中央区本丸地内
審査講評
 クマモンでお馴染みの熊本城内を見てきた。20年間限定の特別見学通路だ。2016年4月、熊本地震により熊本城は甚大な被害を受け、熊本城の復旧工事完了までは約20年の時間が必要となった。
 本計画は、まちのシンボルである熊本城の復旧工事、その場で文化財の復旧過程をリアルに見る事が出来る建築(開かれた復旧工事)を実現させる計画だ。
 時流に合った画期的な計画と思った。2019年3月から設計をスタートした。4つのコンセプトの基軸を立てた。 1.遺構に配慮する。 2.安全を確保する。 3.既存樹木を残す。4.復旧風景を見せる。
 特別史跡内は地面を一切掘削等できないため、既存地盤形状に合わせた置き基礎とする。
 また、20年後の解体時に現状復旧できるよう既存地盤と本工事の建材が混じり込まないように縁を切る必要がある為、ワイヤーメッシュを敷設した。その後、均しコンクリートにて基礎下端レベル出しを行い基礎を施工している。遺構、石垣を守る施工として、適材適所の構造架構考え、全長350m、高低差21mのルート等に合わせ、アーチ構造、リングガーダ構造、方杖トラス構造など、敷地特性に合わせた選択をした。手摺はトラス状とし制振性能を持たせた。
 通路の床板および根太は熊本県産のヒノキ材を使用し、この場所に馴染む素材であると同時に構造の軽量化にも役立っている。足元へはLED照明を仕込み床面のヒノキから欄干メッシュへ光をあて、通路全体を柔らかな光で包まれるよう配慮した。この計画の取り組みは新たな観光資源の開拓やこれからの文化財と建築の新たな関係性を築く一手となる事を願っている。
 「歩いて、見て、楽しむ道」つながりで一つ話題にしたい。私用で昨年5月にニューヨークのマンハッタン地区の再開発、ハドソンヤードに立ち「ベッセル」を見てきた。巨大な鳥籠のようで、歩いて廻る展望台だ。地上46mの16階建てに相等し、階段154段、踊り場80、トーマス・ヘザーウイツクというイギリスの建築家の設計との事でした。人は自然の中でおもしろそうな物を見て回り、健康で楽しみながら生きてゆきたいと願っている。今回の見学通路は訪れる多くの人々に夢を届ける素敵で、特別な道です。だから選考委員の総意で、特別賞に決定された。 

選考委員 米林雄一

HOTEL STRATA NAHA

作 者:富山晃―(全体統括)
    中原典人・湯川ちひろ・友口理央・佐々木絢子・小泉智史・藤田はるひ[UDS]
    渡瀬育馬・内海大空 [Dugout]
    長堂嘉範・伊波和哉 [デザインスタジオ琉球楽団]
所在地:沖縄県那覇市牧志1-19-8
審査講評
 沖縄那覇市中心部の再開発に伴い建設されたシティーホテルである。
 設計者は、この地が14~15世紀の琉球王国時代には、アジアから首里城への交流文化の道・長虹堤の要所だったことに着目し、その地層をデザインダイヤグラムに、Ryukyu Nature Modern をデザインコンセプトに掲げ、地質データによる土色を低層から高層部へのデザインの底流に一貫している。 
 建築計画では客室タイプにおいても様々な工夫がされて、なかでも2層分の天井高と天井一杯の開口をとおして、ベッドにいながらも沖縄の空を大きく体感できる客室は圧感で、頭上の高さと共に外部への広がりが空間体験に特別な変化を与えてユニーク。また広いバルコニー付き3面開口のある部屋からは市街風景をパノラマ展望できる開放感など特徴的な客室空間が多く設けられている。
 内部仕上げは、全館隅々まで沖縄の自然に誘うように床、壁、家具に自然素材が選択され、職人の手で丁寧に組み込まれていてシンプルだが心地よい。
 美術工芸についても、多彩な沖縄の伝統工芸技術が網羅されて、随所に小気味よく配されて、デザインコンセプトに則り統一感をもたらしている。沖縄クチャ(泥)や赤土などによる左官仕事が、壁面レリーフアートに丁寧に塗り込まれ、琉球ガラス工芸はランプシェードやタンブラーに内装と呼応したオリジナルデザインで、またホテルでは重要な要素であるファブリックには、首里織(首里道頓織 、花倉織)がカラープログラムに則って、クッション・スローに用いられ、薄手の優しい織がテーブルランプの光を穏やかに透過して上品に活かされている。最も特徴的な琉球紅型の伝統技術は、客室やレストラン、ロビーに、新しい歴史的テーマやモチーフ、色合いによる現代の紅型壁画として飾られて新鮮である。琉球伝統技術を受け継ぐ若手作家との熱い会話の積み重ねを通して、沖縄の工芸美術が現代の空間に融和して清々しい雰囲気を提供している。
 琉球石灰岩が多用されたレセプションロビーやカフェから連続して広がる緑豊かな庭園に、屋外プールを挟んで別棟レストランが望め、身の丈ほどの軒の低い赤瓦の沖縄民家のそのたたずまいは趣があり、隣接するこの地独特のお墓を抱く豊穣な森が借景として生かされている。最上階の水盤のある屋上展望テラスは、バーと一体となって市街地風景が一望できる。
 このように、全館を通してあらゆる要素において、豪華さや装飾性とは逆にシンプルであり、内外を連続する開放的で自然素肌感覚が入念に織り込まれて、この地の自然環境と一体化する工夫が凝らされている。海辺のリゾートホテルとは違い那覇市街中心部にありながら、訪れる人々に多様な空間体験を通して沖縄を発信する姿勢を実現し、ホテル運営を設計グループ自身が行うことでシティーリゾートホテルとしてのホスピタリティーが一貫している。
 建築美術工芸の新しい融合の姿を具現した作品としてこの賞に相応しい。

選考委員 藤江和子

東新工業(株)いわき工場アートプロジェクト

作 者:『チーム :アート★よつくら』
    川辺 晃、中村茂幸、大隅秀雄、吉田重信、平山健雄、
    根岸 創、藤城 光、久野彩子、青山ひろゆき、久木哲夫
所在地:福島県いわき市四倉町字栗木192-5
審査講評
 秋の日差しの穏やかな日、私は建築家S氏と共に福島県いわき市四倉町、「東新工業㈱いわき工場アートプロジェクト」をたずねた。周囲は里山がゆるやかに続き、背後に太平洋の海が望める環境に恵まれた敷地である。 今回計画された「チーム:アート・よつくら」プロジェクトは美術大学で学び、独立し作家活動をしているアーティストと地元福島のアーティストが「つなぐ」をテーマに制作し、地元石材、建設関連の有志の方々も加わり、様々な視点が生かされた取り組みとなっていた。
 東新工業㈱いわき工場は、携帯電話・自動車等の電子部品のメッキ加工の工場で、今まさに伸び盛りの会社です。 各地に工場が新しく展開し、海外労働者の受け入れや、海外技術支援も行なって、昨今のコロナ禍の中で、世界中が戦々恐々としている時も今の時流に乗った新しい企業イメージの会社でした。
 10人の参加アーティスト達は豊かな感性で、「繋ぐ、絆なぐ」に合ったそれぞれの言葉で語りかけます。手と手を取り合い繋ぐ様を表したイメージをさらに発展させ、四倉の地、海そして工場がしっかりと握手を交わし正面ゲート前にドッシリと立つオブジェ。工場前の広場には近くの地中から出現した「巨大な卵石」と名付けられた石
(約25t)。東日本大震災から復興のシンボルともなった「水葵」や「オーガニックコットン」をモチーフとした造形作品。津波によって更地となった土壌に水葵が小さく芽吹き、自然の再生と循環に勇気づけられこの地に咲く草花、訪れる鳥や風。その喜びの様を込めた絵画。海風を受け、たえずゆらりゆらりと動く金属製の動く彫刻は、いわき四倉工場の製品が広く世界へ送りだされ、新しい発展に繋ぐ象徴的な位置に設置されています。工場前庭や外に4作品。内部では会議室、社員食堂、玄関、工場内などで6作品設置。 紙面の都合で全部にはふれられませんが、ここで代表取締役社長 山﨑慎介氏の言葉を紹介します。「芸術は心の栄養のようなものだと思います。長い間を過ごす会社にいる間に、芸術作品に触れることが、仕事に対するモチベーションになればと考えています。そして、家族に自慢できる会社にしたい。」 まさに私たちアーティストが思っている事を明快に話していただきました。美術工芸賞は今年で3回目です。作家側が主体となって応募されたものです。素朴な面や、未熟面が多々あると思われる中で、今後さらに研鑽を積まれる事を願いながら、「美術工芸賞奨励賞」に決まりました。他の選考委員の方々からはクライアントの方こそ何かを受けるべきでなかろうかと囁きがありました。社長と作家両者に心からの拍手を送りたいと思います。    

選考委員 米林雄一

入選作品[6作品]

