写真撮影 母倉知樹
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建築主は、横幅93.5m、奥行22.1m、高さ13.5mの細長いこの建物を鉄骨ファブリケーターである会社の「鉄のショールーム」と捉え、複雑な角度の溶接が求められる鉄骨の構造体を可能な限り鉄で作ることで高い技術を示すと同時に、従業員にとって魅力ある働き場所にした。
設計者は、自然界に存在する泡がある領域に充填されて拮抗した状態で出来る幾何学的形態・3次元のボロノイ分割を使い、ボロノイの最大限のボリュームを獲得しようとする性質をコンピューテーショナルデザインなどの最新技術を使って空間設計に応用し、さまざまな職能の人々の従属関係のない風通しの良い繋がりを生む3層オフィスを作り出した。
鉄鋼職人たちは、柱、梁、耐震壁、スラブ、高い溶接技術が求められる複雑な鉄骨架構の設計図を基に、新しい仕口の検討、梁先行の鉄骨建て方、部材の大型化による精度確保など、通常の技術では作ることができない建築を職人技によって実現して自分たちの誇りに繋げた。
職人技によって複雑な角度で溶接された鉄骨架構そのものがアート作品とも言えるが、エントランスホールの受付カウンターを見て驚いた。黒く塗装された直径318.5mmの鋼管材4本を複雑な角度で溶接した何ともダイナミックなオブジェなのである。一次審査で見た作品パネルには、このようなオブジェの存在は記載されていなかった。聞けば、建物の溶接試作を受付カウンターに利用したとのこと。分厚い黒い鉄の管が見る者に迫ってくる。AACA賞は、建築、美術、工芸が融合した芸術的景観を対象としていることから、応募者には、こうしたオブジェを積極的にアート作品として取り上げる意識が望まれる。