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協会賞
第32回 AACA賞
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奨励賞 - 入選
昨年に引き続きコロナ禍での審査となりましたが、それでもその小康の間を縫って、一次審査には海外から渡日した川上審査員をふくめて、全審査員が集まっての作品パネルによる選考、現地審査は複数名の審査員で実行し、公開による最終審査は応募者と審査員が一堂に会しての審査を終えることができました。応募者各位をはじめ、準備に当たられた関係者にこの場を借りて厚くお礼を申し上げます。
今年は58作品の応募がありました。建築の規模、地域、内容ともに多岐にわたる優れた作品が集まりました。中でも現地審査に進んだ13作品は、いずれ劣らぬ魅力に溢れたもので、審査は容易ではありませんでしたが、結果としてはAACA賞審査にふさわしい力のこもった入賞作品を選出することができたと思います。
そうした中で、多くの審査員の推薦により今年のAACA賞に選出されたのは、南軽井沢の林に囲まれた《写真家のスタジオ付き住宅》で、海外でも高く評価される写真家の想いに応えて、建築家が独創的な空間を提案し、さらに写真家がそれを相乗的に使いこなすという、いわば創造的な協働による素晴らしい作品となりました。
AACA賞に入賞経験のない新人に贈られる芦原義信賞には、小さな断面の一般的な木材によるトラス架構で造られた《山五十嵐子ども園》が選出され、その集落的な外観、小空間の連鎖がつくり出す温かい雰囲気が、子どもの保育空間としてこの上ないものと高い評価を得ました。
この両者に続く優秀賞として、それぞれに独創的な魅力に溢れた3つの作品が選ばれました。「遠島」の島である隠岐島の《Ento》は豊かな自然景観の中に対比的に置かれたCLTによる直線の造形が美しく、また景色を最大限に楽しむことのできる宿泊施設です。それに対して那覇市の中心部に建つ《那覇市文化芸術劇場なはーと》は、緩やかにカーブする首里織をモチーフとするHPCグリルが眼を惹きつける丸みを帯びた外観が特徴的です。また廃校を再生した森の駅《yodge》は、宿泊客であるビジターの施設であると同時に地元住民にとっても日常的な居場所となっており、両者の交流拠点としても有効に機能しています。
美術工芸賞は木曽の奈良井宿の重要伝統的建築物群保存地区にあるかつての造り酒屋を再生した宿泊施設の《歳吉屋 BYAKU Narai》が、各所に施された漆や和紙など伝統工芸の魅力を現代的な空間の中に感じさせるもので秀逸でした。また、同奨励賞に選ばれた《湯野浜 亀やあかがね》は温泉ホテルの一室を芸術的に再生しようとする試みで、施主の取り組みが大変意欲的なものとして評価されました。
特別賞《Port Plus 大林組横浜研修所》は、木造による高層建築への挑戦であり、その技術的価値はもちろん、極めて秀逸な建築意匠としての表現となっていました。また奨励賞に選ばれた《大阪中之島美術館》《ミュージアムタワー京橋》はともに力作であり芸術的な評価も高く、《台地のFORTE》も独特の存在感のある建築でした。
あいにく紙幅がつきましたが、今年も示唆に富んだ多くの入賞作品を選出することができ、審査委員長として光栄に思います。
選考委員長 古谷 誠章
写真撮影 鳥村 鋼一
作 者: | 仲 俊治・宇野悠里 |
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所在地: | 群馬県甘楽郡下仁田町西野牧 |
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紅葉に染まる庭に、静かな佇まいで建っていた。設計家は「森の秩序に基づいてつくった動的な場」と、作品概要の冒頭に記している。敷地には存在感のある山桜が3本、ドッシリとあった。その樹木の隙間を縫い、Y字型のボリュームを持つ建物を配置し、三方からの壁面が支える構造となっていた。
シンプルで明解な建築だ。また3次曲面屋根も有機的で、森の中にうまく溶け込んでいる。内部に入り、まず気付くのは自然との一体感だ。中央部の三角天井からトップライトの光が注ぐ。
曲面ガラスの開口部は、内と外の視角的、さらには心理的交歓が育まれる様に、小気味好い空間構成だ。曲面ガラスに添って続く卓上には、整頓された本やオブジェが並び、写真家の知的でセンシティブな人柄を感じた。選びぬかれたオブジェ群もさりげなく位置が与えられ、写真家の脳内配置図とピッタリ一致しているのだ。
私は彫刻制作を続ける中で出合った好きな言葉がある。
「彫刻は精神が物質に宿ることを可能にし、物質と空間と時間との結び付きを、科学的に証明するものだ。さらにそれを補足することができ、それも直接的な方法でだ。」
私は現地に立ち会い、スタジオとしても住宅としても魅力的で、住む人が楽しみながら大切に作り上げてきた空間と時間を感じた。
小舎な個人住宅だが、設計家の実力が存分に感じられ、他の多くの審査員の賛同を得、AACA賞に決定しました。
選考委員 米林雄一
写真撮影 藤井浩司
作 者: | 東海林健、平野勇気 |
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所在地: | 新潟市西区五十嵐三の町西 |
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一つめは、敷地の微地形に対するセンシティブなサイトプランと建築の平面・断面計画である。尾根に相当する部分の南側エッジのラインに沿って建築平面の東西軸が設定されていて、これにより、きわめて効率的な諸室の配置と主動線を実現すると同時に、屋外への視線を含む室内環境の多様性をもたらした。年齢別の保育室をつなぐL字型の回廊は緩やかに蛇行しつつ外部に開かれ、園庭をへだてて園児の送り迎えの様子を集落の日常風景の中に折り込んでいる。
二つめが、寸法の大きな材を運び込むことができない狭隘な道路条件の立地を逆手にとった構法である。現場で小さな材を組み合わせた木製トラスをつくり、それらを組み合わせる手法が採用されている。頂点が上向きの山トラスと下向きの谷トラス、これら二種類のトラスの交点を間仕切り壁の上にずらして載せることで、各室ごとに表情の異なる空間をつくりだすとともに、壁の上部に抜けを確保し、全体が緩やかにつながる空間のおおらかさが感じさせる。
そして三つめが、敷地の面積的余裕と周辺の多様な環境を保育に活かすための「境界の弱さ」である。園児の安全・安心をことさら強調するあまり、外に対して閉鎖的であることがデフォルトになりつつある保育施設にあって、このコンセプトは新鮮であった。集落に開くことによって、集落全体で子ども達の居場所を見守る、かつてはあたりまえであったコミュニティのあり方を取り戻そうとする姿勢が、施主、保護者、建築家に共有されたことの顕れであろう。「園を村のように作り、村を園のように育てる」という幸せなストーリーが紡がれる場所である。
選考委員 宮城俊作
写真撮影 鈴木 研一
作 者: | 建築・監理 : MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO / 原田真宏、原田麻魚、野村和良 構造:KMC/蒲池健 設備:テーテンス事務所/村瀬豊 設備アドバイザー:森田和義 サイン・展示デザイン・ネーミング:日本デザインセンター 三澤デザイン研究室 |
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所在地: | 島根県隠岐郡海土町福井 |
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羽田空港を出てから6時間、 Entoはフェリーが港に入る直前に島陰から我々を迎えるように忽然と目の前に現れた。フェリーからの外観はグリッド状の木構造のみで驚くほど透明度が高く、「島全体をホテル」と見なすとする町の観光計画を明快に示しているようにシンボリックな建ち姿であった。
設計者が大変に得意とするCLT版の構造が、離島の建築に実にうまくいかされている。全ての仕口・継手をはじめサッシュや設備スリットまでも 精密に本土の工場でプレカット加工されて運ばれ、島ではプラモデルを組み立てるように現場施工、短時間で完成したという。CLT版加工工場・海士町・意匠構造設計事務所の間に、人と物の移動のない「リモート構法」で、コロナ禍においても「離島」という地理的制約を受けることなく施工された。この構法を最大限に活かした建築設計の見事な勝利と言える。
シンプルな構法で生まれた客室からの眺望、穏やかな海に向けて全面ガラスの開放感が抜群だ。2015年にユネスコ世界ジオパークに登録されたこの地域の自然に溶け入るように、建築の内外を忘れるような環境との一体感が、身体に五感に染み入ってくるように透明度が確保されているのが素晴らしく、清々しい宿泊の空間と時間が体感できる。
この Ento施設の一部に、ジオパークミュージアムが設けられているが、文化活動は、実にスマートな運営がなされていて知識欲を促してくれる。
建築と行政が島の人々とともに渾然一体となって「まるごと島ホテル」として島の活性をもたらす素晴らしい取り組みが随所に感じられました。
建築が単なる建築物ではなく、その土地とのさまざまなグローバルな繋がりや連携、展開を可能とし絡み合って実現していくのは、これからの公共建築の役割やあり方として重要なことと思います。
遠島での新しい建築の有り様を、合理的に美しく具現化したところを高く評価したいと思います。
選考委員 藤江和子
写真撮影 ©Shigeo Ogawa
作 者: | 香山・久米・根路銘設計共同体 長谷川祥久、兒玉謙一郎、根路銘剛次、望月麻衣、角沢聡子、岡本賢吾、香山壽夫 |
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所在地: | 那覇市久茂地三丁目 |
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プロポーザルの段階から提案の中心となっていた「ウナー」と呼ばれるアトリウム的な中庭空間は、首里城の「御庭」に倣ったもので、人々が集まり、行き交う場としてとても活気があり親しみの持てるものとなっています。このウナーに面して置かれたリハーサル室でもある多目的なホールスペースは、表通り側にも開放することができ、この中庭に開放性を与えています。また、ここから見上げる上階の練習室は、二重ガラスを巧みにデザインして、吹き抜け側を切り下げて練習室内部のアクティビティを伺わせるものとなっており、練習室内部からもウナーを開放的に見下ろせるものとなっていてとても好感が持てました。
大ホール内部は明るい沖縄の海中を思わせる色彩と、バルコニー部の手すりの割肌タイルが醸し出す珊瑚礁のような質感が効果的で、南国を感じさせます。これに対して小ホールは高貴な色のイメージが首里城を連想させ、それぞれに固有の雰囲気を楽しませてくれます。
内外に造られたさまざまな広場的空間も、様々な出し物やイベントに活用されているようで、ホールの賑わいが周辺の街角にも溢れ出す様子が想像できます。全館があたかも大きな沖縄の「アシャギ」を思わせる、人々を迎え入れる懐の豊かな空間と見受けられます。
選考委員長 古谷 誠章
写真撮影 若林 勇人
作 者: | 照内創(㈱SO&CO.)、土橋悟(㈱都市環境研究所) |
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所在地: | 福島県玉川村四辻新田字村中 |
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「yodge 」という聞き慣れないタイトルの由来は?「your lodging」/「あなたの泊まる宿」が短くなって「yodge」になったというのが私の解釈。「四辻地区」の村人たちはこのレストラン/共同施設は「四辻の離れ」で、「yotsuji 」を短く「yodge」と呼んでいると聞いた。施設の案内は日本語と英語のバイリンガルが徹底している。村役場はすでに欧米、東アジアからの旅行者の案内を前提にしているからだ。
懐かしい思い出豊かな木造平屋/切り妻校舎の妻側がアプローチに選ばれ、壁を取り外した大ガラス面からは教室の天井材を取り外した屋根組みが露われ、この施設の爽やかさ、透明感を演出。教室の間仕切を移動して片廊下を2倍半に広げ「四辻ギャラリー」と命名。一方 長手の正面校庭を優しい堤/土手が弧を描いて囲み、堤の上にはテーブル/ベンチとして可能な平板の木が巡らされ、多様な活用が期待できるランドスケープである。
選考委員 川上喜三郎
写真撮影 上田 宏
作 者: | 遠藤克彦(㈱遠藤克彦建築研究所) |
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所在地: | 大阪市北区中之島 |
この建物を最も印象付ける特徴は63m角(正方形平面)×26mの黒いボリュームである。敷地は大坂中之島、堂島川と土佐堀川に挟まれた一角にあり、周りには国立国際美術館、大阪市立科学館など公共の施設が隣接している。北側の堂島川から見ると、周囲の様々な複雑な表情を持つ高層ビル群の中に、黒いボリュームが静かにかつ「凛」として、ひときわその存在を際立たせている。大変印象的な光景である。設計者はこの黒い外観の「黒」を感じさせるため、PC版に玄昌石の砕石と砕砂、黒色顔料を混ぜたコンクリートをウォータージェットで洗い出すことにより、表面の微細な陰を創り出し、さらに表面をコーティングすることにより、深い味わいの「黒」を実現している。
敷地の高低差を利用して2階にエントランスを設けている。それに至るランドスケープは開放的であり、適量の緑とパブリックなアートが配され、美術館に入るエントランスまでの道程が楽しい。入り口を通過して、パッサージュに入ると大きな吹き抜けの空間があり、その一部は最上階の5階まで連続しそれぞれの展示階のパッサージュと繋がっている。この吹き抜け空間には上下階をつなぐ、「上り」「下り」の長いエスカレータが設置され、来場者の「動き」が見えるとともに、この吹き抜けを介して上下階の人々の「動き」や空間の繋がりを感じることができ、楽しい空間でもあり安心感も持てる。内部の仕上げはプラチナシルバー塗装のスチールルーバーで精密に仕上げられ、展示室に至るまでの心の準備空間とでもいえるシャープで禁欲的な設えである。4階、5階のパッサージュはそれぞれ東西方向、南北方向に開かれ、突き当り全面からの自然光と室内の照明により落ち着いた心地よい空間となっている。このように美術館に至るまでの道程や展示室に至るまでの道程、滞在空間など、ここを訪れる人々にとり十分に心地よさを感じさせる設えがこの建物の価値を高めている。また、この「黒い」美術館全体が中之島の都市景観の中にアートを感じさせ「潤い」をもたらしているものになっていると評価するとともに、時間の経過とともに変わりゆく都市景観の中でさらに輝きを増すことを楽しみにしている。
選考委員 東條隆郎
写真撮影 雁光舎 野田東徳
作 者: | 中本太郎、矢野雅規、小林哲也、李 宇宙 |
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所在地: | 東京都中央区京橋 |
建築は都市型高層ビルの三層構成即ち、中景となる胴体部分を働く場所である賃貸オフィスに、アイレベルからの近景で基壇となる部分の低層部に街に開かれた美術館を配置し、遠景となる頭部は中央通りと八重洲道路との交差点を示す特徴的なスカイラインを持つ魅力的な“建築”となっている。その意味では、低層部の美術館のアクティビティが東京の玄関口である交差点にもう少し現れてほしかった。
オフィス部分においては環境配慮のためのコンピューテーショナルデザインで、「離散型ルーバー」と水平バルコニーで、刻々と変化する太陽光調整、各階個別の自然換気、配管、清掃等のメンテナンスを可能にしている。「離散型ルーバー」は特別に計算された美しいアルミの押し出し金物で、楕円の外形線の中で場所ごとに有効な形態をその多様な組み合わせによって生み出している。設計者の優れた力量と追求によって生まれた美しく有用性を持った外皮であり、時時刻刻変化する太陽の光を繊細に映し出し、都市景観に生き生きとした変化をもたらしている。縦ルーバーが室内からの景色に影響があることへの意見もあったが、実際の空間ではレースのカーテンのように乱雑な周囲の都市景観を和らげ、集中できる空間となっていると感じた。
クライアントの芸術文化に対する理解と設計者の先端的課題への挑戦の姿勢が融合した美しく優れた建築としてAACA賞奨励賞にふさわしい作品である。
選考委員 堀越英嗣
写真撮影 平井 広行
作 者: | 佐藤達保 |
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所在地: | 大阪市阿倍野区橋本町 |
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この作品は建築家の自邸である。先ず、注目したのは、高低差10mほどの崖地の上に擁壁をさらに高くしたような外装を施した1階部分の上に、木造の透明感のある平屋に見える建物があることである。敷地は大阪市の天王寺から南へ2㎞ほどのところに位置する。上町台地と言われる大阪の歴史的な骨格をなす台地の西端にあり、台地の北の先端部には大阪城がある。設計者は自邸を計画するにあたり、丹念に土地を探し、この敷地を探しあてたとの事である。
1階のガレージ側から内部に入ると、三和土仕上げの通路状の「通り土間」があり、突き当りの開口部からと二階に通じる軽やかな階段から自然光が差し込み、柔らかな明るさの心地良い空間である。土間に沿って、右側は構造材LVL(38×280)をそのまま表しで利用した収納棚、左側にプライベートな生活空間が納められている。主寝室と奥にある浴室には小ぶりなライトコート「箱庭」からのみ柔らかな光が注いでいる。1階は開口部も少なく抑制された空間の中ありながら「自然の光」や「木」、「通り土間」など巧みな自然の素材の活用が温かみのある空間を創り出している。
「通り土間」から階段を上がると、三方が大きく開かれた、とても明るい開放的な居間空間が突然現れる。正面は、大阪の西一帯を見渡せ、まさに天守閣にいるようである。天井まである大きな引き戸を全開放すると、テラスと一体となった大きな半屋外空間となり、外の広がりを内部まで取り込んだこの空間は、建物の規模を感じさせない豊かな気持ちにさせる。
特異な敷地の持つ可能性を最大限引き出し、さらに、木質や自然の材料の吟味や、その材料の使い方、緻密で繊細なデティールがこの空間を心地よいものとしている。ダイナミックでありながらとても心地よい空間の「住まい」が実現している。
選考委員 東條隆郎
写真撮影 (株)エスエス 走出直道
作 者: | ㈱大林組 設計本部 伊藤泰、堀地隆弥、伊藤翔、高山峻、太田真理、辻靖彦、岩井洋、西﨑真由美 |
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所在地: | 横浜市中区弁天通り |
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建築用途は自社の研修施設である事から自由な発想の内部空間を構想し、各階が異なったプランで様々な研修スペース、コミュニケーションスペース、リラクゼーションスペースを構成している。
吹き抜け空間や植栽と一体となった外部空間の取り組みや外気導入のダブルスキンの採用、自然素材の仕上げ材等環境配慮を細やかに計画し、あらゆるところに木の暖かみを充分感じる事が出来る。
外装の木架構は全面ダブルスキンのガラスカーテンウォールで覆われて、架構表面の木の風化を防いでいると共に現代的な表現に成功している。
様々な環境問題から木造が見直され、本格的な大架構建築や高層建築の時代が始まって、この建築はその嚆矢となる作品として特別賞に値する。
選考委員 岡本 賢
写真撮影 ONESTORY
写真撮影 ロココプロデュース 林広明
写真撮影 TOREAL 藤井浩司
作 者: | ㈱竹中工務店 美島康人・長谷川裕馬 |
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所在地: | 長野県塩尻市奈良井 |
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木曽街道沿いの奈良井宿は、江戸期の宿場町の建物が約1kmにわたって連なる重要伝統的建造物群保存地区に登録された美しい街並みが残る。築200年のかつての造り酒屋の、ミセ、オク、酒蔵、味噌蔵、物置、全ての建物の調査をもとに、耐震性能・遮音性能、温熱環境、防災機能を向上させて、8つの客室、レストラン、浴場、酒造りエリアを併設した施設に再生させた。
特筆すべきは、残すべきものと新しく挿入するものの選択眼である。白い土蔵の塗壁と礎石をそのまま庭の路地の一部として取り込む、時代の痕跡を残す古い壁をそのままインテリアに使ったり、時には居間の床レベルを下げることによって外に広がる山の景色が見えるように設えた。一方で、ベッドやソファなどの新しい家具の形状や色、質感に細心の注意を払って古民家再生のプロジェクトが陥りがちな「ジャポニカ・テイスト」から免れることが出来た。加えて、オーナーの家に伝わる掛け軸や屏風などを骨董品として飾るのではなくインテリアの一部として使ったり、昔ながらの小さな神棚を現代に生かしたり、地場の木材を使った風呂場の小さな椅子、有明行燈の修復など、この土地ならではの歴史的背景のある工芸を各所に使って新鮮な和の空間を創り上げたことが、美術工芸賞として評価された。
今後は、手すりのない急な階段や小さな飛び石が連なる庭の改修など、高齢者が過ごしやすい環境を整える工夫も必要となろう。また、敷地の奥に作られた木曽漆の立派なカウンター・テーブルを備えたバーに街道から気兼ねなく入れるようにすれば、地域の方々や他の旅館の宿泊客の唯一無二の高歓の場となるのは間違いない。
選考委員 近田玲子
作 者: | 加藤詞史(加藤建築設計事務所) 岩田英里(岩田組) 阿部公和(亀や) |
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所在地: | 山形県鶴岡市湯野浜 |
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日本海に直接面して建つ創業200年の老舗旅館「亀や」の客室である。鶴岡市の郊外、湯野浜温泉郷にある。わずか40㎡のインテリアデザインという今までにないタイプの応募作品である。
地元固有の銅板技術と「浜の湯壺」の伝統を念頭において、日本海の厳しさと対峙してきた豊かな風土と歴史を、体現できる空間を創ろうとしたものだ。作者は銅板の赤銅から緑青への変化を、体験と時間がデザインされるものだと表現しているが、気候の厳しい外部と違って室内ではどうなるのかは実はよくわからない。ただ素材にこだわって銅板の「屋根」を想起しながら天井に貼り、温泉の浴槽を前面においたという独創には注目したい。
今回最も評価されるのは、旅館亀やの、アートや建築に対する深い造詣と作者や作品に対する大きな思いである。客室を改修するにあたって、亀やは「客室をアート」に見立てたギャラリーズ・プロジェクトを立ち上げた。この「あかがね」をふくめて数人の建築家を招いて一部屋ずつ独自の改修を行うことにしたのだ。またこれらの客室の前にはそれぞれのテーマを展示するギャラリーが設けられていて、部屋に入る前にテーマを予感させてくれる。
この取り組みは長年にわたって続いている。亀や社長のデザインやアートへの深い理解、客室運営の新たな経営方式の工夫、地域への思いなどその姿勢に触れるにつけ、このアートプロジェクトの今後の大きな可能性を強く感じる。銅板のインテリアには若干の物足りなさはあるものの、期待を込めて美術工芸賞奨励賞を送ることとなった。
選考委員 可児才介
写真撮影 Jumpei Suzuki
作 者: | 川島範久、國友拓郎 |
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所在地: | 愛知県豊田市 |
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写真撮影 田中克昌
作 者: | 大成建設㈱一級建築士事務所 高島謙一 土井健史 原田健介 |
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所在地: | 神戸市中央区新港町 |
協会賞
第31回 AACA賞
- 審査
総評 - AACA賞
- 芦原義信賞
(新人賞) - 優秀賞
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- 特別賞
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- 美術
工芸賞
- 美術
工芸賞
奨励賞 - 入選
作品
昨年に引き続きコロナ禍での審査となりましたが、一次審査は審査員が集まっての作品パネルによる選考、現地審査は審査員の人数を絞って実行し、公開による最終審査は応募者と審査員が一堂に会しての審査を終えることができました。なお、海外の審査員や体調などにより直接参加の難しかった審査員、応募者についてはWEBによる審査も並行する、オンライン、オフラインのハイブリッドの選考会とすることで、一人も欠かさず参加をいただくことができました。応募者各位をはじめ、準備に当たられた皆様にこの場を借りて改めてお礼を申し上げます。
今年も大変数多くの応募をいただき、また内容も多岐にわたる作品が集まりました。それだけに審査は時に難航しましたが、結果としてはAACA賞審査にふさわしいバラエティに富んだ審査会とすることができ、また力のこもった入賞作品を選出することができたと思います。
そうした中で、圧倒的多数の審査員の推薦により今年のAACA賞に選出されたのは、既存の信濃美術館を建て替えた《長野県立美術館》で、隣接する東山魁夷館と共に善光寺に隣接する公園内に、その地形の変化や周囲の環境との緻密な応答により構想された、建築の枠を超えて一帯のランドスケープを統合する素晴らしい作品です。
気鋭の新人に贈られる芦原義信賞には、斬新な三層のツリー状の木架構によって浮遊感と高揚感を生み出した《Agri Chapel》が選出され、まさに工芸品的な美しさを持つものとして、一次投票では長野県立美術館とともに審査員全員の投票を得るなど、極めて高い評価を得ました。
この両者に続く優秀賞もいずれも創意と魅力に溢れた《那須塩原市立図書館みるる》《A&A LIAM FUJI》の2作品に決まりました。前者はJR黒磯駅直近に建つ公共図書館で、駅前広場や周辺の街並みに続く開放感に溢れ、誰にでも親しみやすく、いつも多くの人々に使われています。また、特に2階部分の伸びやかな天井の造形は、一体感のある大らかさと無数のルーバーが緻密に割り付けられた周到なもので感服させられます。後者は宿泊施設であり、三層の田の字のCLT構造が互いにずれながら積層し、ダイナミックな重層空間を生み出しています。ここに宿泊する体験は、さながら巨大なアート作品の内部に泊まる非日常感を味わえるものです。
これに対し、特別賞2点《有明体操競技場》と《葉山加地邸》は極めて個性的かつ対照的な2作品で、片やオリンピック・パラリンピック施設として仮設的に使用され、今後は転用される予定の競技場であり、他方はフランク・ロイド・ライトの日本における筆頭の弟子である遠藤新設計の旧宅の宿泊施設へのリノベーション作品です。前者が、従来の競技場にはない、思い切った木の利用によるダイナミックで、かつ繊細な表情を併せ持つ作品で、また競技場のボリュームを軽やかに持ち上げて解放感を持たせた極めて秀逸な建築表現となっていました。
一方後者は葉山の自動車の寄りつけない斜面の上にあり、その分海の眺望の素晴らしい立地に、かつて邸宅として建てられた造りをそのまま生かして、宿泊可能な空間として現代に蘇らせたものです。遠藤新の空間を将来にわたって体験可能なものとして再生した意義は絶大なものです。
今年の奨励賞としては、以下の5作品が選ばれました。
まず《早稲田大学本庄高等学院体育館》は、普通なら大きな開口を取りながらややもすればカーテンが引かれがちな高校体育館に対して、全体をコンクリートの角丸のボックスで造り、そこに適宜丸窓を散在させる手法で体育館とは思われない外観を実現し、かつ内部にはやわらかい灯りを取り入れる意欲的な試みです。《古家増築UPサイクル》は異様に細長い敷地の中で既存の住戸を包み込むような増築を行うという離れ業がユニークです。千葉大学の門前に建つ《ZOZO本社屋》は、オフィスをバックアップする種々の機能を地域に既存の店舗などを活用してまちと一体化する新しいオフィスの試みであり、《三栄建設鉄構事業本部新事務所》はボロノイ図形を立体化した鉄骨架構による空間が目を引く、鉄鋼関連の社員が働きがいを感じる事務所と言えます。残る1点の《地域に潜む文化と出会えるホテル》は那覇市内の大通りに面するビジネスホテルですが、リゾート目的やワーケーションに配慮して客室等に居心地をよくする工夫が溢れており、一味違う滞在を楽しめるものになっています。
最後に美術工芸賞は《能作新社屋・新工場》、錫の鋳造の鋳型をそのまま見せる収納庫が、それ自体が美術工芸品のような美しさを持ち、また同奨励賞に選ばれた《METALISM》は町工場の生み出す製品の魅力や可能性をアピールする大変意欲的な試みでした。
あいにくそれぞれを詳しく述べる紙幅がありませんが、今年もこのようにバラエティに富んだ多くの入賞作品を選出することができ、審査委員長としてとてもうれしく思います。
選考委員長 古 谷 誠 章
写真撮影 北嶋俊治
写真撮影 北嶋俊治
写真撮影 走出直道 / ㈱エスエス
作 者: | 宮崎 浩 ㈱プランツアソシエイツ |
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所在地: | 長野県長野市箱清水 |
作品説明ビデオはこちらから |
北側にある谷口吉生氏設計「東山魁夷館」との間に、敷地の高低差を巧みに利用した東西を上下に抜ける空間があり、その斜面に沿って水景が創られている。この空間は林昌二氏設計「旧信濃美術館」が建っていた場所である。この跡地が空地として視線が抜けることや、自由に行き来できるパブリックな空間であること、さらに、水景の中間にあるデッキ「水辺テラス」や中谷芙二子氏の「霧の彫刻」が存在することで、動的で魅力的な空間となっている。また、この特徴的な「抜け」空間の存在が「東山魁夷館」と対峙するのではなく、時間の隔たりを超えて両者の共存を自然なものとしているように思える。
美術館内部はこの水景を持つ高低差のある抜け空間に沿って、エントランス、展示室前のホワイエ空間、ミュージアムショップ、アートライブラリーなどの施設が配され、しかも展示室以外は自由に出入りすることができるパブリックな連続した空間となっている。そのつながり具合やボリューム感も心地よい。さらには外部の水景や公園の広がり、その場に集う人々の様子や遠方に見える山並みなどの周囲の景観との一体感が感じられる設えである。実に巧みな構成であり、大変心地よい空間である。自分の居場所が自然に理解できることもその心地よさを感じさせる所以であろう。
設計者は、この美術館は風景に突出することなくランドスケープと建築の一体化を図った「ランドスケープミュージアム」であると表現している。確かに美術館全体が「東山魁夷館」とともに従前からこの周囲の景観とともに存在してしたかのようにも思え、今後、多くの人々に親しみをもって利用されることが期待される美術館である。設計者の意図を十分感じることができるAACA賞にふさわしい作品である。
選考委員 東條隆郎
写真撮影 針金写真事務所
作 者: | 百枝 優 |
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所在地: | 長崎県長崎市四杖町 |
ガラスと壁面で構成された立方体の内部空間の構成は今まで見た事がない空間が広がっている。構造体そのものが空間彫刻の様でもあり、極めて装飾性に富んでいる。フラクタル幾何学に興味を持つという設計者の意図によって構成された内部空間は、木造の樹状ユニットを3層構成で重ね合わせて上方にいくほどに√2の比率で縮小し平面的に45度回転させた結果、木造ゴシック様式をイメージさせながら再に森の中に佇んでいるような静けさや、多くの花々が咲きほこっている華やかさを感じさせる不思議な空間が出来上がった。
樹木ユニットは複雑にからみあいタイロッドによって引っ張り合って互いを支えて構造柱となっている。水平力は周囲の壁面で受けて、その分構造柱は繊細な断面で可能になっている。
この解決が美しい構造空間を可能にしている。樹林を通してガラス越しに遥かに長崎の海を見る情景もまた素晴らしく、ここで行われる結婚式の晴れやかな式典は参列者の記憶に残るだろう。夜になると木構造の樹林がガラス面に無限に映り込んで幻想的なイメージに変わっていく。建築とも立体構造作品とも言える様な美しい作品である。設計者は従来はインテリアデザイン等が多く本格的な建築はこの作品が始めてだという。
第1作品にかけた意欲と発想の豊かさとそれを実現させる実行力も高く評価したい。華麗な空間に身を置いた時の感動をひさびさに覚えた。芦原義信賞新人賞のふさわしい名作である。
選考委員 岡本 賢
写真撮影 DAICH ANO
作 者: | 一級建築士事務所 UAO株式会社 |
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所在地: | 栃木県那須塩原市本町 |
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エントランスに入ると二階まで抜けるホールがある。エントランスに対し「ハの字型」に開かれた両側の壁に配置された5mを超える高さの木製の書棚と、2階に通じる緩やかに弧を描いた階段が、来館者を自然と迎え入れてくれているようだ。2階の外部から続く木製ルーバー製の多面体で構成された天井がさらに奥へと軽快に続き、木の肌の色合いとリズミカルなルーバーが気持ちを和ませる。
一階には「みるるAve.」という「通り道」がある。黒磯駅と市街地とを結びつける人の流れを想定したパブリックな空間として設定されている。「通り道」から外部ガラススクリーンに向かって天井までフレームだけの書棚が放射状に配置されている。外からガラススクリーン越しに館内部の様子や人の動き・活動が手に取るように見え、街に対し開くというイメージが伝わってくる。また、ガラススクリーン沿いに「森のポケット」と呼ばれる多様な使われ方を想定した吹き抜け空間が点在し、その場にたたずむと二階天井の多面体木製ルーバーが垣間見える。大きなガラススクリーンから溢れんばかりの外光が降り注ぐとても明るく快適である。書棚1段の高さは通常より一回り大きく設えられ、フレームと本の間にゆとりがあり、遠くまで見渡せる。開放的でありながらも書棚と書棚の程よい「囲われ感」も心地よい。「通り道」からだけでなく、どこにいても読書をしている様子や市民による様々な活動が垣間見え、本を媒体にヒト・モノ・コトの自然な交流が生まれてくるように思える。
二階は図書スペース、学習スペースなどがあり静的な空間である。天井の木製多面体ルーバーが大変美しく芸術的でもある。木製の書棚が低く抑えられ外周のガラススクリーンから柔らかな光が降り注ぎ落ち着いた心地よい空間である。
西側の道路側は駅側からルーバー状の軒の折れ屋根庇と屏風状に折れた大きなガラススクリーンがリズミカルに続き、前面の歩道状の広がりの中の縁側や植栽の設えが街に開かれたイメージを創り出している。
この「みるる」は内外共に大変魅力的な計画である。この新たなチャレンジ、建築や景観の有り様が、人を育み街の価値を高めることにつながると大いに期待できる作品である。
選考委員 東條隆郎
写真撮影 鈴木研一
作 者: | 建築 MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO、アート Liam Gillcik |
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所在地: | 岡山県岡山市北区天神町 |
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作者の弁では通常「ホテルは旅の中にある」のだが、このホテルは「旅を内包する」という。アートによる街づくり運動の「岡山芸術交流」と連動して岡山の日常にアートを仕込むという企ての一環で創られたホテルである。田の字構造を微妙にずらすことによって生まれる上下の接続が、動線だけではなく空間のつながりも創りだし、最上階から取り入れた天空光が1階にまであふれる。まさにアートの空間だ。
一方、CLTの組み立てにはかなり精緻な技術が使われている。作者の豊かな経験と知恵がふんだんに盛り込まれていて、伝統的な嵌め合わせの手法に最新の金物技術を加えて強靭な「田の字」の構造体が出来上がった。
設備的な温熱環境の工夫はもちろんのこと、地球環境に対しても鋭い感覚が示されている。協働するアーティストが作り出したという巨大な文字列が外壁に取り付けられているが、これは折しもノーベル賞を受賞した、日系人科学者真鍋淑郎の創りだした温暖化を示す数式であり、これを通じて地球環境の危機を訴えたいというメッセージになっている。
きわめてユニークで、衝撃的で、建築自体がアートになっている優れた作品である。
選考委員 可児才介
写真撮影 母倉知樹
作 者: | 株式会社 竹中工務店 大阪本店 (建築)小幡剛也、瀬山充博、田中盛志 (構造)大野正人、内山元希 (設備)世利公一、小玉直史 |
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所在地: | 大阪府大阪市大正区南恩加島 |
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建築主は、横幅93.5m、奥行22.1m、高さ13.5mの細長いこの建物を鉄骨ファブリケーターである会社の「鉄のショールーム」と捉え、複雑な角度の溶接が求められる鉄骨の構造体を可能な限り鉄で作ることで高い技術を示すと同時に、従業員にとって魅力ある働き場所にした。
設計者は、自然界に存在する泡がある領域に充填されて拮抗した状態で出来る幾何学的形態・3次元のボロノイ分割を使い、ボロノイの最大限のボリュームを獲得しようとする性質をコンピューテーショナルデザインなどの最新技術を使って空間設計に応用し、さまざまな職能の人々の従属関係のない風通しの良い繋がりを生む3層オフィスを作り出した。
鉄鋼職人たちは、柱、梁、耐震壁、スラブ、高い溶接技術が求められる複雑な鉄骨架構の設計図を基に、新しい仕口の検討、梁先行の鉄骨建て方、部材の大型化による精度確保など、通常の技術では作ることができない建築を職人技によって実現して自分たちの誇りに繋げた。
職人技によって複雑な角度で溶接された鉄骨架構そのものがアート作品とも言えるが、エントランスホールの受付カウンターを見て驚いた。黒く塗装された直径318.5mmの鋼管材4本を複雑な角度で溶接した何ともダイナミックなオブジェなのである。一次審査で見た作品パネルには、このようなオブジェの存在は記載されていなかった。聞けば、建物の溶接試作を受付カウンターに利用したとのこと。分厚い黒い鉄の管が見る者に迫ってくる。AACA賞は、建築、美術、工芸が融合した芸術的景観を対象としていることから、応募者には、こうしたオブジェを積極的にアート作品として取り上げる意識が望まれる。
選考委員 近田令子
写真撮影 藤井浩司
作 者: | 中村拓志 NAP 建築設計事務所/中村拓志、高井壮一朗、鈴木健史 株式会社 竹中工務店/成山由典、鈴木宏彬、齋藤悠磨 |
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所在地: | 千葉県千葉市稲毛区緑 |
各駅停車の電車しか止まらない総武線の西千葉駅は千葉駅の一駅手前にある。駅を出て少し歩くと周辺はほぼ住宅街と言っていい、静かな街並みである。線路沿いエリアを除くと殆どの建物が2階建、高くても3階建である。そんな環境の中にこの作品がある。人気のファッション企業の本社がなぜ住宅街にあるのか、一見不思議な気もするが、その街に溶け込み、町との関係性を構築すること自体がビジネスへのフィードバックになるという企業哲学から選ばれた敷地だという。従来ならば本社の中に食事や保育といった機能を持ち込むこともありうるが、ここでは自社の属する街全体がオフィスだと考えて街の公園や保育所、カフェ等との共存を前提としてこのオフィスが成り立っている。道路の反対側に作られた「ZOZOの広場」では近隣の子供たちがにぎやかに遊び、広場を通じて会社のスタッフと地域の人たちとの交流も盛んだとのこと。
建物に近づいていくと全く高さを感じない。やや大きめの平屋といった風情である。近隣の街並みにはすっかり溶け込んでいる。通りを歩く人が興味を持ってガラスから中を覗き込んでいる姿も見える。きわめて透明性の高いオフィスだ。その広いオフィス空間は、二十数メートルのスパンに柔らかい布のように掛けられた、懸垂型の屋根に包まれた大空間だが、居心地の良い優しい執務空間になっている。3枚の布状の屋根は天井面に織物の縦横の糸を思わせる細い木の部材で構成されていて、布効果を高めているようである。この建物随所に、アーティストの作品、特に多くの絵画が置かれている。先進的ファッション企業にふさわしく、独創性を掻き立てる役目を担っているのであろう。
コロナのせいで、訪れた当日はほとんどの社員の方がリモート勤務ということもあり、人影がまばらで広さだけが異様に目立ったが、この作品がもしコロナの時期に計画されていたら、どんな形になったのかと考えるとまた興味をそそられる。
立地を含めた計画そのものが、今までにないオフィス空間を創りだしていて、働いている人も近隣の街に住む人たちもその新鮮さに驚きつつ、楽しんでいるようである。
選考委員 可児才介
写真撮影 Nakasa and Partners
作 者: | 佐々木達郎 |
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所在地: | 沖縄県那覇市松山 |
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国道からのアプローチに、公開空地を設けて緑の前庭とし行き交う人に憩いの居場所を提供して地域との融合を計るとともに、ファサード低層部には 花ブロックをモチーフにしたスクリーンや敷石タイル、ベンチや立体オブジェなどのコーディネートによってホテルとしての顔が整えられている。そして特徴的なのは、エントランス横に接するラウンジが視覚的にも動線上も前庭に繋がり街に開かれて、宿泊客でなくても利用できる地域の情報発信スペースとしていることである。更には、ショップ、チェックインカウンター、カフェカウンター、カフェラウンジとホテル機能と空間が奥深く連続して、そのまま裏通りにまで繋がっている。前庭から裏通りの繁華街へ誘うように、つなぎの屋内の道とガラス越しに見える緑の露地を花ブロック敷の「通り庭」として設け、内外を一体化することで、一階全体が透明度の高い空間となり、ホテルが街に公共性を提供しているところは大いに特筆できるところである。
客室においても特徴がある。沖縄の建築法を有効に活かし、このホテルの階高、客室はどのタイプも天井が高い。これを生かした客室タイプが、ホテルとしては珍しい木製ロフト付きの部屋である。また大きな正方形の窓辺に木フレーミングされたくつろぎソファー付きの部屋など、どのタイプも靴脱ぎスタイルで畳床に座り込んで過ごせ、限られた広さが十二分に活用できて解放感がある。内部の壁クロスやタイルなど、沖縄伝統の色使いが配されて落ち着きを感じ、ホテル内の至る所に展示された地元作家作品や伝統工芸品などの選定にも思想が感じられる。ご近所街歩きマップというインタラクティブな生きた情報提供など、ホテルが周辺地域と蜜実に繋がり、活性化に寄与しようという姿は素晴らしく、建築的に見事に成立しているのは、都市観光ホテルのあたらしい姿と言えるのではないか。
選考委員 藤江和子
写真撮影 Harunori Noda (Gankohsha)
写真撮影 Daici Ano
作 者: | 飯島敦義(株式会社 日建設計) |
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所在地: | 埼玉県本庄市栗崎 |
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小高い山の森に囲まれた本庄キャンパスにある高等学校の体育館である。
森を抜け教室校舎の背後に、小雨に濡れたコンクリートの塊が現れ一瞬驚く。
48m x 43m x 16mの立方体が、2m x 2m程のキャンティーで4周に軒を作るように一回り小さい同じコンクリートの台座に乗っている。大きなコンクリートの矩形のコーナー部は、丸く削り取られ、打ち放し面の中層レベルに大小の丸い穴がいくつも穿たれて、何やら微笑ましいい可愛らしい外観を呈している。さらに、森に生息するオオタカの繁殖時期を避けて、冬時期を待ち打設したという大きなコンクリート面は、ひび割れもなく打ち継ぎ目地のないコンクリート面を形成して優しい印象だ。
講堂としても使われるアリーナ内部に入っても、全てがコンクリートのグレートーンでありながら、人肌が触れる低層壁面と天井には吸音材などが用いられ表情がある。上部壁には無数の大小の丸孔がランダムに開けられているために、大空間にボールが飛び交い、喜びが弾けるような躍動感や、高揚感を誘ってくれて実に楽しい。この大きな気積の周囲は、構造的に大空間を支える回廊となっており、外壁と内壁とに穿たれた丸窓からの光が、直射を避けるよう制御されて体育館内部に自然光の明るさがもたらされる。この回廊空間は、自然換気や光の調節,調音対策など自然循環の力と機械設備を内包する同時実現のスペースでありながら、中層部を1周170 mのランニングコースとしていて、綿密に計画されて穿たれた孔は光を誘い視線を誘導する。外観からは想像できない解放感があることに大変感心させられる。
非常に明快なメッセージがあり、綿密な計画と緻密な設計、高度な施工によって、強靭で頼れる力強い建築の姿が立ち上がった。建築と一体化した下足棚やサイン、壁肌の細やかなコンクリート仕上げなど、心身ともに成長する多感な時期に、このような建築空間を日常的に実体験できることは素晴らしい。人の感性に響く『建築の力』を実感できるいい建築である。
選考委員 藤江和子
写真撮影 繁田 諭
作 者: | 野村直毅 |
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所在地: | 京都府京都市伏見区深草直違橋北 |
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場所は京都市南部の伏見街道沿いにあるが、いわゆる歴史的街並みを形成する町家のような古民家ではなく、どこにでもありそうな築40年程度の木造家屋が、間口が狭く奥行きの深い特有の形状をもつ敷地の中央に遺されていたという。通常ならば、既存家屋は解体のうえ、はるかに自由度の高い設計を試みるはずであるが、敢えてこれをコアの空間とした増築を選択し、効果的な床面積の最大化を目指したものである。その結果、新築によって機能性と効率性を追求することでは得られないような生活空間の余白が随所に発生し、床面積からは想像もできないほど豊かな多様性に満ちた場所が設えられている。これを可能とした要因は2つあると思われる。その1つは、既存家屋の丹念な調査とその価値を活かす設計ならびに施工のプロセスである。とりわけ、実測調査によって構造上の課題を確認するとともに通り芯と軸組の再定義を行い、それらに基づいて増築部分による既存家屋の補強が可能となる構法を検討し、施工過程では一体的な基礎の打設を行っていることが注目に値する。さらには、このプロセスにおいて既存部と増築部にまたがる部分にこそ、豊かな空間的多様性がもたらされていることを特筆しておきたい。2つめの要因は、関西地方の伝統的な町家にみられる空間構成の原理が、現代的に変換されていることである。狭い間口幅の敷地に対し、深い奥行きに沿って家屋と庭が交互に配置され、それらを統合する軸空間としての「とおりにわ」による空間構成であるが、ここでは、長さ30mにおよぶ増築部分の通路が敷地を貫き、交互に反復される居室と屋外空間をつないでいる。しかし、その通路の床レベルには絶妙なリズムで設定された段差があって、それこそが家族にとって心地のよい居場所をあちこちにうみだすきっかけとなる。京都・伏見におけるローカルな試みではあるものの、この作品の設計プロセスと空間構成には、既存ストックの再生に加えて、新たな価値を付加していくための理念と手法において、幅広い普遍性を垣間見ることができる。
選考委員 宮城俊作
写真撮影 Takumi Ota
作 者: | 神谷修平 |
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所在地: | 神奈川県三浦郡葉山町一色 |
葉山の緑深い住宅地の中でも一段と木々に囲まれた坂道を登ったところに1928年にフランクロイドライトの弟子遠藤新によって設計された別荘建築がある。ライトの強い影響を受けたプレーリースタイルのデザインで重層する屋根と大谷石の柱が強いイメージを形づくっている。
国指定の登録有形文化財に指定され保存されてきたが利用者が少なく老朽化が進行していた。
別荘の所有者が変わって新しい所有者は民泊による一棟貸しホテルに再生し「世界から建築文化を愛する人々呼びたい」という発想で既存のデザインを損なう事なくホテル施設として再生する事を望んだ。再生計画は3つの保存レベルを設定し「歴史を尊重して保存に徹するエリア」「家具照明等を新設して歴史と現代を融合するエリア」「現代的に再生するエリア」に区分して、それぞれのエリア毎にデザイン展開させている。
延床面積364㎡の広大な別荘の為数多くの寝室があり、ホテル仕様にする時に基本的に平面計画は既存のまま利用できる為に大きな変更は必要なかったと思われるが、一部バック関係の諸室を改造して大浴場を新設する等の工夫が見られる。又室内空間であった部分をダイニングから連続するオープンテラスに開放する等ホテルらしい空間創りにも成功している。ライトの有機的建築の理念を継承してデザインの統一を計り細部に至るまで現代性を採用しながらオリジナルのデザインを引き立てる手法に成功している。外観は殆ど本来の姿のままで芝生の庭園から続くサロンスペースが明るい開放的な葉山の環境に溶け込んで居心地良い場所になっている。創造的保存をテーマに携えて保存再生プロジェクトに挑んだ設計者の試みが成功して、新しいホテルとしてよみがえり上質な空間を多くの人々に体験されられる機会を提供できた事は高く評価される。
この建築を蘇らせようと考えたオーナーの姿勢に敬意を払いた。
保存再生プロジェクトの高度な実施例として特別賞に価する。
選考委員 岡本 賢
写真撮影 鈴木研一
作 者: | 株式会社日建設計、清水建設株式会社、斎藤公男(技術指導) |
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所在地: | 東京都江東区有明 |
有明体操競技場は2021年夏に開催された東京オリンピックの体操競技会場、パラリンピックのボッチャの会場である。東京のウォーターフロント有明北地区に12,000人収容の仮設の競技施設として整備されたものである。また、この競技場の北側にある高速道路越しには、バレーボール会場となった「有明アリーナ」が見える。
この建物は屋根の架構、外壁、観客席などに主要な部位に木材を活用している。敷地の記憶として、元々「有明北貯木場」として使われていたことや、日本の「木文化」を広く内外に発信することを目的として木材を採用することにしたとのことである。また、国の方針でもある「脱酸素社会の実現に向けて公共施設における木材利用促進」にも合致している。
敷地は東雲運河に面し、大きな広がりのある空間の中に、美しい水平ラインの深い軒と高さを抑えた緩やかなアーチ状の屋根が大変印象的な風景を創り出している。さらには、外部のコンコースの深い軒に向かって反りあがる形状の木の角材を積み上げた外壁は軽やかに人々を迎え入れてくれるような趣がある。かなり大規模な建築にもかかわらず、その大きさを感じさせない。外壁の夜景の写真を見ると、ライトアップされた建物全体が浮かび上がる様は大変神々しく美しい。
最大の特徴は大きな屋根を支える「複合式木質張弦梁構造」であろう。90mに及ぶカラマツ集成材(1150×220)の連続するアーチと鋼製の小径のケーブル構成された張弦梁が軽快でダイナミックな大空間を創り上げている。高度に優れたな構造・施工技術がこの形を実現させているのである。また隅々まで洗練された木の使い方やディテールが木の持つぬくもりと合わせて、とても親しみやすい空間を醸成しているであろうと思われる。ただ、誠に残念ながら、今回のオリンピックではコロナ感染対応のためこの有明体操競技会場も含めほとんどの競技が無観客となったのである。しかしながら、日本選手が活躍した映像を通して、建物の様子や競技会場の雰囲気を感じ取れたのではないかと思う。
今後この施設は、内部を改修した後、東京都の展示場として利用される予定である。この施設の内外の空間を実際に体験できるようになることが大変楽しみである。
選考委員 東條隆郎
写真撮影 広谷純弘
作 者: | 広谷純弘、石田有作/アーキヴィジョン広谷スタジオ |
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所在地: | 富山県高岡市オフィスパーク |
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晩秋の北陸路は生憎の時雨であったが、JR新高岡駅から近郊の能作新社屋を訪ねた。
この地は私にとっても地元であり工芸高校で学んだ思い出の地だ。高岡市が新しくオフィスパークとして工場の誘致を進めている中にあった。新社屋建設と共に「産業観光の拠点づくり」を目指し「モノづくりの場からのメッセージを形にすること」の意気込みに引かれ興味が湧いた。
社屋は大きく横に伸びた建屋で、上部に赤い曲線の屋根を載せた、あっさりとした感じであった。
エントランスに入ると正面のガラス張りの「木型原型」収納庫が圧巻であった。木型のかたちの連続が美しかった。これが眼目の一つである事は解った。
この社の主素材は「錫」である。漢字で「、錫」は金と易からなる会意文字といわれ、容易に伸びる金属の意とある。融点は232℃と低く、主要鉱石の「錫石」からの精錬が容易で人類史において、もっとも早くから使用され、銅との合金で「青銅器」は紀元前3000年ごろ、メソポタミアで初めて開発された。時報として鳴らすベルや仏教で使われる仏具の鈴・釣鐘などの製造材料として使われている非常に安定した材質であり、現在も現役で使われている。
人類は石器から青銅器へ時代が移行した。日本には奈良時代以後に大陸より茶と共に持ち込まれ、茶壷、茶碗など伝わった。毒性が低く腐食に強い性質で、茶道具、神・仏具、徳利、高坏などに使われている。中世ヨーロッパの銀食器に次ぐ「器」として「ピューター」がある。「ブリキ」は鋼板に錫メッキをしたもの、さらに「はんだ」は最も使用されているものだ。
長い伝統受け継いだ鋳物メーカーとして、きわめて興味深くモノづくりとして可能性を感じた。
新社屋・新工場になり見学者の数が年間14万人に伸びたとか。社員の平均年齢も40代など、若い社員が生き生き働いて居場所がすばらしいと思った。 体験工房、ショップ、カフェ、ギャラリーなど観光部に力がそそがれて動き始めている。いろいろな仕掛けや取り組みは訪れる人を楽しませ創造的であり、美術工芸賞として評価できる。
選考委員 米林雄一
写真撮影 プラナス株式会社
作 者: | プラナス㈱ 代表取締役社長 林 正剛 執行役員クリエイティブディレクター 福田和将 |
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所在地: | 東京都 大田区羽田空港1-1-4 羽田イノベ―ションシティー |
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「METALISM」は羽田空港に近接する「羽田イノベーションシティ」内に、地元大田区に基盤を持つ町工場を中心に金属・塗装・表面加工に特化したトップ7社の企業が集まり、分野や業種の垣根を超えイノベーションを発信したいとの思いから開設した活動の拠点である。
7社はこれまでは受託生産を主に行っていたが、次なる発展に向けて他のパートナーとの協業により新たな付加価値を創造することを目指している。その7社は下記の通りである
・ヱビナ電化工業 株式会社(大田区) めっき関連技術
・株式会社 エムアイ精巧(埼玉県) プレス加工、金型開発
・株式会社 金属被膜研究所(品川区) 無電解Niめっき
・株式会社 タムラエジア(大田区) 金型設計、高精度加工
・株式会社 藤田ワークス(鹿児島県) 精密板金
・有限会社 望月塗工研究所(大田区) 鋳物・特殊機器塗装
・株式会社 リプスワークス(大田区) レーザー微細加工
この7社が自分たちの持つ高度な金属加工技術力から生み出されたオブジェや製品を使い、この活動の空間「METALISM」LOUNGEをつくり上げている。
このLOUNGEに入ると正面に四角いカウンターがある。カウンターはショーケースとなっていて各社の持つ技術から生み出された「モノ」たちが納められている。とても興味深い技術や製品の集大成である。また、カウンター内のテーブル中央から天井に向けて、鏡面に仕上げられた大小様々な四角い金属の葉が舞い上がるような造形が、内外から差し込む光に輝く様は大変印象的である。そのほか、低温メッキ技術が施された「自然の木々の葉」、特殊塗装技術で覆われた「メタル石」、精密に再現された金属植栽や表面を波紋加工した「金属水盤」などがディスプレーされており、非常に高い技術や素材が生み出す新たな可能性に興味が尽きない。建築、美術、工芸やランドスケープなど様々な分野においても協働の可能性を秘めているのではないかと思われる。
この「METALISM」、日本のみならず日本の玄関口から世界に向け「イノベーション」を発信するという高い目標を持った活動が、次々と新たな価値を生むことに大いに期待するとともに、AACAの理念にふさわしい活動として美術工芸賞奨励賞を送るものである。
選考委員 東條隆郎
写真撮影 エスエス名古屋
作 者: | 長谷川 寛、石黒紘介、杉森大起、 (株式会社 竹中工務店) |
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所在地: | 愛知県刈谷市豊田町 |
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写真撮影 納谷建築設計事務所
作 者: | 納谷建築設計事務所 納谷 学・納谷 新 |
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所在地: | 福岡県朝倉郡東峰村大字宝珠山字竹 |
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写真撮影 桜継泰介
作 者: | 井原正揮、井原佳代 |
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所在地: | 東京都港区三田 |
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写真撮影 畑 拓
作 者: | 水谷俊博(水谷俊博 建築設計事務所/武蔵野大学) 木村 浩、三浦伸夫、関 彩奈(武蔵野市) 渕上朋子(水谷俊博建築設計事務所) |
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所在地: | 東京都武蔵野市緑町 |
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写真撮影 野村和慎
作 者: | 向山 徹 |
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所在地: | 山口県岩国市黒磯町 |
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写真撮影 稲住写真工房
作 者: | 株式会社大林組/東井嘉信、西森史裕 大光電機株式会社/安東克幸、川中祐介(照明計画) |
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所在地: | 大阪府東大阪市角田 |
写真撮影 笹倉洋平(笹の倉舎)
作 者: | ジオ―グラフィックデザインラボ/前田茂樹、田中宏幸、藤本雅宏 |
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所在地: | 福井県大飯郡高浜町塩土 |
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協会賞
第30回 AACA賞
- 審査
総評 - AACA賞
- 芦原義信賞
(新人賞) - 優秀賞
- 優秀賞
- 優秀賞
- 奨励賞
- 奨励賞
- 奨励賞
- 奨励賞
- 特別賞
- 美術
工芸賞
- 美術
工芸賞
奨励賞 - 入選作品
今年は困難な状況にもかかわらず応募数が増え、現地審査作品の選出、並びに最終選考には大いに苦労しました。特に現地審査については安全性の観点から審査員数を原則二人に絞るなど、その是非も含めて大いに議論したところです。
作品の内容も高速道路のパーキングエリアから修復中のお城の見学通路、ホテル、保育園、集合・個人の住宅、既存建物の大胆な改修など、実にバラエティに富んだものでした。またAACA賞の美術工芸と建築の融合の視点からは、アーティストや美術工芸をエンカレッジしようとするもの、地場の様々な工芸作家を積極的に起用したものなどが多彩なものがありました。
今年審査員全員が一致してAACA賞に推したのが《京都市美術館(京セラ美術館)》です。帝冠様式の旧美術館の外観をそのままに、大胆に地面を掘り込んで入り口をつくったデザインで、建築だけでなく周辺地域一帯の価値を高めたものとして高い評価を得ました。
芦原義信賞には、ともすれば凡庸な賃貸住宅になりがちな土地活用の求めに対し、シンプルな建築言語を用いて、集合住宅に愛らしい戸建て集落のような形を与えた《CHRONOS
DWELL》が選ばれました。
これに続く優秀賞の3作品も、それぞれに特徴のあるもので、《のだの保育園》は伸びやかなデッキで全体をつなぐ大らかなもの、《垂井町役場》はかつてのショッピングセンターを大胆にリニューアルして役場庁舎としたもの、《尼崎パーキングエリア》は機転の効いた細長い棟配置によって快適で美しいトイレ施設をつくるなど、力作ぞろいでした。
奨励賞は例年より1つ増えて4作品となり、《松原市民松原図書館》が溜め池を保存したまま土木的な量塊の中に明るく流動的な内部空間を仕込んだもの、《木頭の家》がかつての茅葺屋根のイメージを木架構の合掌で再現したもの、《松山大学文京キャンパスmyu
terrace》が既存地下躯体を基礎とした開放的な半屋外テラス、《すばる保育園》は風景の中に溶け込んでたたずむ伸びやかな造形と、4作品のいずれもが大変個性的でした。
今年は特別賞として《熊本城特別見学通路》を選びました。大きな地震被害を受けた熊本城は20年をかけて修復されますが、その様子を観覧できるようにするもので、遺構に負担をかけないよう空中に浮揚する形になっています。
一昨年創設された美術工芸賞には、《HOTEL STRATA NAHA》が選ばれまし た。織物や染色、ガラス工芸など沖縄の作家を多数起用した、都心にあっ てリゾートのように寛ぐことのできるホテルです。建築と美術工芸が融合したものとして、審査員の多くから指示 を得ました。
なお、今年は《東新工業㈱いわき工場アートプロジェクト》に、若手の作家を育 もうとするクライアントの姿勢に美術工芸賞奨励賞を贈ることとしました。
入選となった6作品は、路地育ちの鶏卵製品を販売するシンプルな木架構 の《mother`s+(マザーズプラス)》、京町家を保存活用したホテル《THE
HIRAMATSU 京都》、独創的なCLTトラス架構による《大成建設技術センタ ー 風のラボ》、軽やかな木造で開放的な空間を実現した《プラス薬局みさ
と店》、スチロールにコンクリートを吹き付けた量塊がつくる《Soilhouse》、吉田鉄郎の京都中央電話局を立体的なストリートのあるホテルに 改修した《新風館》と、入賞作品に劣らずそれぞれとても魅力的なもので
した。
コロナ禍にありながら、例年以上に充実した作品を数多く選ぶことができ 、大変うれしく思います。
選考委員長 古 谷 誠 章