協会賞

第29回 AACA賞

  • 審査
    総評
  • AACA賞
     
  • 芦原義信賞
    (新人賞)
  • 優秀賞
     
  • 優秀賞
     
  • 優秀賞
     
  • 奨励賞
     
  • 奨励賞
     
  • 奨励賞
     
  • 美術
    工芸賞
審査総評
 昨年の公開審査に引き続き、今回も二次審査を応募者のプレゼンテーションによる公開審査として行い、発表された方々を始め、選考に当たられた審査員各位、進行を支えてくれた事務局各位のおかげで、無事に終了することができました。まずは皆様に感謝いたします。
 今年また格段に応募作品の質が向上し、現地審査対象作品、並びに最終選考には大いに苦しみました。作品の内容も大規模な大学図書館や講堂や大小の商業施設から、オフィス、個性的な住宅、既存建物の大胆な改修など、実にバラエティに富んだものでした。またAACA賞ならではの美術工芸と建築の融合の視点からは、両者が独立してあるというよりは、その境界が曖昧になり、建築にアートが自然に溶け込んだもの、または建物の一部が、建築の要素でありながら高度にアート化されたものなど、多様なものが見受けられました。
 そんな中で今年圧倒的な説得力を持ってAACA賞を獲得したのが《福祉型障がい児入所施設 まごころ学園》。「施設」でありながら「家」を彷彿とさせるブレークダウンされたスケール感と、子どもの生活環境にふさわしい細やかな空間の変化を内包する機知に富んだデザインで最終審査において審査員全員の支持を得ました。
芦原義信賞には環境性能を重視する独創的なクライアントの要請に、綿密な思考とものづくりへの果敢な挑戦で応えた《淡路島の家》が選ばれました。 淡路瓦の技術を活かして、日射遮蔽や通風のための独特の外部シェルターを形づくる弓なりにカーブを描くユニークな「日除け瓦」を実現しています。
 これに続く優秀賞の3作品も、それぞれに特徴のあるもので、《早稲田大学37号館早稲田アリーナ》は同大学の旧記念会堂を建て替えたもので、大規模なアリーナを地下化して地上をランドスケープで覆うもの、《SYNEGIC Office》は本社屋をCLTによる大胆な木構造でつくるもの、《UTSUROI TSUCHIYA ANNEX》は古くからの情緒を保つ城崎温泉で、元の消防署をゲストハウスに改装する斬新な試みで、何れ劣らぬ力作ぞろいでした。
 奨励賞3作品は、《日本橋旧テーラー堀屋改修》が木造を補強する方杖状の部材を構造用の鋳鉄でつくって独特の雰囲気を出しており、《ACADEMIC-ARK@OTEMON GAKUIN UNIVERSITY》が新キャンパスでの学生の拠点となる図書館を大きな逆三角錐状の形でつくり、その外皮をステンレス・ダイキャストで製作した透ける金属スクリーンで覆ったもの、もう一つの《La・La・Grande GINZA》が小ぶりな店舗ながら、動線の集中するその外皮を緻密なサッシュワークで美しく構成しており、3作品のいずれもが建築の一部を美術工芸化したものと言えます。 最後に昨年度に創設した美術工芸賞には、《i liv(アイリブ)》が選ばれました。銀座の中央通りに面するその正面全体を、ウェーブするガラスルーバーで造形したもので、そのイルミネーションとあわせて、建築そのものが美術工芸としてのアート作品に結晶しているとして、審査員の多くから指示を得て選ばれました。
 毎年のことながら今回もこのように充実した作品を数多く選ぶことができ、大変うれしく思います。

選考委員長 古  谷 誠 章

福祉型障がい児入所施設まごころ園

作 者:山下秀之 木村博幸 江尻憲泰
所在地:新潟県見附市田井町4476
審査講評
 全国の知的障害者の数は100万人を超える。その1割強が施設に入所していて、その中の多くは家族に見捨てられたり、虐待を受けたりして、行く場所のない子供達(人達)だ。この学園はそのような障害児(障害者)を生涯にわたって受け入れる「終の棲家」である。新潟県にある9か所の公立施設の一つである。
 長岡駅から車で30分程、のどかな田園の中を走り抜けると小高い丘陵地の森の中に学園が見えてくる。敷地の南側には既存の施設があり、駐車場を挟んで北側に平屋の新しい施設がある。優しい色合いの檜の板に包まれた小さな部屋の単位が、雁行しながら施設全体を形ち作る。海沿いにある出雲埼町の「妻入り屋根の波状」と言える家形群が作る美しい街並みにインスパイアされたという。従来、障害者施設では難しいとされてきた木質を全面的に取り入れた画期的な取り組みである。
 平面の構成は、長崎の出島の一角にあった街並みにヒントを得た。管理施設部分を取り囲むようにL字型の居住室棟が、出島の海部分に当たる中庭を挟んで配置された。どちらに歩いて行っても元の場所に帰ってくる「円環」の構成になっていて、入所者にとっての「気配が見える空間」の効果をもたらしている。居室群の基本的な軸線は既存の建物に並行なのだが、全体の平面はその軸から18度、西側に傾けてある。その結果、内部には様々な空間が発生して楽しさや躍動感が生まれた。従来のこの種の施設ではできるだけ問題が起きないように四角い箱空間が管理者に好まれるのだが、ここでは学園長をはじめ運営する側と設計者が敢えて子供たちの心を動かす空間づくりに取り組んだ。「木質の空間は本来、触感、香り、調湿性、ぬくもり等、人がじかに触れることで情緒を育む大事な方法」という学園長の言葉に勇気づけられ、その工芸的な多くの工夫とも相まって、結果としては入所者だけではなく、スタッフや来訪者が居心地のよさを感じるものになった。限られた予算の中で地元の大工さんたちが扱いやすい、一般に流通している小径木を徹底的に使いながら厳しい構造条件をクリアした点も特筆に値する。
 学園やスタッフの皆さんとともに、常に真摯に障害者と向き合い寄り添いながら作り上げた、名前通りの「まごころ学園」はまさにAACA賞にふさわしい作品である。

選考委員 可児才介

淡路島の住宅

作 者:末光弘和 末光陽子 田中建藏/SUEP.
所在地:兵庫県淡路市
審査講評
 この住宅は、淡路島北端に位置し、左手に明石海峡大橋が架かり、瀬戸内海を挟んで神戸の街を望む眺望の良い斜面に建ち、海岸通りから見上げると、大きな開口が特徴のひときわ横に長いシンプルでモダンな佇まいである。
 急な斜路を上り視界が一度途切れた後、住宅の妻側入り口に差し掛かると、驚くことに、全く違う見たことのないユニークな姿があらわれた。不思議な大きな彫刻のように、独特の様相をした大きな土のオブジェのように存在する衝撃的といえる建ち姿である。角を丸く塗り込まれた土壁の二つのボリュームの間が切り通しになって瀬戸内海を見通せる。その上に瓦の鎧をまとったような、ひとまわり大きな編み籠状の切妻家形が載っているのである。地元の淡路瓦は多くは灰色だが、ここでは釉薬をかけて土壁と同じ表情を纏わせているから、大地から生えでたように見える。成形された瓦は、スチールフレームに簡単に取り付けられて、塗り込められた土壁の粗密感と呼応して人の手の優しさが感じられる。瓦は、この場所の太陽光の年間軌跡から導き出したという弓形状をしていて、冬は最大限の陽光を取り込み、夏の日射を80%も遮蔽するカーブなのだという。
 計算された曲率と歪んだ弓形状は、見る角度によって思いがけない透過と立体的な変化をもたらし、25ミリの厚みによって柔らかい表情の影を落とす。2階に上がると一挙に視野が解放されて視界の全てに瀬戸内海が開ける。居室部分は下見張壁と大きな木建具のガラスで構成され、土瓦の皮膜がテラスや通路幅を離して連続して繋がり豊かな半屋外空間が成立している。屋上には断熱の土を乗せトップライトやソーラーパネルを巧みに配し、地中熱の利用や斜面に設けられた小さなプールの循環水による徹底したゼロエネルギーをも追求している。更には雨水による家庭菜園や稲作という自然と密着した生活や随所にセンスの良いセルフビルドを楽しむ生活の様子が、住宅の内外に溢れ出て見え、人間の生きる力や生きる喜びという根源的な生活の姿が展開されている。豊かな建築空間とは、豊かな生活とはまさにこのことをいうのではないだろうか。この住宅にはそれが十二分に感じられるのである。
 この地を選び、根を下ろそうとする住み手の哲学が見事に具現化された。深い感動を覚える素晴らしい建築。芦原義信賞に相応しい淡路島の住宅である。

選考委員 藤江和子

早稲田大学37号館 早稲田アリーナ

作 者:水越英一郎、篠崎亮平(㈱山下設計)・宮崎俊亮(清水建設㈱)・吉村純一(プレイスメディア)
所在地:東京都新宿区戸山町1-24-1
審査講評
 少子化がすすむ時代、大学のサバイバルをかけたキャンパスのリニューアルが国内の各地で相次いでいるが、ともすれば安全安心を第一義的に考えるあまり安易な管理主義に陥り、地域に対して閉鎖的な空間をつくってしまいがちである。しかし、この作品はそのようなトレンドに対して、穏やかに、しかしそれでいて確固たる信念のもとに提示された明快なカウンタープロポーザルであるように思う。もとより、早稲田の街と早稲田大学のキャンパスは、これまでも渾然一体となった状況を呈してきた。その歴史的な経緯と伝統をしっかりと継承しつつ、コミュニティ根ざした新しい時代のアカデミック・アルカディアを象徴的に表現している。
 神田川の支流に沿って展開する敷地のコンテクストを、丁寧に読み取ることによって提案された「戸山の丘」、その斜面の緑地と緩やかなつづら折れの通路は、頂において生まれるアクティビティを予感させるようにやさしく人を導いてくれる。丘を上り下りする人の動きは、そのままこの場所に固有の風景となるであろう。丘の頂部には、おおらかな球体の面がつくる芝生がひろがり、表面の柔らなテクスチャーは学生や教職員のみならず、近在の市民をも惹きつける魅力的な場所となる。また、丁寧につくりこまれた舗装面をはじめとするディテールデザインが、利用者にとっての使いやすさ、馴染みやすさをさらに高めているように感じられる。さらには、広場の周囲には、屋根から集水した雨水を活用した小さな湿地も形成され、多様な植物種を含む植栽計画とともに、生物多様性の保全と再生にも貢献することであろう。
 この空間は、建築とランドスケープがプロジェクトの最初期の段階から綿密なコラボレーションを重ね、明快なコンセプトとその価値を共有し続けたからこそ可能となったものである。建築家にはいささか失礼な物言いになってしまうかもしれないが、床のレベルをほり下げることによって確保されたアリーナの空間は、この緑の丘のためにこそある、そう申し上げても過言ではないであろう。

選考委員 宮城俊作

SYNEGIC office

作 者:堀越ふみ江 長谷川欣則
所在地:宮城県富谷市成田1-9-5
審査講評
 圧倒的な印象を与える木架構の内部空間である。クライアントは木造用ビスメーカーであり、その新社屋として計画された。クライアント側からの要望が木質構造の魅力と可能性を広げ、木造建築の普及に貢献するように求められたという。
 敷地は仙台郊外のベットタウンの中で周辺は住宅と商業施設が連なっている。クライアントの要望から導かれた建築は、基本的に4点支持からなる4枚のHP曲面で構成された木造大屋根形状がいわゆるオフィスビルのイメージと全く異なった建築を創造し、周辺の街の景観と調和している。無柱の三角形板とCLT部材によるトラス構造の美しさは抜群で、端部では直接トラスに触れる事のできる高さに設定され落ち着いた密度の高いオフィス空間を実現している。
 エントランスから続く吹き抜空間に展開する階段や手摺等にも全て木のぬくもりを感じさせ、オリジナルデザインのテーブル、ベンチに至るまで肌理細かいデザインが施されている。1階部分は応接室、実験室の他サービス諸室が配されているが、いずれも材質を抑えてシンプルなデザインで一貫している。外観は妻側に大きくせり出した木架構象徴的で地域のシンボルとなっている。ただその下の設備スペースの存在が気になる。道路沿いの外観から内部の木架構の姿がもっと大胆に望まれるようになれば一般市民に対してこの建築、更にこの企業のインパクトが強烈になったのではないかと感じた。
 近年木構造の使用が多用になり様々な美しい木架構が実現しているが、この建築は更に木造の魅力を広げたものとしてAACA賞優秀賞にふさわしい作品である。

選考委員 岡本 賢

UTSUROI TSUCHIYA ANNEX

作 者:垣田博之
所在地:兵庫県豊岡市城崎町湯島字湯之元584-1
 この建築は平安時代から続く城崎温泉の温泉街の奥、大谿川を越えたところに散策する人々の流れを気持ちよく受け止めるように佇んでいる。しかし以前は、古い消防署がこの温泉街の突き当りに唐突に存在していたことで、景観的には少し違和感のある印象であったと思われる。この計画は、近年使われなくなった旧消防署を有効利用するために市が主催した公募プロポーザルで選ばれている。
 この建築はその場所性からこれからの城崎温泉の発展にとって、重要な場所に位置していることがわかる。設計者は温泉街全体におけるこの場所のあり方を熟慮し、既存の消防署の建築をリノベーションすることで、風景を唐突に変えることなく緩やかに景観を変化させる手法で爽やかな解決策を見出している。
 その一つは、この地域に特徴的な霧の空気感を建築のテーマとした「川霧」という名前で呼ぶステンレスメッシュのスクリーンで、余分な要素を一旦削ぎ落とした既存の建築を包み込んでいる。このスクリーンは工業用ベルトコンベアのステンレスメッシュを利用した素材で、ローコストでありながら、日本建築の簾の持つ豊かな半透明性を耐久性に優れた現代の技術で表現している。
 実際に現地審査に訪れた日は、この地域特有の小雨まじりの天気であったが、「川霧」メッシュによって「うつろい」と空間の「奥行き」を実感する事ができた。また旧消防署の機能から生まれている天井高や床高の変化を利用し、城崎出身の日本画家山田毅氏の地域を描いた風景画の壁面とカフェや前面のデッキに佇む人の心地よい関係が巧みに計画されている。1階奥の壁やメッシュ越に見える2階客室の壁面絵画が通りから後退した建物の前面デッキ空間とともにこの場所に温泉街の突き当りの風景を和らげる爽やかな「奥性」をもたらしていることが実感できる。設計者の力量は建具やメッシュの精緻な収まりのディテールなどから伺えるが、「街の風景、地元の風景絵画の壁面と一体化した建築と美術の融合がもたらす豊かさ」を実現するためにあるという理念を持つこの建築はAACA賞優秀賞に相応しい作品である。

選考委員 堀越英嗣

日本橋旧テーラー堀屋改修

作 者:三井嶺
所在地:東京都中央区日本橋本町3-6-5
審査講評
 本建物は、近年発展が著しい日本橋の、高層ビルに両側をはさまれている小さな事例である。
 築88年にもなるという木造2階建(実際は2階+ロフト)の、いわゆるこの時代の看板建築の耐震補強+改修であり、2階以上を住宅とする計画と共に、1階のテナントスペース(江戸切子の店)を如何に開放的な空間とするかを第一の建築的課題としている。現地を訪れると、その設定の正しさが実感された。
 一般に言えば、耐震補強に限らず、ブレースや壁体抵抗が容易な木造において、開口部を大きくとることは容易ではない。ここでは既存部分の本来の構造性能や材料の劣化を考えて、木材の再利用は行わず、新しいラーメン的な門型補強とする。これを「解」とし、追加する耐震要素により、すべての地震力を負担できるよう構造計画が進められた。まず、1階の層せん断力を6つの補強フレーム(12ピース)で負担できるよう、必要な耐力と剛性が決定された。この補強フレームには鉛直力を伝えず、水平力のみを期待することとし、既存の柱は従来通り鉛直力を支えている。つぎなる問題はこの補強フレームをどうデザインするかであり、実現に至る「物語」がこのプロジェクトの最大の魅力となっていよう。
 設計者は木の軽さと鉄の強度に注目した。木造を細い網目のようなフレームにしてみたらどうか、と。必要最低限の断面をもつ繊細な形状をシームレスにつくるには「鋳鉄」が最適だという判断が以降の計画・設計・生産・施工を導いている。その中でもダクタイル鋳鉄(形状黒鉛鋳鉄)は通常の鋳鉄よりも変形性能と強度が高い上、凝固収縮量が小さく融点が低いため流動性にすぐれている。今回のフレームが求める繊細かつ高精度を満足させる素材としてこれが選ばれた。
 補強フレームの全体形状を決めるに当たって、制約条件のひとつに人力で持ち上がる重量(60kgf以下)があげられている。直交する外周をつなぐ6本の斜め材が形成する内側尾アーチ形状はいわゆる双曲線であり、平面曲線でありながら奥行きを感じさせ、流動的な空間を演出している。直交2本(楕円断面)と斜め6本(円形断面)の好転は意匠的な表現だけではなく、発生応力に対応して巾・奥行両方向に滑らかな曲面状の「節」となり、有機的な美しさを漂わせている。一連の複雑な形態創成を迅速かつ適格にコントロールできたのは全て3Dモデリング、つまりパラメトリックモデリングツール(Grasshopper)の活用によるものという。最先端を行くIT技術の巧みな応用例である。
 再利用を考慮したというボルト接合のディテールやRCの柱脚のシンプルなデザインにも好感がもたれた。鋳物設計・製作・建方を通じて設計者・製造者・施工者の3者が初期段階から十分な意思疎通を計ったことが成功の鍵となっている。
 小さな改修事例ではあるが、建築家と構造家が情熱と創意をもって取り組み、新しい可能性を拓いた魅力的なプロジェクトとして高く評価したい。