西澤徹夫 (西澤徹夫建築事務所/基本設計・実施設計監修・工事監修)
森本貞― (株式会社松村組/実施設計)
久保 岳 (株式会社昭和設計/実施設計)
高橋匡太 (株式会社高橋匡太/ファサード照明)
所在地:京都市左京区岡崎円勝寺町 124
まず眼を惹くのは、ガラス・リボンと呼ばれる新しいエントランスとスロープ状広場である。西側広場をスロープ状に掘り下げ、かつての地下室を新たなエントランスにすることで、帝冠様式のファサードを変えずに、発券・案内スペース、売店、ロッカーやトイレといった基本的なサービス機能を充実させる要望に応えた。入館者は1階の中央ホールを経て美術館内を巡る。中庭が解放されて屋外彫刻を楽しめるようになった。中央ホールの2階吹き抜け部には新たに東西エントランスを結ぶブリッジが設計されて美術館内部の回遊性を高めている。残念なのは東エントランスロビー側の2階窓ガラスが鉄板のような素材に置き換えられていたことだ。この窓から光が入る又は窓面が光っていたならば中央ホールがどんなに生き生きとなったか。メクラ窓にする他に解決方法がなかったか惜しむ。 特筆すべきは、この西エントランスから東側エントランスに抜けた先に見える「変わっているのに変わらない」新館が加えられた景観と、「変わらないのに変わって見える」日本庭園(1909)の眺めの見事さである。シャンパンゴールドのステンレスチップを象嵌したGRCパネルの外壁の新館は、最初からそこにあったかのように本館と一体の建物として溶け込んで見える。本館と新館に囲まれた小川治兵衛による日本庭園は、1世紀以上前に作庭されたとは思えない新鮮な輝きを放つ。池にはリニューアル時に造られた杉本博司による「硝子の茶室 聞鳥庵(モンドリアン)」が2021年1月末まで展示されている。 改修にあたり本館のファサードに京セラ製LEDの色変換可能型照明が新設された。年間を通して二十四節季を色で表現したり、市民参加によるワークショップで提案されたカラーライトアップが計画されているが、色光を使う際には慎重な判断が欲しい。まず、美術館のすぐ横にある平安神宮の真っ赤な大鳥居のある京都・岡崎の文化的背景、周囲の夜の景観の中で、歴史的建物への光色はどうあるべきかを考える必要があろう。市民がワークショップで提案した案だからと言って、美術館を見る多くの京都市民、観光客にカラーライトアップが受け入れられたと考えるのは早計である。
一般市民の歴史的景観に対する思い入れは深い。建物ライトアップの基本は素材を生かす光色とし、1階旧メインエントランスを舞台にした演奏会を催す時などに、新しい地下エントランスのガラス・リボンと呼ばれるスロープ部分をカラーで演出するなど。地階部分の軽やかさと本館の重厚さの対比を意識して建築の時間の積み重ねを想像させる光を目指し、引き続き検討を願う。
選考委員 近田玲子