選考委員 斎藤公男

ACADEMIC-ARK@OTEMON GAKUIN UNIVERSITY

作 者:須部恭浩永山憲二/(株)三菱地所設計
所在地:大阪府茨木市太田東芝町1-1
審査講評
 追手門学院大学の新しいキャンパスは、創立130年記念事業として茨木市の工場跡地の一部6.4haに約3,600人が学ぶ施設として生まれた。初見は「茅葺き」の印象。懐かしさと共にその巨大な姿「方舟」、大胆な断面構成が私を現地に引き寄せた。
 ネット時代における大学施設の「賑わい」が課題であった。人を誘う引力を敷地近くの古墳に思い、古来の「神域」の神秘性に作者が注目したのは特異である。18ヶ月という短い工事期間、潤沢でない予算枠は、積層複合による1棟案に絞り込んだ。近隣周辺への対応策、高さ制限、本体の構造環境性能シミュレーションを経て、ジオメトリックな逆さ三角錐が生まれる。遺跡埋蔵調査期間を抑え施設の接地面積を最小にする為、三箇所の鋭角コーナーを頂部から奥深く斜めに切り取ればエントランスにオーバーハングの半屋外空間を生むことになる。
 象徴的な燻銀色の3層のボリューム「書殿」を大胆にも「方舟」の中心に浮かす。「書殿」を取り巻く5層のスリット状の吹き抜けを介して外縁三辺に講義室、教員室などの主要な大学施設を、内縁回廊にはオープン書架及びテーブルを配置して個人、グループのスタディーエリアに。この三層回廊は吹き抜けを介して「見る/見られる」相互の「賑わい」を演出すると同時に「身体的建築の胎内巡り」の体験を与えてくれる。エントランスレベルの無柱空間は入学式の式場にもなった。普段は学生、地域の住民に開放された正三角形の「賑わい広場」、「表舞台」である。
 垂直動線は重層建築の動脈であり空間の質を極める重要な設計要素であるが、ここではなぜか裏舞台に。ランドスケープはミニマム、垣間見る顕な構造体、三層回廊手摺のリニアーな照明光源は目に障り評価は分かれるだろう。最後に環境負荷を低減する工芸作品「桜型ステンレスキャストのスキン」は機能的なファサードであると同時に刻々と光に感応する美的ファサードでもある。さらなる進化を期待しています。

選考委員 川上喜三郎

La・La・Grande GINZA

作 者:大成建設(株)一級建築士事務所 中藤泰昭 今村水紀 高岩 遊
所在地:東京都中央区銀座6-3-18
審査講評
 この建物は中央区立泰明小学校の全前にある「みゆき通り」に接続する4mほどの道幅の通りに面して建っている。この通りには小さなBarなどが入っている飲食店ビルや事務所などが混在しているビルが立ち並んでいる。銀座の装飾性のある賑わいの感じられる表通りとは異なり、様々な高さや小さなスケールの多様な表情を持つ通りであり、午前中の視察のためか賑わいは感じられない。
 このような通りの中で、「La・La・Grande GINZA」はひときわシャープな整然とした外観の商業テナントビルである。1階は通りに面して開放される開口を持つテナントスペースである。通りに面して上層部の奥行2m部分が、避難階段・エレベータホール・エントランス・避難バルコニーの連続した空間構成となっており、1階から最上階の6階まで均質な表情を創り出している。構造体でありながらもシャープでスリムな水平のスラブラインと、これまたシャープな垂直の吊材と全面ガラスにより構成された全体のファザードが開放的でとても軽やかであり、力を感じさせない。高さの制約の中で階高を可能な限り低くしているが、圧迫感を感じさせなくプロポーションも秀逸である。まさに工芸品の趣があり、この構造・空間を実現するために考えられた緻密で繊細なデティールや難易度の高い施工方法など微塵も感じさせないところが大変爽やかである。作者の高い技量と創造力に基づくものでなければ成しえない作品である。装飾性の高い建物が多い銀座地区の中で装飾性を排除し、建築のみの空間性やプロポーションなどで高い品質を生み出している。
 また、一般的な商業テナントビルの路面店と同様、この6層の連続した空間を持つ奥行感のあるファサードが外部の通りとの「見る・見られる」という関係を創り出し、この通りに今までにない立体的なアクティビティの感じられる新たな景観を創り出しており今後の通りの変化も期待される。AACA奨励賞にふさわしい優れた作品である。

選考委員 東條隆郎

i liv (アイリブ)

作 者:大谷弘明・上原徹・大藤淳哉・府中拓也((株)日建設計)
所在地:東京都中央区銀座5-7-6
審査講評
 銀座四丁目交差点、中央通りに面して建つ一際高いビルを訪ねた。
 銀座通りを散策する人込みをさけながら、はじめにビルの正面を見上げ、さらに横断歩道を渡り右からしばらく見上げた。正午近くの強い陽射しを受け、そのビルは線状の光の反射が天空へ伸びるような美しい線となって見え、強い印象を受けた。
 作品の基本コンセプトは「環境、街並みの価値を高める、安心安全(人にやさしい)」とある。
 外観を435段のガラスルーバーで覆い、1段ずつ異なる局面とすることで、水紋のような表情を醸し出します。圧倒的なガラスの質感や、見る位置、時間、季節によって見せる違った表情が、人々の目を楽しませる新しい景観となり、街並みの価値を高められる事を目指している。
 建物は、間口約9m、奥行き約34mでクランク状の不整形な敷地に建ち、地下1階、地上14階、延床面積約3600㎡。構造間口7.5m、高さ66m、約1:9の搭状建物を成立させるための工夫(TMD)や粘性ダンパー等々や避難上有効なバルコニーをあえて目立つ中央通り側に置くなど、お客様への安心安全(人々にやさしい)を実現しました。
 銀座は都市景観の中でも特に変化が著しい、建築も空間と時間の結びつきの中で、構想のコンセプトの真価が問われるものだ。現地審査は6名の選考委員と共に参加した。
 ガラスルーバーを間近に見ると板ガラス4層もので、最大30㎝巾のルーバーを微妙に調整し曲面を作り出している。さらに光の入光角度と反射なども計測し進め、建物の最も重要なところに最上の力を集約して完成させたものだ。
 私は次下の3つの点で優れていると思う。
 独創性、技術的クォリティ、未来的美しさ、最終的には総合的に高く評価され、AACA美術工芸賞にふさわしい作品として決まった。

選考委員 米林雄一

協会賞

第28回 AACA賞

  • 審査
    総評
  • AACA賞
     
  • 優秀賞
     
  • 奨励賞
     
  • 奨励賞
     
  • 特別賞
     
  • 芦原義信賞
    (新人賞)
  • 美術
    工芸賞
審査総評
 30年度のAACA賞には、計45点の応募があった。
 9月27日に開催された第一次選考会において、選考委員による投票並びに討論を行った結果、応募作品の中からAACA賞に相応しい12点を現地審査対象作品と決定した。  
 10月5日から11月10日にかけ、その12作品について選考委員2名以上の構成をもって現地審査に赴き、それぞれ詳細な追加資料等を入手し、設計者からの説明を聞き作品の審査を行った。
 11月11日に現地審査の結果を踏まえて第二次選考会を開催し、午前中に現地審査に赴いた各委員から一作品ずつ簡単な審査報告を受け、午後にはその上で応募者によるプレゼンテーション、ならびに公開審査を行った。
プレゼンテーションおよび質疑応答の後に、各選考委員がAACA賞受賞に相当すると思われる作品4点を記名投票した結果、11人の選考委員の満票を得た作品が2点、過半数である6票を得た作品一点があり、確認のためそれ以外9作品について吟味した上で、まず上記3点をAACA賞、同優秀賞、芦原義信賞の候補とすることとし、3作品を比較して満票作品のうち「出島表門橋」をよりAACA賞にふさわしいものとして選出、同じく「梅郷礼拝堂」を新人賞でもある芦原義信賞に決定し、6票の「越後妻有文化ホール・十日町市中央公民館(段+ろう)」を優秀賞に選出した。
 次に特別賞候補として推薦を選考委員に諮ったところ、「薬師寺 食堂」を推す意見が大半を占めたためこれを特別賞と決定した。
 受賞ランクとして2票および1票を得た残りの9作品を対象として、再度奨励賞の候補を選考委員一人につき作品2点ずつ投票した結果、5票を得た「伊根の舟屋」と4票を得た「川崎技術開発センター」の2点を奨励賞に選出し、そのほかの3票以下の作品を選外とした。
以上の選考のプロセスをすべて公開のもとに行い、最終的に全作品がそれぞれの賞に相応しいか否かを再度確認し、選考委員全員の賛成をもって本年度のAACA各賞の受賞作品を決定した。
最後に、優れた美術・工芸作品を対象とした30周年記念美術工芸賞に対する推薦を求めたところ、「越後妻有文化ホール・十日町市中央公民館(段十ろう)」における高橋匡太氏によるライティングアート作品である「光織」の推薦があり、全員一致でこれを美術工芸賞に選出することとした。