所在地:広島県広島市安佐南区大町東
スタートは事業収支の計算で、賃貸アパート15戸を作ることだった。しかしここから、作者の発想がふつふつと湧き出てきたようだ。15戸を4つのコミュニティに分けそれぞれのコミュニティは広場と路地を持ち、4戸の住宅は必ず広場に面する。また4戸の住宅は建物としてつながっており、一つの建築になっている。さらに15戸の住宅には一つとして同じ平面を持つものはない。そんな発想だ。実施にあたっては一挙にすべてを作るのではなく、まず4戸の一つのコミュニティを先行して完成させ、様々な問題点を洗い出した。それらの解決策を盛り込んで残りのコミュニティも完成させたという。子育て家族を対象とした賃貸アパートである。
前面の道路から近づいて行くと、馴染み易いスケールの住宅群が目に飛び込んでくる。それぞれの空間単位を周辺よりやや小さなボリュームにすることで圧迫感を軽減するという計画の結果である。 写真で見た銀色のガルバのギラギラ感はほとんど感じない。まさに環境に溶け込んでいて前からあったような親しみを感じる。コミュニティ内の路地に入り込むと、子供のころに経験した家と家の間の、探検したくなったあの細い道の空間の記憶が重なる。2階は1階とは平面をずらして配置、入り組むように交差していて、まさに積み木の世界だ。 その結果、別の家の寝室の下が我が家の玄関の前の路地になったり、別の家の屋根が我が家のバルコニーになったりする。個別の住居の領域はしっかり確保されているのに、一方で路地と広場による「弱い境界線」がコミュニティの結びつきを作った。子供たちはこの外部空間を完全に共有しているようだ。住宅の内部も同様に、育ち盛りの子供たちには遊ぶ場所には事欠かない。きわめて新鮮なデザインソリューションであり、芦原義信賞にふさわしい作品である。
選考委員 可児才介