選考委員長 古  谷 誠 章

出島表門橋

作 者:Ney & Partners Japan
      (Laurent Ney/ 渡邉竜一 / Eric Bodarwe / 岡田裕司)
DIAGRAM(鈴木直之、愚川知佳)
所在地:長崎県長崎市出島町6-1
審査講評
 長崎県長崎市にある「出島」は鎖国時代の日本にとって、欧州を含めた海外との唯一の接点としての人工島であり、1638(寛永18)年に築造された。島と街をつないだのは橋長わずか4.5mの組積造の「出島橋」であった。明治時代に入り、中島川変流工事(1887-1889)によって川幅は5mから30mに拡幅され、この橋は消えた。さらに1897年からの港湾工事により出島の南側は埋立てられ、内陸化された島の姿は失われた。
 1951(昭和26)年、長崎市は2050年までに出島完全復活をめざした整備事業に着手。そして2013年、出島表門橋を中心とした設計プロポーザルコンペが実施された。
 設計要件の第一は、史跡である出島内の遺構を損傷しない様杭や橋台の設置は不可であり、第二に過去の模倣や復元ではなく現代の橋のデザインをめざすことであった。
 ここで注目される設計コンセプトは二つ。ひとつ目は出島の風景を尊重するため、上部に構造体を出さず、適切なスケールと表情がつくられていること。歴史的な風景と対話するような構造形態を求めると共に、人が触れるさまざまなディテールや照明が丁寧に設計されている。いまひとつは力をバランスさせながら片持梁形式に近い形で33m余りのスパンを飛ばしている大胆な構造体の着想と工夫。造船の街・長崎の溶接技術や施工技術を駆使しながら、意匠と構造とが一体となった流麗なデザインが堅実に実現へと導かれている。
 さらにこのプロジェクトの成果が高く評価されるのは設計から完成に至る一連のプロセスを市民運動としてデザインしていることである。海から見たことが無いものが入って来たという出島の歴史をなぞり、40m近い歩道橋を地元の造船所で一体製作し、海上輸送の後に、延べ5千人の市民が見守る中、“架橋”を街の祭りごととして成立させているのはまさに奇跡である。 
 街の資産としての愛着醸成が生まれ、完成後も市民自らによるメンテナンス活動が展開されている。ここでは“かたちのデザイン”と“物語の共有”という、モノとコトとが総合的に計画・実施されており、現代の建築・インフラの新しいあり方が提示されている。
 社会的・文化的な価値が極めて高い作品といえる。

選考委員 斎藤公男

越後妻有文化ホール・十日町中央公民館(段十ろう)

作 者:株式会社 梓設計 永池雅人 鈴木教久 加藤洋平
所在地:新潟県十日町市本町一丁目上508-2
審査講評
 新潟県十日町は近年非常に多くの人々が訪れ、メジャーなアートイベントとして知られる大地の芸術祭の里、妻有トリエンナーレの中心地である。その中心市街地の南にこの計画は位置づけられ、従来の北側に位置する越後妻有里山現代美術館と市民交流センター等に結びづけられて中心市街地の活性化を期待される施設である。
 計画地は。3.5mの高低さがあり、その差を活かして全体の建築のヴォリュ-ムを低く押さえることに成功している。施設の特徴は、約700席のホールとエントランスから直結する「だんだんテラス」と名付けられた多目的スペース、そして建築全面の顔となる雁木ギャラリーからなる。
 全館を通して使用する素材を抑制し本実型枠使用のコンクリート打放し仕上げと、木質仕上
げを多用して 精緻なディテールと共に落ち着きのある空間を実現している。 特に「だんだんテラス」は可動壁面によって多様な空間に変容して、市民活動の多様性に対応すると共に公民館利用が共用されるリハーサル室、練習室等の中心施設となっている。
 多雪地域に対応した屋根形状はホールのフライ等も一体に包み込んだ傾斜屋根として、低層部の屋根に落雪スペースを設けて処理し、この大屋根が、周辺の町並みの中に違和感なく溶け込んでいる。最大の特徴である全面100mの長さに及ぶ雁木ギャラリーは、地産の杉材の天井ルーバーとプレキャストコンクリートの列柱からなり、美しい外見を構成している。
 木製天井ルーバーの中に仕込まれたLEDライティングは照明デザイナーとのコラボレーションで、光のインスタレーションを創作し様々な光と色彩の変化を楽しめる。
 前面の広大な駐車スペースは、そのインスタレーションの観賞スペースとなり、冬の雪景色の中で見られる幻想的な風景が想像される。その他、アプローチのモニュメントや館内のサイン、ホールの緞帳等に、アーティストと協力し文化施設にふさわしい空間作りに成功している。
 いづれ妻有トリエンナーレの中心基地として諸外国を含め多くの人々が訪れることが期待され、AACA優秀賞にふさわしい作品である。

選考委員 岡本 賢

川崎技術開発センター

作 者:株式会社 三菱地所設計 林 総一郎
所在地:神奈川県川崎市川崎区殿町 3-25-20
審査講評
 ラジオアイソトープの技術開発を行う公益財団法人の研究施設である。けして小規模な施設ではないのだが、多摩川の河口部にひろがる工業地帯、それも川沿いという立地の景観的スケールの中では、その存在感すら希薄になってしまいがちである。むろん、とりたててこの施設に建築的、景観的な存在感を求める必要はないのかもしれない。しかし、この作品ではそこに果敢にチャレンジし、きわめて優れた成果をおさめていることはまちがにない。 
 施設のプログラムに強く規定されたであろう建築ボリュームの分節とマッシングを際立たせるファサードが印象的である。 外装に用いられた発泡系化粧型枠を用いたPC板に施された凹凸は、一見すると、この景観的なスケールのもとではあまりに繊細であるかに思えるのだが、それが大面積にわたると意外にそうでもないことがわかる。おそらく、白色の塗装と自然光の効果を十分に織り込んだ結果であろう。
 もちろん、夜間の照明効果についても同様のことが期待できるはずである。 このファサードは、多摩川の河川堤防側だけではなく街路側についても適用されており、建築の量塊がしっかりと存在感を際立たせている。
多摩川と市街地とつなぐガラスのエントランスがつくりあげた透過性の高いボリュームもまた、同じような視覚的効果をもたらしているであろう。
工業地帯の景観的コンテクストを反映したデザインは、インダストリアル バナキュラ(industrial vernacular)という語でひとくくりにされることがある。
しかしこの作品はそれを一段高い次元にまで押し上げているように思える。 シンプルな装飾をまとったPC板のファサードは、文字通り工業的な印象を与えるに違いないのだが、そのスケールやプロポーションとテクスチャーは、工芸的な趣さえも醸し出している。
 ともすれば、多種多様な形、寸法、色、素材による工業的な造形要素がばら撒かれ、混沌とした様相を呈することの多い工業地帯の景観を、穏やかにしかし決定的に支配するだけの存在感を、この作品は発している。そのこと実感するのは、多摩川の対岸からの眺望景、あるいは羽田空港を離発着する航空機の窓ごしにみる俯瞰景の中なのであろう。

選考委員 宮城俊作

伊根の舟屋

作 者:京谷友也
所在地:京都府与謝郡伊根町平田546
審査講評
 この作品は、昭和30年までに建築された主屋、蔵と切妻屋根の舟屋が連なる景観から成る伝統的な建造物群を、2005年に文化庁が『伊根町伊根浦重要伝統的建造物群保存地区』に指定した中にある。
私は40年前の夏の日に、海岸沿いの砂利道をバスに揺られて漸くたどり着いた只々静かな伊根浦漁村の記憶は今でも鮮明に残っていたので、この作品「伊根の舟屋」には一際興味と危惧を持ち訪れたのです。
 海からの遠景は、大きく開いた舟入の黒い開口の数が減ってはいるが、切妻の2階建が並ぶ独特の景観は保たれている。 一方、砂利道はすっかり舗装され、若者や外国人観光客が訪れて思いのほか活気があり、観光客のための新しい木造切妻の施設が多く建設されている。
 作者は、古い舟屋を改修して1組だけの宿「伊根の舟屋—風雅」として再生した。
 舟屋は、元々は伊根浦独特の「ともぶと」と呼ばれる軽船を、舟入から屋根のある小屋に引き上げ、漁具格納や漁網干場、漁の準備をする作業場、いわゆる船のガレージであり、2階は寝間にも使われていた。
 改修の際には舟入の機能はすでに失い、自治体事業によって擁壁が設けられ「重伝建」指定の為、復元ができない。入り口は道路から1.5mのレベル差をユニバーサルデザイン対応のアプローチとするために、曳家技術によって1m引き上げ基礎部の強度補強や設備対応と同時にスロープで結ぶことで解消している。元々の柱梁の架構をそのまま表し、微妙に振れる内部空間を生かして宿泊者のくつろぎの場とし、海に接する外部に、船ならぬ湯船を置いて露店風呂とするなど、細やかな仕掛けを組み込みながら、気持ちの良い空間を作っている。本来なら寝間として使われていただろう2階を、常に穏やかな水面を漂うように海を満喫できるベッドルームとして環境をうまく取り込んでいる。細部の納まりに小さな破綻が散見されるが、伝統架構をそのままに現した改修の宿命といえる。宿屋としての内外部共に装飾的表現が全くない、楚々として再生したこの作品に、商業的に活路を目指すのでなく、長い歴史の水脈の流れの中で再生を実現したことに、改めて好感が持てるのである。

選考委員 藤江和子

薬師寺 食堂(じきどう)

作 者:監修:鈴木嘉吉  
復元基本設計:文化財保存計画協会 矢野和之 舘﨑麻衣子
内部基本設計:伊東豊雄建築設計事務所 伊東豊雄
実施設計:竹中工務店 野田隆史 本弓省吾
仏画:田渕俊夫 
須弥壇天蓋彩色:川面美術研究所 荒木かおり
照明計画:LIGHTDESIGN 東海林弘靖
所在地:奈良県奈良市西ノ京457
審査講評
 創建当初の建物は、天平2年(730)頃に建てられたとみられ、天禄4年(973)に焼失しました。その後 寛弘2年(1005)に再建の記録が残るが建物がいつまで存続したか不明となっていた。薬師寺の伽藍は金堂と中門と講堂を結ぶ回廊を中心に置き、その南に仏塔を東西に2基並立する双塔式配置であった。大陸から伝来し白鳳時代に天武・持統両天皇が薬師寺(本(もと)薬師寺)を建立されたおり、我が国では初めて取り入れられた新形式でした。 当時最先端の建築や伽藍の規模・形式が平城西ノ京の薬師寺においても踏襲されている。 東塔だけが創建時のまま遺存し、その美しい姿が称えられてきた。
 食堂の基壇は発掘調査により東西47.2m、南北21.7mと判りました。これを基に朱塗りの大柱の組み物の外観で、内部は建築家・伊藤豊雄氏に依頼された。「古くて新しい空間を」という要望を受け、現代建築技術での可能性を生かし、建築に「力強さ」を加えそして白鳳伽藍が造られたときのようにエレガントさと大陸につながるダイナミズムが感じられることを念頭に取り組んだ。天井には堂内の阿弥陀三尊の光背が広がる雲をイメージしたデザインで、アルミニウム板を金に染め天井に配した。
 日本画家 田渕俊夫氏は食堂御本尊阿弥陀三尊像と壁面14面(45m)の仏画が依頼された。阿弥陀三尊浄土図は6m四方の大壁画です。 
 作者の言葉には「これまでになかったような、今の時代の仏さまを描いてください」という薬師寺の依頼で、形の美しさを超えた崇高さと慈悲深いお顔を自分流にしっかり覚悟し取組みました。当初私の頭に思い浮かんだのは、師である平山郁夫先生の「大唐西域壁画」で玄奘三蔵院伽藍にありますが、20年迄の歳月をかけて描かれました。で私は、長安から大和へ仏教が伝来する道すがらの光景を、絵描きのイメージで描こうとおもいました。最初の「旅立ち」の左端、彼方に小さく見える塔は玄奘三蔵ゆかりの長安の大雁塔です。 遣唐使一行が文物や仏法を携えて日本に戻ろうとする姿をイメージの中で想像して描いたものです。とあった。
 日本建築美術工芸協会は 30周年記念事業の只中でありAACA賞の審査にも注目されたなかで「薬師寺食堂」は総合的に高く評価され選考委員全員一致にて特別賞に決定した。
 特にわたくしは14面の壁画に深い感動をおぼえた。

選考委員 米林雄一

梅郷礼拝堂

作 者:加藤詞史
所在地:千葉県野田市大殿井220-11
審査講評
 埼玉県野田市に、秀逸な梅郷礼拝堂/ワンルームパビリオンを訪ねた。
 応永2年(1395年)に創建された寺院境内の別院計画である。
 このパビリオン外観の特質は屋根にある。日本の風土は伝統的な民家の様にその
屋根の信頼性と共に、厄祓いのシンボルとして「猪」を茅葺きでかたどった例もあると伝えられている。自然と対峙し環境と共生する屋根の形態があまりテーマにならない昨今、礼拝堂の作者は「屋根そのものが信仰の対象である…」とも言いきる。作者の模型による試作の日々は、一枚の紙に曲線を切り込むことによって出来る独自の曲面立体に収斂する。この立体の特質は見る方角による表情が豊かに変わることである。自然を招じ入れる曲面の柔らかさから、スパイキーなシルエット、入口の正面性と奥の礼拝を暗示する二重のボリュームなど。採用された3角形状プランは「旧来の軸線の強い宗教空間を踏襲せず…」堂内に入ると軸線が少し振れる事に気付かされる。
 内観の特質は連携する異形の組み柱である。垂直から水平へと連続する内部を支える細い断面部材の組み柱は6組×3方向 =18組。この3方向からの組み柱はジグザグ状にお互いが支え合い、天井中心では点結合ではなく微妙にずれて、正三角形をかたち作る相持ち構造である。「小さな材が助けあいながら、1枚の大屋根を支えている姿
…」の美しさが祈りの天蓋。 東西様式を超える普遍性か。厳しくジオメトリックであるにも関わらず、自然な心地よさを醸し出しているのは木質だからなのか、或いはジオメトリーが自然そのものだからなのか。 
伝統的寺社木造建築が長年の経年変化、収縮などを考慮していたように、作者は独自の100年単位の木組み工法を提案している。既に様々なイベントを誘発し開かれた「民の施設」を目指す。構想から軒先などのシャープなディテールまで、手つくりの妙と力量を十分に味合わせて頂いた。
 さらなる作者のご活躍を祈念し、この度の芦原義信賞受賞を心からお祝い申し上げます。

選考委員 川上喜三郎

越後妻有文化ホール・十日町中央公民館(光織り)

作 者:高橋匡太
所在地:新潟県十日町市本町一丁目上508-2
審査講評
 日本建築美術工芸協会 設立30周年記念美術工芸賞は、建築家・美術家・工芸家・デザイナー達が連携協力し、芸術性豊かな環境と景観の創造を目指した設立30周年を記念して、今年初めて設けられた賞である。
 受賞作・光り織は、新潟県十日町市の中心市街地の活性化を目指して作られた、ホールと公民館の複合施設の入口回廊(雁木ギャラリー)の軒先のアート照明として作られた。
 大地の芸術祭の施設として、建築家、アートコーディネーター、照明設計者、電気設計者の協力のもとに、100mを超える入り口回廊(雁木ギャラリー)を光で彩る。
 作者は、越後縮(えちごちぢみ)の見本裂から光り織の着想を得たと聞く。
 越後縮は麻織物の一種で、緯糸(よこいと)に強い撚(よ)りをかけて織り上げ、独特の縮シボ(シワ)をつけた夏衣用の織物で、1781-1789年には年間20万反もの生産があり、十日町には縮市場が開設され賑わった。1888年(明治20年)頃に京都・西陣から華やかなちぢみ織の見本裂(みほんぎれ)がもたらされ、十日町の織物は麻から絹へ、昭和30年代には先染めから後染織物へと変わっていった。そして現代、着物人口の減少と共に十日町の宝である織物文化は縮小に向かっていく。230余年にわたり、日本一の豪雪地の厳しい冬を織物とともに過ごして来た十日町の人々にとって、織物は長く生活の一部であったに違いない。
 光り織には1回15分の演出点灯パターンが12ヶ月分ある。春には桜の花びらが舞い踊る優しい表情に、夏には青葉が涼しさを呼ぶ。 秋には周囲の景観と呼応する鮮やかな紅葉を描き、冬には暖かな光が積もった雪の上に広がる。 夕刻になると軒下に発した光り織の輝きは、建物入り口、回廊、列柱、雁木ギャラリー、駐車場にまで広がり、建物の表情を一変させる。
 光り織は、単独のアートとしての存在を超え文化拠点としての建物の存在意義を際立たせる役割を果たしたに止まらず、十日町の持つ豊かな地方文化を斬新な表現で現代に蘇らせ、未来へと継承する手がかりを作った。設立30周年記念美術工芸賞にふさわしい作品である。

選考委員 近田玲子

協会賞

第27回 AACA賞

  • 審査総評
      
  • AACA賞
      
  • 優秀賞
      
  • 優秀賞
      
  • 優秀賞
      
  • 特別賞
      
  • 特別賞
      
  • 奨励賞
      
  • 芦原義信賞
    (新人賞)
審査総評
 審査委員長をお引き受けして2年目となりました。今年も昨年同様多くのベテラン審査員の方々に支えられて、無事に審査を終えることができました。改めて感謝申し上げます。
 応募作品は今年も大変バラエティに富んだものであり、大きな組織が真っ向から取り組んだもの、アトリエ的な作家が信念を持って挑んだもの、長い年月をかけてつくり続けられたもの等々、いつもに増して多様な応募がありました。また、単にアートや工芸と建築との協奏という枠組みを超えて、作者がそれぞれにユニークな方法で独自の作品づくりを模索していることがはっきりと現れていました。そうした中で、経験に裏付けられた本格的な建築でありながら、同時にとても思い切った斬新なアクティブ・ラーニング空間を実現した《近畿大学 ACADAMIC THEATER》が今年のAACA賞に選ばれました。 角度を振って重ね合わされたグリッドが導く、魅力的な街路のような閲覧スペースに大胆に落とし込まれた中庭からの光が満ちて、豊かな活気を生んでいます。
 芦原義信賞には、AACA賞を最後まで競った《ニフコYRP防爆棟・実験棟》が選ばれ、そのデザインにかける並々ならぬ情熱に審査員が感服しました。既存の実験施設などをつなぐ、いわば補助的な施設でありながら、意欲的な構造計画と、巧みな空間配置の妙が相まって見事に芸術的な主役となっています。 この両者に続く優秀賞3作品も三者三様の一筋縄で行かない強い個性があり、何れ劣らぬ力作だと思います。その筆頭が《桐朋学園大学 調布キャンパス一号館》、徹底的にラワンベニアによる荒々しい打放しコンクリート表現にこだわり、力強くまた効果的に組まれた梁のパターンも合わせて、空間に重量感と同時に静かな流動感を生んでいます。同じく優秀賞の《星のや東京》はオフィスと商業が混在する新しい東京大手町の一角に姿を現した、日本をテーマとした旅館です。いわゆる伝統的な「日本旅館」とは趣きが異なりますが、ゲストに心地よい驚きをもたらすアミューズメント性に満ちています。畳や無垢のヒバ材などを始め、質感の協奏が圧巻です。 優秀賞のもう1点は、牡蠣殻を混入してつくられたコンクリートブロックが円筒状に積み上げられた《一華寺無尽塔》で、墓所に併設された礼拝のための施設です。素材に対する飽くなき探求が実を結んだ、建築自体が工芸品のような極めてユニークな作品でした。
 これに対し、特別賞2点《四国八十八ヶ所ヘンロ小屋プロジェクト》と《洗足池の家/MONOLITH》は、片や構想以来20年以上の歳月をかけて、一つ一つ地域の人々に呼びかけて紡ぎ出されるようにして生み出された、いく先々でお遍路さんをサポートする小屋を、すべてボランティアによって創り出すという、行為そのものが現代の参加型アート、他方は極限まで突き詰められたディテールによって、飽くまでストイックに建築づくりを行う至高の作品づくりと、まったく正反対の性格を持った作品です。共通するのはいずれもひたすら脱帽させられるというところでしょうか。
 最後に奨励賞1点《特別養護老人ホーム 成仁ハウス100年の里》は、入居者の人間的な視点に立って、共に暮らすことに楽しさを感じさせる平面計画がよく練られており、三階建てでありながら、戸建ての連続を感じさせるような分節のデザインが奏功した佳品です。 今年もこのように真にバラエティに富んだ入賞作品を選出することができ、とてもうれしく思います。来年もさらに期待しています。