所在地:千葉県野田市蕃昌338‐2
現地に立ち、配置計画を読み込むと、長い時間の中で増築を重ねた特徴的な形を持つ既存の3つの園舎に囲まれた園庭が今回の計画に沿って木々の間に伸びやかに広がっている事がわかる。子供たちの活動と心の中心は園舎の広場から木々の間の園庭である。新しい建築は、子供たちの生き生きとした活動の中心となるのびやかな園庭と呼応するような深い庇を持つおおらかな縁側空間が奥まで長く伸びた建築となっている。垂直に伸びる大木の林と対比するような水平な建築はダイナミックであるが、包み込むような優しい表情を持っている。
その表情を作っている建築の骨格は木と鉄骨のハイブリッド構造であるが、園児や保護者に、建築の圧迫感を全く感じさせていない。材料の特性を活かした構成が優しい表情の建築を作り出している。「木造」にこだわりすぎることなく、子供たちの活動のために適材適所に鉄骨造を駆使し、半屋外の深い庇の廊下に面して全開放可能な引違いのサッシ、レール等のディテールまできめ細かく行き届いた設計は、建築の存在を強く主張することなく、むしろ背景として消える方向となることで、おおらかな居場所を作り出している。図面ではよく解らなかったことも実際の空間を経験することで多様な構成の意味が腑に落ちてくる。
2階レベルは保育室と木々の間に木製ルーフデッキが広がり、大木を避けるように雁行し、奥の遊戯室へつながっている。この場所に古くから根付いている大きく枝を広げた大木の林と高い空、という、他では経験できない豊かな空間の素晴らしさを感じる体験は子供たちの記憶に深く刻まれるだろう。
設計者はこれらのさりげない佇まいを、優れたアイデアと技術を駆使し実現している。また、表現のためでなく長く使われたためのメンテナンスへの対応が、デッキの雨水処理など、各所の丁寧なディテールに感じられる。どうしたらこどもたちの日々の生活が楽しく安全で、豊かな時を過ごせるのかそして、毎朝ここに来るのを楽しみにしているこどもたちの笑顔が想像できる場所というような建築の本質的目的を理解し、それを優れたエンジニアリングで実現した設計者の力量は素晴らしく、AACA賞優秀賞に相応しい作品である。
選考委員 堀越英嗣