選考委員長 古  谷 誠 章

近畿大学 ACADEMIC THEATER
作 者:畠山文聡・岡俊徳・伊藤裕也((株)NTTファシリティーズ)
所在地:大阪府東大阪市小若江3-4-1
審査講評
  大学キャンパスの5棟を一体的に再編計画した建替プロジェクトである。計画地の4つの角に、本部機能の1号館、学外交流拠点の2号館、講義室の3号館、キャンパスアメニティのカフェ4号館が、そして4つの建物の隙間を縫う形で都市的様相の低層の建物群が建てられた。
          
 このプロジェクトの魅力は、建築単体ではなく、この、低層建物群のデザインにある。ここでは、「本」「ACTの活動」「自然」の3種類の空間の繋がりがデザインされた。縦・横4本の帯を10度づつ傾けて編む形状から生まれた曲がりくねった通路は、奥に進むに連れて次々と新しい顔を見せる。 とりわけ魅力的なのは、中庭に囲まれた居心地の良い「本」の空間である。大きなテーブルを囲んでたくさんの学生が各々書物を読んだり、パソコンの画面に見入っていた。 天井までの図書が並ぶ閲覧スペースでは、一つ一つの「本」がアーティスティックに照明されることで、重要な知の素、情報の塊であることが示されていた。近畿大学はクロマグロの完全養殖を実現したことで知られているように、22の「ACTの活動」スペースでは、研究室のテーマ、社会の諸問題の解決につながる成果の創出への取り組みが、透明なガラスを通して外から見えるように展示されている。
 隣接する「自然」溢れる中庭からは、大きく開いた空とキャンパス内の他棟の風景が垣間見える。
 ここには、形を成したアートと呼ばれる物体に代わり、緑溢れる「自然」を取り込んで計画された中庭、知の集積である光を浴びた「本」、未来をより住みやすくする行動を目に見える形で示す「ACT」の展示と、それらを一体的に繋げたデザインがある。露地、禅の教えを示す掛け軸、草庵のしつらえ…この空間が、利休の目指した茶の全体芸術空間に通じていることに思い至った。

選考委員 近田玲子

桐朋学園大学 調布キャンパス1号館
作 者:山梨知彦+羽鳥達也+笹山恭代+石原嘉人((株)日建設計)
所在地:東京都調布市調布ヶ丘1-10
審査講評
 この建築は甲州街道から一歩中に入った武蔵野の気配が残る住宅地の一角に静かに佇んでいる。低層の住宅と近接した墓地と緑豊かな神社を背景に小さな分棟形式で周囲のスケールと程よいリズムで調和する姿は訪れる学生たちを心地よく迎えいれている。荒々しいRC打ち放しの表情の外観を持つ建築に楽器を携えた学生たちが吸い込まれて行く様子に初めは少し不思議な感覚を覚えたが、次第に行き交う学生たちの表情がとても楽しそうにしていることに気付かされる。その印象は内部に入るとさらに増幅される。1階はランダムに配置された細いRCの柱のラウンジ空間で、授業やレッスンを待つ間、楽しげに会話をしていたり、真剣な表情で楽譜を見る学生たちが、生き生きとした様子で寛いでいる。見える範囲を丁寧に調整した開口部からは隣接する墓地の存在は消され、その先の神社の豊かな森の緑が眼に飛び込んでくる。 また敷地の持つ高低差を上手に取り入れ、高さの異なる大小のレッスン室の平面と断面の組み合わせで、レベル差も含め多様な空間を持つ構成が生み出されている。
  
 それぞれのレッスン室を離すことで音の緩衝を避けているが、それによって生まれた自然光と景色をもたらす隙間が豊かな回廊空間をつくり出している。レッスン室はガラス張りで廊下から中の様子が垣間見られ、かすかに音が聞こえてくる。そこには中廊下型の機能的なレッスン室の単調な牢獄のような空間は存在しない。2階は中央に中庭があり、ランダムな部屋の配置から生まれたT字に組み合わされた梁が心地よいリズムを持つ外部空間をつくり出しており、この計画を支える構造と意匠の絶妙な調和が複雑な構成の建築をより豊にしていることに気付かされる。
 改めて全体を見直してみると、600mm幅のベニヤ型枠の打ち放しで処理をしていない荒々しい質感の外観で構成され、これまでの音楽大学の持つ印象とは少し離れていると感じるくらい素っ気ないが、むしろクリエイティブな創造環境に相応しい姿に見えてくる。周到に計画された総合的プロポーションの追求によって、限られた予算を感じさせない美しい建築を実現した設計者の力量は特筆すべきものであり、AACA優秀賞に相応しい作品である。

選考委員 堀越英嗣

星のや東京
作 者:(株)三菱地所設計 林総一郎 
    東環境・建築研究所 東利恵
    (株)NTTファシリティーズ 一法師 淳 
所在地:東京都(株)NTTファシリティーズ 一法師 淳 
審査講評
  東京の中心の大手町に『連鎖型都市再生プロジェクト』の一環として建てられた「日本旅館」で、林立する超高層オフィスビルに囲まれて、角丸の重箱を重ねたような18階建ての外観は、伝統的な江戸小紋の鋳物スクリーンをまとって建っている。ビジネスや観光で訪れる海外からの客に、日本の文化を伝えることをコンセプトにしていることは、一目で伝わるしっとりとした落ち着きのある佇まいである。入り口を入ると、天井高5Mの細長い空間が迎えてくれる。大きな左官壁と栗の木の透かし模様の対面壁は下足箱であり、全ての客はここで靴を脱ぐ。1階のエントランス、2階のレセプション、3階の免震層から上層がラウンジ付きの客室階が、最上階に浴室露店風呂などのフロアーが積層されている。内装の様々な工夫により、宿泊客は、滞在中はそれら素材を通して五感を刺激される体感を覚える仕掛けが満載である。沓脱ぎの瞬間から、畳の床を歩くという体験は、もはや日本人でも新鮮である。この足裏の感触は、EVから廊下、客室全てに途切れなく敷き込まれ、日本ならではの作法をとおして身体に直に作用する経験をすることになる。 床仕上げに限らず内装や家具調度にも、いろいろな日本の素材が使われている。桐や栗、竹などその特徴を生かした新しいデザインに職人技術が遺憾なく発揮され、レストラン階では、地層を表す左官壁や作為のないフォルムの淡路石が点在して、日本的な凜とした静寂の庭園造形を彷彿とさせる空間となっている。
 構えた美術作品を飾り並べるのではなく、都市計画から建築、内装、家具、調度備品まで、運営ソフト、設計、施工の協労を重ねてきた星のやチームによって、一連の連携が蜜実に繋がり高まって「星のや東京」ができた。
 日本の建築美術工芸が一体となった日本の宿泊施設の新しい姿といえ、AACA優秀賞に相応しい作品である。