永廣正邦、日比淳、森一広、簾藤麻木
所在地:岐阜県不破郡垂井町宮代 2957-11
/ after で建物の機能が全く異なっていることである。この場合、before のスーパーマーケットに対して、after は町役場であるから、これはもう180度の転換だと言える。それでいて、いずれもこの町に暮らす人々の日常に欠くことのできない存在である(あった)ことは共通しているわけで、この場所と建物は引き続き垂井町民に意識され続けることになるのだ。二点目は、before
の建築的特徴がafter においても有効に生かされていることである。低層の大規模小売店舗に共通する平面形状の特徴、つまり柱間が広く見通しのよい物販スペースが確保されていた中央部が、そのまま執務効率と行政サービスの質を向上させる中央集約型の平面計画に継承されている。このことは同時に、町民に開かれた庁舎のあり方を実直に体現することにつながってもいるだろう。そして三点目は、コンバージョンにあたってbefore
の建築の課題もしくは欠陥であると考えられたことが、創造的に解決され、空間化されていることである。この点については、特に二つの側面から評価することができる。まずなんといっても、奥行きが深く、自然採光と通風が期待できない建物中央部の環境を劇的に改善する方法として採用された「環境井戸」の絶大な効果である。4ヶ所に配置された六角形の平面形状をもつヴォイドを通じて導かれる天空光と緩やかな空気の流れは、薄暗い森の中で出会う陽だまりのような暖かさと安心感をもたらす。また、環境井戸の直下が、パブリックスペースとなっていることも特筆されるであろう。そして、見通しのよい各階の空間の中で、この場所こそが庁舎のコアであることを主張している。続いて、この庁舎が防災拠点施設となるにあたって必要とされる構造補強が、この建築のファサードを極めて特徴あるものに進化させている点が注目に値する。一般に求められる基準の1.5倍の耐震性能を具備するべく付加されたRCのアウトフレームは、扁平であったかつての立面に、端正でありながら彫りの深い表情をもたらしている。リズミカルに連続するフレームがつくりだすフォーマルな陰影は、機能的合理性のみが追求されていた商業施設から、多くの市民が共感する象徴性を纏ったタウンホールへの変貌をいやおうなく実感させるものだ。庁舎の更新が必要となっている地方自治体の多くが財政難にあえぐ中、この町もその例外ではないだろう。その意味において、低コストの事業によって、隔世の感さえ覚えるに違いない庁舎を誕生させたとりくみには、敬服するばかりである。
選考委員 宮城俊作

所在地:兵庫県尼崎市南城内地先
車から降り、パーキングエリア施設を見ると、駐車スペースの前面中央に繊細に仕上げられた60㎜ほどの小幅板の下見板張りの細長い壁面と、それに沿って設けられた木の無垢材のベンチ、白く塗装された深い軒庇が連続している。非常に細長いシンプルな建物であるが、スケール感がとても良く心地よい空間となっている。その連続した壁面に設けられた開口を入ると、男女のトイレと自動販売機コーナーが連続して配置されている。駐車スペースからの動線が短く、利用者にとってはうれしい設えである。
トイレ内部は男女ともに大きなガラススクリーン越しに、道路フェンスとの間に施された緑が見え、室内は柔らかい自然光で満ち溢れている。また、自動販売機のコーナーは外部から機械自体が見えないよう配置されており、一般的なサービスエリアなどに見受けられる煩雑さがなく、全体が簡潔にまとめられ清潔感がありとても心地良い。
駐車スペースから道路の進行方向を見ると細長い建物がクランクしており、その先に緑に囲まれた広場とガラススクリーン越しに休憩スペースが見え、期待感を抱かせる。その手前にはこの建物のスケールに程よくあったイベント広場、奥には森のテラスなどが巧みに配置されている。また、この建物は高速道路上にあることで、構造的に高架のエキスパンションジョイントに合ったエキスパンションジョイントを設けることや、建物が高架上にあることから耐風圧強度や耐震強度など様々な制約がある中で計画されているにもかかわらず、それらを感じさせない。設計者の優れたきめ細やかな優れた力量を感じさせる。
設計者が目指した、利用者が高速道路上にいることを忘れてしまうような軽快で心地よい空間が実現している。
選考委員 東條隆郎

勝山太郎、多喜茂、甲斐圭介
所在地:愛媛県松山市文京町4番2、10、
選考委員 岡本 賢

所在地:大阪府松原市田井城3-1-46
エントランスから内部に入ると、受付とエントランスホールがあり、そこから1mほど下がった一般開架のフロア全体が見渡せる。奥にある「ため池」に面した開口部からは柔らかな自然光が差し込んでいる。一般開架フロアから水面が見える位置に開口部があればより周囲との自然とのつながりが感じられ、さらに心地よさが増すのではと思われる。書架の配置は手前から奥に向かって徐々にカーブしており、書架の側面のコンクリート版を模した特徴的な側板のサインの向きもそれに倣っており、利用者に期待感を抱かせ人の動きを誘発させると思われる。
この一般開架フロアから上層部に立体的に連続して大きな空間がつながり、図書館全体の構成が見て取れるようになっている。この空間のどこにいても、自分のいる場所が理解できることが、図書館を利用する人々にとって、安心感につながるのではないだろうか。また、連続した空間の視点の先々に開口部があり自然光が差し込んでいる。開口部が少ないのにもかかわらず閉塞感がない。開口部の位置、大きさや光の量が程よく、図書館空間全体に落ち着いた穏やかな雰囲気を創り出しているのが心地よい。長時間の滞在にも心地よさが持続しそうである。
このような外観・気積の大きな内部空間を支えているのが土木的な考え方の構造や施工技術である。それは厚さ600mmの外壁と池の水を止水し池の底から構築する技術である。床は鉄骨の柱・梁で支えられ外壁とはピン接合となっており、外壁は鉛直荷重のみ負担する考え方で構成され、自由度の高い内部空間が実現しているのである。
この敷地に隣接して、松原市民体育館、松原中央公園や松原市文化会館など市の公共施設がある。その中でこの特徴ある市民図書館はこの地区のランドマーク的な存在となり、多くの市民に親しみをもって利用されることが期待される。AACA奨励賞にふさわしい作品である。
選考委員 東條隆郎

なわけんジム 名和研二
所在地:徳島県那賀郡那珂町
大屋根はかつて茅葺屋根の勾配をもつ寄棟とし、集落の中で象徴的だった家屋の風格を再現している。林業を営む建主の要望で林業の伝統工具や所作を展示するギャラリーを計画に取り組む為、大屋根で生まれる小屋裏の空間を無柱の大空間として計画した。地元産の杉材の登り梁を贅沢に使用し、寄棟の4面の版状を持ち合いに構成して束立てのない空間を実理している。連なる杉材の登り梁の美しさがこの建築の最大の魅力となっている。
屋根面には、4週を巡るスリット状のスカイライトを設置しギャラリーの足元からライトアップの様に登り梁を照らし上げている。創建時の骨組みを生かした保存、再生ゾーンと新しい居住スペースの間に吹き抜けの土間空間を計画して小屋組の美しさを見渡し、通り抜けの集落の風景と一体となって、昔の田舎家の土間空間の懐かしさを感じさせる。保存再生ゾーンには、囲炉裏や仏間、玄関、接続する和室の構成等当初の面影を再現し、その周辺に新たな縁側を巡らせている。古民家の懐古部分を生かし、その周囲を新しい感覚で構成する。「入り子」構造の様な計画がこの建築の新しさであろう。
白色鋼板の寄棟屋根は周辺の環境からは少し浮きあがって見えるが、時間と共にこの里山の地になじんで土地の象徴となっていく事を期待する。
選考委員 岡本 賢

所在地:福岡県小郡市大保960
設計者はこれらの要望を同時に解決するユニークなプランを実現させた。子供たちの安全を守り、かつ子供たちの成長に寄り添い、豊かな自然環境と一体になる園舎を実現させるため、2つの大きなカーブを持った平屋をS字状に結んで配置する計画である。一つは西側の鎮守の森を中心にカーブを描く3歳児未満児(0,1,2歳)用、もう一つは南側の水田を中心にカーブを描く3歳以上児(3,4,5歳)用の平屋である。
2つの建物のカーブの内側は壁のない開いた空間としつつ、カーブの外側に耐力壁を集約させ、2つのカーブした建物をS字に組み合わせることで構造的バランスを取り、震災にも耐える建物の強さを確保した。又、PM2.5や黄砂などから子供たちを守るため平常時は可能な限り窓を開けないで過ごすことから、窓を開けなくても新鮮な空気を安定した温度で取り入れる地中熱利用換気システム、省エネシステム、エネルギー利用管理システムなどを導入した。
S字の結節点にエントランス、職員室、応接室、調理室などの本部機能が集められている。エントランスを抜けて、3歳児未満児(0,1,2歳)のエリアを右手に見て直進すると、緩やかにカーブした幅4mの日当たりの良い廊下、音楽演奏や屋内での運動に使う広々としたホールがあり、その先に3歳以上児(3,4,5歳)用のエリアが続く。園児を寝かした後の保育士さんたちの楽しそうに働く姿が印象的だった。
ホールに柱と梁は一切なく、天井高さ4m、横15mスパンの舞台中央はドーム状に上がっている。舞台に立つと残響が気になるが、音楽会を聞きに来た保護者や演奏者からは音の響が良いと気に入られているそうである。お椀を伏せたようなホールの屋根形状は、どのくらい持ち上げると屋根スラブのひずみを最小に抑えることができるか計算したアルゴリズム・デザインによって、最終形状が決められた。
敷地の外から保育園を眺めると、盛り上がったホールの屋根と遠くに見える花立山の形が重なって見える。コンピュータープログラムを使って導き出したお椀を伏せた形の屋根と、昔からこの地域の人に親しまれている自然の山・花立山。二つの山が双子のように並んで乳幼児が大好きな「おっぱい」が形づくられた。
選考委員 近田玲子

所在地:熊本県熊本市中央区本丸地内
本計画は、まちのシンボルである熊本城の復旧工事、その場で文化財の復旧過程をリアルに見る事が出来る建築(開かれた復旧工事)を実現させる計画だ。
時流に合った画期的な計画と思った。2019年3月から設計をスタートした。4つのコンセプトの基軸を立てた。 1.遺構に配慮する。 2.安全を確保する。 3.既存樹木を残す。4.復旧風景を見せる。
特別史跡内は地面を一切掘削等できないため、既存地盤形状に合わせた置き基礎とする。
また、20年後の解体時に現状復旧できるよう既存地盤と本工事の建材が混じり込まないように縁を切る必要がある為、ワイヤーメッシュを敷設した。その後、均しコンクリートにて基礎下端レベル出しを行い基礎を施工している。遺構、石垣を守る施工として、適材適所の構造架構考え、全長350m、高低差21mのルート等に合わせ、アーチ構造、リングガーダ構造、方杖トラス構造など、敷地特性に合わせた選択をした。手摺はトラス状とし制振性能を持たせた。
通路の床板および根太は熊本県産のヒノキ材を使用し、この場所に馴染む素材であると同時に構造の軽量化にも役立っている。足元へはLED照明を仕込み床面のヒノキから欄干メッシュへ光をあて、通路全体を柔らかな光で包まれるよう配慮した。この計画の取り組みは新たな観光資源の開拓やこれからの文化財と建築の新たな関係性を築く一手となる事を願っている。
「歩いて、見て、楽しむ道」つながりで一つ話題にしたい。私用で昨年5月にニューヨークのマンハッタン地区の再開発、ハドソンヤードに立ち「ベッセル」を見てきた。巨大な鳥籠のようで、歩いて廻る展望台だ。地上46mの16階建てに相等し、階段154段、踊り場80、トーマス・ヘザーウイツクというイギリスの建築家の設計との事でした。人は自然の中でおもしろそうな物を見て回り、健康で楽しみながら生きてゆきたいと願っている。今回の見学通路は訪れる多くの人々に夢を届ける素敵で、特別な道です。だから選考委員の総意で、特別賞に決定された。
選考委員 米林雄一

中原典人・湯川ちひろ・友口理央・佐々木絢子・小泉智史・藤田はるひ[UDS]
渡瀬育馬・内海大空 [Dugout]
長堂嘉範・伊波和哉 [デザインスタジオ琉球楽団]
所在地:沖縄県那覇市牧志1-19-8
設計者は、この地が14~15世紀の琉球王国時代には、アジアから首里城への交流文化の道・長虹堤の要所だったことに着目し、その地層をデザインダイヤグラムに、Ryukyu Nature Modern をデザインコンセプトに掲げ、地質データによる土色を低層から高層部へのデザインの底流に一貫している。
建築計画では客室タイプにおいても様々な工夫がされて、なかでも2層分の天井高と天井一杯の開口をとおして、ベッドにいながらも沖縄の空を大きく体感できる客室は圧感で、頭上の高さと共に外部への広がりが空間体験に特別な変化を与えてユニーク。また広いバルコニー付き3面開口のある部屋からは市街風景をパノラマ展望できる開放感など特徴的な客室空間が多く設けられている。
内部仕上げは、全館隅々まで沖縄の自然に誘うように床、壁、家具に自然素材が選択され、職人の手で丁寧に組み込まれていてシンプルだが心地よい。
美術工芸についても、多彩な沖縄の伝統工芸技術が網羅されて、随所に小気味よく配されて、デザインコンセプトに則り統一感をもたらしている。沖縄クチャ(泥)や赤土などによる左官仕事が、壁面レリーフアートに丁寧に塗り込まれ、琉球ガラス工芸はランプシェードやタンブラーに内装と呼応したオリジナルデザインで、またホテルでは重要な要素であるファブリックには、首里織(首里道頓織 、花倉織)がカラープログラムに則って、クッション・スローに用いられ、薄手の優しい織がテーブルランプの光を穏やかに透過して上品に活かされている。最も特徴的な琉球紅型の伝統技術は、客室やレストラン、ロビーに、新しい歴史的テーマやモチーフ、色合いによる現代の紅型壁画として飾られて新鮮である。琉球伝統技術を受け継ぐ若手作家との熱い会話の積み重ねを通して、沖縄の工芸美術が現代の空間に融和して清々しい雰囲気を提供している。
琉球石灰岩が多用されたレセプションロビーやカフェから連続して広がる緑豊かな庭園に、屋外プールを挟んで別棟レストランが望め、身の丈ほどの軒の低い赤瓦の沖縄民家のそのたたずまいは趣があり、隣接するこの地独特のお墓を抱く豊穣な森が借景として生かされている。最上階の水盤のある屋上展望テラスは、バーと一体となって市街地風景が一望できる。
このように、全館を通してあらゆる要素において、豪華さや装飾性とは逆にシンプルであり、内外を連続する開放的で自然素肌感覚が入念に織り込まれて、この地の自然環境と一体化する工夫が凝らされている。海辺のリゾートホテルとは違い那覇市街中心部にありながら、訪れる人々に多様な空間体験を通して沖縄を発信する姿勢を実現し、ホテル運営を設計グループ自身が行うことでシティーリゾートホテルとしてのホスピタリティーが一貫している。
建築美術工芸の新しい融合の姿を具現した作品としてこの賞に相応しい。
選考委員 藤江和子

川辺 晃、中村茂幸、大隅秀雄、吉田重信、平山健雄、
根岸 創、藤城 光、久野彩子、青山ひろゆき、久木哲夫
所在地:福島県いわき市四倉町字栗木192-5
東新工業㈱いわき工場は、携帯電話・自動車等の電子部品のメッキ加工の工場で、今まさに伸び盛りの会社です。 各地に工場が新しく展開し、海外労働者の受け入れや、海外技術支援も行なって、昨今のコロナ禍の中で、世界中が戦々恐々としている時も今の時流に乗った新しい企業イメージの会社でした。
10人の参加アーティスト達は豊かな感性で、「繋ぐ、絆なぐ」に合ったそれぞれの言葉で語りかけます。手と手を取り合い繋ぐ様を表したイメージをさらに発展させ、四倉の地、海そして工場がしっかりと握手を交わし正面ゲート前にドッシリと立つオブジェ。工場前の広場には近くの地中から出現した「巨大な卵石」と名付けられた石
(約25t)。東日本大震災から復興のシンボルともなった「水葵」や「オーガニックコットン」をモチーフとした造形作品。津波によって更地となった土壌に水葵が小さく芽吹き、自然の再生と循環に勇気づけられこの地に咲く草花、訪れる鳥や風。その喜びの様を込めた絵画。海風を受け、たえずゆらりゆらりと動く金属製の動く彫刻は、いわき四倉工場の製品が広く世界へ送りだされ、新しい発展に繋ぐ象徴的な位置に設置されています。工場前庭や外に4作品。内部では会議室、社員食堂、玄関、工場内などで6作品設置。 紙面の都合で全部にはふれられませんが、ここで代表取締役社長 山﨑慎介氏の言葉を紹介します。「芸術は心の栄養のようなものだと思います。長い間を過ごす会社にいる間に、芸術作品に触れることが、仕事に対するモチベーションになればと考えています。そして、家族に自慢できる会社にしたい。」 まさに私たちアーティストが思っている事を明快に話していただきました。美術工芸賞は今年で3回目です。作家側が主体となって応募されたものです。素朴な面や、未熟面が多々あると思われる中で、今後さらに研鑽を積まれる事を願いながら、「美術工芸賞奨励賞」に決まりました。他の選考委員の方々からはクライアントの方こそ何かを受けるべきでなかろうかと囁きがありました。社長と作家両者に心からの拍手を送りたいと思います。
選考委員 米林雄一

協会賞
第29回 AACA賞
- 審査
総評 - AACA賞
- 芦原義信賞
(新人賞) - 優秀賞
- 優秀賞
- 優秀賞
- 奨励賞
- 奨励賞
- 奨励賞
- 美術
工芸賞
今年また格段に応募作品の質が向上し、現地審査対象作品、並びに最終選考には大いに苦しみました。作品の内容も大規模な大学図書館や講堂や大小の商業施設から、オフィス、個性的な住宅、既存建物の大胆な改修など、実にバラエティに富んだものでした。またAACA賞ならではの美術工芸と建築の融合の視点からは、両者が独立してあるというよりは、その境界が曖昧になり、建築にアートが自然に溶け込んだもの、または建物の一部が、建築の要素でありながら高度にアート化されたものなど、多様なものが見受けられました。
そんな中で今年圧倒的な説得力を持ってAACA賞を獲得したのが《福祉型障がい児入所施設 まごころ学園》。「施設」でありながら「家」を彷彿とさせるブレークダウンされたスケール感と、子どもの生活環境にふさわしい細やかな空間の変化を内包する機知に富んだデザインで最終審査において審査員全員の支持を得ました。
芦原義信賞には環境性能を重視する独創的なクライアントの要請に、綿密な思考とものづくりへの果敢な挑戦で応えた《淡路島の家》が選ばれました。 淡路瓦の技術を活かして、日射遮蔽や通風のための独特の外部シェルターを形づくる弓なりにカーブを描くユニークな「日除け瓦」を実現しています。
これに続く優秀賞の3作品も、それぞれに特徴のあるもので、《早稲田大学37号館早稲田アリーナ》は同大学の旧記念会堂を建て替えたもので、大規模なアリーナを地下化して地上をランドスケープで覆うもの、《SYNEGIC Office》は本社屋をCLTによる大胆な木構造でつくるもの、《UTSUROI TSUCHIYA ANNEX》は古くからの情緒を保つ城崎温泉で、元の消防署をゲストハウスに改装する斬新な試みで、何れ劣らぬ力作ぞろいでした。
奨励賞3作品は、《日本橋旧テーラー堀屋改修》が木造を補強する方杖状の部材を構造用の鋳鉄でつくって独特の雰囲気を出しており、《ACADEMIC-ARK@OTEMON GAKUIN UNIVERSITY》が新キャンパスでの学生の拠点となる図書館を大きな逆三角錐状の形でつくり、その外皮をステンレス・ダイキャストで製作した透ける金属スクリーンで覆ったもの、もう一つの《La・La・Grande GINZA》が小ぶりな店舗ながら、動線の集中するその外皮を緻密なサッシュワークで美しく構成しており、3作品のいずれもが建築の一部を美術工芸化したものと言えます。 最後に昨年度に創設した美術工芸賞には、《i liv(アイリブ)》が選ばれました。銀座の中央通りに面するその正面全体を、ウェーブするガラスルーバーで造形したもので、そのイルミネーションとあわせて、建築そのものが美術工芸としてのアート作品に結晶しているとして、審査員の多くから指示を得て選ばれました。
毎年のことながら今回もこのように充実した作品を数多く選ぶことができ、大変うれしく思います。
選考委員長 古 谷 誠 章

所在地:新潟県見附市田井町4476
長岡駅から車で30分程、のどかな田園の中を走り抜けると小高い丘陵地の森の中に学園が見えてくる。敷地の南側には既存の施設があり、駐車場を挟んで北側に平屋の新しい施設がある。優しい色合いの檜の板に包まれた小さな部屋の単位が、雁行しながら施設全体を形ち作る。海沿いにある出雲埼町の「妻入り屋根の波状」と言える家形群が作る美しい街並みにインスパイアされたという。従来、障害者施設では難しいとされてきた木質を全面的に取り入れた画期的な取り組みである。
平面の構成は、長崎の出島の一角にあった街並みにヒントを得た。管理施設部分を取り囲むようにL字型の居住室棟が、出島の海部分に当たる中庭を挟んで配置された。どちらに歩いて行っても元の場所に帰ってくる「円環」の構成になっていて、入所者にとっての「気配が見える空間」の効果をもたらしている。居室群の基本的な軸線は既存の建物に並行なのだが、全体の平面はその軸から18度、西側に傾けてある。その結果、内部には様々な空間が発生して楽しさや躍動感が生まれた。従来のこの種の施設ではできるだけ問題が起きないように四角い箱空間が管理者に好まれるのだが、ここでは学園長をはじめ運営する側と設計者が敢えて子供たちの心を動かす空間づくりに取り組んだ。「木質の空間は本来、触感、香り、調湿性、ぬくもり等、人がじかに触れることで情緒を育む大事な方法」という学園長の言葉に勇気づけられ、その工芸的な多くの工夫とも相まって、結果としては入所者だけではなく、スタッフや来訪者が居心地のよさを感じるものになった。限られた予算の中で地元の大工さんたちが扱いやすい、一般に流通している小径木を徹底的に使いながら厳しい構造条件をクリアした点も特筆に値する。
学園やスタッフの皆さんとともに、常に真摯に障害者と向き合い寄り添いながら作り上げた、名前通りの「まごころ学園」はまさにAACA賞にふさわしい作品である。
選考委員 可児才介

所在地:兵庫県淡路市
急な斜路を上り視界が一度途切れた後、住宅の妻側入り口に差し掛かると、驚くことに、全く違う見たことのないユニークな姿があらわれた。不思議な大きな彫刻のように、独特の様相をした大きな土のオブジェのように存在する衝撃的といえる建ち姿である。角を丸く塗り込まれた土壁の二つのボリュームの間が切り通しになって瀬戸内海を見通せる。その上に瓦の鎧をまとったような、ひとまわり大きな編み籠状の切妻家形が載っているのである。地元の淡路瓦は多くは灰色だが、ここでは釉薬をかけて土壁と同じ表情を纏わせているから、大地から生えでたように見える。成形された瓦は、スチールフレームに簡単に取り付けられて、塗り込められた土壁の粗密感と呼応して人の手の優しさが感じられる。瓦は、この場所の太陽光の年間軌跡から導き出したという弓形状をしていて、冬は最大限の陽光を取り込み、夏の日射を80%も遮蔽するカーブなのだという。
計算された曲率と歪んだ弓形状は、見る角度によって思いがけない透過と立体的な変化をもたらし、25ミリの厚みによって柔らかい表情の影を落とす。2階に上がると一挙に視野が解放されて視界の全てに瀬戸内海が開ける。居室部分は下見張壁と大きな木建具のガラスで構成され、土瓦の皮膜がテラスや通路幅を離して連続して繋がり豊かな半屋外空間が成立している。屋上には断熱の土を乗せトップライトやソーラーパネルを巧みに配し、地中熱の利用や斜面に設けられた小さなプールの循環水による徹底したゼロエネルギーをも追求している。更には雨水による家庭菜園や稲作という自然と密着した生活や随所にセンスの良いセルフビルドを楽しむ生活の様子が、住宅の内外に溢れ出て見え、人間の生きる力や生きる喜びという根源的な生活の姿が展開されている。豊かな建築空間とは、豊かな生活とはまさにこのことをいうのではないだろうか。この住宅にはそれが十二分に感じられるのである。
この地を選び、根を下ろそうとする住み手の哲学が見事に具現化された。深い感動を覚える素晴らしい建築。芦原義信賞に相応しい淡路島の住宅である。
選考委員 藤江和子

所在地:東京都新宿区戸山町1-24-1
神田川の支流に沿って展開する敷地のコンテクストを、丁寧に読み取ることによって提案された「戸山の丘」、その斜面の緑地と緩やかなつづら折れの通路は、頂において生まれるアクティビティを予感させるようにやさしく人を導いてくれる。丘を上り下りする人の動きは、そのままこの場所に固有の風景となるであろう。丘の頂部には、おおらかな球体の面がつくる芝生がひろがり、表面の柔らなテクスチャーは学生や教職員のみならず、近在の市民をも惹きつける魅力的な場所となる。また、丁寧につくりこまれた舗装面をはじめとするディテールデザインが、利用者にとっての使いやすさ、馴染みやすさをさらに高めているように感じられる。さらには、広場の周囲には、屋根から集水した雨水を活用した小さな湿地も形成され、多様な植物種を含む植栽計画とともに、生物多様性の保全と再生にも貢献することであろう。
この空間は、建築とランドスケープがプロジェクトの最初期の段階から綿密なコラボレーションを重ね、明快なコンセプトとその価値を共有し続けたからこそ可能となったものである。建築家にはいささか失礼な物言いになってしまうかもしれないが、床のレベルをほり下げることによって確保されたアリーナの空間は、この緑の丘のためにこそある、そう申し上げても過言ではないであろう。
選考委員 宮城俊作

所在地:宮城県富谷市成田1-9-5
敷地は仙台郊外のベットタウンの中で周辺は住宅と商業施設が連なっている。クライアントの要望から導かれた建築は、基本的に4点支持からなる4枚のHP曲面で構成された木造大屋根形状がいわゆるオフィスビルのイメージと全く異なった建築を創造し、周辺の街の景観と調和している。無柱の三角形板とCLT部材によるトラス構造の美しさは抜群で、端部では直接トラスに触れる事のできる高さに設定され落ち着いた密度の高いオフィス空間を実現している。
エントランスから続く吹き抜空間に展開する階段や手摺等にも全て木のぬくもりを感じさせ、オリジナルデザインのテーブル、ベンチに至るまで肌理細かいデザインが施されている。1階部分は応接室、実験室の他サービス諸室が配されているが、いずれも材質を抑えてシンプルなデザインで一貫している。外観は妻側に大きくせり出した木架構象徴的で地域のシンボルとなっている。ただその下の設備スペースの存在が気になる。道路沿いの外観から内部の木架構の姿がもっと大胆に望まれるようになれば一般市民に対してこの建築、更にこの企業のインパクトが強烈になったのではないかと感じた。
近年木構造の使用が多用になり様々な美しい木架構が実現しているが、この建築は更に木造の魅力を広げたものとしてAACA賞優秀賞にふさわしい作品である。
選考委員 岡本 賢

所在地:兵庫県豊岡市城崎町湯島字湯之元584-1
この建築はその場所性からこれからの城崎温泉の発展にとって、重要な場所に位置していることがわかる。設計者は温泉街全体におけるこの場所のあり方を熟慮し、既存の消防署の建築をリノベーションすることで、風景を唐突に変えることなく緩やかに景観を変化させる手法で爽やかな解決策を見出している。
その一つは、この地域に特徴的な霧の空気感を建築のテーマとした「川霧」という名前で呼ぶステンレスメッシュのスクリーンで、余分な要素を一旦削ぎ落とした既存の建築を包み込んでいる。このスクリーンは工業用ベルトコンベアのステンレスメッシュを利用した素材で、ローコストでありながら、日本建築の簾の持つ豊かな半透明性を耐久性に優れた現代の技術で表現している。
実際に現地審査に訪れた日は、この地域特有の小雨まじりの天気であったが、「川霧」メッシュによって「うつろい」と空間の「奥行き」を実感する事ができた。また旧消防署の機能から生まれている天井高や床高の変化を利用し、城崎出身の日本画家山田毅氏の地域を描いた風景画の壁面とカフェや前面のデッキに佇む人の心地よい関係が巧みに計画されている。1階奥の壁やメッシュ越に見える2階客室の壁面絵画が通りから後退した建物の前面デッキ空間とともにこの場所に温泉街の突き当りの風景を和らげる爽やかな「奥性」をもたらしていることが実感できる。設計者の力量は建具やメッシュの精緻な収まりのディテールなどから伺えるが、「街の風景、地元の風景絵画の壁面と一体化した建築と美術の融合がもたらす豊かさ」を実現するためにあるという理念を持つこの建築はAACA賞優秀賞に相応しい作品である。
選考委員 堀越英嗣

所在地:東京都中央区日本橋本町3-6-5
築88年にもなるという木造2階建(実際は2階+ロフト)の、いわゆるこの時代の看板建築の耐震補強+改修であり、2階以上を住宅とする計画と共に、1階のテナントスペース(江戸切子の店)を如何に開放的な空間とするかを第一の建築的課題としている。現地を訪れると、その設定の正しさが実感された。
一般に言えば、耐震補強に限らず、ブレースや壁体抵抗が容易な木造において、開口部を大きくとることは容易ではない。ここでは既存部分の本来の構造性能や材料の劣化を考えて、木材の再利用は行わず、新しいラーメン的な門型補強とする。これを「解」とし、追加する耐震要素により、すべての地震力を負担できるよう構造計画が進められた。まず、1階の層せん断力を6つの補強フレーム(12ピース)で負担できるよう、必要な耐力と剛性が決定された。この補強フレームには鉛直力を伝えず、水平力のみを期待することとし、既存の柱は従来通り鉛直力を支えている。つぎなる問題はこの補強フレームをどうデザインするかであり、実現に至る「物語」がこのプロジェクトの最大の魅力となっていよう。
設計者は木の軽さと鉄の強度に注目した。木造を細い網目のようなフレームにしてみたらどうか、と。必要最低限の断面をもつ繊細な形状をシームレスにつくるには「鋳鉄」が最適だという判断が以降の計画・設計・生産・施工を導いている。その中でもダクタイル鋳鉄(形状黒鉛鋳鉄)は通常の鋳鉄よりも変形性能と強度が高い上、凝固収縮量が小さく融点が低いため流動性にすぐれている。今回のフレームが求める繊細かつ高精度を満足させる素材としてこれが選ばれた。
補強フレームの全体形状を決めるに当たって、制約条件のひとつに人力で持ち上がる重量(60kgf以下)があげられている。直交する外周をつなぐ6本の斜め材が形成する内側尾アーチ形状はいわゆる双曲線であり、平面曲線でありながら奥行きを感じさせ、流動的な空間を演出している。直交2本(楕円断面)と斜め6本(円形断面)の好転は意匠的な表現だけではなく、発生応力に対応して巾・奥行両方向に滑らかな曲面状の「節」となり、有機的な美しさを漂わせている。一連の複雑な形態創成を迅速かつ適格にコントロールできたのは全て3Dモデリング、つまりパラメトリックモデリングツール(Grasshopper)の活用によるものという。最先端を行くIT技術の巧みな応用例である。
再利用を考慮したというボルト接合のディテールやRCの柱脚のシンプルなデザインにも好感がもたれた。鋳物設計・製作・建方を通じて設計者・製造者・施工者の3者が初期段階から十分な意思疎通を計ったことが成功の鍵となっている。
小さな改修事例ではあるが、建築家と構造家が情熱と創意をもって取り組み、新しい可能性を拓いた魅力的なプロジェクトとして高く評価したい。
選考委員 斎藤公男

所在地:大阪府茨木市太田東芝町1-1
ネット時代における大学施設の「賑わい」が課題であった。人を誘う引力を敷地近くの古墳に思い、古来の「神域」の神秘性に作者が注目したのは特異である。18ヶ月という短い工事期間、潤沢でない予算枠は、積層複合による1棟案に絞り込んだ。近隣周辺への対応策、高さ制限、本体の構造環境性能シミュレーションを経て、ジオメトリックな逆さ三角錐が生まれる。遺跡埋蔵調査期間を抑え施設の接地面積を最小にする為、三箇所の鋭角コーナーを頂部から奥深く斜めに切り取ればエントランスにオーバーハングの半屋外空間を生むことになる。
象徴的な燻銀色の3層のボリューム「書殿」を大胆にも「方舟」の中心に浮かす。「書殿」を取り巻く5層のスリット状の吹き抜けを介して外縁三辺に講義室、教員室などの主要な大学施設を、内縁回廊にはオープン書架及びテーブルを配置して個人、グループのスタディーエリアに。この三層回廊は吹き抜けを介して「見る/見られる」相互の「賑わい」を演出すると同時に「身体的建築の胎内巡り」の体験を与えてくれる。エントランスレベルの無柱空間は入学式の式場にもなった。普段は学生、地域の住民に開放された正三角形の「賑わい広場」、「表舞台」である。
垂直動線は重層建築の動脈であり空間の質を極める重要な設計要素であるが、ここではなぜか裏舞台に。ランドスケープはミニマム、垣間見る顕な構造体、三層回廊手摺のリニアーな照明光源は目に障り評価は分かれるだろう。最後に環境負荷を低減する工芸作品「桜型ステンレスキャストのスキン」は機能的なファサードであると同時に刻々と光に感応する美的ファサードでもある。さらなる進化を期待しています。
選考委員 川上喜三郎