選考委員 藤江和子

一華寺 無尽塔
作 者:宮森洋一郎(宮森洋一郎建築設計室)
所在地:広島県呉市西中央5-7-1
審査講評
 巨大戦艦(大和)が残したメッセージを包んだ「大和ミュージアム」を背に、呉の街を上った傾斜の住宅地にこのお寺は在る。時に迷惑施設のように扱われがちなお墓を、周辺の人達に気持ち良く受け入れられる場所にしたいとの住職の思いは強かったという。
 「無尽塔」は共同のお墓。土に還ったお骨がこの周辺に植えられた樹々に花や実をつける。その花はお墓に供えられ、実は鳥がついばんで新たな命を運ぶ。そのような命の循環の場所となることが計画された。直径4m、高さ5m程の穏やかな切頂円錐形態はインドの遺構からのイメージという。頂部の円盤に明けられた孔からは自然光がさしこみ、中央の仏塔に落ちた雨水は地下に浸透していくしくみだ。
 塔の構造形式は組積造ドームの原点ともいうべき「持送り構造」。始原的なミケナイのアトレウス宝庫とローマ・パンテオンとをミックスしたような構造空間である。小さな手作りのブロックは陶石と呉市ゆかりの牡蠣殻を凝固剤(マグエン)で自然乾燥したもの。何十回もの強度試験を経て配合が決められた。4種類、1200個の組積材の組合せと目地幅の調整によって、ドーム型のジオメトリーが巧みに実現されている。 多くの人々の参加によって永い時間に耐えられるような自由で開放的な空間・場所は心温まるアートと感じられた。

選考委員 斎藤公男

四国八十八ヶ所ヘンロ小屋 プロジェクト
作 者:歌 一洋建築研究所 歌 一洋
所在地:四国四県 各所
審査講評
  四国八十八ケ所の札所巡りに毎年多くの人々がそれぞれの願いを込めて行を行っている。
 以前は各寺院や路々の農家等が好意をもってお遍路巡りの人々に軒先を貸し、休憩接待等を行う習慣が根づいていた。 近年 時代の変化と共にその様な慣行が薄れ、八十八寺院間のネットワークも薄く、農家の建築様式も近代化されて軒先で接待を行う場もなくなり、お遍路の人々にとってその路々で休憩する場を探すことも困難な状況になってきた。
 そんな状況とお遍路の伝統の行く末を憂えた地元出身の一人の建築家が、お遍路道の途中に休憩接待所を88ケ所設置し、お遍路道をネットワークするプロジェクトを立ち上げた。
 各地域の有志を募って土地の提供者を求め、寄附や資材の提供を求め、全てをボランティアでこのプロジェクトを遂行することとなった。
 土地は、畑や田んぼの中や町なかの広場や幹線道路の側わりであったり、緑深い山林の中であったり、様々な情景の中に立地している。 その場所の由来や周辺の環境の中から物語性を紡ぎだして、様々な形状の休憩施設をデザインした。
 全て木加工による素朴な構造で、地域の住民がその建設作業に積極的に参加して手作りで完成させ、その後の維持管理を行うことで新たな地域コミュニティーの形成にも寄与している。
 形態は様々で、建築ともモニュメントとも彫刻とも言えるような不思議な造形物がその風景の中で存在感を発揮している。
 まさに、地域の中に新たな景観を創り出し地域コミュニティーを活性化させるというAACAの理念にふさわしい作品であり、単体の建築や造形物が対象ではなく88ケ所のネットワークづくりと地域の人々の積極的な参加によるコミュニティーづくりが特別賞として高く評価された。
 現在88ケ所の内、55ケ所が15年の年月をかけて完成している、残り33ケ所が多くの人々の共感を得て早く完成することを祈りたい。

選考委員 岡本 賢

洗足池の家/MONOLITH
作 者:城戸崎博孝
所在地:東京都大田区南千束1-27-3
審査講評
 洗足池の小高い丘にそって並ぶ閑静な住宅街の中にその家がある。建物の半分を地下に沈め、地区の景観条例にあわせている。概観は水平に延びた階層を、ダークグレーの壁に覆われた建物だ。
 建築に極限まで研ぎ澄まされた空間を求め、構想の原点に映画「2001年宇宙の旅」にでてくるMonolithをあげて、一枚岩のモニュメンタルなものをイメージしたと設計者は述べている。一連のストーリーをもつ建築の進め方がおもしろいと思った。
 建築素材は石、鋼板、ガラスの三素材を厳選し、床仕上げは黒御影石、外壁は溶融亜鉛リン酸処理鋼板を使用している。
 直線的な玄関を登ると、広いテラスに出た、黒の石張りの奥に一体の彫刻があった。
 ステンレスで有機的な抽象彫刻が、その場の空間を際立たせていた。
 イマジネーションを追求するとともに建築そのものの美しさを求め、繊細なディテーリングを随所に試みている。「緊張感のある空間の中に品格のある遊び心の芳香が漂う小宇宙を生みだしてみたい」と、この建物を巡りながら何か、人の気配のない冷たい空間が、私には気掛かりであったが、建築施工の早い段階からアートが考えられた住宅は稀な事と思う。
 内部のコーナーには良質な古美術や木彫がコレクションされ、暖かみと優しさを称えていた。
 この建物は人間が住んでみてさらに魅力的になるだろうと思う。
 孤高の建築を求める姿勢を保ちながら、並並ならぬこだわりを私は感じた。
 AACA賞選考経緯の中で、濃密な細部の意匠により、熟達した高度の建造技術の育成も重要な面であり、その寄与するところ大であろう、その設計姿勢に対し特別賞として評価する。

選考委員 米林雄一

特別養護老人ホーム 成仁ハウス 百年の里
作 者:(株)内藤将俊建築設計事務所 内藤将俊
    (株)佐藤総合計画 前見文武
所在地:岩手県大船渡市立根町字宮田9-1
審査講評
 新幹線の一ノ関駅からレンタカーを駆っておよそ1時間40分、峠をいくつも越えて陸前高田で太平洋を見る。現在も復興は道半ばといったところか。大船渡の街に入ると袋状になった大船渡湾に沿って北上する。 盛川の河口から約4キロほど北に上ったところがこの作品の敷地だ。施設に面した川の対岸から見るととても目立つ。真っ白な壁に楽しげに穿たれた開口を持つ、形の単位をいくつも集合させ、伸びやかな全体の姿ができている。鄙びた谷あいの街に新しい風景が現れた。
 今後の老人ホームのプロトタイプを創るため、ユニットケア型のさらに新しい在り方を目指して挑戦したプロジェクトである。 様々な、あれもこれもと工夫を徹底的に凝らしている中で、最も印象深いのが、入居者一人一人の個性や生活のリズムを尊重した、顔なじみの介護スタッフによる個別ケアの在り方だった。
 一つのユニットでは10~11人が生活する。トイレが付いた「完全個室」、他の居住者や介護スタッフと交流する「共同生活室」、それに浴室等の「衛生エリア」から成り立っている。共同生活室は「だんらんの居間」「仕事スペース」「台所」に分かれているのだが、それぞれの空間の境には壁等の仕切るものは一切なく、切妻型の天井の向きによってうまく区切られているのが興味深い。
 このユニットはちょうど「むら」のような場所で、これがフロアに4つある。フロアの全体を「まち」と考えて中央に広場状の空間を置くというユニークな発想で、通常は長くなって床面積を大きくさせてしまう廊下を、なくしたことが特徴だ。
 またすべての個室において窓から互いが見合うことはなく、眺望が豊かで、日光や通風も確保されている。 個室群は雁行型、全体は十字形の平面という計画がその効果を高めた。10mの高さ制限の中、天井の形状に変化を持たせることで、入居者に場所認識を高めさせると同時に、梁型をかわしたり設備用の空間をうまく確保することが可能になった。 少ない素材を変化のある使い方をすることで、あたかも豊かな装飾があるように感じさせてくれる。 施設の運営者と手を携えて作り上げた、新しいタイプの老人ホームである。

選考委員 可児才介

ニフコYRP防爆棟・実験棟
作 者:(株)竹中工務店 越野達也
    テキスタルデザイン:森山茜
所在地:神奈川県横須賀市光の丘2568-5
審査講評
 この計画は横須賀にあるリサーチパーク内に位置し、自動車のプラスチックファスナーなどを 製造する大手部品メーカー「株式会社 ニフコ」の実験施設である。既存の本社棟と技術開発センター棟との間に実験棟・防爆棟を配置し、これら3施設を結ぶ動線上に「風のプロムナード」と称する実験棟のエントランスエリアを設けている。 海から吹く卓越風を意識した緩やかにウェーブする一枚の長大な大屋根、これを中央にあるリニアに連続するRC大壁のみで支えるという大胆な発想の「ヤジロベエ」構造とフレームレスのガラススクリーンというとてもシンプルな建築構成で開放的でありながらも穏やかで豊かな空間を創り上げている。 柱のない外部空間やウェーブする軒の高さや軒の出、室内と中庭の関係・中庭の奥行などスケール感が心地よい。さらには建物沿いにある連続した水景が周囲の豊かな自然や空を写し込み、水景から風の揺らぎをとらえた反射光がウェーブした軒や壁に映し出されることで、この場の心地よさを増幅させている。
 また、ウェーブする軒を特徴づける仕上げは目地の少ない左官仕上げとすることや中央のRC壁を新規開発の超低収縮コンクリートを使い、誘発目地のないプレーンな壁面とすることなどきめ細やかな高い技術力も見逃せない。 光源を見せない中央RC壁上のライン照明や室内の両端部にある森山氏デザインのファブリックアートも一体となって豊かな建築空間を作り上げている。
 この計画の意図である、両サイドに位置する既存棟から研究者や社員が行き来するなかでの「交流」の場、「休息」や「思考」の場が実に巧みに実現されている優れた建築でありAACA新人賞に相応しい作品である。     

選考委員 東條隆郎