所在地:東京都中央区銀座6-3-18
このような通りの中で、「La・La・Grande GINZA」はひときわシャープな整然とした外観の商業テナントビルである。1階は通りに面して開放される開口を持つテナントスペースである。通りに面して上層部の奥行2m部分が、避難階段・エレベータホール・エントランス・避難バルコニーの連続した空間構成となっており、1階から最上階の6階まで均質な表情を創り出している。構造体でありながらもシャープでスリムな水平のスラブラインと、これまたシャープな垂直の吊材と全面ガラスにより構成された全体のファザードが開放的でとても軽やかであり、力を感じさせない。高さの制約の中で階高を可能な限り低くしているが、圧迫感を感じさせなくプロポーションも秀逸である。まさに工芸品の趣があり、この構造・空間を実現するために考えられた緻密で繊細なデティールや難易度の高い施工方法など微塵も感じさせないところが大変爽やかである。作者の高い技量と創造力に基づくものでなければ成しえない作品である。装飾性の高い建物が多い銀座地区の中で装飾性を排除し、建築のみの空間性やプロポーションなどで高い品質を生み出している。
また、一般的な商業テナントビルの路面店と同様、この6層の連続した空間を持つ奥行感のあるファサードが外部の通りとの「見る・見られる」という関係を創り出し、この通りに今までにない立体的なアクティビティの感じられる新たな景観を創り出しており今後の通りの変化も期待される。AACA奨励賞にふさわしい優れた作品である。
選考委員 東條隆郎

所在地:東京都中央区銀座5-7-6
銀座通りを散策する人込みをさけながら、はじめにビルの正面を見上げ、さらに横断歩道を渡り右からしばらく見上げた。正午近くの強い陽射しを受け、そのビルは線状の光の反射が天空へ伸びるような美しい線となって見え、強い印象を受けた。
作品の基本コンセプトは「環境、街並みの価値を高める、安心安全(人にやさしい)」とある。
外観を435段のガラスルーバーで覆い、1段ずつ異なる局面とすることで、水紋のような表情を醸し出します。圧倒的なガラスの質感や、見る位置、時間、季節によって見せる違った表情が、人々の目を楽しませる新しい景観となり、街並みの価値を高められる事を目指している。
建物は、間口約9m、奥行き約34mでクランク状の不整形な敷地に建ち、地下1階、地上14階、延床面積約3600㎡。構造間口7.5m、高さ66m、約1:9の搭状建物を成立させるための工夫(TMD)や粘性ダンパー等々や避難上有効なバルコニーをあえて目立つ中央通り側に置くなど、お客様への安心安全(人々にやさしい)を実現しました。
銀座は都市景観の中でも特に変化が著しい、建築も空間と時間の結びつきの中で、構想のコンセプトの真価が問われるものだ。現地審査は6名の選考委員と共に参加した。
ガラスルーバーを間近に見ると板ガラス4層もので、最大30㎝巾のルーバーを微妙に調整し曲面を作り出している。さらに光の入光角度と反射なども計測し進め、建物の最も重要なところに最上の力を集約して完成させたものだ。
私は次下の3つの点で優れていると思う。
独創性、技術的クォリティ、未来的美しさ、最終的には総合的に高く評価され、AACA美術工芸賞にふさわしい作品として決まった。
選考委員 米林雄一
協会賞
第28回 AACA賞
- 審査
総評 - AACA賞
- 優秀賞
- 奨励賞
- 奨励賞
- 特別賞
- 芦原義信賞
(新人賞) - 美術
工芸賞
9月27日に開催された第一次選考会において、選考委員による投票並びに討論を行った結果、応募作品の中からAACA賞に相応しい12点を現地審査対象作品と決定した。
10月5日から11月10日にかけ、その12作品について選考委員2名以上の構成をもって現地審査に赴き、それぞれ詳細な追加資料等を入手し、設計者からの説明を聞き作品の審査を行った。
11月11日に現地審査の結果を踏まえて第二次選考会を開催し、午前中に現地審査に赴いた各委員から一作品ずつ簡単な審査報告を受け、午後にはその上で応募者によるプレゼンテーション、ならびに公開審査を行った。
プレゼンテーションおよび質疑応答の後に、各選考委員がAACA賞受賞に相当すると思われる作品4点を記名投票した結果、11人の選考委員の満票を得た作品が2点、過半数である6票を得た作品一点があり、確認のためそれ以外9作品について吟味した上で、まず上記3点をAACA賞、同優秀賞、芦原義信賞の候補とすることとし、3作品を比較して満票作品のうち「出島表門橋」をよりAACA賞にふさわしいものとして選出、同じく「梅郷礼拝堂」を新人賞でもある芦原義信賞に決定し、6票の「越後妻有文化ホール・十日町市中央公民館(段+ろう)」を優秀賞に選出した。
次に特別賞候補として推薦を選考委員に諮ったところ、「薬師寺 食堂」を推す意見が大半を占めたためこれを特別賞と決定した。
受賞ランクとして2票および1票を得た残りの9作品を対象として、再度奨励賞の候補を選考委員一人につき作品2点ずつ投票した結果、5票を得た「伊根の舟屋」と4票を得た「川崎技術開発センター」の2点を奨励賞に選出し、そのほかの3票以下の作品を選外とした。
以上の選考のプロセスをすべて公開のもとに行い、最終的に全作品がそれぞれの賞に相応しいか否かを再度確認し、選考委員全員の賛成をもって本年度のAACA各賞の受賞作品を決定した。
最後に、優れた美術・工芸作品を対象とした30周年記念美術工芸賞に対する推薦を求めたところ、「越後妻有文化ホール・十日町市中央公民館(段十ろう)」における高橋匡太氏によるライティングアート作品である「光織」の推薦があり、全員一致でこれを美術工芸賞に選出することとした。
選考委員長 古 谷 誠 章

(Laurent Ney/ 渡邉竜一 / Eric Bodarwe / 岡田裕司)
DIAGRAM(鈴木直之、愚川知佳)
所在地:長崎県長崎市出島町6-1
1951(昭和26)年、長崎市は2050年までに出島完全復活をめざした整備事業に着手。そして2013年、出島表門橋を中心とした設計プロポーザルコンペが実施された。
設計要件の第一は、史跡である出島内の遺構を損傷しない様杭や橋台の設置は不可であり、第二に過去の模倣や復元ではなく現代の橋のデザインをめざすことであった。
ここで注目される設計コンセプトは二つ。ひとつ目は出島の風景を尊重するため、上部に構造体を出さず、適切なスケールと表情がつくられていること。歴史的な風景と対話するような構造形態を求めると共に、人が触れるさまざまなディテールや照明が丁寧に設計されている。いまひとつは力をバランスさせながら片持梁形式に近い形で33m余りのスパンを飛ばしている大胆な構造体の着想と工夫。造船の街・長崎の溶接技術や施工技術を駆使しながら、意匠と構造とが一体となった流麗なデザインが堅実に実現へと導かれている。
さらにこのプロジェクトの成果が高く評価されるのは設計から完成に至る一連のプロセスを市民運動としてデザインしていることである。海から見たことが無いものが入って来たという出島の歴史をなぞり、40m近い歩道橋を地元の造船所で一体製作し、海上輸送の後に、延べ5千人の市民が見守る中、“架橋”を街の祭りごととして成立させているのはまさに奇跡である。
街の資産としての愛着醸成が生まれ、完成後も市民自らによるメンテナンス活動が展開されている。ここでは“かたちのデザイン”と“物語の共有”という、モノとコトとが総合的に計画・実施されており、現代の建築・インフラの新しいあり方が提示されている。
社会的・文化的な価値が極めて高い作品といえる。
選考委員 斎藤公男

所在地:新潟県十日町市本町一丁目上508-2
計画地は。3.5mの高低さがあり、その差を活かして全体の建築のヴォリュ-ムを低く押さえることに成功している。施設の特徴は、約700席のホールとエントランスから直結する「だんだんテラス」と名付けられた多目的スペース、そして建築全面の顔となる雁木ギャラリーからなる。
全館を通して使用する素材を抑制し本実型枠使用のコンクリート打放し仕上げと、木質仕上
げを多用して 精緻なディテールと共に落ち着きのある空間を実現している。 特に「だんだんテラス」は可動壁面によって多様な空間に変容して、市民活動の多様性に対応すると共に公民館利用が共用されるリハーサル室、練習室等の中心施設となっている。
多雪地域に対応した屋根形状はホールのフライ等も一体に包み込んだ傾斜屋根として、低層部の屋根に落雪スペースを設けて処理し、この大屋根が、周辺の町並みの中に違和感なく溶け込んでいる。最大の特徴である全面100mの長さに及ぶ雁木ギャラリーは、地産の杉材の天井ルーバーとプレキャストコンクリートの列柱からなり、美しい外見を構成している。
木製天井ルーバーの中に仕込まれたLEDライティングは照明デザイナーとのコラボレーションで、光のインスタレーションを創作し様々な光と色彩の変化を楽しめる。
前面の広大な駐車スペースは、そのインスタレーションの観賞スペースとなり、冬の雪景色の中で見られる幻想的な風景が想像される。その他、アプローチのモニュメントや館内のサイン、ホールの緞帳等に、アーティストと協力し文化施設にふさわしい空間作りに成功している。
いづれ妻有トリエンナーレの中心基地として諸外国を含め多くの人々が訪れることが期待され、AACA優秀賞にふさわしい作品である。
選考委員 岡本 賢

所在地:神奈川県川崎市川崎区殿町 3-25-20
施設のプログラムに強く規定されたであろう建築ボリュームの分節とマッシングを際立たせるファサードが印象的である。 外装に用いられた発泡系化粧型枠を用いたPC板に施された凹凸は、一見すると、この景観的なスケールのもとではあまりに繊細であるかに思えるのだが、それが大面積にわたると意外にそうでもないことがわかる。おそらく、白色の塗装と自然光の効果を十分に織り込んだ結果であろう。
もちろん、夜間の照明効果についても同様のことが期待できるはずである。 このファサードは、多摩川の河川堤防側だけではなく街路側についても適用されており、建築の量塊がしっかりと存在感を際立たせている。
多摩川と市街地とつなぐガラスのエントランスがつくりあげた透過性の高いボリュームもまた、同じような視覚的効果をもたらしているであろう。
工業地帯の景観的コンテクストを反映したデザインは、インダストリアル バナキュラ(industrial vernacular)という語でひとくくりにされることがある。
しかしこの作品はそれを一段高い次元にまで押し上げているように思える。 シンプルな装飾をまとったPC板のファサードは、文字通り工業的な印象を与えるに違いないのだが、そのスケールやプロポーションとテクスチャーは、工芸的な趣さえも醸し出している。
ともすれば、多種多様な形、寸法、色、素材による工業的な造形要素がばら撒かれ、混沌とした様相を呈することの多い工業地帯の景観を、穏やかにしかし決定的に支配するだけの存在感を、この作品は発している。そのこと実感するのは、多摩川の対岸からの眺望景、あるいは羽田空港を離発着する航空機の窓ごしにみる俯瞰景の中なのであろう。
選考委員 宮城俊作

所在地:京都府与謝郡伊根町平田546
私は40年前の夏の日に、海岸沿いの砂利道をバスに揺られて漸くたどり着いた只々静かな伊根浦漁村の記憶は今でも鮮明に残っていたので、この作品「伊根の舟屋」には一際興味と危惧を持ち訪れたのです。
海からの遠景は、大きく開いた舟入の黒い開口の数が減ってはいるが、切妻の2階建が並ぶ独特の景観は保たれている。 一方、砂利道はすっかり舗装され、若者や外国人観光客が訪れて思いのほか活気があり、観光客のための新しい木造切妻の施設が多く建設されている。
作者は、古い舟屋を改修して1組だけの宿「伊根の舟屋—風雅」として再生した。
舟屋は、元々は伊根浦独特の「ともぶと」と呼ばれる軽船を、舟入から屋根のある小屋に引き上げ、漁具格納や漁網干場、漁の準備をする作業場、いわゆる船のガレージであり、2階は寝間にも使われていた。
改修の際には舟入の機能はすでに失い、自治体事業によって擁壁が設けられ「重伝建」指定の為、復元ができない。入り口は道路から1.5mのレベル差をユニバーサルデザイン対応のアプローチとするために、曳家技術によって1m引き上げ基礎部の強度補強や設備対応と同時にスロープで結ぶことで解消している。元々の柱梁の架構をそのまま表し、微妙に振れる内部空間を生かして宿泊者のくつろぎの場とし、海に接する外部に、船ならぬ湯船を置いて露店風呂とするなど、細やかな仕掛けを組み込みながら、気持ちの良い空間を作っている。本来なら寝間として使われていただろう2階を、常に穏やかな水面を漂うように海を満喫できるベッドルームとして環境をうまく取り込んでいる。細部の納まりに小さな破綻が散見されるが、伝統架構をそのままに現した改修の宿命といえる。宿屋としての内外部共に装飾的表現が全くない、楚々として再生したこの作品に、商業的に活路を目指すのでなく、長い歴史の水脈の流れの中で再生を実現したことに、改めて好感が持てるのである。
選考委員 藤江和子

復元基本設計:文化財保存計画協会 矢野和之 舘﨑麻衣子
内部基本設計:伊東豊雄建築設計事務所 伊東豊雄
実施設計:竹中工務店 野田隆史 本弓省吾
仏画:田渕俊夫
須弥壇天蓋彩色:川面美術研究所 荒木かおり
照明計画:LIGHTDESIGN 東海林弘靖
所在地:奈良県奈良市西ノ京457
食堂の基壇は発掘調査により東西47.2m、南北21.7mと判りました。これを基に朱塗りの大柱の組み物の外観で、内部は建築家・伊藤豊雄氏に依頼された。「古くて新しい空間を」という要望を受け、現代建築技術での可能性を生かし、建築に「力強さ」を加えそして白鳳伽藍が造られたときのようにエレガントさと大陸につながるダイナミズムが感じられることを念頭に取り組んだ。天井には堂内の阿弥陀三尊の光背が広がる雲をイメージしたデザインで、アルミニウム板を金に染め天井に配した。
日本画家 田渕俊夫氏は食堂御本尊阿弥陀三尊像と壁面14面(45m)の仏画が依頼された。阿弥陀三尊浄土図は6m四方の大壁画です。
作者の言葉には「これまでになかったような、今の時代の仏さまを描いてください」という薬師寺の依頼で、形の美しさを超えた崇高さと慈悲深いお顔を自分流にしっかり覚悟し取組みました。当初私の頭に思い浮かんだのは、師である平山郁夫先生の「大唐西域壁画」で玄奘三蔵院伽藍にありますが、20年迄の歳月をかけて描かれました。で私は、長安から大和へ仏教が伝来する道すがらの光景を、絵描きのイメージで描こうとおもいました。最初の「旅立ち」の左端、彼方に小さく見える塔は玄奘三蔵ゆかりの長安の大雁塔です。 遣唐使一行が文物や仏法を携えて日本に戻ろうとする姿をイメージの中で想像して描いたものです。とあった。
日本建築美術工芸協会は 30周年記念事業の只中でありAACA賞の審査にも注目されたなかで「薬師寺食堂」は総合的に高く評価され選考委員全員一致にて特別賞に決定した。
特にわたくしは14面の壁画に深い感動をおぼえた。
選考委員 米林雄一

所在地:千葉県野田市大殿井220-11
応永2年(1395年)に創建された寺院境内の別院計画である。
このパビリオン外観の特質は屋根にある。日本の風土は伝統的な民家の様にその
屋根の信頼性と共に、厄祓いのシンボルとして「猪」を茅葺きでかたどった例もあると伝えられている。自然と対峙し環境と共生する屋根の形態があまりテーマにならない昨今、礼拝堂の作者は「屋根そのものが信仰の対象である…」とも言いきる。作者の模型による試作の日々は、一枚の紙に曲線を切り込むことによって出来る独自の曲面立体に収斂する。この立体の特質は見る方角による表情が豊かに変わることである。自然を招じ入れる曲面の柔らかさから、スパイキーなシルエット、入口の正面性と奥の礼拝を暗示する二重のボリュームなど。採用された3角形状プランは「旧来の軸線の強い宗教空間を踏襲せず…」堂内に入ると軸線が少し振れる事に気付かされる。
内観の特質は連携する異形の組み柱である。垂直から水平へと連続する内部を支える細い断面部材の組み柱は6組×3方向 =18組。この3方向からの組み柱はジグザグ状にお互いが支え合い、天井中心では点結合ではなく微妙にずれて、正三角形をかたち作る相持ち構造である。「小さな材が助けあいながら、1枚の大屋根を支えている姿
…」の美しさが祈りの天蓋。 東西様式を超える普遍性か。厳しくジオメトリックであるにも関わらず、自然な心地よさを醸し出しているのは木質だからなのか、或いはジオメトリーが自然そのものだからなのか。
伝統的寺社木造建築が長年の経年変化、収縮などを考慮していたように、作者は独自の100年単位の木組み工法を提案している。既に様々なイベントを誘発し開かれた「民の施設」を目指す。構想から軒先などのシャープなディテールまで、手つくりの妙と力量を十分に味合わせて頂いた。
さらなる作者のご活躍を祈念し、この度の芦原義信賞受賞を心からお祝い申し上げます。
選考委員 川上喜三郎

所在地:新潟県十日町市本町一丁目上508-2
受賞作・光り織は、新潟県十日町市の中心市街地の活性化を目指して作られた、ホールと公民館の複合施設の入口回廊(雁木ギャラリー)の軒先のアート照明として作られた。
大地の芸術祭の施設として、建築家、アートコーディネーター、照明設計者、電気設計者の協力のもとに、100mを超える入り口回廊(雁木ギャラリー)を光で彩る。
作者は、越後縮(えちごちぢみ)の見本裂から光り織の着想を得たと聞く。
越後縮は麻織物の一種で、緯糸(よこいと)に強い撚(よ)りをかけて織り上げ、独特の縮シボ(シワ)をつけた夏衣用の織物で、1781-1789年には年間20万反もの生産があり、十日町には縮市場が開設され賑わった。1888年(明治20年)頃に京都・西陣から華やかなちぢみ織の見本裂(みほんぎれ)がもたらされ、十日町の織物は麻から絹へ、昭和30年代には先染めから後染織物へと変わっていった。そして現代、着物人口の減少と共に十日町の宝である織物文化は縮小に向かっていく。230余年にわたり、日本一の豪雪地の厳しい冬を織物とともに過ごして来た十日町の人々にとって、織物は長く生活の一部であったに違いない。
光り織には1回15分の演出点灯パターンが12ヶ月分ある。春には桜の花びらが舞い踊る優しい表情に、夏には青葉が涼しさを呼ぶ。 秋には周囲の景観と呼応する鮮やかな紅葉を描き、冬には暖かな光が積もった雪の上に広がる。 夕刻になると軒下に発した光り織の輝きは、建物入り口、回廊、列柱、雁木ギャラリー、駐車場にまで広がり、建物の表情を一変させる。
光り織は、単独のアートとしての存在を超え文化拠点としての建物の存在意義を際立たせる役割を果たしたに止まらず、十日町の持つ豊かな地方文化を斬新な表現で現代に蘇らせ、未来へと継承する手がかりを作った。設立30周年記念美術工芸賞にふさわしい作品である。
選考委員 近田玲子
協会賞
第27回 AACA賞
- 審査総評
- AACA賞
- 優秀賞
- 優秀賞
- 優秀賞
- 特別賞
- 特別賞
- 奨励賞
- 芦原義信賞
(新人賞)
応募作品は今年も大変バラエティに富んだものであり、大きな組織が真っ向から取り組んだもの、アトリエ的な作家が信念を持って挑んだもの、長い年月をかけてつくり続けられたもの等々、いつもに増して多様な応募がありました。また、単にアートや工芸と建築との協奏という枠組みを超えて、作者がそれぞれにユニークな方法で独自の作品づくりを模索していることがはっきりと現れていました。そうした中で、経験に裏付けられた本格的な建築でありながら、同時にとても思い切った斬新なアクティブ・ラーニング空間を実現した《近畿大学 ACADAMIC THEATER》が今年のAACA賞に選ばれました。 角度を振って重ね合わされたグリッドが導く、魅力的な街路のような閲覧スペースに大胆に落とし込まれた中庭からの光が満ちて、豊かな活気を生んでいます。
芦原義信賞には、AACA賞を最後まで競った《ニフコYRP防爆棟・実験棟》が選ばれ、そのデザインにかける並々ならぬ情熱に審査員が感服しました。既存の実験施設などをつなぐ、いわば補助的な施設でありながら、意欲的な構造計画と、巧みな空間配置の妙が相まって見事に芸術的な主役となっています。 この両者に続く優秀賞3作品も三者三様の一筋縄で行かない強い個性があり、何れ劣らぬ力作だと思います。その筆頭が《桐朋学園大学 調布キャンパス一号館》、徹底的にラワンベニアによる荒々しい打放しコンクリート表現にこだわり、力強くまた効果的に組まれた梁のパターンも合わせて、空間に重量感と同時に静かな流動感を生んでいます。同じく優秀賞の《星のや東京》はオフィスと商業が混在する新しい東京大手町の一角に姿を現した、日本をテーマとした旅館です。いわゆる伝統的な「日本旅館」とは趣きが異なりますが、ゲストに心地よい驚きをもたらすアミューズメント性に満ちています。畳や無垢のヒバ材などを始め、質感の協奏が圧巻です。 優秀賞のもう1点は、牡蠣殻を混入してつくられたコンクリートブロックが円筒状に積み上げられた《一華寺無尽塔》で、墓所に併設された礼拝のための施設です。素材に対する飽くなき探求が実を結んだ、建築自体が工芸品のような極めてユニークな作品でした。
これに対し、特別賞2点《四国八十八ヶ所ヘンロ小屋プロジェクト》と《洗足池の家/MONOLITH》は、片や構想以来20年以上の歳月をかけて、一つ一つ地域の人々に呼びかけて紡ぎ出されるようにして生み出された、いく先々でお遍路さんをサポートする小屋を、すべてボランティアによって創り出すという、行為そのものが現代の参加型アート、他方は極限まで突き詰められたディテールによって、飽くまでストイックに建築づくりを行う至高の作品づくりと、まったく正反対の性格を持った作品です。共通するのはいずれもひたすら脱帽させられるというところでしょうか。
最後に奨励賞1点《特別養護老人ホーム 成仁ハウス100年の里》は、入居者の人間的な視点に立って、共に暮らすことに楽しさを感じさせる平面計画がよく練られており、三階建てでありながら、戸建ての連続を感じさせるような分節のデザインが奏功した佳品です。 今年もこのように真にバラエティに富んだ入賞作品を選出することができ、とてもうれしく思います。来年もさらに期待しています。
選考委員長 古 谷 誠 章

所在地:大阪府東大阪市小若江3-4-1
このプロジェクトの魅力は、建築単体ではなく、この、低層建物群のデザインにある。ここでは、「本」「ACTの活動」「自然」の3種類の空間の繋がりがデザインされた。縦・横4本の帯を10度づつ傾けて編む形状から生まれた曲がりくねった通路は、奥に進むに連れて次々と新しい顔を見せる。 とりわけ魅力的なのは、中庭に囲まれた居心地の良い「本」の空間である。大きなテーブルを囲んでたくさんの学生が各々書物を読んだり、パソコンの画面に見入っていた。 天井までの図書が並ぶ閲覧スペースでは、一つ一つの「本」がアーティスティックに照明されることで、重要な知の素、情報の塊であることが示されていた。近畿大学はクロマグロの完全養殖を実現したことで知られているように、22の「ACTの活動」スペースでは、研究室のテーマ、社会の諸問題の解決につながる成果の創出への取り組みが、透明なガラスを通して外から見えるように展示されている。
隣接する「自然」溢れる中庭からは、大きく開いた空とキャンパス内の他棟の風景が垣間見える。
ここには、形を成したアートと呼ばれる物体に代わり、緑溢れる「自然」を取り込んで計画された中庭、知の集積である光を浴びた「本」、未来をより住みやすくする行動を目に見える形で示す「ACT」の展示と、それらを一体的に繋げたデザインがある。露地、禅の教えを示す掛け軸、草庵のしつらえ…この空間が、利休の目指した茶の全体芸術空間に通じていることに思い至った。
選考委員 近田玲子

所在地:東京都調布市調布ヶ丘1-10
それぞれのレッスン室を離すことで音の緩衝を避けているが、それによって生まれた自然光と景色をもたらす隙間が豊かな回廊空間をつくり出している。レッスン室はガラス張りで廊下から中の様子が垣間見られ、かすかに音が聞こえてくる。そこには中廊下型の機能的なレッスン室の単調な牢獄のような空間は存在しない。2階は中央に中庭があり、ランダムな部屋の配置から生まれたT字に組み合わされた梁が心地よいリズムを持つ外部空間をつくり出しており、この計画を支える構造と意匠の絶妙な調和が複雑な構成の建築をより豊にしていることに気付かされる。
改めて全体を見直してみると、600mm幅のベニヤ型枠の打ち放しで処理をしていない荒々しい質感の外観で構成され、これまでの音楽大学の持つ印象とは少し離れていると感じるくらい素っ気ないが、むしろクリエイティブな創造環境に相応しい姿に見えてくる。周到に計画された総合的プロポーションの追求によって、限られた予算を感じさせない美しい建築を実現した設計者の力量は特筆すべきものであり、AACA優秀賞に相応しい作品である。
選考委員 堀越英嗣

東環境・建築研究所 東利恵
(株)NTTファシリティーズ 一法師 淳
所在地:東京都(株)NTTファシリティーズ 一法師 淳
構えた美術作品を飾り並べるのではなく、都市計画から建築、内装、家具、調度備品まで、運営ソフト、設計、施工の協労を重ねてきた星のやチームによって、一連の連携が蜜実に繋がり高まって「星のや東京」ができた。
日本の建築美術工芸が一体となった日本の宿泊施設の新しい姿といえ、AACA優秀賞に相応しい作品である。
選考委員 藤江和子

所在地:広島県呉市西中央5-7-1
「無尽塔」は共同のお墓。土に還ったお骨がこの周辺に植えられた樹々に花や実をつける。その花はお墓に供えられ、実は鳥がついばんで新たな命を運ぶ。そのような命の循環の場所となることが計画された。直径4m、高さ5m程の穏やかな切頂円錐形態はインドの遺構からのイメージという。頂部の円盤に明けられた孔からは自然光がさしこみ、中央の仏塔に落ちた雨水は地下に浸透していくしくみだ。
塔の構造形式は組積造ドームの原点ともいうべき「持送り構造」。始原的なミケナイのアトレウス宝庫とローマ・パンテオンとをミックスしたような構造空間である。小さな手作りのブロックは陶石と呉市ゆかりの牡蠣殻を凝固剤(マグエン)で自然乾燥したもの。何十回もの強度試験を経て配合が決められた。4種類、1200個の組積材の組合せと目地幅の調整によって、ドーム型のジオメトリーが巧みに実現されている。 多くの人々の参加によって永い時間に耐えられるような自由で開放的な空間・場所は心温まるアートと感じられた。
選考委員 斎藤公男

所在地:四国四県 各所
以前は各寺院や路々の農家等が好意をもってお遍路巡りの人々に軒先を貸し、休憩接待等を行う習慣が根づいていた。 近年 時代の変化と共にその様な慣行が薄れ、八十八寺院間のネットワークも薄く、農家の建築様式も近代化されて軒先で接待を行う場もなくなり、お遍路の人々にとってその路々で休憩する場を探すことも困難な状況になってきた。
そんな状況とお遍路の伝統の行く末を憂えた地元出身の一人の建築家が、お遍路道の途中に休憩接待所を88ケ所設置し、お遍路道をネットワークするプロジェクトを立ち上げた。
各地域の有志を募って土地の提供者を求め、寄附や資材の提供を求め、全てをボランティアでこのプロジェクトを遂行することとなった。
土地は、畑や田んぼの中や町なかの広場や幹線道路の側わりであったり、緑深い山林の中であったり、様々な情景の中に立地している。 その場所の由来や周辺の環境の中から物語性を紡ぎだして、様々な形状の休憩施設をデザインした。
全て木加工による素朴な構造で、地域の住民がその建設作業に積極的に参加して手作りで完成させ、その後の維持管理を行うことで新たな地域コミュニティーの形成にも寄与している。
形態は様々で、建築ともモニュメントとも彫刻とも言えるような不思議な造形物がその風景の中で存在感を発揮している。
まさに、地域の中に新たな景観を創り出し地域コミュニティーを活性化させるというAACAの理念にふさわしい作品であり、単体の建築や造形物が対象ではなく88ケ所のネットワークづくりと地域の人々の積極的な参加によるコミュニティーづくりが特別賞として高く評価された。
現在88ケ所の内、55ケ所が15年の年月をかけて完成している、残り33ケ所が多くの人々の共感を得て早く完成することを祈りたい。
選考委員 岡本 賢

所在地:東京都大田区南千束1-27-3
建築に極限まで研ぎ澄まされた空間を求め、構想の原点に映画「2001年宇宙の旅」にでてくるMonolithをあげて、一枚岩のモニュメンタルなものをイメージしたと設計者は述べている。一連のストーリーをもつ建築の進め方がおもしろいと思った。
建築素材は石、鋼板、ガラスの三素材を厳選し、床仕上げは黒御影石、外壁は溶融亜鉛リン酸処理鋼板を使用している。
直線的な玄関を登ると、広いテラスに出た、黒の石張りの奥に一体の彫刻があった。
ステンレスで有機的な抽象彫刻が、その場の空間を際立たせていた。
イマジネーションを追求するとともに建築そのものの美しさを求め、繊細なディテーリングを随所に試みている。「緊張感のある空間の中に品格のある遊び心の芳香が漂う小宇宙を生みだしてみたい」と、この建物を巡りながら何か、人の気配のない冷たい空間が、私には気掛かりであったが、建築施工の早い段階からアートが考えられた住宅は稀な事と思う。
内部のコーナーには良質な古美術や木彫がコレクションされ、暖かみと優しさを称えていた。
この建物は人間が住んでみてさらに魅力的になるだろうと思う。
孤高の建築を求める姿勢を保ちながら、並並ならぬこだわりを私は感じた。
AACA賞選考経緯の中で、濃密な細部の意匠により、熟達した高度の建造技術の育成も重要な面であり、その寄与するところ大であろう、その設計姿勢に対し特別賞として評価する。
選考委員 米林雄一

(株)佐藤総合計画 前見文武
所在地:岩手県大船渡市立根町字宮田9-1
今後の老人ホームのプロトタイプを創るため、ユニットケア型のさらに新しい在り方を目指して挑戦したプロジェクトである。 様々な、あれもこれもと工夫を徹底的に凝らしている中で、最も印象深いのが、入居者一人一人の個性や生活のリズムを尊重した、顔なじみの介護スタッフによる個別ケアの在り方だった。
一つのユニットでは10~11人が生活する。トイレが付いた「完全個室」、他の居住者や介護スタッフと交流する「共同生活室」、それに浴室等の「衛生エリア」から成り立っている。共同生活室は「だんらんの居間」「仕事スペース」「台所」に分かれているのだが、それぞれの空間の境には壁等の仕切るものは一切なく、切妻型の天井の向きによってうまく区切られているのが興味深い。
このユニットはちょうど「むら」のような場所で、これがフロアに4つある。フロアの全体を「まち」と考えて中央に広場状の空間を置くというユニークな発想で、通常は長くなって床面積を大きくさせてしまう廊下を、なくしたことが特徴だ。
またすべての個室において窓から互いが見合うことはなく、眺望が豊かで、日光や通風も確保されている。 個室群は雁行型、全体は十字形の平面という計画がその効果を高めた。10mの高さ制限の中、天井の形状に変化を持たせることで、入居者に場所認識を高めさせると同時に、梁型をかわしたり設備用の空間をうまく確保することが可能になった。 少ない素材を変化のある使い方をすることで、あたかも豊かな装飾があるように感じさせてくれる。 施設の運営者と手を携えて作り上げた、新しいタイプの老人ホームである。
選考委員 可児才介

テキスタルデザイン:森山茜
所在地:神奈川県横須賀市光の丘2568-5
また、ウェーブする軒を特徴づける仕上げは目地の少ない左官仕上げとすることや中央のRC壁を新規開発の超低収縮コンクリートを使い、誘発目地のないプレーンな壁面とすることなどきめ細やかな高い技術力も見逃せない。 光源を見せない中央RC壁上のライン照明や室内の両端部にある森山氏デザインのファブリックアートも一体となって豊かな建築空間を作り上げている。
この計画の意図である、両サイドに位置する既存棟から研究者や社員が行き来するなかでの「交流」の場、「休息」や「思考」の場が実に巧みに実現されている優れた建築でありAACA新人賞に相応しい作品である。
選考委員 東條隆郎